2020年2月25日 (火)

キアラ・パンカルディChiara Pancaldi 「PRECIOUS」

歌唱能力は高いが、全体に馴染めないコンテンポラリー・ジャズの極み

<Jazz>

Chiara Pancaldi 「PRECIOUS」
CHALLENGE Records / AUSTRIA / CR73497 / 2020

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Chiara Pancaldi キアラ・パンカルディ (vocal)
Roberto Tarenzi ロベルト・タレンツィ (piano except 3, 7, 8) (electric piano on 3, 8)
Darryl Hall ダリル・ホール (bass except 5)
Roberto Pistolesi ロベルト・ピストレージ (drums except 5)
Diego Frabetti ディエゴ・フラベッティ (trumpet on 2, 9)
Giancarlo Bianchetti ジャンカルロ・ビアンケッティ (guitar on 4, 7)

  キアラ・パンカルディ(1982年イタリアのボローニャ生まれ)のヴォーカル・アルバム3作目。過去の2作はここでも既に取り上げてきた1st『I WALK A LITTLE FASTER』(CR73409/2015)2nd『WHAT IS THERE TO SAY』(CR73435/2017)で、スタンダード・カヴァー集という形あったが、今作はなんと自己のオリジナル曲で埋め尽くされている(9曲中7曲)。そんなところは、イタリア・シーンで活躍中の彼女の意欲作と言ってよいものだ。そしてロベルト・タレンツィ(p)以下のピアノ・トリオ(+ゲスト入りも4曲)をバックにしたもの。
 1stアルバムは、なんと突然のデビューで「ジャズ批評」企画の年間ジャズオーディオ・ディスク大賞2015ヴォーカル部門を取ってしまったものだった。あれは私自身は若干疑問に思っていたのであったが、新たらしモノに弱い大賞という感じでもあった。しかしこの3作目となると新人のインパクトでなく、実力がかなり評されるところである。

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1. Better To Grow *
2. Nothing But Smiles* 
3. Urban Folk Song
4. Adeus *
5. Precious (vo & p duo) *
6. The Distance Between Us* 
7. Songs Don't Grow Old Alone (omit piano)*
8. You And I (We Can Conquer The World)
9. Our Time*

( *印:キアラのオリジナル曲 )

 まずは印象は、ジャズ・ヴォーカルの線はしっかりしている。しかしどちらかというと躍動感ある現代風の流れが感じられるが少々難物。
 オープニングのM1." Better To Grow "では、やはりとマイナスの予想が当たってしまった。この曲は彼女のクリーン・ヴォイスは解るが、曲自身が魅力が感じられない。なにせブラジル音楽からの影響を受けていると言うとおりのテンポが快調なコンテンポラリーものであるが、私にとってはよりどころのない曲。
 そのイメージが続いて、彼女のかなり歌い上げる力量は理解しつつ、どうも旋律自身心に響いてこない。演奏の美旋律という処ではなく、フリー・ジャズっぽいところにむしろ興味は行ってしまった。
 アルバム・タイトル曲M5."Precious "は、初めてゆったりした物語調の曲となる。このあたりになってようやくピアノの美しさをバックに彼女のヴォーカルが私にとって美を感じられる世界となった。
 いずれにしても残すところM7.,M9.の2曲ぐらいが、馴染めると言えば馴染めた曲だ。
   M7."Songs Don't Grow Old Alone"はギターの美しい音と旋律を主としたバックに彼女の深みのある美しさのある歌声が展開して、スキャット系のヴォーカルも色づけしてなかなか技量の深さも感じ、これはなかなか良い。M8."You And I"はS.Wonderの曲というが、それも彼女のジャズ世界に変容していて見事言えば見事。
  そして最後のM9."Our Time" この曲はピアノの美しさに誘われての彼女の深い歌い込みが聴かれ好きなタイプ、そこには美しさと哀感も感じられてトランペットの響きもナイス、これはいい。変にブラジルっぽくなくこうした曲なら私は大歓迎だ。

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61kw1h2xjglw  アルバムを通して、彼女の美声と歌う技量の高さは実感できる。ただこれは好みの問題だが、私にとっては受け入れられる曲がなんと3-4曲のみと言うところで、少々残念であった。やはり何曲かはスタンダードをじっくり歌って欲しいと思うのであるが如何なものだろうか。
 彼女は私の好きなピアニストのアレッサンドロ・ガラティとの共演ものが次に控えているようで(「The Cole PorterSongbook」→)、そちらはピアニストのパターンからして期待に添ってくれるかもしれないと思うところである。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★☆  曲より技量をかって 80/100
□ 録音      ★★★★☆            80/100

