2022年11月29日 (火)

イリァーヌ・イリアス Eliane Elias 「quietude」

マイルドな低音で、ぐっと大人のボサノバ・ヴォーカル

<Jazz>
Eliane Elias 「quietude」
CANDID / IMPORT / CCD30512 / 2022

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Band
Eliane Elias – piano, vocals
Marcus Teixeira – guitar
Lula Galvão – guitar
Oscar Castro-Neves – guitar
Celso de Almeida – percussions
Marc Johnson – bass
Steve Rodby – bass

 とにかく時代は変わって、実はこのアルバムもサブスクによるミュージック提供サイトからオーディオのネットワーク機器により、ストリーミングによって、このところ何回と聴いているアルバムである。

875092   イリアーヌ・イリアス(1960年ブラジル生まれ)は、ジャズ・ピアニストとしての故チック・コリアとキューバのピアニスト兼作曲家のチュチョ・バルデスとのデュエット・インスト・アルバム『Mirror Mirror』(2021)(→)によって2022年グラミー賞最優秀ラテンジャズアルバム賞受賞に輝いた。
  彼女の30枚近くのアルバム・リリースというキャリアの中で、独特な音楽スタイルを持ち、ジャズで最もユニークなインストゥルメンタルジャズ、クラシック、作曲のスキルと融合させ、芸術的能力を一貫して示した作品として評価されている。しかし私には少々難解なアルバムであった。

 そして今回は、彼女の武器であるピアノ演奏が主力でなく、一方の人気のあるヴォーカル・アルバムとして「母国ブラジル音楽ボサノバ曲集」をリリースしたのだ。
 内容は、アルバム『Made in Brazil』(2015)以来一緒に仕事をしているマーカス・テイシェイラのギターをはじめ、ブラジル生まれの親しいギター仲間たち、特に、ブラジルのアコースティックギターの伝統を代表する巨匠の1人であるルーラ ガルバオも加わっている。また、パーカッショニストのセルソ・デ・アルメイダと彼女の夫でベーシストのマーク・ジョンソンによるリズム・セクションの競演も大きい。
 そして彼女の故郷のお気に入りの曲を演奏した親密さが魅力の作品となっている。収録曲11曲でLP時代の40分台であり、CD時代としては若干短い感もあるが、それなりに主体はボサノバのバラード曲というスタイルが中心で、もっぱら大人のヴォーカルを聴かせる。

 

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1. "Você E Eu (You And I)" Carlos Lyra-Moraes 4:54
2. "Marina" Dorival Caymmi 3:37
3. "Bahia Com H (Bahia With H)" Denis Brean 4:16
4. "Só Tinha De Ser Com Você (This Love That I've Found)" Antonio Carlos Jobim 3:02
5. "Olha (Look)" Erasmo Carlos, Roberto Carlos 4:20
6. "Bahia Medley: Saudade Da Bahia / Você Já Foi À Bahia ?" Dorival Caymmi 5:53
7. "Eu Sambo Mesmo (I Really Samba)" Janet DeAlmeida 3:30
8. "Bolinha De Papel (Little Paper Ball)" Geraldo Pereira 2:31
9. "Tim-Tim Por Tim-Tim" Haroldo Barbosa, Geraldo Jacques 2:30
10. "Brigas Nunca Mais (No More Fighting)" Antonio Carlos Jobim 3:26
11. "Saveiros" Nelson Motta, Dori Caymmi 3:30
Total length: 41:29

 

 このアルバムは完全に彼女のブラジル・ポルトガル語のマイルドな低音ヴォイスで、一貫して力みなく豊かさに包まれるアルバムとして仕上げられている。そして彼女と親しい3人のギターリストと共に、故郷からのお気に入りの曲を聴かせる。彼女のヴォーカル・アルバムはバックにストリングスなど入るのが多かったが、今回は自己のピアノそしてギター、パーカッション、ベースの小編成で温かみと豊かさのある演奏に終始している。
 彼女には過去にボッサ・アルバムと言えば、2004年リリースの代表作『Dreamer』Bossa Nova Stories』(2008)『Made In Brazil』(2015)など、数々の傑作ボッサアルバムをリリースしているが、このアルバムが最も人間的にも完成された大人の味が感じられる。

