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2008年5月13日 (火)

Bootlegから見るピンク・フロイドPink Floydの真髄(5)「エコーズ」(その2)

”エコーズEchoes”から始まるピンク・フロイドの挑戦

”Return of The Son of Nothing”(ECHOES エコーズ)は、1971年1月に4人のメンバーから持ち寄られた36種にも及ぶフレーズをスローな4分の4拍子を主体として構築して作り上げられた共同作業の結晶の曲であった。しかし、そうした共作ものであったが故に実験音の挿入とドラマティックな曲展開として音楽的評価が得られたことの裏腹に、ロックとしてのメッセージに欠けていたことも事実であった。(曲のタイトル自身、ビンソンのエコー・ユニットを使用してのライトのキーボード音、そして他の楽器にもエコー音を効かしたことより”エコーズ”に変えられた経過がある)

72floyd  もともと、演奏活動に反体制的批判精神とコンサートそのものに刺激的展開を試みていたロジャー・ウォーターズは、この”エコーズ”の成功こそが、彼にとっての反省と新たな試みへのスタートとなるのであった。

 1971年のNorth American Tour を終えて、1972年1月20日に UK Tourがスタートするに、”原子心母”そして”エコーズ”を中心とした演奏曲構成の冒頭に、彼はついに彼自身の作詞作曲の”Dark Side Of The Moon”をぶつける実験に入った。そして直ちに、”原子心母”を落とし、実験色の強い”Careful With That Axe Eugine”はそのまま継続させ、ピンク・フロイドの性格をロジャーの意志の方向に向け始めた。続いてのJapan Tour も同様であった。そして4月にNORTH AMERICAN TOURにおいても同様の選曲で、疎外感的ニュアンスと人間の狂気をコンセプトに持つステージに変えていく。この”Dark Side of the Moon”は、1973年のピンク・フロイドの歴史的最大のヒット・アルパム(「狂気」)のタイトルであるが、この時よりその試みがスタートしている。そしてこの曲は後の”Brain Damage(狂人は心に)””Eclipse(狂気日食)”となっていく。

 しかし、いずれにしても”エコーズ”はライブにおいても人気曲であり、この後1975年まで彼らのツアーではSet List に入っている。

 1973年は、ライブ演奏曲に、1972年リリースされたサウンド・トラック・アルム”Obscured By Clouds”が加わるが、この当時の彼らのライブは、次第にアルバム「狂気」への変化が窺い知れる。これこそがロジャー・ウォーターズの世界が進行していると言える。又、同時にギルモアのブルージーなギターにも磨きがかかってくるが、ライトの出番は少なくなってくる。

Blackholesinthesky
「Black Holes In The Sky」GDR CD 9101 Wembley,London Nov.16 1974
 「狂気」発売後の彼らの有名な BRITISH WINTER TOUR もの。音質良好、完成された”エコーズ”が聴ける。

Hogsinsmog75 「Hog's In Smogs '75」STTP 108/109 Ap. 27 1975
 既に発売されているアルバム「狂気」の全曲、そしてロジャー・ウォーターズの挑戦はエスカレートして、’74年FRENCH TOURに登場した”Raiving and Drooling””You've Got Be Crazy”(アルバム「アニマルズ」の主曲)が登場しているが、相変わらず”エコーズ”の演奏は続けられ、この時になると Dick Parry のSaxophone が加わり、「狂気」の演奏スタイルに近い”エコーズ”への変化がみれる。

Holeinthesky「HOLES IN THE SKY」HL 097/098 Canada 6.28.'75
 これはかなり観衆のうるさいオーディエンス録音もの。ここにもSaxophone の入った”エコーズ”が聴かれる。そして演奏の主体はアルバム「狂気」この年リリースの「炎」それに加えて”Raving and Drooling”(後の”SHEEP”)、”You've Got Be Crazy”(後の”DOG”)と、後のアルバム「アニマルズ」の展開で、中身も濃い。

Crazydiamond 「CRAZY DIAMOND」PYCD 059-2 USA June 18 1975
 当然、上記内容と同じである。アルバム「狂気」この年の「炎」そして1977年へ繋がる「アニマルズ」に及ぶ演奏。特に”Raving and Drooling””You've Got Be Crazy”の2曲となると、メッセージ性が高くなり、ここでも演奏されている”エコーズ”とは別のハード・ロック的曲展開が目立ってくるものとなっている。まさに、ロジャー・ウォーターズの世界が濃厚となり、特にライトの締める位置はなくなってきている。

