2023年12月 3日 (日)

ロッセ・マイヤー・ガイガー Rosset Meyer Geiger 「Live at Marsoel Chur」

耽美的な世界を漂わせ圧巻の迫力のインプロが迫る・・・

<Jazz>

Rosset Meyer Geiger 「Live at Marsoel Chur」
UNIT RECORDS / Import / UTR5055 /2023

92662

Josquin Rosset(p)
Gabriel Meyer(b)
Jan Geiger(ds)

   スイスのザンクト・ガレン出身のミュージシャン、ヨスキン・ロッセ(ピアノ)、ガブリエル・マイヤー(ベース)、ヤン・ガイガー(ドラムス)は、20年にわたり、三人明記の現役バンド「ロッセ・マイヤー・ガイガー」として活動し、いよいよ脂が乗ってきている。2010年にはファースト・アルバム『What Happened』(UTR4266)で日本でも知られるところとなり圧倒的支持を得た。前作『Live at Beethoven-Haus』(UTR4866/2021)は、ジャズ・トリオとしての長年にわたるコラボレーションのまさに最高のベスト盤となった。

70374011wRossetmeyergeiger_2021w

  さて今回のアルバムは、2021年6月、スイスの老舗団体が聴衆の前でライブアルバムを録音できるようにするJazzChur Associationのプラットフォームである「le disque blanc」の初版への招待を受け、2021年6月3日から6日にかけて彼らはクールのマルソエル・ホールで3夜を録音することができ、拍手を聞くとまさに少人数の聴衆の前でのコンサートであり、収録は好条件下であった事がうかがえる。そして5つの即興演奏を収録したアルバムとしてリリースさたものだ。それは、彼らの目指すフリー・ジャズそのものの世界で、三者の目指すところの即興演奏の極みを聴くことができる。

(Tracklist)

1.Marsoel Impro 1
2.Marsoel Impro 2
3.Marsoel Impro 3
4.Marsoel Impro 4
5.Marsoel Impro 5

 いっやーとにかく圧倒されますね。立ち上がりからピアノのフリー展開、それに歩調を合わせてのドラムスのステイツク音、ベースも加わって次第に盛り上がり、M1."Marsoel Impro 1", M2."Marsoel Impro 2"の両曲、インプロヴィゼーションの嵐で調和性を逸脱した極めて難解でありながら、どこかひきつけられてしまうところが恐ろしい。M2.は前半の硬質な音のピアノの流れるような演奏が印象的で、ベースのアルコ奏法も魅力的。そして中盤ではベースとドラムスとの競演が面白い。特に録音の質の良さが三者の演奏がそれぞれ手に取るように聴き取れて、インプロの楽しさが十分味わえる。
 M3."Marsoel Impro 3" 静の中に余韻を残して響くベース、ドラムスの演奏、それにピアノの澄んだ音の美しさは例えようもなく、美旋律の静謐な世界。トリオで構築する世界を満喫できる。
 M4."Marsoel Impro 4" 突如現れる三者の荒々しい最速の即興の展開、ピアノの打音とドラムスが展開するリズムの激しさは冒険的。中盤から静の世界に沈み込み終盤にかけてピアノの音が美しく、そして最後は荒々しさに再び転調し締める。
 M5."Marsoel Impro 5" ぐっと静かな世界から次第にピアノが語り始める。ベースとドラムスは静の中にどこかスリリングな音を響かせる。荒々しさが信じられないところから、3者が突時響かせる音には見事なインプロのスリル満点の展開を見せる。最後は再び静の中に沈んで終わる。

Maxresdefaultw_20231128092801

 20年のキャリアのあるトリオの見事な自由の中に構築される直感的な相互作用の刺激による連携プレイには恐ろしさが感ぜられるほどだ。これだけ一気に進行する高速インプロ演奏が自由でありながらその集中力は見事で圧巻そのもの。そして見せる耽美的美しさが襲ってくる曲を交えてのアルバム一枚が見事に構成されていて、5曲が一つの曲として聴きとれるところも素晴らしい。
 いっやー、やはりこのトリオは一筋ならない強力世界だ。

(評価)
□ 曲・即興・演奏  90/100
□ 録音       90/100

(試聴)

 

 

| | コメント (0)

2023年11月28日 (火)

メッテ・ジュール(メテ・ユール) Mette Juul 「Celeste」

テンダーな心地よい癒されるボーカルが・・・

<Jazz>

Mette Juul feat. Lars Danielsson & Mike Moreno 「Celeste」
Prophone / Import / PCD325 / 2023

81s88g5aeol_acw

Mette Juul メテ・ユール (vocal, guitar)
Mike Moreno マイク・モレーノ (guitar)
Lars Danielsson ラーシュ・ダニエルソン (cello, double bass, celeste, kalimba, melodica, cymbals)

