<序言> 「灰とダイアモンドの世界」は・・・・映画「灰とダイヤモンド」、Rock「The Final Cut」
なれ知らずや、我が身をこがしつつ自由の身となれるを
持てるものは失わるべきさだめにあるを
残るはただ灰とあらしのごと深淵に落ち行く昏迷のみなるを
永遠の勝利のあかつきに、灰の底ふかく
さんさんたるダイアモンドの残らんことを・・・・・・
(ポーランドの詩人ツィプリアン・カミル・ノルヴィットcyprian kamil norwidの作品「舞台裏にて」にあるという一節である。訳は映画「灰とダイアモンド」の日本語字幕から)
<映画>
アンジェイ・ワイダ監督「灰とダイアモンド」=私の映画史(1) 1958 ポーランド映画
第二次世界大戦後のソ連体制下のポーランドにて、共産派新政権に対してレジスタンスに生きて悲惨な死をとげる若き闘士(マチェック)を描く。
バーにいた美しい給仕クリスチナとの愛を知り、生きることの意義を知る中で、自分のテロリストの意義は何か?悩みながらノルヴィットの詩”灰とダイアモンド”(廃墟と化した教会で、マチェックとクリスチナは愛を確認する時、そこの墓銘に”君は知らぬ、燃え尽きた灰の底に、ダイアモンドがひそむことを”を見る)と交錯して、ズビグニエフ・チブルスキー演ずる主人公の若者マチェックは、同じ国の人間同士の戦いに無惨な死の時を迎える。壮絶な彼の死のシーンは、観るものにポーランドという国の歴史的状況の複雑な厳しさとその悲劇を訴えてくる。
監督:アンジェイ・ワイダAndrzej Wajda
原作:イェジー・アンジェイエフスキーJerzy Andrzejewski
キャスト
ズビグニエフ・チブルスキーZbigniew Cybulski :Maciek
エヴァ・クジイジェフスカEva Krzyzwska : Krystyna
アダム・パウリコフスキーAdam Pawlikoski : Andrzej
世界歴史上(もちろん日本に於いても)、「灰とダイアモンド」という言葉が我々の耳にすることになるのは、やはりアンジェイ・ワイダの映画が大いにその役割を果たした結果であろう。その言葉の意味は、若き人々の生き様に強烈なメッセージを送っている。ポーランドの作家であり詩人であるノルヴィットは、歴史的な困難を抱えた国において、人間を深く見つめ、懐疑と聡明なる知力にて、人というものに迫ったという。
* * * *
音楽(ROCK)
Pink Floyd / 「the final cut」 1983
ロック・グループPink Floydを語るとき、結成当初のシド・バレット(今年2006死亡)は忘れられない存在であることは論を待たない。しかし、世界に彼らの存在を知らしめることになるのは、当初からのメンバーであるベーシストのロジャー・ウォーターズのコンセプト(その一つは「狂気The Dark Side of The Moon」=”月の裏側の世界”)、そしてブルージーなディヴィット・ギルモアのギター・サウンドが主役である。しかしウォーターズの存在したPink Floydの最後のアルバムとなるこの「the final cut」こそは、数多いロック界に残る名盤の中でも、一際灰の中に光る一粒のダイアモンドのごとく存在する。
a requiem for the post war dream by roger waters と記し、彼の父親(彼が生まれた直後に戦争に出征し、その戦いで死亡したためその後一度も会っていない)に捧げられたところに、彼のソロに近いアルバムであるとの評価は間違っていない。
ロック・アルバムというものの考え方や評価、音楽論に於いても、グループ活動が長い年月を経ると、その中には次第に相違が生まれ、亀裂が生ずるのは多くのグループが経験することだ。ピンク・フロイドも例外ではない。そして分裂の危機感ある緊張の中で作られたのがこのアルバムである。そのようなものであるだけに、逆に中身は濃い。ウォーターズの主張は先鋭化して前面に出る、そうしたことに対立したギルモアであるが、彼の奏でるギターのサウンドは極めて哀しく美しい。
このアルバムの最後の曲である”two suns in the sunset”に、ロジャーによって書かれた詩には、”灰とダイアモンド”という言葉が登場する。
ついに ボクは理解した
後に残された少数者の気持ちを・・・・
灰とダイアモンド
敵と友人
結局 僕らは皆おなじなのだ
(山本安見 訳)
(注: 最後の文章"結局 僕らは皆おなじなのだ"は、むしろ"最後の時を迎えたときは、僕らは全ておなじになってしまうのだ"と、訳す方が解りやすい)
と、ここにこのように”灰とダイアモンド”が・・・・・・・・。
この「Final Cut」の世界は、ウォーターズが英国の”フォークランド紛争”の悲惨な現実を見たときに、彼の問題意識による血が騒いだ結果であり、父親の戦死と交錯して、若い命を奪われていく無惨な世界に黙っていられなかった結果でもある。それはPink Floydとして長く繋がれてきた仲間とも袂を別にしてでも、このアルバムを通して訴えざるを得ないところに追い込まれたとみてよい。つまりそれは彼の生涯の戦いのテーマでもある為に。
そして一方、このアルバムの曲"southampton dock"には、息子を戦場に送る悲痛な母親の姿が歌われ、特に英国市民の善良な兵士の母親達の涙をさそうことになった。
このブログのプロローグでは、ここまでにとどめよう。しかし、この「灰とダイアモンド」のテーマはこれがスタートである。
(このブログには、各種の本の表紙、話題対象の写真、人物写真、音楽CDジャケ、映像DVDジャケ、又それらの内容の写真等多く登場するが、公開されたものに限定し使用いたします。”研究用にとして公開されたものを使用”という理由により、著作権には抵触しないと判断しています(著作権法32条)。・・・なお問題があればご連絡ください>真摯に対応いたします)
| 固定リンク
「文化・芸術」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 映像盤「US + THEM」(2020.10.05)
- 白の世界 (その1)5題 / (今日のJazz)大橋祐子Yuko Ohashi Trio 「BUENOS AIRES 1952 」(2019.02.26)
