2020年10月23日 (金)

メロディ・ガルドーのニュー・アルバム登場 Melody Gardot 「Sunset in the Blue」

原点回帰 : メルドー節に更なる充実感が、そして相変わらずの陰影濃いブルーの世界が・・・・

<Jazz>

Melody Gardot 「Sunset in the Blue」
DECCA(universal music) / JPN / UCCM-1260 / 2020

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Credits

 待ちに待ったメロディ・ガルドーのニュー・アルバムだ。2015年の彼女の心をぶつけた意欲作『カレンシー・オブ・マン〜出逢いの記憶〜』以来 実に5年振りとなる。恐らくあそこまで意欲的に社会に立ち向かって訴えた後であるので、しばらくは静かな時を迎えるだろう事は解っていたが、この5年間は少々長かった。そしておそらく次の作品は原点に返っての最も世界に受け入れられた2ndアルバム『マイ・オンリー・スリル』の続編と言えるものであろうと予想していたが、やはりその通りのアルバムの登場となった。
 実際、プロデューサーはグラミー賞受賞のラリー・クライン、そしてアレンジを作曲家のヴィンス・メンドーサが担当するという2ndアルバムのコンビである。

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 近作のライブ・アルバムを見ても、かって彼女が来日して私が彼女と話することが出来た2009年のサングラスにステッキという交通事故後の体調回復期と違って、全力投球できる体力が戻ってきているため、作品に内容の変化があるかどうかも実は興味津々でこのアルバムを聴くのである。それはボーナス曲を除いての12曲中なんと8曲は彼女のオリジナル曲で占められている為で、それによりここには完全と言ってもいい彼女の意志が込められているだろうと思うからである。

 

(Tracklist)

01 イフ・ユー・ラヴ・ミー(Dadi Carvalho,Melody Gardot)
02 セ・マニフィーク(Dadi Carvalho,Melody Gardot,Pierre Aderne)
03 ゼア・ホエア・ヒー・リヴズ・イン・ミー(Melody Gardot,Phillipe Baden Powell,Pierre Aderne)
04 ラヴ・ソング(Lesley Duncan)
05 ユー・ウォント・フォーゲット・ミー(Fred Speilmann,Kermit Goell)
06 サンセット・イン・ザ・ブルー(Jesse Harris,Melody Gardot)
07 ウン・ベイジュ(Melody Gardot)
08 ニンゲイム・ニンゲイム(Melody Gardot)
09 フロム・パリ・ウィズ・ラヴ(Melody Gardot,Pierre Aderne)
10 アヴェ・マリア(Melody Gardot,Reese Richardson)
11 ムーン・リヴァー(Johnny Mercer,Henry Mancini)
12 アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー(Jule Styne,Sammy Cahn)
13 懐かしき恋人たちの歌 (日本盤のみのボーナス・トラック)(Gerard Emile Jouannest,Jacques Brel)
14 リトル・サムシング (feat. スティング)(Melody Gardot,Antoine Chatenet, Dominic Miller,Hilda Stenmalm,Conor Blake,Nora Abakar,Sting)

 ほぼ全曲という9曲にストリングス・オーケストラがバックを支えている。そして例の如く彼女のヴォーカルをトランペット、サックス、ギター、ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションという演奏陣が曲により色を添えてサポートする。 
 冒頭のM1."If you love me"から、情緒たっぷりのガルドー節が聴かれ、おおこれがあの『マイ・オンリー・スリル』の当時の彼女の世界の再現かと感ずる処に浸れる。
 そして得意のブラジル世界の曲M2."C'est Magnifique"ここでは珍しく男性ヴォーカルとのデュオで、このアルバムに色を添える。それに加えてしかもボーナス曲として、これは日本のみならず世界盤につけられたもので、スティングとのデュオ曲M14."Little Something"(メルドーのオリジナル曲)が登場する。実はこれらは彼女のこのアルバムに変化をもたらす役割をなしているのだ。この作品はアルバム・タイトル曲の彼女の曲M6."Sunset in the Blue"を中心としたところにあって、それは決してブラジル色のサンバ調の明るさのある世界ではなく、究極は"ブルー"であることが、このアルバムを通して聴くと解ってくる (実はこのアルバム・ジャケが彼女の過去のアルバムと比較しても異色である。このブルーの世界は何かと思ったが、こうして聴いてみると理解できるのだ)。そんなことからもスティングとのボーナス曲は、このアルバムのムードとは一致しないながらも、その影の部分を補う効果があって、聴く者にとって面白いボーナス曲効果を上げているのであった。

