2025年5月12日 (月)

ビル・エヴァンス BILL EVANS 「FURTHER AHEAD - Live in Fland 1964-1969」

またしてもゼヴ・フェルドマンの発掘モノの公式リリース

<Jazz>

BILL EVANS 「FURTHER AHEAD - Live in Fland 1964-1969」
Universal Music /JPN / UCCJ-3054/5 / 2025

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◇Bill Evans(p), Chuck Israels(b), Larry Bunker (ds) 1964
◇Bill Evans(p), Niels-Henning Ørsted Pedersen(b), Alan Dawson(ds)
 Lee Konitz(as on B3) 1965
◇Bill Evans(p), Eddie Gomez(b), Marty Morell (ds) 1969

1200x680_nsbill_evansw  ジャズピアニストの巨匠ビル・エヴァンス(William John Evans、1929年8月16日 - 1980年9月15日 →)による未発表の演奏を集めた新作『Live in Finland (1964-1969)』が、2021年にResonanceから発掘事業が引き継がれたElemental Musicから180gの限定2枚組LP、そして2CD(直輸入盤仕様)として発売された。このところ毎年の行事のように未発表音源の公式リリースでファンを喜ばせているわけだが、歴史的な貴重なレコーディングを集めたりしてCDとして発売するレーベル Resonance のプロデューサー のゼヴ・フェルドマンがビル・エヴァンス・エステートの協力を得てプロデュースしたものである。

 この『Further Ahead』は、60年代のエバンスの"スカンジナビア・ツアー"中に録音された曲群だ。「1964年のヘルシンキ公演」(ベーシストのチャック・イスラエルスとドラマーのラリー・バンカーを含むトリオと共演)、「1965年のヘルシンキ公演」(ベーシストのニールス・ヘニング・オーステッド・ペダーセンとドラマーのアラン・ドーソンがサポート、スペシャル・ゲストのリー・コニッツ(as)をゲストに迎えた)、そして「1969年のタンペレ公演」(ベーシストのエディ・ゴメスとドラマーのマーティ・モレルとの最も長く活動しているトリオ)で、フィンランドで行われた3種のライヴ音源をコンパイルされていて彼の力の絶頂期を聴くことがことができる。
 そしてアルバム・ブックレットには、エヴァンス研究家として評価の高いマーク・マイヤーズによるライナーノーツと、長年のトリオ・メイトであったベーシストのエディ・ゴメス(下左)、ドラマーのマーティ・モレル(下右)らによるインタビューやコメントをも収録して充実。

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(Track List)

Track List
Disc 1
01. HOW MY HEART SINGS   04:29
02. COME RAIN OR COME SHINE  04:55
03. NARDIS     05:31
04. AUTUMN LEAVES    05:13    
05. FIVE                      02:43
06. DE TOUR AHEAD     05:53
07. COME RAIN OR COME SHINE 05:32
08. MY MELANCHOLY BABY          08:20

Disc 2
01. VERY EARLY                 05:26
02. WHO CAN I TURN TO?  05:52
03. 'ROUND MIDNIGHT       07:08
04. GLORIA'S STEP             05:20
05. TURN OUT THE STARS   05:09
06. AUTUMN LEAVES           05:40
07. QUIET NOW                  05:56
08. EMILY                           05:54
09. NARDIS                       10:34

(CD1:1-5)
BILL EVANS piano, CHUCK ISRAELS bass, LARRY BUNKER drums.
Recorded live in Helsinki, Finland, August 13, 1964.
(CD1: 6-8)
BILL EVANS piano, NIELS-HENNING ØRSTED PEDERSEN bass, ALAN DAWSON drums, LEE KONITZ alto sax (on B3 only).
Helsinki Jazz Festival, Helsinki, Finland, November 1, 1965.
(CD2)
BILL EVANS piano, EDDIE GOMEZ bass, MARTY MORELL drums.
University of Tampere, Tampere, Finland, October 28, 1969.

Produced for Release by ZEV FELDMAN.
Executive Producers: JORDI SOLEY and CARLOS AGUSTIN CALEMBERT.
Associate Producers: MARTIN ARIAS GOLDESTEIN and ZAK SHELBY-SZYSZKO.
Originally produced and recorded by the Finnish Broadcasting Company YLE.

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 上のリストにあるように、なかなか演じている曲は魅力的で、良き掘り出し物感がある。
 ライブ記録ものであり、まず「1964年ヘルシンキ」は、スタートと同時に拍手音を聞くが、それが雑音ぽい響きで、いやはやこの音だと今回のアルバムはサウンド的にはかなり難があろうことを予測させる。案の定1964年のM01"HOW MY HEART SINGS"  如何にもダイナミック・レンジの狭い音でちょっとがっかり、今までにリリースされてきた発掘シリーズの中では音は貧弱な方だ。まあこの曲3者の音の分離は良くて歴史的音源を知るという意味での価値は十分、ただ愛聴盤という音でない。高音を伸ばし音質改善にはそれなりに苦労があったのだろうと推測はするがあくまでもその程度だ。
 私的にはM04."AUTUMN LEAVES "M05."FIVE "は、かなりの速攻型であるが、バンカーの手さばきの良さと共に、エヴァンスのピアノは意外に叙情型でうなずきながら聴いた次第である。続いて「1965年もの」に入るが、M06." DE TOUR AHEAD"の若きペデルセンの意外にぐっと落ち着いたベース音に、ピアノの流れもバラード調になっての演奏がお気に入りだが、 M08."MY MELANCHOLY BABY "のサックス音、ドラムス・ソロを聴いてみても、やや録音の質は、音にこちらの1965年の方が幅が出ている
 又" AUTUMN LEAVES "も2つ聴けるが、1964年より1969年の方は、トリオ結成1年経過があってのもの、どこか更に手慣れた演奏を感ずる。
 いずれにしても3つのコンサート、3つのトリオが聴けて、この5年間の進化がエヴァンス流のトリオの考え方にそってにじみ出て聴けるところが意味あるところだ。
 「1969年のタンペレでのコンサート」は、エディ・ゴメスとマーティ・モレルの最も長く続いたエヴァンスのトリオらしく、エヴァンスの創造性が生きている。ゴメスは、直感的にエヴァンスの鼓動に共鳴する様は手慣れているし、M02."WHO CAN I TURN TO?"のように、本人の演奏の楽しみが伝わってくるのが良い。モレルのドラミングは歯切れがよくスリリングで、特にアップテンポの推進力は見事。ここでは聴き応えのあるのはM09."Nardis"で、エヴァンスの叙情的なイントロから始まり、それを引き継いでのゴメスの流れも実に呼応していて本来のメロディーに入っていくところが感動だ。モレルのドラミングはダイレクトにアクティブなソロで迫りながら、エヴァンスが演じやすい世界に橋渡しを提供している感があってそんな良好な繋がりが聴き取れる。とにかく落ち着いた安定感の中の秘めた創造的な意欲性が良いですね、さすがです。