米ニューヨークのBass Hit Recording録音
2023年スウェーデン作品

  メッテ・ジュールと呼んでたが、最近、メテ・ユールと書かれてますね。彼女はデンマークのホアンシルの1975年生まれの北欧のギタリスト兼ヴォーカリストでこれは最新盤。このProphone Recordsのリリースする『Celeste』は、彼女のソロ・アルバム第6作。スウェーデンのベーシストのラーシュ・ダニエルソン Lars Danielsson(前作も)とアメリカのギタリスト、マイク・モレノ Mike Morenoの共演で、スタンダード曲中心に録音されたヴォーカル・アルバムだ。

02ff38519d8558b501111w  彼女は日本でも既に多くのファンを獲得しているが、若いころからシンガー・ソングライターとして活動し、2007年にエストニアのタリンで行なわれた国際ジャズ・アーティスト・コンペティションで第1位に選ばれた。2010年、ここでも取上げたアレックス・リール・トリオとのデビュー・アルバムのComing from the Dark』(YMCJ-10005)をリリースし好評で、既に13年のキャリアがある。
 彼女は今回のアルバムに関して次のように語っていることが紹介されている
「私は幼い頃にジャズヴォーカルの世界に出会いました。スタンダードのメロディーと歌詞は私に大きな印象を与え、今でも私に語りかけます。マイク・モレノとラース・ダニエルソンと一緒にツアーをして、ジャズスタンダードの曲を一緒に演奏したり、歌ったりすることは、私の長年の大きな願いでした。そしてアルバムには、ジャズのスタンダードだけでなくグラウコ・ヴィエニエやノーマ・ウィンストンの"Distance"などのオリジナルも入れることが出来ました」

  彼女の過去のアルバムも非常にしっとりと描く世界が安らぎに導くところがあり、これは秋の夜長を彩るにふさわしい女性ヴォーカル盤だ。
  今回の録音は、米ニューヨークへ出向き、マイク・モレーノ(g)、ラーシュ・ダニエルソン(b他多数)とのトリオ体制で、ヴォーカルとギターのコンビネーションを基軸に、ダニエルソンのチェレスタ、カリンバ、メロディカ、シンバル、チェロ、ベースなどの多彩な音世界のゆったりとした雰囲気で包まれた作品。いずれにしても彼女のヴォーカルは包容力もあり美しさ優しさを持っているので大歓迎の一枚。

(Tracklist)

01. Beautiful Love (Wayne King / Victor Young / Egbert Van Alstyne / Haven Gillespie)
02. My Foolish Heart (Victor Young / Ned Washington)
03. With A Song In My Heart (Richard Rodgers / Lorenz Hart)
04. Nature Boy (Eden Ahbez)
05. I'm Moving On (Mette Juul)
06. Distance (Glauco Viénier / Norma Winstone)
07. Northern Woods (Mette Juul)
08. Love Is A Many-Splendored Thing (Sammy Fain / Paul Francis Webster)
09. Celeste (Laura Pausini / Beppe Dati)
10. Where You've Never Been 

 相変わらず彼女の世界は、透明感や涼やかさのクリーン・ヴォイスでソフトな温もりをも持ち合わせていて、バラード調の流れで中音域を中心に情感をこめて優しく語りかけ叙情的で、聴く者に好感の持てるところにある。
 曲の展開としてハミング〜スキャット系統の手法も結構取り入れたヴォーカル、全体的にはテンダーにして穏やかで包容力ある美しさとロマンチックな処もある心地よい癒やされる世界である。

Csm_mette_classic_editanm_9619edit_b2c9f


M1. "Beautiful Love" スキャット風のウォーカルも入ってなんとなく幻想的。
M2. "My Foolish Heart" 彼女独特の節回しの入っての編曲効果が大きい不思議な曲仕上げ。
M3. "With A Song In My Heart" しっとりと説得力あるバラード風の世界を美しい中音域で歌い上げる。
M4. "Nature Boy" よく聴く曲が続くだが、美しいギターの調べと共にゆったりと包容力ある歌い込みが魅力的。ダニエルソンのメロディカだろうか、その調べが印象的な世界へ。
M5. "I'm Moving On" Mette Juulのギターの弾き語り調の異色のオリジナル曲。
M6. "Distance"  ギターの調べと共に、ちょっと陰影のあってなかなか美しい曲。
M7. "Northern Woods" これも彼女のオリジナル。北欧の自然の描写だろうか。
M8. "Love Is A Many-Splendored Thing" このように聴き慣れた曲をギターをバックにしっかり新たな気持ちで聴ける歌い回し。
M9. "Celeste"M10. "Where You've Never Been" 両曲はあまり特徴を出さずにソフト・タッチの優良曲と仕上げた。

 ここまで優しさを持って描ききったアルバムは近年珍しい。スウェーデン風と言って良いのか、ちょっと不思議な節回しも入ったり、ハミングで歌ったりと、新鮮味もちゃんとあって飽きさせない。秋向きのいいアルバムだ。

(評価)
□ 曲・編曲・歌  90/100
□ 録音      88/100

(参考視聴)

 

 

| | コメント (4)

2023年11月23日 (木)

サン・ビービー Søren Bebe Trio 「Here Now」

相変わらずの静謐・美旋律の詩的なアコースティック・ジャズの世界

<Jazz>

Søren Bebe Trio 「Here Now」
FROM HERE MUSIC / Import / FOHMCD023 / 2023

1008742281

Søren Bebe(Piano)
Kasper Tagel(Bass)
Knut Finsrud(Drums)