 

(試聴)

 

 

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2020年2月21日 (金)

須川崇志Banksia Trio 「Time Remembered」

スリリングにしてミステリアスな世界の構築

<Jazz>

Takashi Sugawa Banksia Trio 「Remembered」
DAYS OF DELIGHT / JPN / DOD005 / 2020

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林 正樹 (piano)
須川 崇志 (bass)
石若 駿 (drums except 6)

Recorded at Sound City Setagaya Studio on 31 July 2019

 Marc Copland話から発展して、ozaさんからご示唆頂いたアルバム。日本のピアノ・ジャズ・トリオものとしてはどうしても小曽根真となりがちな私だが、どうもその他は意外に多いのが一世代前のアメリカン・ジャズ世界、それがなんとも私には馴染めないで来ているのだ。しかしこのアルバム、こんな現代的センスのあるピアノ・トリオであることには驚いているのだ。リーダーはベーシストの須川 崇志だが、完全なピアノ・トリオのスタイルを守りながらの即興がらみのトリオ演奏は新鮮だ。そして重要なのは知的で美しい林正樹のピアノ、又石若駿の演ずるは繊細にしてダイナミックなドラミングの世界である。

Ts1 (Tracklist)

1. Time Remembered
2. Yoko no Waltz
3. Nigella
4. Banksia
5. Under The Spell
6. Lamento (p & b duo)
7. Largo Luciano
8. Yoshi
( S.Ishikawa : 2, 7, 8 /  M.Hayashi : 3 / T.Sugawa : 4, 5, 6)

 収録曲は上のような8曲、M1."Time Remembered"はビル・エヴァンスの曲で、それ以外は全て彼らのオリジナル曲。それはライナーによると、録音前日や当日の朝に書かれた曲をはじめ収録曲の半分はほぼお互いの初提出で演奏されたというのだから驚きである。この収録内容は、3人のこれまでに築き上げられた演奏技術によって、ここに集約されて作り上げられた曲であるというところのようだ。

 しかし、このオープン曲のアルバム・タイトル曲でもある"Time Remembered"は、繊細なシンバルの音から入って・・・・所謂エヴァンス美学とはまた一歩異なった世界観を構築していて見事である。私はこれを聴いて是非アルバムを聴き通したくなったのであった。アルバムの帯に平野暁臣のライナーからの言葉"須川崇志と石若駿が紡ぎ出すうねりのなかを林正樹がリリカルに駆け抜ける"まさにこのタイプなのだ。私が聴くエヴァンスのこの曲はカヴァーでありながら彼らの作り出すものは、今演じている彼らそれぞれのセンスから生まれるインプロヴィゼーションが加味され、それが有機的に結合してゆく流れが手に取るように聴けて、そこに現代的な新鮮さが加味されていて好感度が高まるのだ。
  私の聴くエヴァンス自身のこの曲演奏は、72年のパリ・ライブものだが、それは彼のピアノの美しさとその世界に並ぶベースの世界など協調の美が満ち満ちているが、このBanksia Trioは、ベース、ドラムスの疾走感が加わってトリオのバトル感覚のスリリングさが生まれていることだ。エヴァンスものの取り扱いは難しいと思うが、彼らの意志が感じられて頼もしい。

Triow

 冒頭で彼らの意志を示され、残る彼ら自身のオリジナル曲に入るのだが、M3."Nigella"は録音前日に出来たという林正樹の曲だが、これはむしろスリリングな展開の後の心のゆとりを謳歌するが如きの展開で三者のつながりが見事。
 M4."Banksia "は静かなピアノに始まり、次第にベースの主導に入り、次第にスリリングなドラムが絡んでインタープレイの妙を描く異世界に突入。
 M5." Under The Spell " ドラムス主導で流れる神秘世界。
 M6."Lamento (p & b duo)" 須川のアルコ奏法を中心にピアノがサポートして描くちょっと哲学的深い世界。
 M7."Largo Luciano" ドラムスのブラシ奏法の流れの中で、ゆったりと余韻の音を残したピアノ、それにベースの和音で綴る静かな神秘性ある沈んだ世界。

 とにかく、三者のバトルによるスリリングな味に美しさを乗せた緊張感ある硬質な世界と静かな奥深い心象風景にも迫るという演奏が聴かれ、ジャズ・トリオの醍醐味の感じられる久々に聴き込んでしまうアルバムであった。

 

( ネット上に見られた三者の紹介を載せておく )