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 米国フィラデルフィア生れ(1985年)の彼女は、母親がフランス人だったことにより、フランス語は得意、そして彼女の気質からパリに現在住んでいて、M9."From Paris with Love"が、なかなかそんなヨーロッパのムードもあって聴き応え十分。
 又注目は M5."You won't forget me "で、例の如くストリングス・オーケストラに乗って、そこにピアノ、ギターとサックスのバックに支えられてのガルドーのしっとりとしたヴォーカルがたまらなく良いですね。
 ポピュラーなM11."Moon River"にほっとしつつ・・・・、
 M12."I Fall In Love Too Easily"がギターの静かな音と彼女のしっとりヴォーカルが描く恋に落ちやすい女心の世界が全てであるが如くこのアルバムを閉めるのである。
 日本盤ボーナス曲には、シャンソン名曲"懐かしき恋人たちの歌"の登場で楽しませてくれるのも余興として受け入れよう。

 この秋になって、季節と合致して久々のメルドー・ガルドー世界の良さに浸ることが出来るアルバムの登場で、今年も私にとってのジャズ・ヴォーカル界に良い色をつけていただいたと思いつつ聴いたところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  95/100
□ 録音      90/100

(視聴)

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Melody Gardot "Little Something" with Sting

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Melody gardot "C'est Magnifique"feat. Antonio Zambujo

 

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2020年10月20日 (火)

スールヴァイグ・シュレッタイェル Solveig Slettahjell 「Come In From The Rain」

シルキー・ヴォイスにハスキーが加わり、ぐっと重きも出てきた情感ある歌声

<Jazz>

Solveig Slettahjell 「Come In From The Rain」
ACT / Germ / ACT 9741-2 / 2020

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Solveig Slettahjell (vocal)
Andreas Ulvo (piano)
Trygve Waldemar Fiske (bass)
Pål Hausken (drums)

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  丁度5年前にトルド・グスタフセンとのアルバム(『Arven』(2013))から、このノルウェイの女性歌手スールヴァイグ・シュレッタイェルSolveig Slettahjellを知ることになり、アルバム『SILER』(2004)等を取上げたのだが、ここに彼女としては5年ぶりのニュー・アルバムが登場した。もともと彼女は1971年生れで、もう20年のキャリアのある歌手で、あのソウルフルでシルキー・ヴォイスがなんといっても売り物であった。私としてはよくぞここにニュー・アルバムをリリースしてくれたと歓迎するのである。

 

(Tracklist)

01 Come In From The Rain (Melissa Manchester & Carole Bayer Sager) 4:07
02 On The Street Where You Live (Frederick Loewe / Alan Jay Lerner) 3:44
03 You’re Driving Me Crazy (Walter Donaldson) 2:48
04 Since I Fell For You (Buddy Johnson) 4:04
05 So I Borrow Your Smile (Solveig Slettahjell) 4:41
06 How Deep Is The Ocean (Irving Berlin) 4:51
07 Now Or Never (Curtis Reginald Lewis / Billie Holiday) 3:13
08 I Lost My Sugar In Salt Lake City (Leon René / Johnny Lange) 4:19
09 Johnsburg, Illinois (Tom Waits) 4:31
10 ‘Round Midnight (Thelonious Monk, Cootie Williams & Bernard Hanighen) 6:46

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   今回はピアノ・トリオをバックとして、相変わらずのソウルフルな歌を披露している。もともとシルキー・ヴォイスと言われる美しい歌声だが、こうしてキャリアを重ねてきて、そこにふと適度に入るハスキーな声が今回は又一層魅力の一つになっている。
 前作は『Trail of Souls』(2015)であったが、本作制作に際しては、新しいバンドを結成し、3 年という経過の中で作り上げてきたのだという。