  デンマーク・コペンハーゲンを拠点に活躍しているピアニスト、サン・ビービーSøren Bebe (なかなか発音が難しい、ソーレン・ベベと記載されているものもある:下左)率いるピアノ・トリオの2023年新作6thアルバムの登場だ。以前からここでも取上げてきたのは、彼の演ずるところ静謐な美メロ・ピアノ・トリオでお気に入りだからである。過去においてトルド・グスタフセンや故エスビョルン・スヴェンソンと比較して語られることが多いのだが、トルド・グスタフセンほど哲学的な沈み方はなく、又E.S.T.ほど、コンテンポラリーな色彩は見せない。しかし如何にも北欧ピアノ・トリオらしい自然の情景をやや暗めな世界として描いたり、のどかな牧歌的な自然を聴かせたりとなかなか味わい深いところが魅力である。
 彼は1975年12月生まれで47歳という脂ののった歳だ。2019年にリリースされた『Echoes』(FOHMCD015)は好評であったが、今回はノルウェーのドラマー、クヌート・フィンスルード(下右)を初めてメンンバー迎え、以前からのキャスパー・ターゲル(B /下中央)と新トリオを組んでいる。
 又、サン・ビービーは、最近、デンマークの小さな村に住居を移して、家族とともに森、湖、農地に囲まれた環境にあり、このアルバムは新たに見つけた生活を反映していると言われているが。

Srenbebe2019082701wKasper_tagel_5wSimonfinsrudw

(Tracklist)

1.Here Now 3:29
2.Tangeri 4:44
3.Grateful 3:22
4.Winter 5:12
5.Misha 3:57
6.Be Well 4:16
7.Folksy (To Jan) 3:57
8.Day by Day 3:55
9.Summer 3:37
10.On and On 3:51

 確かに彼の新生活環境を反映してか、静かで瞑想的で広大な地球上の自然の姿がみえるような世界を展開させている。それは流麗で美しいフレー ズが聴きとれるし、もともと澄んだ硬質なピアノ音色がさらにメロディを引き立てていて、相も変わらず北欧ピアノトリオの特徴と言っていいのか、ちょっと沈むような感傷的な味わいが聴く者を引き付ける。

A393969216970677138114

M.1 "Here Now" 冒頭から静かな世界にちょっと感傷的なピアノの美旋律が流れる
M.2 "Tangeri" どこか明るい心の展望の感ずる美しさのメロディーをピアノが歌う。中盤のベースの響きが魅力的。
M.3 "Grateful" ドラムスのスティック音が優しく響き、ピアノの明るさと安定した世界
M.4 "Winter" 厳しさよりは美しさを描く
M.5 "Misha" 明るさと牧歌的な世界 
M.6 "Be Well" 安堵の情景
M.7 "Folksy (To Jan)" ドラムスからスタートしての明るい展開、ジャズとフォークの融合
M.8 "Day by Day" 若干沈む思索的世界
M.9 "Summer" ドラムスが前面に出ての珍しくアクティブな曲 
M10 "On and On" 未来志向の展開が優しく響く

 とにかく控えめな演奏で若干内省的なところもあるが、優雅でエレガント、究極のところ"詩的なアルバム"といった世界だ。北欧という環境から描いてくれる叙情的でメランコリックなアコースティック・ジャズがこうして聴かれるのは嬉しいことだ。
   10年以上前に聴いた美しい2ndアルバム『FROM OUT HERE』(VFJCO 012/2010)の一つの回答のようなアルバムだ。
 いろいろなジャズ・アルバムを聴く中で、ふと人間的癒しが必要な時には最高アルバムとして位置付けたい。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

| | コメント (8)

2023年11月18日 (土)

ロヴィーサ・イェンネルヴァルとエラス・カペル Ellas Kapell feat. Lovisa Tennervall 「For All We Know」

女性ヴォーカルとピアノ・トリオによるコンテンポラリーな世界

<Jazz>

Ellas Kapell feat. Lovisa Tennervall 「For All We Know」
PROPHONE / Import / PCD321 / 2023

1008753156w

Lovisa Jennervall (vocal)
Manne Skafvenstedt (piano)
August Eriksson (bass)
Edvin Glänte (drums)

2023年6月スウェーデン-ヨーテボリのNilento Studio録音

 スウェーデンからの4人組ユニットの3rdアルバム。女性ヴォーカルを立てたピアノ・トリオだ。私にとっては初物であったのだが、女性ウォーカルものというのでなく、あくまでもヴォーカルも入ったカルテットと考えた造りを目指しているようだ。そしてどうもこの「Ellas Kapell」という精鋭トリオは、スタンダード・ナンバーをレパートリーとしているようだが、かなりコンテンポラリーな線を描いていて、ちょっと一筋縄ではゆかないタイプ。そして注目の女性歌手ロヴィーサ・イェンネルヴァルをグループの看板にもしているようだが、その彼女は自己名義のソロ・アルバムもリリースしている。近作では個人的な色彩の濃い『Between You and Me』PCD278/PCD278/2022)が好評の若き実力派女性歌手(兼ソングライター)である。