T02200220_0320032013480396589 ■須川崇志
 1982年生まれで11歳の頃にチェロを弾き始め、18歳でジャズベースを始める。2006年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。その直後に移住したニューヨークでピアニスト菊地雅章氏に出会い、氏のアートフォームや音楽観から多大な影響を受ける。2009年に帰国後、辛島文雄トリオを経て日野皓正バンドのベーシストを6年間務める。現在は峰厚介カルテット、本田珠也トリオ、八木美知依トリオ、石若駿トリオほか多くのグループに参加。現在までに東京ジャズ、デトロイト(米)、モントルー(スイス)、ブリスベン(豪)、メールス(独)などの数多くの国際ジャズフェスティバルに出演。2018年11月にデビューアルバム『Outgrowing』を発表。

Hayashiw ■林正樹
 独学で音楽理論を学び、佐藤允彦らに師事してジャズピアノと作編曲を習得。渡辺貞夫バンドのレギュラーを務める傍らで、椎名林檎、長谷川きよし、小野リサら他ジャンルのアーティストとも幅広く共演。自身のリーダーアルバムにおいても、ジャズと他領域を行き来するチャレンジングな試みを続けている。

 

Ishiwakashunw_20200221094801 ■石若駿
 14歳で日野皓正クインテットの一員としてライブに出演し、高校時代には奨学生として米・バークリー音大に留学。東京藝大打楽器科在学中からジャズシーンのド真ん中で活躍を続ける万人が認める日本のトップドラマー。さらに活動範囲はストレートジャズにとどまらず多彩な領域におよび、参加アルバムは100枚を超える。

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆  95/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

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2020年2月17日 (月)

パトリシア・バーバーPatricia Barber 「HIGHER」

ベテランの醸し出す世界は展望に満ちていた

<Jazz>

Patricia Barber 「HIGHER」
ArtistShare / U.S.A / AS0171 / 2019

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Patricia Barber, piano, voice
Patrick Mulcahy, bass
Jon Deitemyer, drums
Neal Alger, acoustic guitar
Jim Gailloreto, tenor saxophone
Katherine Werbiansky, lyric soprano

 ヴォーカリスト、ピアニストにして作曲家でもあるパトリシア・バーバーの久々の新作(レーベルはArtistShare、彼女のDiscographyは末尾参照)。私の米国では最もと言ってよい関心の高い女流ミュージシャンだ。なんと1955年生まれであるから、歳はおして知るべしというところ。
 過去にここで何回か取り上げてきたように、様々な作品に取り組んできたヴェテランである。そして今回は8曲の自作曲でジャズの枠組みの中での組曲的手法によって聴かせるところに、まだまだチャレンジ精神はみなぎっている。そんな意欲作であるが、極めてヴォーカルは聴きやすく優しく説得力あるところにある。いずれにしてもヴェテランならではの味わいが溢れている。

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1. Muse (Patricia Barber)
2. Surrender (Patricia Barber)
3. Pallid Angel (Patricia Barber)
4. The Opera Song (Patricia Barber)
5. High Summer Season (Patricia Barber)
6. The Albatross Song (Patricia Barber)
7. Voyager (Patricia Barber)
8. Higher (Patricia Barber)
9. Early Autumn (words: Johnny Mercer, Ralph Burns, Music: Woody Herman)
10. In Your Own Sweet Way (Music: Dave Brubeck)
11. Secret Love (Words: Paul Francis Webster, Music: Sammy Fain
12. The Opera Song with Katherine Werblansky (Patricia Barber)

 スタートのM1."Muse "がいいですね、語り調で優しいヴォーカル、そしてそれにも増して優しさ溢れるピアノの美旋律。
   このM1.からM8.まで彼女のオリジナル曲が連なり、" Angels, Birds, and I "命名されたこの8曲の組曲に仕上げているようだ。
 M2."Surrender "はアコースティック・ギターを中心にバックを支える。ここにも後半のピアノの美しさの流れは圧巻。
 M3."Pallid Angel"にはサックスの登場と多彩。M4."The Opera Song "はこの流れの中で、特異な展開に驚く。
 流れは比較的ゆったりとしていて、一つ一つかみしめての味わいを示すが、曲は多彩な展開をしている。
 M6."The Albatross Song "の描くところは解らないにしても、何か抵抗との対抗的な雰囲気あり。
 それに続くM7."Voyager"では、新しき迫る世界に向かってのやや複雑な試みと展開がなされる。そしてアルバム・タイトルのM.8""Higher は、ゆったりとしたピアノ・ソロのバックで、ここに来る展開を経ての身に感じての射してくる光明を感じさせ、展望の中に終わる。