 アルバム全体の印象はなんとなく明るい世界というにところに無くやや暗さが漂っているが、もともと彼女のパターンであってそれを好むかどうかですね。M7."Now Or Never "のようなテンポの早い曲も数曲あるが、全体にゆったりとした曲の世界である。
 M1."Come In From The Rain"はアルバム・タイトル曲。オープニングにふさわしく静かな中に人の交わりを描くヴォーカルが好感度が高い。
 M2." On The Street Where You Live" 聴き慣れた曲が軽快なリズムで、これもスールヴァイグ・シュレッタイェル節で彩る。
 M3."You’re Driving Me Crazy" スゥインギーに軽快曲が続くが、M4."Since I Fell For You"の落ち着いた説得力のある曲へのツナギ的に配置されていてアルバム構成も考えられている。
 M5."So I Borrow Your Smile " は彼女のオリジナルで静かな中に情熱的な歌い込みの世界が見事。ピアノの描くところも情感が満ちている。これがハイライトだ。
 M6."How Deep Is The Ocean " の情緒みなぎる名曲。M8." I Lost My Sugar In Salt Lake City " こんなブルース調も彼女の色に。
 M9." Johnsburg, Illinois "はトム・ウェイツの曲、どこか哀愁が漂っていてこのあたりは彼女のキャリアの産物だろう。
 M10." ‘Round Midnight "のセロニアス・モンクの曲はしめくくりに登場、旋律を奏でるピアノも美しく静かに夜の世界を歌い上げる彼女の情感も見事。

 やはり彼女のヴォーカル・アルバムには情感が満ち満ちていて素晴らしいし、何ともいえない説得力で迫ってくるところが見事である。

(評価)
□ 曲・歌   90/100
□ 録音    85/100

(視聴)

 

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2020年10月16日 (金)

ドミニク・ワニアのピアノ・ソロ Dominik Wania 「Lonely Shadows」

即興性に重点の置かれた「静」と「精神性」の世界

<Jazz>

Dominik Wania 「Lonely Shadows」
ECM/ / ECM 2686 / 2020

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Dominik Wania (piano)

 ポーランドと言う国は、所謂ミュージックの世界への造詣は厚い。そしてクラシックは勿論だが、ジャズそしてロックにも魅力あるプレイヤーが多くそして国民の支持も厚く愛されている。
 このアルバムは俊英ピアニストのドミニク・ワニアのソロ・ピアノ・ECMデビュー盤であるが、やはりクラシックで裏打ちされた世界は、一枚格上の世界が感じられる。
 私にとっては初物と言ったところだが、実は彼は私が知らなかっただけで、既にクラシック音楽のジャズ化というところからトリオ作品でデビューを果たし、その内容足るや単なるジャズっぽくアレンジしたというものでなく、ジャズ心をしっかり構築している独創性に評価があったようである (アルバム『Ravel』)。  又Maciej Obara Quartetのメンバとしても知られている。
 彼は1981年生れで40歳になろうという年齢で、学歴はクラクフ音楽アカデミー、ニュー・イングランド音楽院といったところのようだ。
   そして今回ECMつまりManfred Eicherによる企画に感動して、即興演奏家としての実力とセンスをここに投入したようである。

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(Tracklist)
1.Lonely Shadows
2.New Life Experience
3.Melting Spirit
4.Towards the Light
5.Relativity
6.Liquid Fluid
7.Think Twice
8.AG76
9.Subjective Objectivity
10.Indifferent Attitude
11.All What Remains

 実際のところ、スタンダード演奏とは全く異なる自己の即興姓を主張するアルバムとなっており、又更にソロ演奏であることにより、独自性が際立った演奏である。更にメロディーによる共感というところとも一線を画していて、ちょっと単純に感動的であったというアルバムでは無い。

 冒頭のM1."Lonely Shadows"は、このアルバムのタイトル曲であり、全曲の中では最もメロディーの美しさを感じ取れる曲である。そして静寂の中にみる美しい打鍵音は、はっとするぐらい美しい。私にとってはこのアルバムは冒頭の曲に尽きると言ってもよい状態だ。
 続いては強いて言えばM4."Towards the Light",  M8."AG76"に静なる世界に心を引きつけられる魅力の世界は存在する。特にM4は何故か過去の懐かしい世界に連れてゆかれた。
 そしてその他の曲群には、即興性の因子が強いためか、メロディーの美しさというロマンティックな感覚でついてゆくところにはなく、流麗にしてインパクトのあるピアノ演奏が展開してみたり、中にはクラシカルな中にも前衛的な展開をみせるM5."Relativity"のような曲もある。
 最後の曲M11."All What Remains"も静かな演奏の中にいて、大自然の森林の中に置かれ自己の存在を見つめ考えさせられるような世界に置かれる。

 このアルバムは、いわゆる典型的な「ECMの世界」に没頭できるし、やはり演奏そのものもそうであったと思うが、わずかな余韻のある美しいピアノ音はエンジニアのStefano Amerioのセンスと技量が窺えるところであった。
 いやはや、単なるジャズというところから一歩も二歩も前進しているポーランドの音楽世界のそのレベルの高さに驚かされるのである。

(評価)
□ 曲・演奏   90/100
□ 録音     90/100

(視聴)

 

