Bootlegから見るピンク・フロイドPink Floydの真髄(3)「原子心母」
ATOM HEART MOTHER「原子心母」は傑作か駄作か?
1970年のピンク・フロイドは、’69年の彼らの目指すものが定まらず、ロジャー・ウォーターズのシド離れと代役ギルモアのバンドのギタリストとしての売り出しも進んではいたが、経済的にも不安定期の継続であった。組曲(The Man,The Journey)の試みも映画音楽への興味と経済事情で映画「モア」への提供で崩壊し、更に「Zabriskie Poibt砂丘」のサントラ、そしてロジャーは個人的友人のロン・ギーシンを手伝い「The Body 肉体」のサントラ制作と続いた後の纏まった仕事が出来ずにいた。しかし、必ずしも意見が一致していたわけではない彼らにとっても、何かを求めていたことは事実である。
’70年代のピンク・フロイドのライブ映像ものは意外に少ない。一応まともな映像としては、この左のDVD「PINK FLOYD San Tropes, France Augast,8,1970」である。ここでは”Atom Heart Mother原子心母”が見れる。そもそもこの曲は、彼らが目標を失っていたときに、たまたまギルモアがリハーサルの休憩中にその主旋律を弾いたのを聴いたロジャーが関心を持って大いに触発した。更にライトも旋律とヴァリエーションを加え、そして4人の共同作業が二十数分の曲として仕上げた(最終的にはメイスンがこの曲作りには貢献度が高かったようで、彼が筆頭にクレジットされている)。
当初は”Theme from an Imaginary Western(幻想の西部劇のテーマ)”と名付けられていたが、一説によるとその初期バージョンは”The Amazing Pudding”というタイトルで’70年1月23日パリで初演されたとしているが、しかし実際にはその年の1月17日にCottingham,Yorkshire,Englandで既に登場している。もともとピンク・フロイドというバンドは、ライブで新曲を披露し、それを何回か演奏する中で仕上げてゆく手法をとる。そしてこの年の10月にアルバム「原子心母」発表となるのである。アルバムの”原子心母”はチェロと金管楽器オーケストラそしてコーラスが入って仕上げられているが、もともとはそうでなく、バンドメンバー4人による比較的単調なゆったり流れる曲であり、収集に困った曲でもあったようだ。このDVDでは、ブラスバンド、コーラスなしであるが映像はTV用プロショットで、当時のものとしてはずば抜けて良い。
さて、DVDとしては、この”原子心母”(ロジャーがAtom Heart Mother というタイトルを雑誌の”心臓ペースメーカーで生きている妊婦”の記事を見て付けたと言われる)をブラスとコーラス入りで仕上げた最初のものを収録しているものに「PINK FLOYD Archives Vol.one 」 (左:クリックにより拡大)がある。これは有名な BATH Festival 6.28.1970の収録したもの。相当にひどいモノクロ画像ではあるが、これもプロショットである。ブラスバンドの演奏もかなり程度が低いものに聴ける。 又、テンポもゆったりでフロイド・メンバーが合わせるのに苦労しているところが解る。しかし当時のフロイド・メンバーの葛藤を沈めるにはいい曲作りと演奏作業であったと言えよう。
更にこの”原子心母”の映像ものとして、参考までに’71年8月6,7日の日本公演、伝説の箱根アフロディーテを収録している「PINK FLOYD Video Anthology Vol.2」がある。(これもとぎれとぎれで褒められた代物でない)
ピンク・フロイドが当時のライブで主として演奏したものの流れは、①Set The Controls for The Heart of the Sun そして②Careful with That Axe,Eugine ,③組曲The Man & The Journey ( Cymbaline , Green is The Color )で、その後の一つの曲がり角であった時の、気休め的曲としてこの”原子心母”があったと言って実は過言でないようだ。そして彼らはアルバム作りにおいて、混乱し収拾着かずで、ロジャーはそれを彼の友人で、クラシックにも通じていたロン・ギーシンに預けてしまった。これが良かったか悪かったか?>彼らは実はこの曲そして演奏に大した意味を持っていなかったという。しかし、ギーシンは旋律の追加、ブラスバンド、チェロの導入など巧みにこなし、当時ロックがクラシックとの融合がプログレッシブとして評価がされつつあった時にうまく流れを得て、10月発売のアルバムはジャケの出来も度肝を抜いて好評で、圧倒的支持を得ることになった。ピンク・フロイドは世界的にプログレッシブ・ロックの代名詞として受け入れられたのだ。これは幸いにして彼らを分裂解散寸前であったものから、一つのバンドとしての結束を強いられたことにもなったのだ。
* * * *
”原子心母Atom Heart Mother”ライブ収録のCD
「Pink Floyd URTRA RARE TRAX Vol.3」TGP-CD-116
Recorded live in London for John Peel Sessions,April 1970
このCDはブラス・バンド、コーラス入りでサウンドもかなり良好。ただし’70年4月はフロイドは北アメリカツアーに出ていること、この時期にここまでこの曲は完成していなかったことなどから記録の日は異なると考えられる。
「Pink Floyd LIBEST SPACEMENT MONITOR」TSP-CD-027 live at the Playhouse Theatre,London,Sept.16,1970(ブラス、コーラス入り)