 そしてアントニオ・カルロス・ジョビンのM4."So Tinha Que Ser Com Voce"は、叙情的に小編成の豊かなサウンドで描いている。
 また、ハロルド・バルボサとジェラルド・ジャックのボサノヴァM9."Tim-Tim Por Tim-Tim"は、ブラジルの伝説的ギタリスト、オスカー・カストロ・ネヴェスが2013年に他界する前に彼女が録音し、今までリリースされていなかった曲だという。
 M10."Brigas Nunca Mais"では、彼女の流麗なピアノ・プレイも聴くことが出来る。
 更にアルバムの最後には、79歳のシンガー、ドリ・ケイミとのデュエットで、しっとりと彼の父、ネルソン・モッタスの詩的な航海のバラードM11."Saveiros"を収録してこのアルバムを閉めている。

 結論的には、還暦を過ぎた彼女の余裕をうかがわせる力みのないソフト・タッチのヴォーカルには円熟味もあって完成度が高い。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :   88/100
□   録音      :   88/100

(試聴)

*
(参考) chick corea との競演

 

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2022年11月25日 (金)

ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

ウォーターズの意地の回答
「Comfortably Numb」ニュー・バージョンの登場
暗さと不安と不吉を描く感動の曲に・・・・

<progressive Rock>

Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」

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 ロジャー・ウォーターズRoger Waters(1943年生まれ、79歳)は、1979年のピンク・フロイド時代のアルバム『ザ・ウォールTHE WALL』(1979)中の人気曲「Comfortably Numb」の新しいバージョンをリリースした。タイトルは2022年のものとして「Comfortably Numb 2022」となり、アップデートは、オリジナルよりもかなり暗く、描くところ不安と不吉なムードが漂っている。
 これは目下の彼の"別れのショー"としての北米ツアー「This Is Not a Drill」(人気の為、2023年には引き続きヨーロッパでのツアーが3月17日からポルトガルのリスボンで始まり、続いて14か国で40回のショーが追加企画されいている)のオープニングの為に書かれた曲で、話題になっているもの。それをシングルとしてリリースした。(YouTubeにて公開中 ↓)

 「コロナ禍で予定されたツアーが中止となり(今年ようやく2年越しにスタートした)、そのパンデミック下に新しいショーのオープニングとして「Comfortably Numb」の新しいバージョンのデモを作成しました」とR.ウォーターズはニューリリースに関し述べ、「イ短調で、暗くするために一歩下がって、ソロなしでアレンジしました。アウトロのコードシーケンスを除いて、私たちの新しい歌手の1人であるシャネイ・ジョンソンShanay Johnsonによる話題になるほど美しい女性ボーカルソロがあります」と付け加えている。
 成程、彼らしい曲の展開で、現在の世界情勢が破滅に向かう事に対しての警告となっている。

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  ライブ・メンバーの10人のミュージシャンが「Comfortably Numb 2022」の作成に貢献し、ストリングス、パーカッション、ベース、ギターなどを提供し、ウォーターズ自身はトラックを共同プロデュースし、ボーカルも担当した(↑)。

Credits:
Produced by Roger Waters and Gus Seyffert
Roger Waters – Vocals
Gus Seyffert – Bass, Synth, Percussion, Vocals
Joey Waronker – Drums
Dave Kilminster – Vocals
Jonathan Wilson – Harmonium, Synth, Guitar and Vocals
Jon Carin – Synth, Vocals
Shanay Johnson – Vocals
Amanda Belair – Vocals
Robert Walter – Organ/Piano
Nigel Godrich – Strings, amp and backing vocals from Roger Waters ‘The Wall’ Sessions.
Video produced and directed by Sean Evans.

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 もともと1979年のアルバム『The Wall』は、ピンク・フロイドものといっても、中身はロジャー・ウォーターズの自伝にもとづいて彼主導で作成されもので、ロック・オペラとも言えるところもあっての人気アルバムだが、その中の人気曲「Another Brick In The Wall 」は当時、子供の教育問題を歌い上げ、しかも子供のコーラス入りという事で、ご本家英国では発売禁止にもなった話題アルバムだ。
 そしてその中の「Comfortably Numb」(作詞:Roger Waters, 作曲David Gilmour,Roger Waters)は、ピンク・フロイドの有名な曲の1つである。その歌詞は、肝炎に苦しんでいた時のR.ウォーターズがステージに上がる前に精神安定剤を注射された1977年の事件に触発されている。「それは私の人生で最長の2時間でした」と彼は後にローリングストーンに語った。「腕を上げることがほとんどできないときにショーをやろうとしている」といった状況だったようだ。