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 続いて組曲によるコンセプトは一締めとなって・・・カヴァー曲となる。
 M9."Early Autumn "の優しいヴォーカル、そして後半のピアノの流れは美しいの一言。
 M10."In Your Own Sweet Way "では、彼女のジャズ・ピアノのテクニカルな聴かせどころ。ここに来てベース、ドラムスとのジャズ展開が堪能出来る。
 M11."Secret Love"は、聴き慣れた曲をハイテンポで演奏してみせ、彼女の一筋ならないところを垣間見せる。
 M12."The Opera Song with Katherine Werblansky " ここで締めとして彼女の曲となり、高音のオペラティックなヴォーカルには驚かされる。いっやー、ただでは終わらないのが彼女だ。

 パトシア・バーバーは、音楽一家で育った米シカゴ州出身のジャズ・ピアニスト・作曲家でありヴォーカリスト。アイオワ大学では当初クラシック・ピアノを専攻、しかし次第にジャズへの要素が濃くなる。89年に1stアルバム『Split』で30歳代半ばでCDデビューを果たすと、94年の3rdアルバム『Cafe Blue』(BN 90760)で一気に日本でも知られるところとなる。注目点は20世紀時代の米国音楽芸術に対して、なんと私も注目のロックの要素も大胆に取り入れた。それらは彼女独自のむしろクールと言われる感覚の一つの姿であり、そんなジャズを超えた作品を多く発表している。2002年に通算7枚目となるスタジオ・アルバム『VERSE』(KOC-CD-5736)やその後『Smash』(Concord Music/2013)などをリリース。又2017年に『Modern cool』(Blu-ray Audio/2013)をサラウンド・サウンドで再発している。
 いずれにしても、米国ジャズ界での一つの世界を築いてきており、私にとっても貴重なミュージシャンだ。

83775193pb2bw (参考) <Patricia Barber  : Discography>
1. Split : Premonition Records (1989)
2. Distortion of Love : Antilles (1992)
3. Cafe Blue (Two versions) : Blue Note Premo. Records (1994)
4. Modern Cool (Three versions) : Blue Note, Premo. Records (1998)
5. Companion : Blue Note, Premonition Records (1999)
6. Nightclub : Blue Note, Premonition Records (2000)
7. Verse : Blue Note, Premonition Records (2002)
8. Live: A Fortnight In France : Blue Note (2004)
9. Live: France 2004 :DVD Blue Note (2005)
10. Mythologies (Two versions) : Blue Note (2006)
11. The Premonition Years : 1994-2002 Blue Note (2007)
12. The Cole Porter Mix : Blue Note (2008)
13. Smash : Concord Records (2013)
14. MONDAY NUGHT (Live at the Green Mill) : not an Label (2016)
15. Higher : ArtistShare  (2019)

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★★☆    90/100
□ 録音      ★★★★☆    80/100  

(試聴)

 

 

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2020年2月13日 (木)

ウォルター・ラング Walter Lang Trio 「PURE」

ラング渾身のピアノ演奏で真摯な美世界を構築

<Jazz>

Walter Lang Trio 「PURE」
Atelier Sawabo / JPN / AS167 / 2019

Coverpurewlte1575787369594

Walter Lang (piano)
Thomas Markusson (bass)
Magnus Öström (drums)

  ウォルター・ラング・トリオのニュー・アルバムが澤野工房よりリリースされた(前作『Translucent Red』(AS164/2018)に続いて)。彼は1961年生れのドイツのピアニストだ。これまでにも何枚かのアルバムに聴き寄せられてきたのだが、このアルバムはその魅力の姿をたっぷりと擁して登場した。
  トリオ・メンバーを見ると、Magnus Öströmの名前が見られる。彼はあのE.S.Tでのドラマーとして知ったのだが、最近はBugge Wesseltoftのトリオでも活躍中で、ここではWalter Langと共演していて今や人気者のようだ。
 このアルバム・タイトルの「PURE」は音楽的には"Pure Tone"のことか、はたまた描く世界が"高潔"、"純粋"という意味に使っているのかと思いを馳せるのだが、このアルバムの内容がそんなところに焦点をおいているのかと、収録11曲中8曲が彼のオリジナルとくるからちょっと震えますね。彼には美旋律派とアヴァンギャルド派の二面があって、このアルバムは日本人好みの美旋律派に属するタイプ。

1200pxwalter_lang_pianist_20200215213401 (Tracklist)

01. Branduardi *
02. Always and Forever
03. Little Brother *
04. Meditation in F min *
05. 2 You *
06. Sad Song *
07. You Must Believe in Spring
08. Half Moon Bay *
09. Phases *
10. Who Can I Turn To
11. Meditation in Bb min *