 60年代のエヴァンスものは、公式リリースでないブートでもいろいろと過去に沢山出てくるのだが、録音などいまいちであって、いろいろと難があるのが残念である。そうした中でもフェルドマンの発掘努力と音質などの改善努力をしてのこうしたリリースは過去においても評価のあるところだが、今回も音質にはいまいちの処もあるものの当時のものとしてはやむを得ないところとして、楽しませてもらった意味で歓迎すべき代物であった。

(評価)
□ 演奏   88/100
□ 録音   75/100

(試聴)

"Nardis" 1969

 

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2025年5月 7日 (水)

「ピンク・フロイド伝説-LIVE AT POMPEII」 5回目のお披露目 Pink Floyd「AT POMPEII ‐ MCMLXXII」

究極の最終形は・・・期待に耐えうるか

<Progressive Rock>

PINK FLOYD AT POMPEII-MCMLXXII
(BLue-Ray)  Sony Music / Jpn / SIXP-51 / 2025

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Music : Pink floyd
Recorded in the Roman Amphitheatre at Pompeii, 4-7 Oct. 1971

 1971年10月、イタリアのポンペイ遺跡で収録されたピンク・フロイド伝説のライヴ・パフォーマンスの映像版は、1972年9月2日に英国映画祭で初公開されたもので、プログレッシブ・ロック・バンドとして日本に定着することとなる大きな切っ掛けとなったものだ。それはどうした経過かは今となっては解らないが、1973年3月17日にNHK総合テレビ「ヤング・ミュージック・ショー」で放映されたことによる。日本では英国ロックとしてビートルズは知られていたが、一つの重大分野でもあった所謂プログレ御三家のピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエスといったところまでは、今の時代のような情報はなかなか浸透するまでには時間がかかった。このNHKの映像には日本のロック・ファンへの大きな刺激をもたらした。こんなロックがあるのかという若きものにとっての関心は大きかった。それでもこの時は既にピンク・フロイドは過去に7枚のアルバムをリリースしていて(1970年アルバム『ATOM HEART MOTHER原子心母』で日本でもプログレッシブ・ロック・バンドとして定着していた)、私にとっては、1968年の『神秘』以来、リアル・タイムに聴いてきたバンドであるが、なんと現在でもロック界最高のセールスを示したアルバムであり彼らの頂点であった『The Dark Side of The Moon 狂気』の8枚目がリリースされる年であったのだ。それまで日本でピンク・フロイドは知る人ぞ知るバンドにはなってはいたが、それは少なくとも来日した「箱根アフロディーテ」(このポンペイの録画の2ヶ月前)のライブが大きかったと言える経過であった。

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 いずれにしても、ある程度の年月が経つと必ずもち上がって来るのがこのポンペイ・ライブものだ。ライブものとはいっても観衆なしのポンペイ遺跡の“世界遺産”古代ローマ「円形闘技場」でのピンク・フロイドの無観客ライヴ・パフォーマンスものである。
 そしてこの映像版は勿論現在も世界的にも"人気ロック・ライブもの"として君臨している。そして又今年2025年に新盤の登場となったもので、少なくとも最初からは主に5回の手が加えられて、40年以上の経過を経てきたモノで、それは以下のような経過である。
   ① 1972年   60分もの Edinburgh Film Festival(映画祭)の公開映像版「Live at Pompeii」
   ② 1974年 80分もの 劇場公開版「Live at Pompeii」(+studio映像)
         1976年 初めてのパッケージ化 (ベーターマックス版「ピンク・フロイドの幻想」)
       1981年 広く一般パッケージ化 (Leser Disc版, VHS版)
   ③ 2003年   ニューバージョン化「Live at POMPEII - The Director's Cut」
   ④ 2016年 「The Early Years 1965-1972」収録「Live at Pompeii」5.1ch化
   ⑤ 2025年 「PINK FLOYD AT POMPEII MCMLXXII」( 2025リミックス)

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 ①は、モノラル録音盤であったが、②はアルバム『狂気』録音中のアビー・ロード・スタジオで撮影されたフッテージを追加して80分に拡大され劇場公開された。しかしなんと、前に触れたように、その前の年の1973年にNHK総合テレビで放映され、これは世界でも最も早い一般公開であり、それはこの最初の60分ものであったが、私にとってはなかなかそれまでは彼らの姿をじっくり見るという状況にもなく手段もなかったわけで、モノクロで興奮して見たのが懐かしい。彼らのヴェスヴィオ火山を四人で歩く姿が又印象的であった。そしてその後、誰もが自分の意思で見れるようになったのが1976年のビデオ・テープのベータマックス版、1980年代になって、VHS版とレーザーディスク版として市販されたことによる。そのLD版は今も持っている代物であり、私は①②もDVDに記録されたモノを持っていて、今も比較鑑賞できる。
 そして③2003年には、新盤として「Live at POMPEII - The Director's Cut」が発売された。これは更に手が加えられスタートのイントロ映像には人工衛星の打ち上げシーンなどが加えられ、又CGなどや火山爆発の被害映像などが加えられワイドスクリーン化してのモノだった。
 そして更に2016年には、ピンク・フロイドの箱物の記念版の「The Early Years 1965-1972」が発売され、そこに収録された「Live at Pompeii」のサウンドは、ジェイムズ・ガズリーによる5.1ch化が行われたものであった。私は取り敢えずここまででフロイドのポンペイものは完璧と思っていたのである。
 こうしてこのように一定の年が経過すると何度も何度も手が加えられ、このポンペイ・ライブの映像・サウンドモノはリリースされてきたところであるが、ここに来て何と主として五回目の改良版「POMPEI」が発売されたわけである。