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 さて、このニュー・バージョンの注目点は、もともとこの曲の人気はR.ウォータースの語り利かすようなヴォーカルと不安なベース音、そしてD.ギルモアの現実の世界から離れる感覚へ誘うギター・ソロが大きな因子であった。そしてR.ウォーターズがピンク・フロイドから離れたあと、多くのファンの期待から「ライブ8」に際して一時的再結成した際の最後のメンバー4人によるショーの締めくくりにも演じられた貴重な曲でもある。
 しかし、その後のファンの期待があってもピンク・フロイドの再結成の夢も実現せず、R.ウォーターズからは彼自身のライブにてD.ギルモアを呼んで、この曲を演じさせたりなどしたが、D.ギルモア側のピンク・フロイド名義の企業的独占欲が強く、もう40年という経過を経ても再結成は実現できないで来た。
  しかもなんとここに来て、ピンク・フロイド再起の一つのターニング・ポイントとなった1977年のアルバム『ANIMALS』のリマスター版の発売に関して、英国ミュージック・ジャーナ・リストのマーク・ブレイクMark Blake(ピンク・フロイド研究に実績と評価がある)の書いたライナー・ノーツ(どうしてもR.ウォーターズの功績が浮き彫りになってしまう)をD.ギルモアが拒否して発売もままならない状況になるという不祥事が起きるなどして、R.ウォーターズは諸々に不信感を持ちそれが極限に達してしまった。

 そんな時に書かれたこの「Comfortable Numb 2022」は、R.ウォーターズの人気曲を使っての"無言の回答"である。人気のあったD.ギルモアのギター・パーツをすぱっと削除して、R.ウォーターズの得意の社会の不安、人間の不安を描ききった。しかもそこには全く異なったメロディーで美しい女性ヴォーカルを聴かせ、今回のツアーにおける冒頭の曲として登場させ、多くの喝采を得たのである。そして曲に対する多くの要望で、なんとここにシングル・リリースとなった。
 ここにて彼は完全にD.ギルモアを切ったのである。そしてそれが彼の「Farewell Tour」として演じられているのだ。

(評価)
□ 編曲・演奏 : 90/100
□   録音           : 87/100  

(LIVE視聴)

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2022年11月21日 (月)

ドリーム・シアター Dream Theater 「Rock in Rio 2022」

「A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD」ツアーの一環
「ロック・イン・リオ」に登場した貴重なライブ映像・・・

<Progressive Metal Rock>

Dream Theater 「Rock in Rio 2022」
(Blu-Ray)  Lost and Found /  LAF2917 /2022

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93 min. Linear PCM Stereo 16:9 Full HD NTSC
Brazil 2022 Blu-Ray Version

71ciaqpicalw  時には、ロックの話題も・・・と、いう事で、かってのプログレッシブ・ロックがほゞ全滅状態の中で、突如私の関心をとらえたのは、1990年代になってのドリーム・シアターでした。もう30年以上の歴史を刻んできたが、昨年久々のアルバム『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』(SICP 31492-3/2021)(→)のリリースがあって、彼らも健在なりといったことが実感できた。しかしコロナ・ウィルスのパンデミックにより活動は抑えられてきた中だが、ようやく現在"「A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD」ツアー"行っており、今年の8月には、来日もした。そしてその後9月に、3年振りに行われたブラジルの「ロック・イン・リオ」の初日9月2日に出演したステージものが、フルHDの完璧なプロ・ショット収録された映像物が登場している。

(Tracklist)
Img_3725w2 01. INTRO
02. THE ALIEN 
03. 6:00

04. ENDLESS SACRIFICE
05. BRIDGES IN THE SKY
06. INVISIBLE MONSTER
07. THE COUNT OF TUSCANY
08. PULL ME UNDER
Live at Parque Olímpico, Rio de Janeiro, Brazil on 2nd September, 2022
09. THE MINISTRY OF LOST SOULS
Live at Tokio Marine Hall, São Paulo, Brazil on 31st August, 2022

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  今回は、やはりアルバム近作『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』からの曲である"THE ALIEN"、"INVISIBLE MONSTER"の2曲が骨格となり過去の人気曲演奏を披露している。
 映像を見ると、ヴォーカルのJames LaBrieは、更に体格は大きくなり顔は丸くなって30年の年輪を重ねてきたことが解るが、声は意外に一時さすがに無理っぽかったが、それより又復活してのハイトーンも伸びていて、十分こなしている。不思議に近年加わったドラムスのMike Manginiは別として、ギターのJohn Petrucci、キーボードのJordan Rudess、更にベースのJohn Myungはあまり歳をとったという感じでもない。そして相変わらずのアクティブな動きを見せながら立派に演奏している。