*印 music by Walter Lang jun

  オープニングM1."Branduardi " を聴いて、ええ、これが"PURE"と若干疑いを持つが、Pat Methenyの曲M2." Always and Forever"に入ると、ベースがもの哀しく旋律を演じ、それに続いて美しくも哀しいピアノのメロディーが流れ、ドムスはブラシングで静かにサポート、ウーンこれぞウォルター・ラングと納得し、このアルバムへの期待がぐっと高まる。
 そして彼の曲M3."Little Brother"も、その流れの中で低音のピアノ、高音のベースと繋いで物思いの世界に導き、後半は今度はベースが低音、ピアノが美しい高音の響きで、なんとなく"PURE"な世界に。
 更にM4."Meditation in F min"も、真摯な感情でやや暗めに沈んだ思索的世界に導きながら、落ち着いた美しいピアノの旋律が優しく心を洗う。
 M5."2 You "はM2.3.4.と打って変わって弾む心が演じられる。この軽さは最近彼のアルバムによく顔を出すパターン。
 続くM6."Sad Song"は、一転して美しいピアノの調べにどこか物寂しさが襲ってくる曲。
   そしてM7.M8.は、やはりスローな展開の曲だが、これといった特徴はない。
 M9."Phases"は、なんか不思議な世界に誘われる。ここでもベースが旋律を奏で良い役割を果たしている。
 最後のM11."Meditation in Bb min"は、静かに流れる中に安堵と展望のあるピアノの美しさで包み静かに終わる。

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 これは久々にウォルター・ラングの「心」の曲を聴いた思いである。8曲に及ぶオリジナル曲を駆使して、人間の深層の美しさを信じての世界に相違ない。まさに清水が流れるが如くの美しさである。テクニカルに凄いという世界では無いのだが、"Meditation 瞑想"の付けられた2曲が私にとっては特に印象に残る曲であり、万人に心を打つとして受け入れられるアルバム作りも、それはそれ評価に値すると思うところである。

(評価)
□ 曲・演奏      ★★★★★☆  90/100
□ 録音    ★★★★☆  85/100

(視聴)

 

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2020年2月 9日 (日)

マルテ・ロイエング Marte Røyeng「REACH」

ジャンルを問わない自己のミュージック世界を築きつつ・・・
欧州の難民問題に端を発して・・・過去の夢より前進をと

<Folk, Pops, Jazz>

Marte Røyeng「REACH」
Oslo Session Recordings / Import / OSR005 / 2019

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マルテ・ロイエング(ヴォーカル、マンドリン、アコースティックギター、エレクトリックギター、ハイストラングギター
マリウス・グランベルグ・レクスタ(ピアノ、ハルモニウム、シンセサイザー、ハモンドオルガン、クラヴィネット、フェンダーローズ
ベンディク・ベルゲスティーグ(エレクトリックギター、ラップスティール、バッキングヴォーカル
イーヴァル・ミュルシェット・アスハイム(ドラム、パーカッション、バッキングヴォーカル
エヴェン・オルメスタ(ベース
サンデル・エーリクセン・ノルダール(ベース、アコースティックギター、バリトンギター、ハイストラングギター、バッキングヴォーカル
イェンニ・ベルゲル・ミューレ(バスクラリネット、クラリネット、バッキングヴォーカル
オーサ・レー(ヴァイオリン
マグヌス・マーフィ・ヨーエルソン(トロンボーン
イングリ・フロースラン・レクスタ(バッキングヴォーカル

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 ノルウェーの女性シンガーソングライターのマルテ・ロイエングMarte Røyeng(1990-)のデビュー・アルバム (「Oslo Session Recordings」レーベルの第5作)。
 アルバム・タイトルが「REACH」、これは"つかもうと手を伸ばす"という意味から「高みにむかって」と言う思いを込めたもののようだ。そしてその内容は、全て彼女のオリジナル曲で占められている。それは彼女自身の音楽であり、どうもジャンルを定めがたい。つまりフォーク、ポップミュージック、ブルース、ジャズ、クラシカルと、さまざまな音楽の要素をはらんだ世界である。いずれにしても今年30歳の彼女だが、音楽というものの幅を広げ深みを持つため、現在ノルウェー国立音楽大学の作曲プログラムで現代音楽の技法を学んでいるらしい。
 そしてこのアルバムの訴えるところは・・・・ノルウェーの社会現象に自ら立ち向かって、前進をと。

Mraw (Tracklist)

1 Hold(Marte Røyeng) 
2 Pull of the Moon(Marte Røyeng)
3 My Eyes Betray Me(Marte Røyeng) 
4 Ring in the Deep(Marte Røyeng)
5 Wherever You Are(Marte Røyeng) 
6 Loser’s Game(Marte Røyeng)
7 Any Feeling(Marte Røyeng) 
8 Find a Hill(Marte Røyeng/Siril Malmedal Hauge)
9 Making It Up(Marte Røyeng) 
10 Shake Yourself Awake(Marte Røyeng)