- 平成の終わりは平和の終わりでは困る? 2019年米国と日本の不安(2019.01.08)
- ロジャー・ウォーターズの世界~ストラヴィンスキー「兵士の物語The Soldier's Tale」(2018.11.03)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- ティグラン・ハマシアンTigran Hamasyan 「They say Nothing Stays the Same(ある船頭の話)」(2020.04.24)
- ピンク・フロイド PINK FLOYD アルバム「ZABRISKIE POINT」の復活(2020.06.01)
- ロジャー・ウォーターズRoger Waters 「US+THEM」Film 公開(2019.09.30)
- 抵抗の巨匠・アンジェイ・ワイダの遺作映画「残像」(2018.03.05)
「音楽」カテゴリの記事
- ジョン・バティステ Jon Batiste 「BEETHOVEN BLUES」(2024.12.05)
- ヨーナス・ハーヴィストJoonas Haavisto 「INNER INVERSIONS」(2024.11.25)
- コリン・ヴァロン Colin Vallon 「Samares」(2024.11.20)
- エミル・ヴィクリッキー Emil Viklicky Trio 「Moravian Rhapsody」(2024.11.30)
- アルマ・ミチッチ Alma Micic 「You're My Thrill」(2024.11.10)
「ROCK」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」(2023.10.08)
- ウィズイン・テンプテーション Within Temptation 「Wireless」(2023.08.12)
- ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」(2023.07.23)
- ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」(2023.06.23)
- イメルダ・メイ Imelda May 「11 Past the Hour」(2023.05.04)
「ピンク・フロイド」カテゴリの記事
- ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」(2023.07.23)
- ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」(2023.06.23)
- ロジャー・ウォータース Roger Waters 「The Lockdown Sessions」(2022.12.12)
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「Comfortably Numb 2022」(2022.11.25)
- ピンク・フロイド Pink Floyd 「Animals 2018 Remix」(2022.09.20)
「ロジャー・ウォーターズ」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」(2023.10.08)
- ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」(2023.07.23)
- ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」(2023.06.23)
- ロジャー・ウォーターズ 「ロシアのウクライナ侵攻」について国連で発言(2023.02.15)
- ロジャー・ウォータース Roger Waters 「The Lockdown Sessions」(2022.12.12)
「私の映画史」カテゴリの記事
- 私の映画史(25) 感動作ジョン・フォード作品「捜索者」(2016.06.15)
- 私の映画史(24) マカロニ・ウエスタンの懐かしの傑作「怒りの荒野 I GIORNI DELL'IRA」(2016.06.05)
- 懐かしの西部劇と音楽=モリコーネEnnio Morriconeとマカロニ・ウェスタン -私の映画史(23)-(2016.03.25)
- 「月の裏側の世界」の話 :・・・・・・・・映画「オズの魔法使」とピンク・フロイド「狂気」の共時性(2016.01.07)
「戦争映画の裏側の世界」カテゴリの記事
- アンジェイ・ワイダAndrzej Wajda監督 波乱の人生に幕(2016.10.15)
- 映画「カティンの森」~抵抗の監督アンジェイ・ワイダの執念~(戦争映画の裏側の世界-2-)(2010.07.21)
- 戦争映画の裏側の世界(1) 「戦場のピアニスト」:ポーランドと監督ポランスキーの悲劇(2010.03.28)
- 私の映画史(4) : 衝撃の映画「攻撃 ATTACK!」(2009.10.29)
- <序言> 「灰とダイアモンドの世界」は・・・・映画「灰とダイヤモンド」、Rock「The Final Cut」(2006.12.24)
「アンジェイ・ワイダ」カテゴリの記事
- 抵抗の巨匠・アンジェイ・ワイダの遺作映画「残像」(2018.03.05)
- アンジェイ・ワイダAndrzej Wajda監督 波乱の人生に幕(2016.10.15)
- ブログの製本化=「ココログ出版」終了に思う~アンジェイ・ワイダ、ロジャー・ウォーターズ(2013.09.24)
- 「灰とダイアモンド」のアンジェイ・ワイダ氏からの手紙 : 東北関東(東日本)大震災(2011.03.21)
- 映画「カティンの森」~抵抗の監督アンジェイ・ワイダの執念~(戦争映画の裏側の世界-2-)(2010.07.21)
コメント
こんにちは。僕のおじいちゃんも戦争体験しています。もう亡くなってしまいましたが尊敬していました。『ファイナル・カット』は高校時代友達と一緒に聞いたです。
投稿: 西山智(さとる) | 2010年4月27日 (火) 12時38分