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 今回の目玉は、まず基本は「MCMLXXII」というタイトルにあるように、これは「1972」という意味で、これはこの映像の初公開の年を示したもので、原点回帰したものだと言う事である。それは近年最も普及した2003年の「The Director's Cut」版は、いろいろと手を入れすぎた感があって、演奏映像の途中に別のイメージ映像が入ったりで、かえって手が込んだ割にはファンは納得しなかったところも多々あった。つまりオリジナルのライブそのものの映像に魅力に期待が大きいということであって、従って、今回は当初のオリジナルに戻って画像の4K化による改善を施し、サウンドはキング・クリムゾンもののサウンド・エンジニアで知られており、自らもロック・ミュージシャンとして活躍もするスティーヴン・ウィルソンの手によるリミックス(Dolby Atmos、5.1 Dolby TrueHD Surround [96k/24b]化)された"究極の「POMPEI」モノ"としてリリースされたのである。内容は以下の通りである。

2cdbd_packshotw ■2CD+BD収録曲
<CD1>
1.ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2.エコーズ (Part 1) Echoes - Part 1
3.ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
4.神秘 A Saucerful of Secrets
5.吹けよ風、呼べよ嵐 One of These Days
6.太陽賛歌 Set the Controls for the Heart of the Sun
7.マドモアゼル・ノブス Mademoiselle Nobs
8.エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

<CD2>
1.ユージン、斧に気をつけろ Careful With that Axe, Eugene - Alternate Take
2.神秘 A Saucerful of Secrets - Unedited

<Blu-ray>
Feature Film
1. ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2. エコーズ (Part 1) Echoes Part 1
3. 走り回って On The Run (studio footage)
4. ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
5. 神秘 A Saucerful Of Secrets
6. アス・アンド・ゼム Us and Them (studio footage)
7. 吹けよ風、呼べよ嵐 One Of These Days
8. マドモアゼル・ノブス Mademoiselle Nobs
9. 狂人は心に Brain Damage (studio footage)
10. 太陽賛歌 Set The Controls For The Heart Of The Sun
11. エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

Concert
1.ポンペイ・イントロ Pompeii Intro
2.エコーズ (Part 1) Echoes - Part 1
3.ユージン、斧に気をつけろ Careful With That Axe, Eugene
4.神秘 A Saucerful of Secrets
5.吹けよ風、呼べよ嵐 One of These Days
6.太陽賛歌 Set the Controls for the Heart of the Sun
7.エコーズ (Part 2) Echoes Part 2

Audio Specs:
2.0 Uncompressed LPCM Stereo [96k/24b]
5.1 Dolby TrueHD Surround [96k/24b]
Dolby Atmos [feature only]
Feature film run time: 1:24:58
Concert run time: 1:02:45

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 確かに無観客のライブものというのは、極めて当時のロック・ライブ映像としては珍しいモノだ。私は今は見慣れてしまって不思議に思わないのだが、初めて見たときは非常に異様に感じたものである。当初は撮影監督のエイドリアン・メイペンは、ピンク・フロイド・ミュージックの特異性から、絵画作品とピンク・フロイドの姿を融合することを考えたようであるが、ポンペイ遺跡を知ってこの情景との融合に思いを馳せたようだ。ロックというのは大観衆と共に盛り上がるものであるのが一般通念で、それを逆に無観衆という世界は、一般通念と異なるところに意味があり、このバンドの性格との一致性の試みは見事に成功した作品である。

 ピンク・フロイドが世界的にプログレッシブ・ロックとして浸透したのは1970年のアルバム『ATOM HEART MOTHER 原子心母』からであり、これは彼らがむしろ収拾の付かない曲としてあきらめていたものであり、更に又彼らは分裂の危機にもあった為、リーダーであったロジャー・ウォーターズが友人の実験音楽家のロン・ギーシン(その時、ウォーターズの力を借りてアルバム『Music from"THE BODY"』をリリースしている)に預けて、ギーシンがチェロ奏者、10人の管楽器奏者、20人の合唱団を起用してロック交響楽組曲を造り上げたもので、圧倒的支持を得た。更にこのアルバムでは、ギルモアのギターが曲"Fat old sun"で開花し、ウォーターズは、曲"If"で彼の"不安"を初めてオープンにして、以降のピンク・フロイドの方向性をスタートさせたモノだ。これからピンク・フロイドの一つの道が開け、このポンペイ・ライブは1971年のアルバム『Meddle おせっかい』の製作に関わった世界であり、「Careful With That Axe, Eugene」というシド・バレットと決別後の常連・歴史的曲から「エコーズ」「神秘」「吹けよ風、呼べよ嵐」といった極めて重要な曲がフィーチャーされ、円形闘技場の昼と夜両方の姿を捉えた神秘性のあるビジュアルは、かれらの日常から超越した演奏が作り出す幻想性をさらに強調している。そんなピンク・フロイドの重要な時期のライブがポンペイなのである。これが次のロジャー・ウォーターズ主導の始まりであった最高作品『The Dark Side of The Moon 狂気』(1973年)に繋がってゆくモノであった。

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   ロックというのは、時代を反映したミュージックでもあり、その時代を考察しないとその意義が十分に理解できない。ピンク・フロイドもこの時代から頂点に立った時代以降は、欧州社会は困惑の様相を示し、英国の経済の破綻はひどく、社会混乱も最悪の情勢を迎える。従つてピンク・フロイドを代表するプログレッシブ・ロックはパンク・ロックの台頭により否定され潰されてゆくのは自然の姿だつた。しかしプログレ界でただ一つ其れをものの見事に克服したのはピンク・フロイドでもあった。社会に目を向けずにロックは存在感はなく1977年アルバム『Animals』によって更なる存在価値を高め支持を拡大した経過(これが解らなかったのは当時の日本の音楽評論家で、"エコーズ"にピンク・フロイドの世界が留まって、発展の意味が解らないレベルだった事を知っておくべき。ロックは最高を続けるのでなく時代に相応して常に発展する宿命にある) が、これから以降のピンク・フロイドの歴史になるのであるが、それを知る意味でも、その前期のこの姿は一つの頂点として今でも貴重であり愛され続けているのである。