 

  さて一連の収録曲を聴くと、シンプルなバックに彼女の歌声が前面に出た録音タイプのアルバム作りである。そしてその歌声は比較的装飾の無いシンプルな歌い方の中にソフトなやや一部あどけなさのあるもので聴きやすいところだ。
 そしてどうもこの声とは裏腹に、このアルバムの「高みに向かって」の"心"は決して困難なものを後退的な発想で無く、それを乗り越えてゆきたいという若さの持つ前進的なメッセージでもあるのだ。従って明るいという世界では無く、どことなく暗さも背負っている中の展望を掴もうとするところが感じられる。しかもそのテーマは個人的な恋愛問題的世界で無く、社会の暗部に目を向けているようにも見える。

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 それは最後の曲M10."Shake Yourself Awake"からの推測できるもので、彼女は最近オスロのアパートで、ギタリストのベンディク・ベルゲスティグと一緒に演奏する歌のライブセッションビデオを投稿していて、そこからこの歌は、難民の視点から書かれたものであり、外国の海岸に到着し、前世の幽霊Ghostだけを連れて道路に連らなって歩んで行くボート難民。その歩む姿にその立場になって・・・彼女の思うところがここに秘められているようだ。そこにはその世界、その問題を抱えても、前進を続ける衝動は、過去の夢に後退する誘惑よりも強いと・・・・。 やや陰鬱で詩的な歌詞というのはそのような社会現象に心を向けているところにあるらしい。

・・・・私は海岸に打ち上げられた/私の夢は私の周りに散らばっていた/外国の土地に私と一緒に運ぶには野生すぎる/だから私は目を覚まします/あなたが従うつもりの夢/いくつかの波が壊れます

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 ノルウェーへの難民は、多くはシリア、アフガニスタン、イラン、イラクなどからだ。 昨年の申請者のうちの3人に1人は、18才以下の未成年。270人の子どもは保護者が同伴していない状態でノルウェーに来たという。(過去で 解っていることは2016年には2万370人の難民申請者のうち、1万2451人が難民としての申請を受理された。結果として、およそ6割の申請者が難民としての滞在を許可されたという状況らしい)
  欧州は今や難民受け入れが社会問題だ。受け入れに寛容であったスウェーデンでは、国民の1/4が外国人という国に変わってしまっている。そして北欧ではこれらの諸問題を抱えての世界各地と同様にポピュリズム政治が台頭し、今や難民受け入れに抵抗が始まっている。ノルウェーでは進歩党が政権を握って難民制限の方向にあるのだ。

 このマルテ・ロイエングのアルバムも、そうした社会の現実に遭遇し、積極的に過去で無く前向きで向き合うことに意欲を示している姿と見れる。一聴に値するものとして受け入れたい。

 

(評価)
□ 曲・歌・演奏  ★★★★☆  80/100
□ 録音      ★★★★☆  80/100

 

(視聴)

Marte Røyeng/Shake Yourself Awake

 

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2020年2月 5日 (水)

WOAのウィズイン・テンプテーションWithin Temptation 「W : O : A 2019」

大観衆との一体感はさすがである

<Symphonic Metal>

Within Temptation 「W : O : A 2019」
Bootleg DVD / Hauptstrasse, Wachen, Germany 2019.08.02

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シャロン・デン・アデル (Sharon den Adel) - ボーカル (1996- ) 
ローベルト・ヴェスターホルト (Robert Westerholt) - ギター(1996- 現在制作担当) 
ルード・ヨリー (Ruud Jolie) - ギター (2001- )
ステファン・ヘレブラット (Stefan Helleblad) - リズムギター (2011- )
イェローン・ファン・フェーン (Jeroen van Veen) - ベース (1996- )
マルテン・スピーレンブルフ (Martijn Spierenburg) - キーボード (2001- )
マイク・コーレン (Mike Coolen) - ドラムス (2011- )

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  フィンランドのナイトウッシュのオフィシャル・ライブ映像盤『DECADES』を前回取り上げたので、ここでオランダのウィズイン・テンプテーションを取り上げておこう。いずれにしてもシンフォニック・メタルと言うところでは、この二バンドは今や世界の両雄としてとして君臨しているからである。
 この映像盤は、ブートレグではあるがプロショットもので、その映像はオフィシャル以上の素晴らしさで圧巻。
 ドイツ北部のヴァッケンで1990年から始まって、1998年には世界的メタル・フェスティバルの大イベントに成長したメタルの暑い夏の祭典。そして昨年の「WAKEN OPEN AIR 2019」のステージを録画した最も近くの映像だ。