Lovisajennervall_w  聴いてみるとカルテットといっても、やはり女性ヴォーカルのロヴィーサ・イェンネルヴァル(→)の因子は大きい。彼女は1990年生まれの33歳、ヴェステルノルランドのヘルネサンドとヨーテボリというところで子供時代と青春期を音楽に囲まれて過ごしたと、2015年春、ニューヨークでジャズを学ぶ。帰国後まもなく、ヨーテボリで「ロヴォーサ・イェンネルヴァル・カルテット」を結成。2016年秋、ストックホルム王立音楽大学に入学、最初の学年でプロジェクト「ロヴィーサ・イェンネルヴァル・ウィンドアンサンブル」を立ち上げ、作曲と編曲を担当し、その後「エラス・カペル」を結成、スタンダードを中心にした曲を編曲し歌った『Longing(あこがれ)』(PCD 216)と『What's It All About?』(PCD 266)の2枚のアルバムが話題を呼んだ。


Fm_web_ellas_kapellaw

(Tracklist)

01. I Get Along Without You Very Well  
02. Autumn Leaves
03. For All We Know
04. How Could You?
05. Something On Your Mind
06. Softly As In A Morning Sunrise
07. Devil May Care
08. If I Should Lose You
09. (They Long To Be) Close To You
10. For All We Know

 まずは、この女性ヴォーカリストのロヴィーサ・イェンネルヴァル の北欧の空を思わせる透明感に満ちた豊潤クール・ヴォイスが、時には温もりまでみせ、そこには清楚可憐な雰囲気さえ描き、英語圏とは若干異なる節回しで迫ってくるところに魅力が溢れている。そしてある時は耽美的に、又ある時はダイナミックなタッチをみせるピアノと、ベース、ドラムスも安定感があり、又曲想によって変幻自在なサポートも板についている。それはユーロ・ジャズのクラシカルなものやメロウにして美メロのイタリア風世界などとは違って、基本的にはコンテンポラリー・ジャズを基調にした北欧美意識を盛り込んだタイプと言っていいかもしれない。

330986900_573414978170390_20598425214876


 多くの曲は、まずはトリオが彼女の歌をサポートする形でスタートして、中盤にトリオ演奏として三者それぞれの主体性と協調性による形を作って曲を展開させ、最後はヴォーカルを呼び込んで纏め上げるパターンをとる。しかしスタンダード曲を演ずるに、インプロヴィゼーションを時に生かして、原曲をかなりの編曲によって彼ら自身の曲に仕上げてゆく手法はコンテンポラリーな世界でなかなかのもの。

M1. "I Get Along Without You Very Well"  冒頭から圧巻の高く広がり訴えるヴォーカル。
M2. "Autumn Leaves" 初めて聴くタイプの枯葉。スタートと締めに聴きなれない編曲でのヴォーカル、中盤に編曲されたトリオ演奏。 
M3. "For All We Know" アルバム・タイトル曲。しっとりと歌い込む曲、中盤の情緒的ピアノが美しい。
M4. "How Could You?" ドラムスがリードするタイナミックなトリオ演奏。アヴァンギャルドな雰囲気も。スキャット・ハミング調のヴォーカルも。
M5. "Something On Your Mind" 状況描写を歌い込みピアノの響きも語るが如く。 
M6. "Softly As In A Morning Sunrise" 清々しさと美しさのヴォーカル。スキャットも入れての世界は美しく、ピアノ、ベースも優しく。
M7. "Devil May Care" なかなか軽快さも見事。
M8. "If I Should Lose You" 美しさを描く演奏、説得力のある静かに迫る美しい歌声。
M9. "(They Long To Be) Close To You" 中盤のスキャット・ヴォーカルとベースの新解釈演奏に美しいピアノは注目点。
M10. "For All We Know" ピアノのヴォーカルを導く優しさの展開はお見事で、ドラムスのブラッシ音に乗っての見事なカルテット演奏。

 とにかく聴きなれた曲も初めて聴くが如くの世界に浸れる。今までにない新世界を聴く想いである。特にロヴィーサの清楚感の透明感ある艶と香りの歌唱力に脱帽だ。又ピアノ・トリオはコンテンポラリーな世界にリリカルさとダイナミックさの味をしっかり身に着けていて見事。スウェーデン恐ろしという事で今後が楽しみだ。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌  90/100
□ 録音       88/100
(試聴)

 

| | コメント (0)

2023年11月13日 (月)

サラ・マッケンジー Sarah Mckenzie 「WITHOUT YOU」

ボサノヴァをテーマに歌ったアルバム登場

<Jazz>

Sarah Mckenzie 「WITHOUT YOU」
TERASHIMA Records / JPN / TYR-1117 / 2023

71re9aqzdil_acw

SARAH McKENZIE (vocals, piano)
JAQUES MORELENBAUM (cello)
ROMERO LUBAMBO (guitar)
PETER ERSKINE (drums)
GEOFF GASCOYNE (bass)
ROGERIO BOCCATO (percussion)
BOB SHEPPARD (flute, sax)