 こんな歴史的時期の表現でもあるライブものである「ポンペイ」はピンク・フロイド彼らを知る重要なものであり、人気も高い。したがって今回の最高と言われるサウンドと映像は貴重であるので、新しい発見のあると言うモノではなかったが、これはこれとして大きな意義あるモノとして捉えたわけである。

(評価)
□ 曲・演奏・作品の価値 : 90/100
□ 音質・映像の改善価値 : 90/100

(試聴)

 

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2025年5月 2日 (金)

イェスパー・サムセン 「Jasper Somesen Invites Anton Goudsmit Live!」

ギターとベースのデュオの描くジャズの新しい道が感じられる

<Jazz>

Jasper Somesen Invites Anton Goudsmit Live!
(CD)CHALLENGE RECORDS / Import / CR73592 / 2025

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Jasper Somsen - Double bass
Anton Goudsmit - Guitar

録音:2024年2月22日、Loburg(ヴァーヘニンゲン、オランダ)

 ここでも取上げたエンリコ・ピエラヌンツィとの共演で(Enrico Pieranunzi& Jasper Somsen 『Voyage in Time』Challenge Records /CR73533 / 2022)、私も意識しているようになったオランダの名ベーシスト、イェスパー・サムセン(下左)が、今回はアムステルダムを拠点に活動するギタリスト兼作曲家のアントン・グーズミット(下右)を招待して行ったライヴ・レコーディング・アルバムである。
   このサムセンの主導で作られたアルバム『Voyage in Time』は、クラシックのニュアンスを旨く生かし、ピエラヌンツィのピアノと共に素晴らしいアルバムを造り上げていたので気になっていたのだが、ここにギターとのデュオということで、これまたいかなる世界を構築するのかと興味津々というところである。

 これは2024年2月にヴァーヘニンゲンのライヴ・カフェ&バー「Loburg」で行われたライヴ録音で、美しい音色、スリリングな展開、軽妙な気まぐれと抑制された静けさなどと表現される評価があり、期待を倍増させられた。

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 イェスパー・サムセン(1973-)は、オランダのコントラバス奏者、作曲家、プロデューサー。ジャズとクラシックの両方のコントラバス奏者としての資格がある。ジャズミュージシャンとして彼の関心と専門分野には、クラシック、ポップ、ワールド、映画音楽、演劇作品へのクロスオーバーも含まれていて、国際的なジャズシーンで活躍するミュージシャンたちと共演してきている。そしてChallenge Recordsのアーティストであり、有名なスタジオプロデューサーでもある。又ポルトガルのジャズとファドのボーカリスト、マリア・メンデスと共にオランダのEDISON AWARD 2020(ジャズ/ワールドミュージック)を受賞し、又過去に4回、アメリカングラミー賞とラテングラミー賞の両方にノミネートされた。アルバム、ビデオ、映画音楽のスコアは50以上。 アーネム(オランダ)のArtEZ芸術大学で教育者を務め、故郷のワーヘニンゲン文化都市財団のゼネラル・ディレクターを務めている。

 一方、ギタリストのアントン・グーズミット(1967-)は、自らのオリジナル曲ばかりでなく提示された音楽演奏でも評価が高く、非常に人気のあるプレーヤーである。2001年、NPSラジオから委嘱された彼の作曲シリーズを演奏するために、プロクトーンズPloctonesを結成し、非常に創造的で革新的なグループとして浮上し、グルーヴと即興を組み合わせ演奏する。また、ニュー・クール・コレクティブやエリック・ヴロイマンスのフギムンディ・トリオ(2008年と2010年のアメリカ・ツアー)でも国際的に演奏している。オランダのジャズシーンでの貢献と地位が認められ、2010年に憧れのボーイ・エドガー賞を受賞した。

   

(Tracklist)

1.Blue Anton 17 (A. Goudsmit/T. Monk)
2.Strange Meeting (B. Frisell)
3.Ernesto (A. Goudsmit)
4.Let’s Stay Together (A. Green/ W. Mitchell/A. Jackson)
5.Nuages (D. Reinhardt)
6.Bye-Ya (T. Monk)
7.Desberato (A. Goudsmit)

 アルバム・タイトルからして、これはサムセンの企画でのグーズミット招請によるデュオと思われるが、グーズミットの曲が3曲演じられており、又印象はやはり全体にギターによるリードが目立っていて、それが又インパクトのある攻めの演奏を極めて安定感のある世界にありながらスリリングな印象を与えるという不思議なところにあって極めて印象深い。
 又ベースの音が極めてソフトに心地よいのだが、ギターが鋭さを示す抑揚が見事でクリーンな音で迫ってくる。それもじっくりとした間とメロディーの関係が見事で、深くむ引き込むのが旨い。

 スタートがM1."Blue Anton 17"がブルース・ギターで、その音・ムードでまずは好き者を引っ張り込む。中盤のベースの主導メロディーが優しく演ずるも、ギターが刺激を加えるところが面白い。
 M2."Strange Meeting"でのギターのうねりには驚き。
 M3."Ernesto"は感情の渦巻きを両者の回転性のかかわりによっての表現が面白い。
 M5."Nuages" ここにまで手を伸ばし、宇宙感覚に誘導しこのアルバムの頂点に。
 M6."Bye-Ya"では、かれらの余裕の場と化して遊び心も感じさせる。
 M7.".Desberato "繊細にして、間を生かしての味に痺れる。

 やっぱりベーシストと言うのは、ピアニストとかギタリストを泳がせるのが旨いですね。メロディーを流してリードしているつもりが、なんとなくベーシストの術中にはまっているような展開にも誘導されつつも、次第に本性を発揮させられてしまう。そんな印象でギターが、冒頭のブルース味で聴く者を引っ張り込んで、一般的ジャズ・ギターからロック寄りの音も出して楽しませてくれつつ、モダン・ギター・ジャスの一つの方向も感じさせ、又いつの間にか彼らの術中に聴く我々もはまってしまって、ジャズとベースのデュオの世界の面白さも感じ取れるのだ。

(評価)
□ 曲・編曲・演奏  90/100
□ 録音       88/100

(試聴)

 

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2025年4月27日 (日)