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2020年10月10日 (土)

ダイアナ・クラールのニュー・アルバム Diana Krall 「THIS DREAM OF YOU」

しっとりムードが全編を通して流れ、秋の夜長に最適

<Jazz>

Diana Krall 「THIS DREAM OF YOU」
Verve / JPN /  UCCV1181 /  2020

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(Members)
ダイアナ・クラール(vo, p)、
ジョン・クレイトン(b)on 1,2,4,10、
ジェフ・ハミルトン(d) on 1,2,4、
アンソニー・ウィルソン(gt) on 1,2,4、
クリスチャン・マクブライド(b)on 3,7,
ラッセル・マローン(gt)on 3,7,
アラン・ブロードベント(p)on 5,8、
トニー・ガルニエ(b) on 6,9,11、
カリーム・リギンス(ds) on 6,9,11、
マーク・リーボウ(g) on 6,9,11,
スチュアート・ダンカン(fiddle) on 6,9,11 他

 待望のダイアナ・クラールのニュー・アルバム。3年ぶりの登場だ。彼女のアルバムは、ジャズ・ピアノ・プレイヤーとしてのものと、シンガーとしてのものとで若干趣が変わってくるが、このところのトニー・ベネットとのデュエット前作『LOVE IS HERE TO STAY』(2018)は、あれはあれで良いとしても若干欲求不満であった。

 今作は彼女のシンガーとしてのものと判断されるが、2012年にリリースされた古き良き時代のジャズ曲集『GLAD RAG DOLL』(UCCV9445/2012)は、鳴り物入りでのリリースであったが、ファンからの歓迎振りは期待どおりにはゆかなかった。そこで続くは、ロックなどの過去の注目曲を取上げた『wallflower』(2015)で再起を図った。これは今度は期待以上に広く受け入れられ売れ行きも最高を記録したが、反面、今度はジャズ・プレイヤーとして彼女自身は納得しなかったようである。

0103_02  そんな経過で続くは、ジャズ曲に回帰しての『Turn Up The Quiet』(UCCV1162/2017)を、彼女をピアノ・プレイヤーであるのは当然としてもジャズ・ヴォーカリストとしても見いだしてくれた長年の付き合いである巨匠トミ-・リピューマTommy LiPuma(→)をプロデューサーとして起用してのリリース。そしてその結果は、彼女の原点回帰は成功して自身の納得と一般のファンに広く受け入れられたのだった。

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 そこで今アルバムは、そんな流れからどのような展開になるのかと実は興味津々なのであった。・・・そして開けてみると、なんとトミー・リピューマとの最後の録音を収録しているのだ。つまりこれまで、彼とスタジオで行ってきたレコーディングの中で、アルバム『Turn Up The Quiet』に納められなかった中で、ダイアナ本人が特に"アウト・テイクと化してしまうには、ちょっともったいない"と感じていた未公開音源を1つのアルバムにまとめ上げたものとなった。それは思いがけなかったトミ-・ピューマの死という現実に直面してしまったことにより、彼に贈るアルバムとして制作されたことになったのだ。従って前作の続編と言ってもよいところ。

Dianakrallcreditmmccartney (Tracklist)
01. バット・ビューティフル / But Beautiful
02. ザッツ・オール/ That’s All
03. ニューヨークの秋 / Autumn in NY
04. オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ / Almost Like Being in Love
05. モア・ザン・ユー・ノウ / More Than You Know
06. ジャスト・ユー・ジャスト・ミー / Just You, Just Me
07. ゼアズ・ノー・ユー / There’s No You
08. ドント・スモーク・イン・ベッド / Don’t Smoke in Bed
09. ディス・ドリーム・オブ・ユー / This Dream of You
10. 月に願いを / I Wished on the Moon
11. ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン / How Deep is the Ocean
12. 雨に唄えば / Singing in the Rain

 2016年からの数年間は、彼女は人気プレイヤーであるが故に世界各地を回るツアーで多忙を極めたが、なんとその当初においては名匠トミー・リピューマと新たなレコーディングを繰り返していた。しかし、そんな状況下で、リピューマがこの世を去ることとなってしまった。一度は録音した音源の公開もあきらめていたが、リピューマがプロデュースを手掛けた最後の録音であり、彼が気に入っていた曲"But Beutiful"も存在する為、それを中心にアルバム制作を企てたのだった。従って今作は、前作『Turn Up The Quiet』に隠れた思い出の未公開音源集なのである。