これは当時音質Aクラスで話題のTHE SWINGIN'PIGのCDで25分の演奏。バイクの音なども入って完璧。アルバム発売の直前ものでチェロは入っていない(ライブではチェロは入らず)。ブラスもBath Festivalものより洗練されている。
「PINK FLOYD LIVE AT WINTERLAND」TSP-CD-170-2 Recorded live at Winterland,San Francisco, Oct.21,1970
これも音質良好、ただしブラスとコーラスはない。アルバム発売時の演奏で気合いが入っている。実は私はブラス・バンドやコーラスのない演奏のほうが彼らの演奏に身が入っていて好きだ。この曲もかなりライトのオルガンが奮戦しロジュャーのベースも曲の展開をうまく刻む、そしてコーラスのないことが逆にギルモアのギターとともに効果を上げている。特に中間部のギルモアのハミングというかスキャットというか流れる歌声も味を出している。私のお薦めはこの曲はブラス、コーラスなしのライブものである。
「Pink Floyd Live at Fillmore West 1970」ABP-065 Recorded live in San Francisco,Fillmore West,Oct.21 1970
バイクなどの音は入るが、ブラス、コーラスなし。音質はBクラス。特に勧めることはしない代物。
「PINK FLOYD A psychedelic night part Ⅱ」PYCD039 live at Sheffield ,England,22-12-1970
これは一時フロイドものを多くリリースしたTRIANGLEレコード。ブラス、コーラス入り。やはりブラスはロックのリズムにおいてはスローになる傾向にありこの日はこの曲は32分の演奏。音質はTSPのように素晴らしいものではないが、聴くに十分ではある。又、アンコールとしてオーケストラなしで一部再演している。
「PINK FLOYD M-502」AYANAMI-162 live at Grosser Saal,Musikhall,Hamgurg,Germany Feb.25 1971
これは名盤である。ブラス、コーラス入り、音質も良好。演奏もアルバムの好調さをそのまま反映し28分の熱演。お勧めの一枚。ピンク・フロイドはこうしてこの曲の好評から、4人それぞれの不安定の中ではあったがライブは充実し、次の曲作りにも意欲が出てきたわけである。
「Pink Floyd Echoes of japanese Meddle」STTP153 live in Hakone ,Japan Aug.6 1971
あの伝説のアフロディーテもの。観衆の笑い声、話し声、叫びもはいるが、まあそれなりのもの。もちろんブラス・バンドやコーラスはない。霧にまかれたステージを思い浮かべて欲しい。ギルモアの声はかなり効果十分に響き渡る。15分45秒の演奏。
「APHRODITE Pink Floyd」DS94J058
これもアフロディーテものとなっているが、どうもアフロディーテの後の8月9日の大阪フエスティバル・ホールでの録音と思われる。15分45秒の演奏。ブラス・コーラスなし。
とにもかくにも日本に来たピンク・フロイドということで貴重盤であることには変わりはない。かなりコンパクトにまとめた”Atom Heart Mother”。
「PINK FLOYD Live In Montreux 1971」TSP-CD-071-2 Recorded live at the Montreux Jazz FestivalMontreux,Switzerland,September 18/19 1971
ブラス、コーラス入りで、何度かのライブ演奏の積み重ねの後であり完成された演奏を展開。コーラスが中間部で効果を上げ、それに続いて4人の演奏の掛け合いが結構面白くなっている。後のECHOESを思わせる作風が興味ある。さすがSWINGIN'PIGのCD、アルバムを凌ぐ名盤である。Atom Heart Mother も変化を遂げている。30分の感動演奏。一度は聴いて欲しい代物。
「Pink Floyd Return of the Soons of Nothing」 Recorded at Lisner Auditorium,WAshington,D.C.,Nov.16,1971
既にこの曲を演奏しての’71年の末に近い時期のもので、西部劇のテーマだとして制作に入って2年近くになって、完成の域にある。ブラス、コーラスなしのこの演奏も又完成期のものとして興味ある。コーラスのないタイプはギルモアの声が響いてもっと深淵の世界に導いてくれるし、それぞれの演奏が(オルガンがギターがそしてベースがドラムスが)肌に伝わってくる。こうしてブラス、コーラスのあるものとは異なった原子心母の曲になる。(私は個人的には、このタイプの演奏が好きだ)
Atom Heart Mother は傑作か駄作かは実はどちらでもない。フロイドのメンバーからは作り直したい作品の代表的なものであったようだが、この時代を4人のバンドとして生きていく重要にして欠くことの出来ないポイントとなった曲である。
そしてギーシンにより作り上げたアルバム「原子心母」の評価は良かったことが更にそれを後押しした。そしてあの名作ECHOESに繋がる作品でもあったことは、意義が大きい。こうして葛藤の中にいた4人のピンク・フロイドは、この曲の流れから世界的バンドとして作り上げられていくことになる。
(参考視聴)
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