セリア・ネルゴール Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」

両親への感謝の気持ちを込めた感動的豪華さのあるアルバム

<Jazz>

Silje Nergaard 「Tomorrow We'll Figure Out the Rest」
(CD)Masterworks / Import / 19802890702 / 2025

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Produced by SILJE NERGAARD and MIKE HARTUNG

SILJE NERGAARD (vocals) 
HELGE LIEN (piano)
JARLE VESPESTAD (drums)
FINN GUTTORMSEN (bass)
GEORGE (JOJJE) WADENIUS (guitars)
HÅKON KORNSTAD (saxophone)
MARTIN WINSTAD (percussion)
BEATE S. LECH (guest vocals)
KARLA NERGAARD (backing vocals)
MIKE HARTUNG (backing vocals)

STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA VINCE MENDOZA conductor & arranger

Recorded and mixed by MIKE HARTUNG at PROPELLER MUSIC DIVISION Oslo 2022-2024
Mastered by MORGAN NICOLAYSEN at PROPELLER MASTERING Oslo nov 2024
STAVANGER SYMPHONY ORCHESTRA recorded at STAVANGER KONSERTHUS May 2024
Conducted by VINCE MENDOZA

800pxsilje_nergaardw  ノルウェーを代表するジャズ&ポップス・シンガーの通称セリア=Silje Nergaar(セリア・ネルゴール, →)のニュー・アルバム。彼女に関してはここでも何度か取り上げた。特に私の注目はトルド・グスタフセンTord Gustavsenのピアノとの共演の『Nightwatch』であったが、今回は私の一つの注目点は、やはりピアノが私の好きなヘルゲ・リエンHelge Lien(↓右)ということだ。いやはや彼女は名ジャズ・ピアニストをしっかり確保し、しかも、2010年にリリースされ、グラミー賞にノミネートされたアルバム『A Thousand True Stories』でもコラボレーションした、ヴィンス・メンドーザVINCE MENDOZA (↓中央)が、今作ではスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、曲に感動的なオーケストラアレンジ効果を発揮している。

  そして、このアルバム・ジャケが古めかしいですね。なんと戦後のジャズ・アルバムの再発盤かと思わせるジャケ。それは実は彼女の両親の若い時の二人の写真を見つけてジャケにしたということのようだ(その写真↓左)。彼女も1966年生まれであるから今年は59歳、来年は還暦を迎えるという歳になって、どうも両親への深い思いが込められたアルバムという事のようで、タイトルも『Tomorrow We'll Figure Out the Rest』と、訳すと「明日多分私たちは残りを理解するでしょう」「明日、続きを解明する」ということだろうが、両親への深い思いが込められており、かっての自分の幼少期からの遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語等にインスパイアされた曲を収録したということだ。とにかく音楽というものを通じて人々の心を動かす彼女の資質と才能が溢れたアルバムと仕上げられたものである。

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 彼女は、1985年にノルウェー代表としてユーロビジョン・ソング・コンテストに出場してのスタートで、アルバム・デビューは1990年で、パット・メセニーのプロデュースで1990年にリリースされたアルバム『Tell me where you're going やさしい光につつまれて』が、日本はじめ世界各国で大ヒットし、以来、北欧ジャズ・ポップス・シーンを代表するシンガーとして活躍している。当時はポップよりのものであったが、2000年発表の『Port of Call』、2003年『Nightwatch』よりジャズ・ピアニストのトルド・グスタフセンを起用したことより、ジャズよりの作品になって近年はもっぱらジャズに傾倒している経過で、キャリア40年となる。又ヘルゲ・リエン(↑右)もそうであるようにノルウエーには結構親日家が多く、彼女もその一人で、1991年発表の『Quiet Place〜心のコラージュ』には「Kyoto Wind」という曲を、さらに2001年発表の『At First Light 初めてのときめき』には「Japanese Blue」という曲をそれぞれ収録している。

(Tracklist)

1. You Are the Very Moon (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
2. Lover Man (Håkon Kornstad)
3 Mamma og pappa synger00:36
4. A Perfect Night to Fall in Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
5. Vekket i tide (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
6. Before You Happened to Me
7 Silje synger00:58
8. Dance me Love (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)
9. My Man My Man
10. Brooklyn Rain (Håkon Kornstad)
11. Here There and Everywhere
12 Silje og pappa snakker00:48
13. Tomorrow We'll Figure Out the Rest (Vince Mendoza;Stavanger Symphony Orchestra)

 両親への深い思いが込められているというだけあって、とにかく心温まるような素直にして愛情にあふれた優しいヴォーカルと曲いうアルバムに仕上がっている。遠い日の記憶、家族との交わり、そして経てきたさまざまな人生の物語に思いで込めて演じられている楽曲を収録されていて、Helge Lien(ピアノ)、Jarle Vespestad(ドラムス)、Finn Guttormsen(ベース)、George Wadenius(ギター)、Håkon Kornstad(サックス)といったヨーロッパを代表するジャズ・ミュージシャンが彼女をサポートし、ヴィンス・メンドーザが、今作では5曲においてスタヴァンゲル交響楽団を指揮し、作品にジャズというよりはジャンルを超えた広い世界を描くムードを真摯に演じて盛り上げている。ジャズ・アンサンブルとオーケストラの競演で支えているわけだ(↓は両親とビニール盤アルバムの完成を喜ぶセリア)

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 彼女のヴォーカルは、まず若い印象で驚くが、一層癖のない表現の世界にあって、ジャズといつた世界とはむしろ別物に感ずる。M4." A Perfect Night to Fall in Love "(恋に落ちるには最適な夜)は、オーケストラとバッキング・ヴォーカルが入ってむしろ荘厳に近い雰囲気を盛り上げるところが印象深い。
   又M3.7.12は、彼女や両親との交わりの思い出の録音された会話や歌を挿入して一層のムード盛り上げを図っているのも、如何にも個人的な世界ではあるがアルバムの充実度を図っている。
 M8." Dance me Love"はゆつたりとした曲で、ストリングスの美しさ、ピアノの美しさと静かに語るドラムスの響きと、曲の演奏も聴きどころで、彼女の歌い上げるヴォーカルも見事である。

 いずれにしても聴いていて印象は極めて良い。そんな両親への感謝の世界を知らしめたと言う彼女のアルバム造りも一つの区切りとしては、意義があったと思うし、聴く方もわが身に置き換えて感謝の気持ちを持てたということであれば有意義である。