  オーストラリア出身のサラ・マッケンジーが、今回はボサノヴァをテーマにしたアルバムをリリースした。彼女に関しては2017年にここでアルバム『PARIS IN THE RAIN』や、Live-DVDなどを取り上げた経過があるが、ピアノの弾き語りに秀でていて、見方によってはダイアナ・クラールを追える逸材かと見ているのだが、まだまだジャズ・ピアノ演奏を前面に出したミュージシャンとしてのアルバム実績は無い。

 さて今回のアルバムは、彼女が2018年にリオデジャネイロに訪れた際、多方面に感動を受け今作への企画を持ったという。そして2020年には、前作でも共演したギタリストのロメロとチェロリストのジャキスとボサノヴァ曲"Corcovado"を演じ、Facebookで評判が良かったことからこの作品制作を決意したようだ。つまり彼女の曲も挟み込んでの彼女の意志が前面に出たと考えて良さそうなのだ。

Sarah_mckenziew  彼女は、オーストラリアのパースにある音楽院にてジャズの学士課程を修了。その後バークリー音楽大学へ進学、2015年5月に同大学を卒業。その後世界各地でのジャズのパフォーマンスを行ってきている。2015年にアルバム『We Could Be Lovers』をリリース、ベスト・オーストラリアン・ヴォーカル・アルバム賞を受賞。その後Impulse!レーベルと契約し、世界的なアルバム・リリースがなされた。現在はパリに移住し活動の幅を拡げている。ヴォーカル、ピアノ・プレイだけでなく、作曲、アレンジも手がける有能な女性アーティスト。
 
 彼女の歌声は清涼感の溢れるところにあり、洗練されてはいるとは言え若干地域性のある人間の機微をも扱うボサノヴァを歌ってどうなるのか、ちょっと興味のあるところだ。バック演奏には、当然彼女のピアノがあるのだが、ロメロ・ルバンボ(G)やピーター・アースキン(ds)をはじめジャック・モレンバウム(Cello)などそれなりのミュージシャンが集結した意欲作言えるものになっていて、これもボサノヴァ向きかどうか気になるところでもある。

(Tracklist)
1. The Gentle Rain
2. Corcovado (Quiet Nights)
3. The Voice of Rio*
4. Mean What You Say*
5. Fotografia
6. Quoi, Quoi, Quoi*
7. Once I Loved
8. Without You*
9. Wave
10. Dindi
11. Thr Girl from Ipanema
12. Chega de Saudade
13. Bonita
14. Modinha
*印 : Sarahのオリジナル曲

Sarah_mckenzie01w

  やはり相変わらずの清涼感ある美声の彼女の歌声は豊かで響きが良い。
 M1."The Gentle Rain"は、オープニングとしては魅力にあふれたバラード曲で、情熱というよりはぐっと落ち着いたしっとりとしたムードの優しい曲仕上げ。チェロの調べが入るのが、その効果を上げているのかもしれない。
 M2."Corcovado" この曲はダイアナ・クラールを頭に描くが、サラもピアノの響きのリードで美しく歌い上げるところは、彼女なりきの歌として聴ける。 たまたまステイシー・ケントも時を同じにして歌っているが、やはりしっとりとした大人の味はケントに譲る。
   M3." The Voice of Rio" 彼女のリオをイメージしてのオリジナル曲。ギターをバックにしての優しい歌。
   M5." Fotografia" チェロとパーカッションの意外な組み合わせのでのバックが生きた曲。そして彼女のピアノも描くところ優美といったところだ。
 M7."Once I Loved" ギターとのデュオ。スローな曲で十二分に彼女の美声を聴き込める。
   M8."Without You" ギターのロメロとの共作のアルバム・タイトル曲、ギター、フルートなどが効果を上げ、ちょっと歌にも哀感があってなかなか聴きごたえあるバラード曲。
   M10." Dindi" 美しいピアノとギターと共にしっとりと歌い上げる。
 M11."Thr Girl from Ipanema"  超有名曲だけに、中盤の演奏に突如驚く変調が入ってなかなか工夫がうかがえるが、元の曲のイメージが薄らいでしまっている。
   M12."Chega de Saudade" 快調なテンポの曲、彼女の歌がもっと軽くこなす方向でよかったのではと思うところ。
   M13." Bonita" 彼女はこうしたややしっとり系の歌の方が合いそうだ。
   M14." Modinha" ピアノの弾き語りで、じっくり歌いこみで描くスロー・バラード。このスタイルがもう一曲ぐらいあってもよかったのかも。

 こうして聴いてみて思うところ、やっぱり彼女にはボサノヴァの快適なテンポを軽く歌いそこに秘められた味のある洗練された世界を描くとか、豊かな落ち着きやリラックスに導いたり、又一方人生の感傷的な部分を描いて共感を呼ぶといった奥深さにはまだ今一歩の感があった。人生の様々な機微を背景に感傷的ともいえるところをシンプルなバック演奏にて歌い上げるという芸も、もう少し欲しいと思う。
 又多くが歌ってきた有名曲の場合、自分を出すその対応法はいろいろだろうが、バック演奏を含めて意識過剰で細工をし過すぎを感じたところがあった。彼女は普通に歌って、自身の特徴がちゃんと出ると思うのだが。