 そんな事情から選ばれた曲集という事で、とにかく全編しっとりとしたムードに包まれている。あの派手というか、溌剌としたクラールのジャズ・プレイは全く影を潜めてしまっている。そんなことでこの秋の夜に静かに聴き入るには最高のアルバムである。
 先ず冒頭のM1."But Beautiful"から"男女の愛"を歌ってはいるが、そこには哀しさも心の痛みも乗り越えてゆく心の覚悟が美しくしっとりと説得力ある歌として仕上げられている。
 M3."Autumn in NY"は、彼女のピアノとヴォーカルにベース、ギターでのトリオで情景が目に見えるようだ。
 とにかく、このアルバムのムード仕上げは、おそらくこれから10年は出現しないであろうと思われるクラールの情緒ゆたかにして語りかけてくる優しさが前に出ていて、貴重になりそう。そんな意味でも私としては、M8."Don’t Smoke in Bed"、M9."This Dream of You"、M11."How Deep is the Ocean"など注目している。
 一方聴きようによっては、ジャズの醍醐味を感じ取れる曲に、例のClayton(B), Hamilton(D), Wilson(G)のカルテットによる曲M4."Almost Like Being in Love"もあって楽しめる。

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 又面白いことにこれは私の新しい発見であるが、クラールはジャズに固執しているようであるが、実はロック系を歌わせるとなかなか味を出す。それはアルバム『wallfiower』にみるイーグルスの曲であったり、又このアルバムでもボブ・デュランの曲が出色である。
 又今アルバムのジャケが、従来のモノと全く異色。それはなんと彼女の撮った作品であるとか、こんな都会風景を撮るセンスがあるのかと、この点も新発見であった。
  
   今回は、彼女のしっとりムードのヴォーカル曲ということで、録音もヴォーカルの微妙なところも描く方法として、歌声を前面に出しての録音となっている。従って手に取るように聴くことが出来る。異色作品として貴重な一枚とすることにした。

(評価)
□ 曲・演奏・歌   90/100
□ 録音       90/100

(視聴)

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2020年10月 5日 (月)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 映像盤「US + THEM」

幼い少女の死を描きつつ・・訴えるロジャーの世界が展開

<Progressive Rock>

[Blu-Ray DISC] Roger Waters 「US + THEM」
A FILM BY SEAN EVANS and ROGER WATERS

Sony Musuc / JPN / SIXP 40 / 2020

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 "Creative Genius of Pink Floyd(ピンク・フロイドの創造的鬼才)"と言われるロジャー・ウォーターズのまさしく史上最高のツアーの一つと評価された『US+THEM』ライブ映像版である。かねてから、世界各所限定劇場公開などで話題になった映像のBlu-Rayのサラウンド・サウンド集録盤だ。このツアーは全世界で230万人を動員したと言われるが、その2018年6月アムステルダム公演の収録である。

(Tracklist)

006 1.Intro
2.Speak To Me
3.Breathe
4.One of These Days
5.Time
6.Breathe (Reprise)
7.The Great Gig in the Sky
8.Welcome to the Machine
9.Deja Vu
10.The Last Refugee
11.Picture That
12.Wish You Were Here
13.The Happiest Days of Our Lives
14.Another Brick in the Wall Part 2
15.Another Brick in the Wall Part 3
16.Dogs
17.Pigs (Three Different Ones)
18.Money
19.Us & Them
20.Brain Damage
21.Eclipse
22.The Last Refugee (Reprise)
23.Deja Vu (Reprise)

ボーナス映像:
"FLEETING GLIMPSE" Documentary
"COMFORTABLY NUMB" (Live Performance)
"SMELL THE ROSES" (Live Performance)

収録2時間27分

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 ここでは何度か既に取上げてきたライブだが、2017年から世界各国1年半に及ぶ『死滅遊戯』以来25年ぶりの新作『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』に伴うワールドツアーであったが、『狂気』『炎』『アニマルズ』『ザ・ウォール』等からのピンク・フロイド時代の名曲というか、彼が当時情熱を込めたメッセージが今にしても通用するところに焦点を当て、例の如く光の洪水、最新テクノロジーによる最新鋭の巨大LEDスクリーンに映し出される"幼き女の子の死においやられる世界"、そして人権、自由、愛を訴える映像とともに、最高のサウンドと一般のコンサートとは異なる劇場的な演出で甦みがえらせる。最後は突然スクリーンとは別に、観客の上部にアルバム『狂気』のジャケット・アートそのものの7色のレーザー光線が作り上げるピラミッドの美しいトライアングルが浮かび上がって、観衆を驚かせる。