(評価)
□ 曲・演奏・歌  88/100
□ 録音      87/100

(試聴)

 

 

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2025年4月22日 (火)

マテウス・パウカ MATEUSZ PALKA TRIO 「MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」

クラシック的世界が築く美的抒情性の世界

<Jazz>

MATEUSZ PALKA TRIO 「 MELODIES.THE MAGIC MOUNTAIN」
Polskie Radio / Import / PRCD2431 / 2024.4

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MATEUSZ PALKA (piano)
PIOTR POLUDNIAK (bass)
PATRYK DOBOSZ (drums)

Recording, Mixing and Mastering Engineer : Leszek Kaminski
Recorded at Polish Radio's S-3/S4-6 Studio, Warsaw, 2022.11.28,29

447961014_78195621547744w  ちょっと場つなぎになるが、昨年のアルバムを取り上げる。ポーランドのピアノ・トリオのジャス・アルバムだが、現地では一昨年登場しているようだ。このアルバムは雑誌「ジャズ批評」の"ジャズ・オーディオ・ディスク大賞2024"に銅賞に輝いている。昨年春にタイミングを逸して購入できなかった代物だったが、私が今回聴いているのは今流行のストリーミング「Qobuz」によってである。おそらくCDは又輸入品があるかどうかと言うところだと思う。最近はそんな傾向の続く状況が多い。まあストリーミングもそれなりの音質で聴けるので悪くはないのだが、なんとなくLPやCDを手にとって聴く習慣は未だに抜けない私でちょっと空しいのである。

 さて、このアルバムは1993年ポーランドのクラクフ出身の若きピアニスト、即興演奏家、作曲家、マテウシュ・パウカMATEUSZ PALKA(右上)が率いるピアノ・トリオ(ピョートル・ポウドニェク (bass,↓左)、パトリック・ドボシュ (drums,↓右))。パウカの音楽には印象派、後期ロマン派の精神が息づいていると言われており、ポーランド・ジャズのもっとも才能豊かなミュージシャンの一人として注目を集めているようだ。そしてポーランドの公共放送局『ポーランド放送(Polskie Radio/Polish Radio)』から音質にこだわったピアノトリオ作品として登場したもの。

 そしてこれはこのトリオのセカンド・アルバムとなる。注目点は、トリオ・メンバーが、詩、小説、絵画、自然、クラシック音楽、ジャズ音楽など、あらゆるものからインスピレーションを得ていることと、又音質的には最高を追求し、ポーランドの名手 Leszek Kaminskiが担当しているという点にもある。

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(Tracklist)

1.Czarodziejska Góra 3:39
2.Kora 4:46
3.a Paris 4:52
4.Introitus 4:24
5.Letter to Norah 3:33
6.Aria 3:52
7.Chiaroscuro 4:14
8.Solo 1:35
9.She Doesn’t Like Doing Homework 7:10
10.Leaving 5:44

 一口に言うと、如何にも音楽の国ポーランドというところで、非常にクラシックからの流れを感ずる演奏である

481230827_131263361647350tw  オープニングのM1."Czarodziejska Góra"の冒頭から、ピアノのみの演奏で硬質のクリーンなピアノの高音が響き、録音の良さを訴えてくる。そしておもむろにベース、ドラムスのサポートでメロディーが流れ、非常に美的で詩的な世界に導かれる。
 M2."Kora" 刺激のない語りにも近いピアノ、後半次第に盛り上がるも暴れることは無く非常に常識的範囲で流れる。
 M3."A Paris" ゆったりとしたピアノの美しいメロディー、ベース、ドラムスも刺激は示さずそのサポートに納まる。
 M4."Introitus" ちょっと異質な展開を見せる。初めてベースが主張しドラムスが助長しピアノが更に展開を高める。ちょっとコンテンポラリーさが出てきた。
 M5."Letter to Norah" 再び静かに状況を語り、続く M6."Aria" 初めてベース・ソロでスタート、これも静であり、ピアノに誘導して一層静かな心の安定を響かせる
 M7."Chiaroscuro" ここでもピアノが主体に絵画的美の世界が描かれる 。
 M8."Solo" 再びベースのソロで深い語り、M9."She Doesn’t Like Doing Homework" は、最も長い7分をを超える曲。ここも日常の情景の描きで流れる印象。後半に入ってドラムスの展開が初めて意味深く訴えてくる。
 M10."Leaving " ゆったりとそこに残ったものの美しさをピアノが訴えてくる。何かクラシックを聴き終わった気分にもなる。

 しかし聴いてみて大きな感動したと言う世界ではない。日常の美しい流れが描かれているのか、聴くに全く抵抗なく美しさと抒情性も溢れていて快感ではある。こうした世界は刺激がなくむしろ寂しいとも思われるが、聴いていてこれはこれで納得させられるところにある。深遠な苦しさの世界でもなく、哲学的に瞑想に入る訳でもなく、どこか詩的な世界と言っても美しさに誘導されているところが、若きミュージシャンとしては意外な感じもするが、今後の展開に期待は十分持てるメロディーの美しさの世界の好盤だと思う、推奨盤だ。

(評価)
□ 曲・演奏 :   90/100
□   録音   :   88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月17日 (木)

ヤニエル・マトス Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」

創造的リズムで描く精神的な要素を表現して・・・・

<Jazz>

Mani Padme Trio 「The Flight-Voo」
(CD) Red Records / Import / RR1233492A / 2025

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Yaniel Matos (piano)
Sidiel Vieira (acoustic bass)
Ricardo Mosca (drums)

Recorded In THe Parede-Meia Studio In Sao Paulo, Brazil on 2 & 3 August 2015

 南米のバンドの「マニ・パドメ・トリオ」の作品。これはブラジルのドラマー、リカルド・モスカ(↓右)とキューバのピアニスト、ヤニエル・マトス(↓左)のラインナップに加え、今回はコントラバスのシディエル・ヴィエイラ(↓中央)が加わった。このトリオの音楽がこれまでの作品で追い求めてきたグルーヴをしっかりと保ちながら、さらに進化し、内容が豊かになったことを強調する3作目の作品である。私は初聴きのピアノ・トリオ。

