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2006年12月25日 (月)

音楽(ROCK)=映画サウンド・トラック「風が吹くとき」

音楽(ROCK)  ORIGINAL SOUND TRACK 「WHEN THE WIND BLOW(風が吹くとき)」 
 ROGER WATERS & THE BLEEDING HEART BAND他   Virgin Records (UK / 1986)

Photo   レイモンド・ブリッグス著「When The Wind Blow」のジミ-・T・ムラカミ監督により映画化された映画のサウンドトラック。特に聴きモノは、後半ロジャー・ウォーターズによる10曲。そしてその他、DAVID BOWIE, HUGH CORNWELL, GENESIS, SQUEEZE, PAUL HARDCASTLEらの5曲より成っている。

 ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイド脱退しての最初のソロ・アルバム「THE PROS AND CONS OF HITCH HIKING(ヒッチハイクの賛否両論)」を1984年リリース。そしてそれに続くアルバム「RDIO K.A.O.S」(1987)をリリースする間の時期に作られたモノ。特にこ映画は核の恐怖を実直な老夫婦の日常生活を通して描いたアニメーション映画で、その中に流れるウォーターズの10曲は、当時結成していたthe bleeding heart band の演奏である。それらは主としてインストゥメンタル・ナンバーではあるが、あの彼の所属していたものとしては最後のピンク・フロイドのアルバムとなる「The Final Cut」から流れている彼の核の恐怖、無意味な戦争に対しての”警告”が再びここに見られるのだ。更にこの後には、彼はアルバム「RADIO K.A.O.S」、「AMUSED TO DEATH(死滅遊戯)」とその意志は営々として繋がって行くのであった。

Photo_2 この映画「風が吹くとき」の日本版は大島渚が監督を担当したことでも話題になったが、この映画タイトルである「When The Wind Blows」を曲名にとったデビット・ボウイの曲はシングル・ヒット曲でもあった。

 さて、このサウンド・トラックCDであるこのアルバムを日本で発売された際の、ライナー・ノーツを担当している市川哲史氏が書いた内容について触れてみたい。
 この映画の「核の恐怖」のリアルなシーンに使われている曲を作りそして演奏しているのはロジャー・ウォーターズだが、彼はかって所属していたプログレッシブ・ロック・グループ=ピンク・フロイドの”精神”でもあり”核”でもあった。そしてそのピンク・フロイドについての解説はあらゆるところで目につくのであるが、真にリアルタイムに彼らのアルバムやライブに接して来ていない偽解説者の話はうんざりする。そんな場当たり的解説内容に極めて不満を感じている私であるのだが、このCD(アルパム)にみる市川哲史氏の解説は、ロジャー・ウォーターズから原点のピンク・フロイドに言及し、その内容には一見の価値があることを知っていただきたいと思うのである。
  
~市川哲史「風が吹くとき」ライナー・ノーツ(一部)~
 ・・・・・・・抽象性がそうした明確な意志を持って展開したのが「狂気」であり、その意志とはウォーターズそのものに他ならなかった。誰の心の中にも存在する不安感と、その究極の形である狂気を、真摯な言葉と周到な音楽でもって表現したのである。イマージネーションが牙を剝いたのだ。
 続く「炎」は狂気による破綻者になれない自分たちの敗北宣言であったし、「アニマルズ」は直接的な社会風刺、そして「ザ・ウォール」は個人をないがしろにする社会を徹底批判するにまで発展する。それがウォーターズの意図である事は、今更言うまでもあるまい。
 ・・・・・・・この「弱者の文学性」があったからこそ、幾多のプログレッシブ・ロツク・バンドが音楽的に行き詰まり自然消滅する中、フロイドだけが長く生き残れたのだ。~~優秀な批判性を備えたバンドとして。
 では何故、ウォーターズは「個人」の存在に対して、ここまで真正面から対峙せねばならなかったのだろうか。図らずもウォーターズ最後のフロイド作品「ファイナル・カット」で、その理由が明らかになった。直接的には82年4月に勃発した「無意味な戦争」フォークランド紛争が契機となってはいたが、実は第2次世界大戦で死んだ父親へのレクイエムであり、そしてウォーターズは自らのトラウマに決着をつけるべく、「ファイナル・カット」を作らざるを得なかったのだ。
 ・・・・・・自らが狂気寸前にまで追い込まれるほど、自己の内面を強力な被害者意識と共に探求してきたウォーターズだけに「アニマルズ」以降、彼は一貫して「警告」を発して続けてきた。だからこそ「風が吹くとき」におけるウォーターズの10曲には、単なるサウンドトラックに終わらぬ真摯さが満ちている。
                                   (以上一部)


Roger  1960年代からその若者の音楽として生まれ今日に至っているROCKというのは、その時その時のその時代を背景に生まれ育ってきたものであり、時代背景なしに語れるモノでない。
 ロジャー・ウォーターズが自分の父を第二次世界大戦で失い、顔すら知らず母のもとで育ち歩んできた彼の人生の中にROCKの存在があり、彼のコンセプトも築かれている。ウォーターズにとっては音楽の追究と同時に、彼の被害者意識と人生の不安をベースにして、社会において批判的立場から主張するといったことにおいてROCKが存在しているのだ。
 プログレッシブ・ロック(いずれこれについても私の分析を書きたい)の世界の中で、音楽性のみにとらわれて来たものは消滅する運命にあった。その中で、ピンク・フロイドが生き長らえた重要なアルバムは「ANIMALS」(1977)にある。このアルバムについてはサウンド的には、過去のピンク・フロイドからの変化に一般の評論家はついて行けず、当時はその価値観を見失っていた。しかしあの時代は、形骸化したROCKに対しての反作用としてパンク・ロックが勢いを持った時であり、まさしくその時にウォーターズは、このアルバムによりピンク・フロイドをして時代の批判者に仕上げることでその価値を高め、自己のむかう方向を明解にしたのである。つまりウォーターズにとっての「ロックの価値」とは、”彼の人生の中から生まれるものとしての価値観”にゆき着くことになったのだ。
 そして彼がその後も築き上げたアルバム作りがコンセプトを持った「THE WALL」を産み、「THE FINAL CUT」を作らせるのである。そうしたシリアスな彼の生き方や音楽作りに、ついてゆけなくなった他のメンバーとの亀裂が生まれ、そしてピンク・フロイドの崩壊に至った。しかしその後において、一メンバーであったギルモアによる彼(ウォーターズ)抜きのピンク・フロイド再結成となり、彼の裏切られた心情は、実はこの「風の吹くとき」にも繋がっているところが・・・注意すべきこのアルバムの重要なポイントでもある。
 「ANIMALS」にはあまり深くは触れてはいないが、そんな裏にある重要なポイントをライナー・ノーツで解説している市川哲史氏の観点は、ピンク・フロイドそしてロジャー・ウォーターズを語るに十分な視点を持っていると私は評価する。今日はそんな点を強調して、一度はこの「風が吹くとき」のアルバムや映画に触れて欲しい事を望んで締めとする。
                      (2012.12.26 加筆)

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