 ボサノヴァがあまり好きでないという寺島靖国氏が面白い事を言っている。"ボサノヴァに寄りかからず、あくまでも手段として用い、…彼女の表出を心がけた結果、私に福音をもたらした"と。"つまりボサノヴァを歌い込んだというより、彼女の歌を聴けた"ということなのだ。まあ、そうゆう事になりますかね。
 しかし声の美くしさと豊かで力強いところを感じさせる歌を聴かせてくれて、囁きタイプとは一線を画していて、これはこれで貴重なタイプであるので、ピアノのジャズ演奏にも磨きをかけ、更に前進して楽しませてほしいところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  87/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

| | コメント (2)

2023年11月 8日 (水)

山本 剛 Tsuyoshi Yamamoto Trio 「A SHADE OF BLUE」

ホール感たっぷりの臨場感ある高音質録音によるトリオ演奏
SA-CD, MQA-CD (両者通常CD対応), LP でリリース

<Jazz>

Tsuyoshi Yamamoto Trio 「A SHADE OF BLUE」
evolution music / MQA-CD / Import / EVSA2536M / 2023

1008723271

山本剛(ピアノ)
香川裕史(ベース)
大隅寿男(ドラムス)
(録音場所) 品川区立五反田文化センター音楽ホール

 おなじみの山本剛トリオによる最新録音アルバムが、音にうるさいEvolution Musicからリリースされた。今回は、かなり音にこだわってクラシックの演奏会でも使用される五反田文化センター音楽ホールでのライブ録音で、エンジニアに日本スタジオ協会主催「日本プロ音楽録音賞」で数々の賞を受賞した入交英雄氏が当たっている。演奏内容は、これまでのトリオやソロ名義の人気曲に焦点を合わせて、最近の作品では収録されていないものも選んで、192mHz/24bitのハイレゾ+イマーシブImmersive録音(立体音響・没入型サラウンド / MQA-CDはステレオ、SACDは5.1chを収録)で収録。いわゆる人間が会場で聴いた感覚に迫りたいという事であり、入交英雄氏によると「イマーシブ作品として制作されました。ピアノに8本、ベースに3本、ドラムに12本、さらにホールトーン用に16本ものマイクを使用しています。皆様が手に取っていらっしゃる、ステレオ、5.1ch製品(ハイブリッドSACDのみに収録)は、イマーシブ録音の良さをできるだけ取り入れるようにミックスしています」と言っている。更にマスタリングはオランダのBK AUDIOスタジオで行ったとか。

1_20231105162001

 

(Tracklist)
9be3a65a 1.Speed Ball Blues
2.Speak Low
3.The Way We Were
4.Like Someone In Love
5.Black Is The Color
6.Girl Talk
7.Midnight Sugar
8.Last Tango In Paris
9.Misty
10.Bye Bye Blackbird

 今回私が聴いたのは、MQA対応装置によってのMQA-CD・ステレオ盤だが、聴いて直ぐ解るのは、確かにこれまでの作品には見られないホール感というか奥行きと広がりを味わえる臨場感がある。近年はオーディオ界で求めているのは、こうしたトリオ演奏盤などではそれぞれの楽器の演ずる音のリアル感と迫ってくるような高音質を求めるものと、ホール感などの臨場感を描くことなど多様である。このアルバムの目指すところは、単なる楽器のリアルな音というのでなく、音楽として聴くときのライブで聴ける会場のホール感などを含めての雰囲気などを再現したいという事なのだろうか。

   近年のこのトリオは、2021年の『MISTY for Direct Cutting』(SCOL-1056)とか、2022年の『BLUES FOR K』(SCOL-1062)など円熟トリオの演奏の味を聴かせつつ、その度に録音にこだわったところを聴かせてきた。今回もその一つの手法を試みているところがあって、私にとってはその企画は実に楽しい。選曲も演奏も2アルバムと似たようなものなので録音音質に興味が湧くところだ。