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 録音は、2015年と10年前であるが、今回イタリアからのリリースで日本でも聴くことになったもの。
 ピアニストのヤニエル・マトスはブラジル人とキューバ人のハーフで、N.Y./サンパウロで活躍。モダン・キューバン・ジャズの表現力、奔放センス、 Herbie Hancock, Keith Jarretの洗練さ・・・これらを呑み込んだセンシティヴ・ラテン・ジャズを演ずると。ラテン・ピアニストならでは滑らかな指運びにトリッキーでいてロマンティックなコード・ワーク、そしてコンテンポラリーかつアーティスティックなアレンジで奏でられるCUBA & BRAZILIAN JAZZ コンテンポラリーの進化系の評価がある。彼のアルバムは過去に日本でもリリースされている。

 この南米のバンドは、12年間でわずか3枚のアルバムしか制作しておらず、それぞれの作品はリスナーに好評で批評家の評価も得ていると。2003年のデビュー作『Um DiaDe Chuva』は、創造的インスピレーションで溢れ固定観念を超越した音楽を生み出し、ジャズシーンの歓迎すべき変化として受け入れられ、その3年後、『Depois』は、ジャズへの独自のアプローチにおけるトリオのバイタリティを証明したと。今作はシディエル・ヴィエイラの加入で一段と安定感のある演奏になったと言われている。

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(Tracklist)

1. Partida (R. Mosca, S. Vieira, Y. Matos) 1:50
2. Gotas De Rocio (Y. Matos) 5:18
3. Cais (M. Nascimento, R. Bastos) 7:04
4. Compreensiva (S. Vieira) 8:41
5. Cimarron (Y. Matos) 4:54
6. Estrada Rural (S. Vieira) 5:54
7. El Vuelo (Y. Matos) 5:22
8. Farofa (Y. Matos) 5:00
9. Rosa Morena (D. Caymimi) 5:14

 ブラジルのみで発売されていたこのアルバムが、今回ヨーロッパで初めて発売され日本に入ってきた経過だが、なるほど印象として意外にもヨーロッパ的なコンテンポラリーの世界が感じられる。
 そしてこのトリオの名前も重要で「Om Mani Padme Hum、「宝石と蓮を身に着ける人」は、慈悲深い仏陀(Chenresig)の世界です。Omは身体の浄化を、Maは言語を、Niは心を、Padは感情を、Meは潜在意識を、Humは知恵を」を表しているということだ。この特定のマントラ(Mantraとは、サンスクリット語で「言葉」「音」「詠唱」を意味する言葉で、心を整える働きがある。宗教的には讃歌や祈りを象徴的に表現した短い言葉)に関連して名前を選択することは、精神的な要素にあることを示している。そんな世界から彼らの作り上げるアルバムに心を馳せなければいけないし、それに足る十分な響きを聴かせている。

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 M1."Partida "はオープニング宣言のようなもので、新加入のコントラバスを効かしたトリオメンバーの即興曲
 マトスの曲M2." Gotas De Rocio"(露のしずく)は、美しい繊細なピアノのメロディーが流れ心を奪われる
 M3."Cais " ピアノが神聖な世界を描き、中盤からクラシックの世界、後半はドラムスが響きジャズがが襲ってくる
 M4."Compreensiva "ピアノの流れと、ベースの響き、そしてドラムスとピアノの共鳴で広い世界への旅立ちの様だ
 M5." Cimarron "は荒々しいスタートであるが、一転して美しいリズムカルな流れに
 M8."Farofa"で初めてキューバ色が描かれて郷愁が支配、トリオは開放的な世界を描く。最後のM9." Rosa Morena"は、オリジナルではないが、ゆったりと重いベース、静かに心を一つにまとめる。

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 ブラジル、キューバなど我々が持つ華やかで開放的でリズムが展開するイメージとは全く異なった世界で、究極ヨーロッパ的な精神的な世界を求める美旋律の流れとともに、クラシック的な面を持ちながら創造的リズムでコンテンポラリーな面をしっかり描くところの近未来的ジャズ・アルバムに仕上がっている。マトスのピアノは繊細で美しい音色で自由にメロディーを作り出している。ヴィエラのベースはオーソドックスな響きで効果的なメロディーとリズムのサポートとともに曲のリードにも対応する。モスカは洗練されたダイナミックなリズミカルな推進力を位置付けている。
成程、10年前のものを敢えてヨーロッパから再リリースした意義が十分理解できたところであった。

(評価)
□ 曲・演奏  90/100
□ 録音    88/100

(試聴)

 

 

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2025年4月12日 (土)

レシェック・モジュジェル leszek możdżer 、Lars Danielsson、Zohar Fresco「Beamo」

冷徹ともいえるソリッドで透明のピアノ革新音が、神秘的な新音楽空間を造る
(歴史的新音楽)

<Contemporary Jazz>

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ACT / Import / ACT90652 / 2025

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Leszek Możdżer – piano
Lars Danielsson – double bass, cello, viola da gamba
Zohar Fresco – drums, percussion

Img_7694w  ジャズ界において、その芸術性を語るのは私のような単なる音楽リスナーにとってはなかなか難しいことだ。長くクラシック、ポピュラー、ロック、ジャズなどなど多くを聴いてきての愛好者ということであって、その芸術性なり音楽学問的な世界にはいないということだ。ただ従来の世界から一歩コンテンポラリーな世界に足を踏み込んでいるという感覚で聴けるミュージックもある。そんな感覚で捉えられるのがこのポーランドの私の注目のピアニストのレシエック・モジュジェルLeszek Możdżer(⇢)である。そして又してもここにダニエルソンLars Danielsson(スウェーデン ↓左)のコントラバスとヴィオラ・ダ・ガンバの共鳴と、フレスコZohar Fresco (イスラエル ↓右)の複雑なリズムのドラムスとパーカッションの深みとのトリオ作品が登場した。

 このアルバム『Beamo』は、このトリオでの前作『Passacaglia』(2024年)に続いての発展させたもののようだが、もう十数年前に感動してここで取り上げた作品『THE TIME』(2004)以来20年の経過での記念的作品で、私にとってはそれ以来離れられないトリオであり感動的であるのだ。又モジュジェルの挑戦はこのトリオばかりでなくAdam Baldychとの『Passacaglia』(ACT9057,2024)などの芸術性の評価が高いモノが多い。