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 第一曲目がさっそくM2."ALIEN"で、強烈なビートから入るパワフルで壮大な世界を描く9分を超える曲で、あのドリーム・シアター独特のメロディーと超絶技巧が展開しての変調を繰り返しめくりめく繰り広げられる圧巻の仕上がりだ。人間が生存できる他の惑星の探査するため宇宙に飛び出す、それは人類がエイリアンになる事でもあるという発想に基づいている。
 このパターンが、惜しげもなく繰り広げられあっという間に90分が経過してしまう。ただ相変わらず旨いのは、M4."ENDLESS SACRIFICE"のような曲を挟んで、バラード調の説得力あるヴォーカルと心に染みこむメロディーで聴くものの心をとらえる。そして又変調を繰り返しヒートアップしていく展開が心憎いのだ。ギターの早弾きも健在。
 又、いかにもプログレっぽいスタートと中盤のメロディーのM5."BRIDGES IN THE SKY"(アルバム『a dramatic turn of events』(2011)から)では、プログレ・メタルの面目躍如。
   M6."INVISIBLE MONSTER"もどこか不思議な世界に誘う。
 そして最後が懐かしの"PULL ME UNDER"で締めくくっている。これを聴くと30年前の真夏の中野サンプラザ・ライブを思い出すところ。
 結論的には、歳を感じさせない圧巻の世界が健在と言っておこう。やっぱり彼らはライブが最高だ。

(評価)
□ 曲・演奏  88/100
□ 画像・録音 85/100

(試聴) "THE ALIEN"

* "Endless Sacrifice"

 

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2022年11月16日 (水)

ジャン-ピエール・コモ Jean-Pierre Como Trio 「MY DAYS IN COPENHAGEN」

やはり躍動性としっとりした世界の美は一級品

<Jazz>
Jean-Pierre Como Trio 「MY DAYS IN COPENHAGEN」
Bonsaï Music / IMPORT / BON220901 / 2022

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Jean-Pierre Como (piano)
Thomas Fonnesbæk (double bass except 06, 10)
Niclas Campagnol (drums except 09, 10)

Recorded at The Village Recording Studio in Copenhagen, Denmark

Fnejbtbx0amzhnbw  フランスの人気ピアニスト、ジャン・ピエール・コモ(1963年パリ生まれ、両親はイタリア人(→))の18枚目となるリーダーアルバムの登場。今回はデンマーク出身の人気ベーシスト:トーマス・フォネスベック(1977〜)とスウェーデン出身の中堅ドラマー:二クラス・カンパニョル(1973〜)という北欧ミュージシャンとのトリオで、スタンダード曲を中心としたコペンハーゲン録音のアルバムだ。

(Tracklist)

01. You And The Night And The Music 6:16
02. You Don't Know What Love Is 4:03
03. Oleo 3:29
04. Stella By Starlight 10:08
05. Triste 5:26
06 Leading To… 1:13 (piano &  drums duo)
07. My One And Only Love 5:29
08. Bye Bye Blackbird 5:10
09. Lover Man 6:27 (piano & bass duo)
10. Starry Sea 2:54 (solo piano)

Jeanpierrecomomydaysw

  10曲中2曲(M6.,M10.)がコモのオリジナル曲で、その他の8曲はスタンダード曲。
 M1."You And The Night And The Music"は、オープニングにふさわしい演奏で、軽快にして流麗なピアノ・タッチに、ベ-ス、ドラムスが後半にはソロ展開も加えてのビートを加味し、ジャズはこれだと訴えてくる。彼らの紹介みたいな演奏。なかなか期待が持てる。
 M2."You Don't Know What Love Is "となりぐっと落ち着いてピアノとベースが交互に旋律を哀感の展開。
   そしてこのアルバムの一つの目玉曲M4."Stella By Starlight "が素晴らしい。雰囲気をがらっと変えて、ぐっと心の奥に響く深い内省型の世界、なんと10分を超える演奏で、三者のインプロブィゼーションの洪水、ビクター・ヤングという世界を超越して迫ってくる。
 M5."Triste"で、軽快に流れるようなピアノに変化。そのあとは、今度は変化してM6."Leading to..."で静かに旋律を奏でるピアノまるで間奏曲。
 そしてもう一つのこのアルバムの目玉曲M7."My One And Only Love"に続き、ここでは思索的で哲学的ともいえる中に美しさのあるピアノが印象的で、しかも流れる水のごとくの演奏の変化を加えてやっぱり一級品だ。ベース、ドラムスの状況を描くサポートも奥深く素晴らしい。
 M9." Lover Man"のピアノ、ベースのしっとり感も、さすがユーロ・ジャズ。