2w_20231105162301



 M1."Speed Ball Blues"はスタートとして、スピート感もあって冒頭から、確かに山本のピアノの音が単に前面に出てくるのでなく、ホール感の中で適度に迫ってきた。たが、それに続く中盤のソロで演じられる香川のベースの音がドラムスの音と比較しても若干曇りがある感じでリアルに迫ってこない。そのあたりが気になったがそのまま進行。
 M2."Speak Low"は山本もかなり気合の入る曲。ここではベースとドラムスの快適なテンポのリードが楽しい。
 M3."The Way We Were"は、ピアノ・ソロに近い演奏であるが、ピアノの音の澄んだところ、高音への響きなど理想に近い録音に聴こえ、大隅のブラシ音も手ごろだ。
 M4."Like Someone In Love"は、ドラムスの活動が表に出た録音であり、音質も良好だ。
 M5."Black Is The Color"は、スウィング感十分のトリオとして楽しめるところに仕上がっていて、ピアノの高音の美しさ、ドラムスのスティック音も快適。ただしやっぱりベース・ソロにおける迫る音の録音音質不完全さが気になった。
 M6."Girl Talk"は、ベースの響きも重要だと思うのだが、それが若干曇りがあってリアルな響きに聴こえてこない。
 M7."Midnight Sugar"、M9."Misty"は、山本剛としては、忘れてならないお馴染みの曲だが、若い時のぐっと迫るという演奏よりは、年齢を重ねた結果のアッサリ感がやはり感じられるところだ。しかしM7の夜のブルースがムード満点で楽しめるところはさすがだ。しかしここにおいてもベースの重要性を納得できるリアル感で聴けなかったところがやはり残念。
 M8."Last Tango In Paris"は、ドラムスのソロも入ってトリオとしての楽しさが伝わってくる。
 M10."Bye Bye Blackbird"は楽しさが前面に出てご機嫌。

 いろいろと音質に関しての要望も強い近年、それを意識してのアルバムであったと思う。音場・ホール感を重視しての録音や、楽器それぞれの音質のリアルな録音と求めるといった多彩な中での一つの回答のようにも思うが、音楽的な全体像と個々の演奏の味をうまく聴かせるには、相当のミックス、マスターリングのセンスも問われるところであろう。このアルバムでは若干ウッド・ベースの録音が低音は出ていても、今や演奏者のピチカート奏法の味まで求める時代にしては、若干期待外れと言ってもしょうがないであろう。
 そして一方高音質を求める中で、LP(Vinyl)盤が勢いを吹き返しているが、このアルバムもご多忙にもれずLP盤のリリースもある。しかしLP盤を納得した音で聴くのには、かなりの投資が必要で、そうでないならCDの方が勝っている。従ってLP盤がただ音が良いというのは幻想で、その味を引き出して聴くというのはそれなりの経済的覚悟が必要だろう。

 もう結構歴史を重ねたSACDなどもその価値は解るが、それより従来のCDや安価で高音質を求めたMQA-CDが目下難航しているのは、オーディオ界各社の思惑のある商業的な背景も影響しているのか・・・残念なことだ。しかし聴く者の立場も尊重して、このアルバムはSACD、MQA-CD両方でリリースしたのは評価しておこう。
 更に余談だが、近年のオーディオ界は愛好者の減少の流れは相変わらずで、その為高音質というものを一つの大きな売り物にしている。それは悪いことではないが、なんでも高価なハイエンド機器優先というような流れにあることが問題だ。標準機器を大切に育て供給することを忘れ、ただ利益の多い高価な世界に安住しているとしっぺ返しがあるかもしれないと、ふとそんな余計な事も思った次第。

(評価)
□ 演奏  88/100
□ 録音  88/100

(試聴)

 

| | コメント (4)

2023年11月 3日 (金)

ヘルゲ・リエン Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」

カルテット演奏でヘルゲ・リエンの美学を凝縮

<Jazz>

Helge Lien Trio & Tore Brunborg 「FUNERAL DANCE」
Ozella Music / Germ. / OZ106CD / 2023

71avfd58ul_acw

Helge Lien (p)
Johannes Eick (b)
Knut Aalefjaer (ds)
Tore Brunborg (ts)

  ノルウェーのピアニスト、ヘルゲ・リエン(Helge Lien, 1975- 下右)のトリオの新譜『Funeral Dance』がリリースされた。これは彼が師と仰ぐウクライナ生まれのピアニスト、ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin, 1956 – 2018)への追悼の意を込めて制作したアルバムだ。彼のトリオに加えアルペリンとの共演歴もあるサックス奏者のトーレ・ブルンボルグ(Tore Brunborg 下左)を迎えて完成させた。
 アルバムは2018年5月にノルウェーの首都オスロでミハイル・アルペリンが亡くなった直後にコンセプトは出来上がり、死後ちょうど1年経った頃各地のコンサートでこれらの曲が演奏され始め、この年の中国の北京ジャズ・フェスティヴァルに現在のトリオであるクヌート・オーレフィアール(Knut Aalefjaer, ds)とヨハネス・エイク(Johannes Eick, b)とで演奏した時にアルバムの制作を確信したと。しかしコロナのパンデミックで完成には時間を要したようである。

1260d7509f0f937da061fwHelgelientickets
 
Mikhail_alperin_sentralen_oslo_jazzfesti  ヘルゲ・リエンの師ミハイル・アルペリン(Mikhail Alperin →)は、ソ連時代のウクライナの1956年生まれのユダヤ人・ピアニスト/作曲家。1980年にソ連では最初のジャズ・アンサンブルを結成し、その後モスクワに移りロシアの伝統音楽やクラシック、ジャズを融合したモスクワ・アート・トリオ(Moscow Art Trio)を結成、リーダーを務めた。1993年にノルウェーの首都オスロに移住。ノルウェー音楽アカデミーの教授を務め、ヘルゲ・リエンらを指導した。このアルバムに参加しているサックス奏者トーレ・ブルンボルグも加わっているアルバム『North Story』(ECM5310222/1997)など、ミーシャ・アルペリン(Misha Alperin)名義でECMから複数の作品をリリースしている。