 そして今回の注目点は私にはその挑戦が音楽的に評価ができないのだが、モジュジェルが3つの異なる調律のピアノ(A = 440 Hz、A = 432 Hz、デカフォニックスケール)を同時に使用したことで、「伝統的な調性を興味深く不安定でありながらも深く美しいものへと作り変えている」との専門的評価を得ている事である。

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(Tracklist)

1.AMBIO BLUETTE – LESZEK MOŻDŻER
2.CATTUSELLA – LARS DANIELSSON
3.BEAMO – LESZEK MOŻDŻER
4.KURTU – LESZEK MOŻDŻER
5.LINKABILITY – LESZEK MOŻDŻER & LARS DANIELSSON
6.BRIM ON – LESZEK MOŻDŻER
7.GILADO – LESZEK MOŻDŻER
8.APPROPINQUATE – LESZEK MOŻDŻER
9.DECAPHONESCA – LARS DANIELSSON & LESZEK MOŻDŻER
10.FURD’OR – LESZEK MOŻDŻER
11.JACOB’S LADDER – ZOHAR FRESCO
12.ELIAT – LARS DANIELSSON
13.ENJOY THE SILENCE – MARTIN GORE

 むしろ冷徹なソリッドと言える上に透明で素晴らしいピアノの音を響かせるモジュジェルのピアノ・ジャズ世界が挑戦した「彼らの特徴的なヨーロッパ的なリリシズムに根ざした『Beamo』」は、"クラシカルなエレガンスと実験的な革新を融合させ、ミステリアスでありながら親しみやすいサウンドスケープを作り出している。これぞ、コンテンポラリージャズの変革的な旅だ"と表現しているのを見るが、まさにそんなアルバムで、コンテンポラリーな世界でありながら不思議に聴きやすいところが特徴だ。
 ある説明では、「ピアニストを囲むように配置された3台のグランドピアノはそれぞれA=440Hz、A=432Hz、そしてもう一つはオクターヴを10の等間隔に分割する特殊な調律(デカフォニック)のもの、自在にそれらの鍵盤を行き来することで驚くほど色彩豊かな音の世界を表現している。調律(基準周波数)の微妙に異なるピアノでユニゾンすることで意図的にデチューンの効果を得たり、1音を異なるピアノで交互に弾くことでその周波数の微妙な差異によって不思議な浮遊感を生み出したりと、ひとつの曲の中でいくつもの調性が同時並行で共存しているような、これまでに聴いたこともない音で聴覚を大いに刺激される。ということなのである。そのあたりの音楽的なポイント(平均律の音楽性の特徴など)や芸術的な複雑性は解らずに、私には単に音楽としての音とその兼ね合いとメロディーを聴くだけでの世界だが、相変わらず彼のピアノの調べには引き付けられてしまうのである。

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 M1."AMBIO BLUETTE" まさに深淵なリズム、夢想的で実験的世界がベースの柔らかさとピアノのソリッドの副雑音の調整が聴きどろ 。
 M2. "CATTUSELLA"ダニエルソンの美しい曲を二重の調律の異なるピアノでむしろ爽快に。
 M3."BEAMO" アルバム・タイトル曲でどこかミステリアス。M4."KURTU"はドラムが流れをつくり、透明感と複数のピアノのユニゾンによる浮遊感。中盤のピアノのインプロビゼーションの緊張感。M9."DECAPHONESCA"では、ダニエルソンはヴィオラ・ダ・ガンバ1を弾いていて、モジュジェルの世界的話題のデカフォニック・ピアノ(彼の開発した10音音階のもの)と同様に十平均律にチューニング、奇妙に響く奏法(アルペジオ)でピアノと競演するという芸を披露。
 こんな調子で、異空間のミステリアスな響きでクラシカルな世界と未知の近未来的世界が融合した感覚になるところも面白く、驚きの世界に没入してしまう。
 ラストはM13."ENJOY THE SILENCE"は英国ロックバンドの曲を取り上げて、むしろぐっと落ち着いた世界に導き、未知なるスリリングな挑戦から静かな展望への美しいピアノの音で締めくくり納めるという憎いアルバム構成。

 いまやジャズ世界も複雑な世界に広がっているが、欧州系で発展しつつあるコンテンポラリーな世界も、基本的にはクラシックの世界から発展している基礎の上で造られていて、音楽的な評価が高まっているのも聴きどころであり、古来のアメリカン・ジャズとは全く異なった様相になりつつあるところも見逃せないところだ。
 又このアルバムの従来の音楽に対しての革命性も今後話題として語りつかれるところは必至であろう、貴重である。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 95/ 100
□ 録音   : 90/ 100

(試聴)

 

(参考)Leszek Możdżer 略歴 (ネットより)
 ピアニストのレシェック・モジジェルは1971年ポーランドのグダニスク生まれ。幼少期から音楽に親しみ、5歳でピアノを始め、クラシック音楽の基礎を築いた。グダニスク音楽アカデミーでクラシックピアノを専攻し、1996年に卒業するが、在学中からジャズに強い関心を抱き、独自のスタイルを模索し始める。  1991年にポーランドを代表するサックス奏者ズビグニエフ・ナミスオフスキ(Zbigniew Namysłowski)のバンドに参加し、プロのジャズピアニストとしてのキャリアをスタートさせる。この時期に彼は伝統的なジャズとポーランドの民族音楽、クラシックの要素を融合させた独自の音楽性を確立し、1994年には初のソロアルバム『Impressions On Chopin』をリリース。ショパンの作品をジャズ風に解釈したこの作品は、彼の革新的なアプローチを示すものであり、批評家から高く評価された。
 2004年からラーシュ・ダニエルソンとゾハール・フレスコとのトリオ活動を開始し、『The Time』(2005年)や『Pasodoble』(2007年)、『Polska』(2013年)といった名盤をリリース。このトリオは20年以上にわたり彼の主要な表現の場となり、2025年の『Beamo』でさらなる進化を見せた。
 映画音楽の作曲などの巨匠クシシュトフ・コメダ賞(1992年)やポーランド外務大臣賞(2007年)などを多数受賞。名実ともにポーランドを代表するジャズ・ピアニストとなっている。

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