Img_2085trw (収録曲)

01.Raise Your Banner
02.The Reckoning
03.Stand My Ground
04.In The Middle Of The Night
05.The Heart Of Everything
06.Ice Queen
07.Faster
08.Supernova
09.Paradise (What About Us?)
10.What Have You Done
11.Mad World
12.Mother Earth

 この日は運悪く雷雨トラブルにあった様だが、まさに数万人という大観衆のHARDER STAGEにウィズイン・テンプテーションWITHIN TEMPTATIONが登場。序盤は2018年に5年ぶりにリリースのアルバム『RESIST』から"Raise Your Banner"、"The Reckoning"をプレイ。曲がシャロンの低音のヴォーカルから始まりやや静かな印象のスタートだが、次第に盛り上がってゆくのはさすが人気バンド。
  3曲目にはあの大ヒット曲"Stand My Ground"が登場で、一気にオーディエンスをして虜にしてしまう。
 アルバム『Hydra』(2014)の大成功後は、噂では"燃え尽き症候群"のような状態に陥り、シャロンはソロ・プロジェクトを始動させたりで、このバンドの行く末に不安がよぎったのだった。しかし2018年5年ぶりのアルバム『RESIST』が登場し、ファンをホットさせたのだった。
 そしてこの2019年のメタル・フェスティバルに登場してのパフォーマンスに聴衆は酔うと言うことになった状況なのだ。

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 このステージで見る限り、シャロン嬢もいまや"お母さん"というイメージになってきたとはいえ、このシンフォニック・メタルの中心としてのヴォーカルは相変わらず聴衆を引きつけての演技は立派というところ。
 M5."The Heart Of Everything" は会場に響き渡る展開はシンフォニックな演奏で包み込む。
 M6."Ice Queen" のアコースティック・ギターをバックのこのライブ唯一のシャロンのバラード・ヴォーカルも聴かせどころでしっとりとしていい。
 M7."Faster " ルードとステファンのツインギターも映像を見る限り健在だ。 
   M9."Paradise" 元ナイトウィッシュのターヤとの共演で話題になった曲も登場。
   アンコールのM10."What Have You Done "は、シャロンの実力のみせどころ、なになに歳を感じさせない健在ぶりだ。
 M12."Mother Earth" の荘厳な夕陽に映える会場での一体感はお見事。

 しかし、便利な世の中になりましたね。ついこの間のドイツにおけるライブもプロショットでこうしてじっくり見れると言うことですから。そんな中で、彼らも20年の経過を重ねると紆余曲折もはらむと思うが、こうしてバンドとして健在であった事が何よりも目出度いのである。

<参考 : Within Temptation 過去のスタジオ・アルバム>
①Enter (1997年)
②Mother Earth (2000年)
③The Silent Force  (2004年)
④The Heart Of Everything (2007年)
⑤The Unforgiving (2011年)
⑥Hydra (2014年)
⑦Resist(2019年)

(評価)
□ 曲・演奏  ★★★★★☆  90/100
□ 画像・音質 ★★★★☆  85/100

(視聴)

(この"2019WOA-Liveのプロショットもの"は、まだ見つからないので・・・参考に↓)
Within Temptation Ft.Tarja PARADISE Live at Helfest Festival 2016

 

 

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2020年2月 1日 (土)

ナイトウィッシュNightwish 「DECADES Live in Buenos Aires」

オフィシャル・ライブ映像盤~~彼らはやっぱり映像がいい
オペラティック・メタル、シンフォニック・メタルの華

<Symphonic Metal>

Nightwish 「DECADES Live in Buenos Aires」
Ward Records / JPN / Blu-ray / GQXS-90414 / 2020

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Tiomas Holopainen : Keys.
Floor Jansen: Vocals.
Marco Hietala: Bass,Vocals
Troy Donockley : Uilleannpipes, Low whistles, Vocals.
Emppu Vuorinen: Guitar
Kai Hahto: Drums

 世界的に人気のフィンランドのシンフォニックメタル・バンドのナイトウィッシュ、そのライブ映像盤。彼らは今や、オランダのウィズイン・テンプテーションと両横綱的存在といってよい。
 ナイトウイッシュの最新スタジオ・アルバムは2015年『Endless Forms Most Beautiful』で、既に四年以上経過しているが、その間、2017年には『VEHICLE OF SPIRIT』(Nuclear Blast / USA / NBA 3850-7) のライブ映像盤のリリースがあり、そして2018年にベスト・アルバム『Decades(Best of 1996-2016)』(HMHR180302-305)がリリースされ、その記念ワールド・ツアーが全82公演にも及んだ。その中のブエノスアイレス公演を完全収録したものである。