 そしてリエンは「アルバム「Funeral Dance 葬送のダンス」はミーシャ(Mikhail Alperin)に捧げられたもので、作曲したときもミーシャのことを念頭に置いていました。ダンスチューンと言われるかもしれませんが、それは大したことではありません。私はそういう矛盾が昔から好きでした。ミーシャもきっとそう望んでいることでしょう。彼の死を悼むのではなく、歌と踊りで彼の人生を祝いましょう。彼の生徒であり、同僚であり、友人であったことに永遠に感謝しています」と記している
   曲は、ヘルゲ・リエンが5曲、トーレ・ブルンボルグが4曲という構成である。

(Tracklist)
1.Adam (Helge Lien) 8:19
2.Apres Un Reve (Gabriel Faure) 4:27
3.Riss (Tore Brunborg) 6:48
4.Funeral Dance (Helge Lien) 3:57
5.Kaldanuten (Tore Brunborg) 5:13
6.Gupu (Tore Brunborg) 6:27
7.The Silver Pine (Helge Lien) 6:15
8.Bomlo (Helge Lien) 3:48
9.A Wonderful Selection Of Gloomy Keys (Helge Lien) 4:44
10.Savelid (Tore Brunborg) 5:18

M1."Adam" 非常に安定感のある穏やかさがある曲からスタート、リエンの曲であるがブランボルグのサックスも敬虔なる心を表しているように聴こえる。演奏はトリオはむしろ控えめで時にリエンの美しいピアノの旋律も入るがむしろサポートだ。
M2."Apres Un Reve" 同様にサックスの調べから展開する。ピアノもハモリながらオマージュの心を表すべく美しくも優しい旋律を流すM3."Riss" ブランボルグの曲。やはり主力はサックスの描く旋律により曲は流れる。そしてピアノ・トリオはサポート役。リエンの性格がよく出ていてサックスを差し置いてピアノの旋律を流さず、サックスの合間を埋めるに終始、そしてバック固めに収まる。
M4."Funeral Dance" アルバム・タイトル曲でリエンの作曲。彼の繰り返しの展開にサックスが深く沈める。
M5."Kaldanuten" 次の曲とともにブランボルグの曲。ピアノとドラムスでキザム低音のリズム、そこにサックスがやや沈鬱な世界を歌う。そして次第に高まり再び沈みゆく。
M6."Gupu" サックスはどこか回想的に静かな情景を歌い、ベースの描くところに導きそしてピアノが讃歌するがごとく響く。
M7."The Silver Pine" 今度はここから3曲リエンの曲。ピアノの情景描写が展開し爽やかな嘆きをサックスが補助。
M8."Bonlo" ぐっと静かなドラムスとピアノの音からスタート、ベースのアルコも加わってどこか異世界に導く響き。
M9."A Wonderful Selection Of Gloomy Keys" 低めの沈むベースとドラムスのリズム展開に、サックスとピアノのユニゾンで描き、次第にサックスが歌いあげてゆく。
M10."Savelid" サックスのソロで始まり、ピアノ・トリオが美学を主張しての曲を展開させ締める。

Helgelientriow_20231101170101

  このアルバムもサックスとピアノ・トリオのカルテットの演奏だが、私は究極このスタイルはあまり好きではない。個人的な偏見では、描くところジヤズ演奏の中ではサックスとピアノは全く相いれない世界を構築すると思っているからだ。ピアノの高潔さとサックスの主張の強さとか懐疑的な人間の深みに迫る世界は異なると思っているためだ(異論は多いでしょうね)。
 しかしこのアルバムは不思議に協調し沈んだ世界を見事に美化して見せる。サックスは前面に出て高らかに歌い上げるのが通常のパターンだが、ここでは葬送がテーマであるためか、それを抑えて流れる。従って、リエンの遠慮しがちなピアノの響きがいやにマッチしているから不思議だ。
 つまりリエンの性格もあろうかと思うが、その流れの合間に自己主張なくピアノトリオの美しさを演ずる方法論を取っている。したがってよく聴かれるピアノを打ち消してのサックス世界を感じないで済んでいるのだ。そこが好感のポイントかもしれない。

 究極このアルバムはヘルゲ・リエンのピアノ・トリオを聴こうとすると若干欲求不満になる。それはこのカルテットでサックスとの関係でピアノ・トリオがサポートに回る演奏部が多くなる為かもしれない。前作『REVISITED』(OZ101CD/2021 )のようなトリオを味わうことはできない。ただヘルゲ・リエンの美学というものの世界は十二分に感じ取れるアルバムとして位置付けると納得できるところに到達する。これはこれとして価値感を感じたい。

(評価)
□  曲・演奏   90/100 
□ 録音      87/100

(試聴)

 

| | コメント (0)

«アンダース・オールム Anders Aarum Trio 「OSLO PUZZLE」