一方この数年来のトランプ政治にみる情勢に痛烈なネガティブ・メッセージを、彼の世界観から訴えた。

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 このライブは、2017年5月26日米カンザスシティよりスタート、2018年12月まで約1年半に渡って行われたワールド・ツアー。北米、オーストラリア、ニュージーランド、欧州、ロシア、南米、中南米と(残念ながら日本公演なし)廻り全156回、230万人の動員を記録。このツアー・タイトルはピンク・フロイドが1973年に発表したアルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』の収録曲の"Us and Them"から来ているが、基本的に当時と変わらぬ"我々と彼ら"という分断に批判を呈して、我々も彼らも一緒でなければならないという訴えであり、そこにトランプ政策への戦いを宣言して、それで"Us +(プラス) Them"としての世界を訴えたのだ。又ここ何年間の彼のテーマである中東パレスチナ問題にも焦点を当てている。

 もともと彼の持つ疎外感に加え、人間社会に見る苦難・破壊・滅亡について彼が何十年も前から訴え続けている厳しい警告をも織り込んでいるところが恐ろしい。

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 さらに加えて、宗教、戦争、政治が引き起こす現在進行形のさまざまな問題への異議を唱えるメッセージが次々に映し出されていく。そこには特にここ何年と訴えてきたパレスチナ問題を中心に、中東で今起きている諸問題にも警告を発する。

 ロジャーが提示しているのは、社会悪の"戦争"というものである。今知るべきは、中東で難民化しているパレスチナ、シリア等の人民の姿だ。母国の独裁から逃れるべく幼い娘との逃避行で海辺へと向かうが、その最愛の幼き娘を逃避行の失敗により失ってしまう。自分は難民の生活の中からフラメンコの踊り子として生きているのだが・・・幸せは無い。こんな悲惨な一般市民の人々を生み出してゆく戦争の無残さ、悲劇をこのライブ全体を通して一つのテーマとして描いているのも、戦争で父親を幼きときに失ったロジャーの一貫した反戦思想の姿である。
 このことは、彼の近作からの曲"The Last Refugee"にみるスクリーンの映像に描かれる。そこにはAzzurra Caccetta(上)の見事な踊りと演技が会場に涙と共に訴える。

 とにかくライブ会場のトリックも見応え十分だ。曲"Dogs"では、想像もつかないアリーナのど真ん中を分断する壁を出現させ、かってピンク・フロイド時代にヒプノシスと決別して彼自身がデザインした『アニマルズ』のジャケットにみたバタシー・パワー・ステーション(発電所)が出現する。テーマは、アメリカ大統領への痛烈なメッセージである。なんとトランプを豚にたとえ「Fuck The Pigs」(ブタども、くそ食らえ)の看板も掲げる。曲"Pigs(Three Differrent Ones)"では、"トランプ大統領"を批判しこき下ろす映像に加えて"空飛ぶ豚"が会場中を旋回する。
  あの物議をかもした1977年という45年も前の問題作『アニマルズ』が、今にして生きていることに驚くのである。

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 ここまで演ずるものは、あらゆるロック・ショーではとても見られない「ロジャー・ウォーターズ独特の世界」であり、その迫ってくる会場においては飽きるところを知らないのである。

  このライブ映像は編集された作品として、2019年10~11月にかけて世界各所で映画上映として公開された。今回発売されるBlu-ray・DVDには、映画版には収録されていなかった曲の"コンフォタブリー・ナム", "スメル・ザ・ローゼス"のライヴ映像2曲、そして、ツアーの舞台裏を公開するドキュメンタリー・フィルム『ア・フリーティング・グリンプス』がボーナス映像として収録されているのも嬉しい。

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 ライブ・バンド・メンバーは10名編成バンドで、重要なギターはお馴染みのデイブ・キルミンスター(上左)に加えて人気のジョナサン・ウィルソン(上中央)のツイン構成。そしてジョン・カーリン(上右)がキー・ボードを中心にマルチなプレイヤーぶりを発揮。また、女性ヴォール陣はLUCIUSの二人、又サックスは長い付き合いになっているイアン・リッチー。2年間通して同じメンバーでやりきった団結力も見事であった。

 このライヴに見るものは、ロジャー・ウォーターズがミュージシャンであると同時に総合エンターテイナーであり、ミュージックを単なるミュージックに終わらせない政治的批判発言者であり闘争者でもある事実だ。しかし究極的にはUSとTHEMの「団結と愛」を訴えるところに悲壮感も見え隠れする。
 

(参考視聴)

 

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2020年10月 1日 (木)