 とにかくこのアルバムは、最後まで飽きさせない構成で、端麗であり歯切れがよく流麗なクリアー・タッチのピアノが、ヨーロならではのロマンティックなところと哀感のある抒情的なところを聴かせつつ、一方ダイナミック・アクションのある躍動的変化を織り交ぜて描く世界はお見事である。スイングしながら歌うがごとくのしなやかさとハーモニーがあり、時としてリズムカルに迫りくるというベースや、やや軽めにシャープでスピーディーに安定したドラム、まさに三者の技量が織り成す世界と、トータル・アルバムとしての曲の構成が素晴らしく、一級品のジャズ・アルバムと言いたい。

 

(評価)
□ 曲・演奏 : 90/100
□ 録音   : 88/100

 

(試聴)

*
"stella by starlight"

 

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2022年11月11日 (金)

レナード・コーエン・トリビュート・アルバム「HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN」 

なかなか味な試みのトリビュート盤、10人の歌手が集合

<Jazz>

 HERE IT IS : A TRIBUTE TO LEONARD COHEN
BLUE NOTE Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit / 2022

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 詩人、作家、シンガー・ソングライター、ミュージシャンとして世代、国境、ジャンルを超えて人気を獲得していたカナダ出身のレナード・コーエン(下左)。2016年に82歳で急逝したが亡くなる直前までミュージシャンとして頑張っていた。そこで名プロデューサーとして名高いラリー・クライン(下右)がコーエンとは"1982年頃から友人であり、人生の最後の15年間は特に親しくなった"と言い、さまざまなジャンルの豪華ゲスト・ヴォーカリスト(下記Tracklist参照)と、ジャズ界でちょっとした持ち味を誇るミュージシャンをマッチングさせて制作したコーエンのトリビュート作品。
(なお、私は Hi-Res MQA-flac 96kHz/24bit で聴いています)

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   レナード・コーエンは、カナダ出身(1934年生まれ)だが、父はユダヤ系、母はロシア系のようで、1960年いわゆるフォーク・ロックと一般には表現されている音楽を奏でるシンガー・ソングライターとしてスタートした。「エロティックな悲惨な詩人」なんて表現を見たが、そんな要素もあったくらいで一種独特の世界があった。私は当時は特に興味もなかったので当時の事はよく解らないが、詩人としての大学卒の経歴があり、人生のいろいろな流れの中で、革命後のキューバに渡ったりとその生きざまは多彩だ。(かって私は彼をここで取り上げたので参照してほしい→「今にして知る レナード・コーエン Leonard Cohen の世界」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/leonard-cohen-c.html)。

 私が彼に関心を持ったのはたったのこの十数年のことである。しかしその後彼に関しての音楽を聴いてみるにつけ、彼は老年期に入ってからのミュージシャンとしての味は、若き時のものと比較しても格段も中身が濃く味があり人生の風格が滲み手出ての傑作ものであった。特に余談だが、彼のバック・コーラスを務めていたJennifer Warnesなども世にでることにもなって、私の興味を誘ってくれたのである。

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         a                           b                           c                             d

(Tracklist)

1. Steer Your Way / Norah Jones (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
2. Here It Is / Peter Gabriel (2001年『テン・ニュー・ソングス』収録)
3. Suzanne / Gregory Porter (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
4. Hallelujah / Sarah McLachlan (1984年『哀しみのダンス』収録)
5. Avalanche / Immanuel Wilkins (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
6. Hey, That's No Way to Say Goodbye / Luciana Souza (1967年『レナード・コーエンの唄』収録)
7. Coming Back to You / James Taylor (1984年『哀しみのダンス』収録)
8. You Want It Darker / Iggy Pop (2016年『ユー・ウォント・イット・ダーカー』収録)
9. If It Be Your Will / Mavis Staples (1984年『哀しみのダンス』収録)
10. Seems So Long Ago, Nancy / David Gray (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)
11. Famous Blue Raincoat / Nathaniel Rateliff (1971年『愛と憎しみの歌』収録)
12. Bird on The Wire / Bill Frisell (1968年『ひとり、部屋に歌う』収録)

(奏者):ビル・フリゼール (g)、イマニュエル・ウィルキンス (as)、ケヴィン・ヘイズ (p, Estey)、スコット・コリー (b)、ネイト・スミス (ds)、グレゴリー・リース (pedal steel g)、ラリー・ゴールディングス (Hammond, org)