Nw2

Nw1  収録曲は右のように全21曲で、初期のヒット曲に加え近作『Endless Forms Most Beautiful』の収録曲という構成である。2018年9月30日のブエノスアイレスの“エスタディオ・マルヴィナス・アルヘンティナス"で、収録技術陣も大がかりでのステージを収録したもの。八千人と言われる熱気ある大観衆とのやりとりがしっかり捉えられており、サウンド面もDTSサラウンドで臨場感は十分。この手はやっぱりスクリーンに投影して、サラウンドの大音響で聴くのが一番だろうね 。(笑い)

 とにかく、ターヤ、アネッテ、そしてあアフター・フォーエバーのフロール・ヤンセンのサポート(2012年)から正式加入と歌姫三代目のナイトウィッシュだ。しかし意外に良かったのは、英国のイリアンパイプ奏者のトロイ・ドノックリーを加入させたことでしょうね。彼は私はケルティック・フォーク・ロックの「Iona」での演奏がお気に入りだったんだが、ナイトウィッシュに招かれ、そして加入、これによってこのバンドの演奏は一層シンフォニックの味も厚みがつき、又ケルト的ムードの神秘性を秘めるようになり、ツォーマスの世界との安定した重複によって充実したというところだ。

 3曲目の"With I had an Angel" あたりから、会場もそして演ずる彼らも元気が出て、続く4曲目の"10th Man Down"が、得意の物語調に曲を進めて、展開がメリハリ、締まりの良い曲に仕上げた結果、非常に盛り上がる。
 6曲目"Gethsemane"のシンフォニック・メタルそのものもインパクトあり。
 9、10曲目はヤンセンの美的ヴォーカルが聴きどころ。特に10曲目"Dead Boy's Poem"は、しっとり聴かせ、情緒たっぷりだ。そして後半メタルに転調しての曲の変化の流れがリーダーのツォーマスの手法の上手いところだ。
Nw3  11曲目"Elvenjig"は彼らの演奏の見せどころ、ドノックリーのパイプが効果的で、なかなか神秘的で良い。
 13曲目"I Want My Tears Back"のヒット曲はリズムカルで楽しく、会場全体も跳ねての一体感に包まれる。
 14曲目"Amaranth"は当然盛り上がり、15曲目のトノックリーのヴォーカルがなかなかのもの。歌姫は横に置いておいて、アルバムの一曲ぐらいは、彼と歌の旨いマルコで歌わせるのも良いのでは。
 16曲目"The Kinslayer" この曲を聴くと初代ターヤを思い出しますね。ここに来て彼女も映像盤リリースしますが、やっぱりナイトウィッシュ時代のような圧倒するものは残念ながら少し弱い、つまり曲や演奏もいかに大きいかですね、ツォーマス偉大なり。
 18曲目"Nemo"も登場してサービス満点。

 とにかく、彼らのステージは楽しい。迫力と美しさと懐かしさと神秘的なところも盛り込んで、良いステージだ。まあ楽しむ意味においても、このようなBlu-rayでのステージ映像盤は大歓迎である。
 近々9作目のスタジオ・ニュー・アルバムがリリースされることになっていて、それに伴ってツアーも企画されている。ロックも岐路に立っていて世界的に低調の中、フィンランドのからゴシック・メタル系で出発した彼らが、オペラティック・メタルそしてシンメトリック・メタルという形を作りつつ、そろそろ20年の経過を音楽的充実をしながら世界規模に展開しているのは楽しい限りである。
 

Nw4 (参考) ナイトウイツシユ過去のスタジオ・アルバム

①エンジェルズ・フォール・ファースト Angels Fall First (1997年)
②オーシャンボーン Oceanborn (1998年)
③ウィッシュマスター Wishmaster (2000年)
④センチュリー・チャイルド Century Child (2002年)
⑤ワンス Once (2004年)
⑥ダーク・パッション・プレイ Dark Passion Play (2007年)
⑦イマジナエラム Imaginaerum (2011年)
⑧エンドレス・フォームズ・モスト・ビューティフル Endless Forms Most Beautiful (2015年)

(評価)
□ 曲・演奏・歌  ★★★★★☆  95/100
□ 映像・録音   ★★★★★☆  90/100

(視聴)

 

*
"The Kinslayer" Live in Benos Aires 2018 by Floor Jansen

 

*
(参考) "The Kinslayer" Live Heartwall Areana 2006 by Taja Turunen

 

 

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