カーステン・ダール Carsten Dahl Trinity 「painting music」

哀愁と美と・・・そして先鋭的な世界と

<Jazz>

Carsten Dahl Trinity 「painting music」
ACT Music / 9891-2 / 2019

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Carsten Dahl (p)
Nils Bo Davidsen (b)
Stefan Pasborg (ds)

Recorded in 2019 at Rainbow Studio, Oslo

Carstendahl900  デンマークを代表するピアニストのカーステン・ダール(→)は、所謂ジャズの本道をゆくスウィンギーな演奏で結構人気があったのだが、私自身はユーロ系ジャズには、特にピアノトリオとなれば叙情性を描くところを求める事が多く、これまでのめり込むことが無かった。しかし先日紹介の寺島靖国のアルバム『For Jazz Audio Fans Only  Vol.13』に取上げられた曲"Sailing With No Wind"が魅力的で、昨年リリースされたこのアルバムを聴くことになったという経過。
  彼は1967年生れだから55歳ぐらいというところだろうか、もうミュージシャンとしてのキャリアも25年以上もあって丁度円熟したよい年齢だ。しかしその人生の過程において幼少期からメンタルな問題の多難な状況があったようで、次第に変化し現在は内面的な世界も描くようになってきているようである。そのあたりが私が注目することになった点であろう。
 又、絵画的才能も素晴らしく、このアルバムでもカバー・アート、そして作品を登場させている。

 

(Tracklist)

1.Sailing With No Wind (Dahl, Davidsen & Pasborg) (5:33)
2.All The Things You Are (Jerome Kern) (6:07)
3.Somewhere Over The Rainbow (Harold Arlen) (6:43)
4.Jeg gik mig ud en sommerdag (Danish folk song) (4:18)
5.Bluesy In Different Ways (Dahl, Davidsen & Pasborg) (4:11)
6.Solar (Miles Davis) (2:43)
7.Be My Love (Nicholas Brodszky) (8:22)
8.You And The Night And The Music (Arthur Schwartz) (5:08)
9.Blue In Green (Miles Davis) (4:48)
10.Autumn Leaves (Joseph Kosma) (6:30)

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 冒頭のM1."Sailing With No Wind"が私が興味を持った曲だが、彼のピアノの響きに叙情性ある哀愁感も感じられる演奏が魅力がある。とにかく優しさの溢ふるる美旋律が留めなく流れる。どこかキース・ジャレットを思い起こすような展開をみせて、なんと彼のうなりというよりはむしろ歌に近い声も入ってくる。
 M2."All The Things You Are "は本領発揮のピアノの先鋭的なタッチにベース、ドラムスも踊る。
 なんと聴き慣れたM3."Somewhere Over The Rainbow "も登場、どこかしっとりとしかも思索的に流れるのにビックリ。
 M4."Jeg gik mig ud en sommerdag "はデンマークのフォークソング、これが又美しい。
   この他の曲はスタンダードのオンパレードで楽しませる。
 M6."Solar"のようにアップテンポで演じきるところもある。 
 M7."Be My Love"も、美しさと優しさとがピアノからベースにとやりとりし行くところが感動的。
 M8."You And The Night And The Music "がここまで超高速プレイで演じられるのも聴きどころ。
 M9."Blue In Green"これも良いのだが、ダールの歌は要らない。
 M10."Autumn Leaves"これが"枯葉"かと・・・思うところが凄い。ここまで攻撃とも言える編曲とインプロヴィゼーション演ずるのも珍しいが、それが又様になっていて、彼らの本質がここにありと言わんばかりである。シンバルが刺激的に響き速攻演奏でバトルを演ずるピアノとベース。まさに驚きの一曲。

 とにかくここに聴くカーステン・ダールのプレイは、これぞプロという世界。キース・ジャレットの世界にも一脈通ずるところがあると感ずるが、ヨーロッパ的叙情性と思索世界も見せながらの攻撃的な速攻演奏との微妙なバランスの素晴らしいアルバムだ。

(評価)
□ 選曲・編曲・演奏   95/100
□ 録音         90/100

(視聴)

 

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2020年9月26日 (土)

寺島靖国プレゼント「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」

「ジャズは音で聴け」の世界は今年はどう変わってきたか・・・・

<Jazz>

 Yasukuni Terashima Presents
「For Jazz Audio Fans Only Vol.13」
TERASHIMA RECORDS / JPN / TYR-1092 / 2020