 上のように、多くのヴォーカリストによる詩を重んじた曲が中心であるが、バックは上記のようなそれぞれの味のある演奏者がクラインによって集められたプロジェクトであった。これはアルバムとしての一貫性を失わないように多くの歌手をサポートするにあたり、世界観を統一している試みである。一アルバムのように感じる一貫性のある統一されたサウンドを考えたのだ。それにしても1967年のデビュー作から2016年までの50年の経過の作品の流れをまとめ上げるところにクラインの腕の見せどころであっただろう。

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         e                      f                         g                              h


 さて、それぞれの曲を聴いてみると・・・・
 M1."Steer Your Way"のNorah Jones(↑a)はそれなりに無難に歌い、驚きはアルバム・タイトル曲M2."Here It Is "のPeter Gabriel(↑b)だ。彼の演ずるところコーエンの質をしっかり捉えて歌い上げていて、おやコーエンではと思うほどだ。そんなところではM8."You Want It Darker "のIggy Pop(↑e)もそっくりだったが、彼なりの切り口は独特。
 M3."Suzanne"のGregory Poter(↑c)はちょっとクールで面白い。
 M5."Avalanche "M12."Bird on The Wire"はインストもの、Immanuel Wilkinsはサックスで、Bill Frisellはギターで、それぞれ曲に色を添えるべく演じている。
 M7."Coming Back to You" James Taylerの低いキーでの唄もコーエン節が印象的。
 女性群がいいですね、M4." Hallelujah"の私のお気に入りのSarah Mclachlan(↑d)は、しっとりと自分の世界に引き込んで歌い上げる。M6."Hey, That's No Way to Say Goodbye "のLuciana Souzaは甘いところを見せつつ意外におとなしく素直に哀悼の意。M9."If It Be Your Will"のMavis Staples(↑f)は、なかなか個性が生きていてその訴えが響いてくるところはお見事と言いたい。
   M10."Seems So Long Ago, Nancy " David Gray(↑g)も自分の世界で哀感ある歌い上げて納得。
 M11."If It Be Your Will "のNathaniel Rateliff(↑h)が印象深いですね、ここでは他の男性軍は自己主張して挑戦的なところはあまりなく、おとなしくコーエンを描こうとしているが、彼は彼なりの世界で、なかなか哀感もたっぷりで聴き応え十分な歌を披露。私はこのアルバムでは出色と見た。 

 晩年のコーエンが益々人気が上がったのは、男が歳をとったらこんな洒落っ気がある魅力が欲しいと思わせるところがプンプンしていたことで、歌や詩で語り掛けるところには、ゴスペルの要素がなんとなく見え隠れしていた。逆にそれに皮肉なユーモアも感じさせている。1984年以降の『哀しみのダンス』以来、明るい訳でもなくどこか暗めで人を引き付ける。そして加えてユーモアのセンスは抜群だった。人間的な弱さと強さがみえる歌が人に訴えた。
 このアルバムを聴くと、コ-エンの唄はコーエンが一番良いという事を逆に実証したような感がある。しかしこうして一つの世界に統一しての彼を想う10人という歌手の集まりもなかなか味があったことも事実であった。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌        : 88/100  
□ 録音(MQA・Hi-Res) :   88/100

(試聴)
Gregory Porter"Suzanne"

*
Mavis Staples"If It Be Your Will"

 

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2022年11月 6日 (日)

ゴーゴー・ペンギン GOGO PENGUIN 「Between Two Waves In CENON 2022」

新世代ピアノ・トリオが新メンバーでの今年のライブ盤

<Jazz, Electronica、New Jazz , Ambient, Experimental, Minimalist>

GOGO PENGUIN 「Between Two Waves In CENON 2022」
after-hours productions / ah22-125 / 2022

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Chris Illingworth(p)
Nick Blacka(b)
Jon Scott (ds)

  新世代ピアノ・トリオといわれるのGOGO PENGUINは英国マンチェスターで若き3人により結成された。2012年にアルバム『Fanfares』をリリース、2014年には2ndアルバム『v2.0』が権威あるマーキュリー・プライズにノミネートされ世界的な注目を集め、私が初めて接したのはこのアルバムだった。
Uccq1138_ujq_extralarge  2015年ブルーノートと契約し、アルバム『Man Made Object』(2016),『A Humdrum Star』(2018)をリリース、そして2,020年には『GoGo Penguin』(→) と自己名を冠したアルバムで話題に。そして今年『Between Two Waves』などの2枚のEP、そしてリミックス作品を発表している。