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  今年も、無事寺島靖国氏の企画によるこのアルバムがリリースされた、13卷目だ。注目される好演奏、好録音盤を取上げ年に一回のリリースであるので、なんと今年でもう13年と言うことですね。オーディオ・ファンでもある私は、おかげで過去の全アルバムを聴いて楽しんでいる。
 恐らく今年のこのアルバムには、私の聴いているのは何か必ず取上げられるだろうと高を踏んでいましたが、なんと全13曲今年までに聴いてきたアルバムが無く完全に肩すかしでした。このあたりが、一般的な世界で無く、オーソドックスでない、にもかかわらず納得の好演奏を紹介してくれるのでありがたいと言う処なんです。

Terashima

 「ジャズは音で聴け」と豪語している彼の世界、中心は私の好きなピアノ・トリオだ。ところがこのところステファノ・アメリオの影響もあってか、低音とシンバルの強力エネルギー溢れるサウンドから、曲の質とその描く内容によっての音場型サウンドへと好みがシフトしつつあることを訴えている寺島靖国。 どんな選曲をしてくるか、ちょっと楽しみというか、期待というか、そんなところでこのアルバムを聴くのである。

(Tracklist)

1. The Song Is You 〔Christoph Spendel Trio〕
2. I Love You So Much It Hurts 〔Han Bennink / Michiel Borstlap / Ernst Glerum〕
3. Cancer 〔Allan Browne Trio〕
4. New Life And Other Beginnings 〔Aki Rissanen〕
5. Sailing With No Wind 〔Carsten Dahl Trinity〕
6. Counter 〔Floris Kappeyne Trio〕
7. Ammedea 〔Pablo Held Trio〕
8. Flight of the Humble 3 〔Robert Rook Trio〕
9. 928 〔Michael Beck Trio〕
10.Mistral 〔Peter James Trio〕
11.Get Out Of Town 〔Stevens, Siegel And Ferguson Trio〕
12.The Day You Said Goodbye 〔Larry Willis Trio〕
13.Don't Let The Sun Catch You Crying 〔Lafayette Harris Jr.〕
()内は演奏者

 こうしてみると、いやはやここに登場するは日本におけるポピュラーな演奏者は少ないというか、私はあまり知らないのであって、探求心、研究心のなさを思い知らされた。
 従って今回のアルバムは私にとっては非常に貴重だ。取上げた曲の全てのアルバムを聴きたい衝動に駆られる。

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 中でもやっぱり曲の良さからは、M1."The Song Is You "、M5."Sailing With No Wind "は興味ありますね。M1は、ポーランド生れのピアニストで、この曲を聴く限りでは、ジャズの中では刺激の無いむしろメロディー重視にも聴こえるが、エレクトロベースが面白い味付けで是非この曲を収録したアルバム『Harlem Nocturne』(BLUE FLAME)(上左)を聴きたいと思った。又M5.はジャズ名演といったタイプで、なかなか叙情もあって素晴らしい。このピアニストのカーステン・ダールはデンマーク生れのベテランで、私は唯一このピアニストは知ってはいるが、未熟にも彼のこのアルバムにはアプローチしてなかったので、美しいピアノの調べのこの曲を収録しているアルバム『Painting Music』(ACT Music)(上中央)は早速聴くことにする。
   そしてM9."928"(Michael Beck Trio)のベースとドラムスの迫力録音が聴きどころ。このマイケル・ベックも名前は聞いたことがある程度で今まで白紙状態であったため興味がある。更にM12."The Day You said Goodbye"がジャズの真髄を演ずるが如きのベースとブラッシが前面に出てきて、そこにピアノを中心とした流れがゆったりとしていて素晴らしい。このアルバム『The Big Push』(HighNote Records)(上右)を是非入手したいと思ったところだ。

 この寺島靖国のシリーズは、演奏は勿論無視しているわけでは無いが、所謂オーディオ・サウンドを重視し、その録音スタイルに深くアプローチしていてライナー・ノーツもその点の話が主体だ。それを見ても如何にサウンド重視がこのアルバムの目的であることが解るが、昔からシンバルの音の重要性の語りが彼の独壇場だ。そしてベース、ピアノの音質と配置などに、かなり興味と重要性を主張している。そんな点も私もこのアルバムに関しては、やはり興味深く聴いたのだった。

  今回は、先ずこのリリースされたアルバムの紹介程度にしておいて、ここに登場したアルバムを入手し聴いて、次回からそのアルバムの感想をここに紹介したいと思っている。

(評価)
選曲  90/100
録音  90/100

(参考視聴)  Carsten Dahl Trinityの演奏

 

 

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