 メンバーはクリス・アイリングワース(p)、ニック・ブラッカ(b)、ジョン・スコット(ds)(過去のメンバー : ロブ・ターナー (ds)グラント・ラッセル (b))である。
 “アコースティック・エレクトロニカ・トリオ”として、各種のフェスへ出演し、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールやNYバワリー・ボール・ルームといった世界に知れる会場でソールドアウト公演を行って来た。

1145346520220218165749_b620f517d09d0e  しかしこのところ、活動はコロナ禍やロブ(ds)の脱退で低迷していいたが、新たに実力者のジョン・スコットが加入してパワーアップして再始動を本格的に開始した。そして今年2022年の2月には最新録音シングル「Ascent」(→)を、独創的で革新的なインストに重きを置いた新レーベル「XXIMレコーズ」よりリリースし、7月には5曲入りのEP『Between Two Waves』を発表。この新作発表に伴い2年振りとなるツアーを開始したのであった。そしてそのツアーからつい先月2022年10月5日フランス、スノンのLE ROCHER DE PALMER公演を、80分に渡り完全収録したものがこれである (ブートではあるが、十分鑑賞に堪える録音。ちょっとドラムスの音が強く収録されているが)。

(Tracklist)
1.AllRes
2.Atomised
3.Signal inthe noise
4.Break
5.Bardo
6.Wave Decay *
7.The Antidote Is in the Poison *
8.Ascent *
9.Kora
10.Erased by sunlight
11.Kamaloka
12.Murmuration
13.Hopopono
14.Orotest
         (*印 新アルバムより)

 ジャズ、ロックの影響とともにエレクトロニックカルチャーやクラブカルチャーの雰囲気をミニマリストとして演じて見せて国際的に歓迎されたGOGO PENGUIN、ダンスフロアから瞑想的な世界にまで通ずる音楽を作成し、ピアノ・トリオによってアコースティックな新しい領域に我々を連れて行ってくれますねぇ。

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 M1."AllRes"のピアノの音・メロディー美しさからスタートして、あくまでアコースティックなピアノトリオの音世界に拘りながら最新のテクノロジーを駆使し表現の攻め続ける姿勢、特徴的なドラムスの展開が印象的なところは彼らの発想そのものだ。徹底した”人力”による機械的で規則的なリズムで勝負しようとするところも魅力的。
 そしてその後の曲もこうしたところをベースとして、手を変え品を変え展開する。結構複雑なフレーズをピアノ・トリオの様式へと取り入れ、さらにインプロビゼーションをはめ込み、人間離れしたテクニックによるアンサンブルをライヴで披露してしまう。あくまでも生演奏の可能性に拘っているのも事実で、打ち込みは一切使用していない生演奏。

 典型的なミニマムな展開でありながら、曲の流れが多様で美しさを備えた演奏は魅力的。新曲M8."Ascent"に聴けるように静の世界、そしてゆったりとしたリズムも味がある。
 M9."Kora"のメロディアスな演奏、M10."Erased by sunlight"の深淵な美を描くピアノ、M12."Murmuration"のベースとピアノが美メロディーを流し後半の盛り上がりが聴きどころの曲などお見事。

 彼らはやはりライブでの音世界がいい。クリスの演ずる叙情的・ロマンティックなピアノ音の世界に、アンバランスと思わせる機械的なドラムスの音の競合が新感覚に聴けるのである。
 そんな世界がしっかり描かれたこのライブ録音盤、彼らの健在ぶりと更に前進している様が感じられ、なかなか気が利いたブートであった。

252621__800_800_0 (参考)
最新作公式EP-Album『Between Two Waves』(2022) →
(Tracklist)
1Badeep 
2Ascent
3Wave Decay
4Lost in Thought
5The Antidote Is in the Poison

(評価)
□ 曲・演奏 :  88/100
□  録音   :   80/100

(試聴) 
"Kora"

*
"Atomised"

 

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2022年11月 1日 (火)

ダイアナ・パントン Diana Panton 「BLUE」

ややあどけなさの感ずるヴォーカルはデビュー(17年前)以来健在

<Jazz>

Diana Panton 「BLUE」
muzak / JPN / MZCF-1453 / 2022

1008553017

ダイアナ・パントン vocal
ドン・トンプソン bass
レグ・シュワガー piano
フィル・ドワイヤー saxophone
ジム・ヴィヴィアン bass

ペンデレツキ・ストリング・カルテット: ヤージー・カプラネック violin、ジェレミー・ベル violin、クリスティン・ウィワージク viola、ケイティ・シュライクジャー cello

Donthompson  ダイアナ・パントンは19歳の時にベーシストのドン・トンプソン(→)に見いだされた。トンプソンが務めるジャズ教室のワークショップに参加した彼女は、ジャズヴォーカルの虜になる。しかしその後フランスに渡り、パリ大学でフランス文学の学位を取得するという教養も積んでいるようだ。そしてカナダに帰国してから2005年に1stアルバム「・・・yesterday perhaps」でデビューしている。
 既に17年の経過だが、その多くのリリースアルバムの中で、恋の始まりを歌った3rd『ピンク』(2010年)、成熟した大人の愛をテーマにした『レッド』(2013年)に続く3部作の最後を飾る作品となる。アルバム・タイトルから知れる儚い恋の終わりや別れを歌ったトーチ・ソング集『ブルー』が遂にこのシリーズとして久々の登場。

 もともと彼女の特徴であるあどけなさを感ずるところと、素直な歌いまわしで、今回は愁いを帯びた歌声を披露。バックは、カナダの重鎮ドン・トンプソンはじめ、サックス奏者フィル・ドワイヤー、今年栄えあるカナダ勲章を受章した実力派ギタリストのレグ・シュワガーらが参加している。更に今回はペンデレツキ・ストリングス・カルテットも加わっての重装備。そして過去もそうだが録音が良いのも特徴で今回も期待が持てる。曲は彼女自身がセレクトしたあまりポピュラーでないものも含めて多く16曲だ。

Dianapanton2w (Tracklist)
1.メドレー:ホエア・ドゥ・ユー・スタート〜ある日ある時
2.イエスタデイ
3.ウィズアウト・ユア・ラヴ
4.ルージング・マイ・マインド
5.ディス・ウィル・メイク・ユー・ラフ
6.別れの始め
7.アイム・ゴナ・ラフ・ユー・ライト・アウト・オブ・マイ・ライフ
8.トゥ・セイ・グッドバイ
9.ミーニング・オブ・ザ・ブルース
10.想えば恋し
11.イッツ・オルウェイズ・4A
12.ジャスト・サムタイム
13.ハウ・ディド・ヒー・ルック?
14.ノーバディズ・ハート
15.春遠し
16.ユー・アー・ゼア

 こうしたトーチ・ソングって、結構やるせなさの原点に女の痴情がちらっと見せたりするんですが、このパントンの歌やその醸し出す雰囲気は声の質のあどけなさとは裏腹に相変わらず知性感を十分に漂ったものとして仕上げられている。
 女性の歴史として、若いときから『ピンク』、『レッド』と15年の経過の中で描いてきたところは、この『ブルー』に集結するところが、やっぱり人生の厳しさが浮き出てくる。
 ジャズ・ボーカルものとして私はバラードに代表するしっとりと歌い上げるのが好きであるので、こんな悲しい歌であっても歌詞が十分理解できずに曲の演奏と歌ということで聴いていると、それなりに落ち着いて聴けて結構いいものである。もともと彼女は激しい展開の歌というのはないので、年齢的にもある意味充実感がある。

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 イントロは、アカペラで物語の始まりをしっとり歌い上げ、M1."Where do you start?"の聴き慣れた別離の歌でスタート、そしてM3."Without Your Love "の失恋の歌で、テナー・サックスも顔を出し"居ないと何も出来ない"と言いながらも結構明るい展開。
 自分の愛を訴えるM5."This will make you laugh "M6.M7.では別れの時が来たと、そしてM8."To say goodbye"は戻ってきて欲しい心の歌。昔の私の若い頃好きだったセルジオ・メンデスを思い出して懐かしい。ここではピアノの音と共に美しく歌い上げている。歌詞の意味は別としていいムードだ。
 M10、M11、M12.でまだ思っていることを歌手上げ、M14."Nobody's heart"独りの寂しさ、しかしM15."Spring will be a little late this year"でこれから春に期待を持ち、M16."You are there"では落ち着いた自分の表現をする。
 過去の曲から、郷愁、後悔、悲しみなどの喪失の複雑な感情を探り、かすかな希望、癒しへの道の難しさの複雑な思いを探求しているようだ。

 とにかく歌詞が英語ですから私にはすぐ理解できないので・・聴いていると聴くものへの慰みにも聴こえ、そして子守歌的でもあって・・・私は再生時途中で寝てしまった。(笑い)

 とにかく彼女のアルバムはドン・トンブソンの努力もあるのか、いつも録音というか音が良いので聴いていても気持ちがいい。バックの演奏力も派手ではないが、曲を意識して落ち着いていて快演。

(評価)
□ 選曲・演奏・歌 :  90/100 
□   録音      :  90/100

(試聴)

 

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