 ”エコーズ”は、ピンク・フロイドの存在を繫ぐ大きな役割を果たした4人による共作の最も典型的な曲であった。しかし、メロディー重視のデヴィット・ギルモアとリック・ライト、コンセプト重視のロジャー・ウォーターズ、中庸をゆくニック・メイスンと、それぞれの考え方、生き様の違いは次第に浮き彫りになってゆく。そうした異なった4人のバランスがかえって相互作用により歴史的名曲を作り上げたことも、レトロスペクティブに見れば、間違いないことである。この流れは”エコーズ”で完成し、アルバム「狂気」で結実する。
 しかし、この後のパンク・ロック・ムーブメントの中では、特にロックの世界では、メロディー重視音楽趣向は叩かれ、多くのバンドがつぶれていったことも事実であり、そんな中でピンク・フロイドが唯一存在し巨大化してゆくことが出来たのは、ロジャー・ウォーターズの挑戦的コンセプト主義が最も重要な役割を果たしている。しかし次第にハード・ロックに傾く曲作りの中で、ピンク・フロイド色を失わずに色をつけたのはデヴィット・ギルモアのギターがやはりこれも重要な位置にあったと言えるのだ。

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コメント

はじめまして。
Pink Floyd/Echoesについての記事を拝見しました。
スタジオ版が完璧なものだと思っていますが、ブートレグも面白いですね。

アートとしての音楽という意味では最高のものだと思っています!

投稿: 夜明けの口笛吹き | 2019年9月10日 (火) 20時07分

夜明けの口笛吹きさんでよろしいでしょうか、コメントどうも有り難うございます。
 十年以上前のブログ記事へのコメントでビックリしましたが、よろしくお願いします。
 「Echoes」はPink Floydの方向付けに重要な曲であったのは事実ですね。曲の完成度を身につけたのですが、ロックとしてのメッセージ性に乏しいとの批判には、ロジャー・ウォーターズをして刺激したことは非常に意味あります。そして彼のメッセージに重きを置きつつ更なる完成度の高い「狂気」に至ったことが重大でした。ウォーターズ・フロイドの時代を迎えることになったのです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年9月11日 (水) 19時53分

風呂井戸さん、返信ありがとうございます。
「夜明けの口笛吹き」という名前は適当につけました(笑)気に障ったら申し訳ありません。

Echoesの解釈について、私は少し違った考えを持っています。
風呂井戸さんの書かれたことを批判するつもりはないのですが、対立的な書き方になってしまうかもしれません。
私は20代後半なので、当時の評価など詳しいことは分かりません。色々教えてもらえると嬉しいです!


Echoesはメッセージ性に乏しいという批判があったとのことですが、実は私はこのことにいまいち納得できません。

メッセージ性が乏しいとされたのは、詩による表現が少なかったのが一つの要因かと考えました。
その詩も抽象度が高く、音による表現が大部分を占めるので分かりづらかったのではないでしょうか?

Dark Side of The Moon~The Wallsの作品が人間社会における問題提起をするものならば、Echoesの世界観はさらにスケールの大きな、宇宙的といってもいい普遍性のあるものと考えています。
後続の作品と比較しても、メッセージ性に欠けるとは思いません。

それをメッセージ性が乏しいと言ってしまうのは、詩の深い意味、曲の展開によるストーリー性について考えてないだけなのでは、と思ってしまいます。

少々不遜な物言いになってしまいましたが、風呂井戸さんがどのようにお考えになるのか、聞かせていただけると幸いです!

投稿: 夜明けの口笛吹き | 2019年9月11日 (水) 21時56分

"夜明けの口笛吹き"さん、ピンク・フロイド論嬉しく楽しく拝見しました。
おっしゃることは理解しているつもりです。実はロックの流れの中での評価というのは、その時代の産物であって、レトロスペクティブにみると実は全く異なった評価にもなりかねません。
 1970年代になって、プログレシブ・ロックは全盛期を迎えるのですが、既に60年代末から米国ではニューヨーク・パンクの流れが芽生え、ロックン・ロールの持つ攻撃性、反社会性を取り戻そうと・・・、そしてそれは確実に英国にも伝わって、パンクは、メロトロンやシンセサイザーなど使っての音楽性を求めたり、早弾きなどの技巧を競っていた当時のハードロックやプログレッシブ・ロック・シーンに対する反発が色濃くなり70年代中頃に全盛期を迎えるんですね。丁度パンクが芽生えた70年代初めに"Echoes"はリリースされたわけです。従ってそこにはロックとしての一部の反発は当然あったわけです。パンクの音楽的特徴としては、簡素なロックンロールへの回帰を志向している流れで次第に主流化して、キング・クリムソン、イエス等のプログレは70年中頃に崩壊してしまうんですね(後に再興するのですが)。そうした時代の中で「狂気」の音楽性と同時に、ウォーターズの社会への懐疑・批判が米国で評されたのがフロイドの頂点なんです。そして「炎」「アニマルズ」と彼らはパンクの流れも克服して行くんですね(「アニマルズ」が丁度その戦いの頂点です。その後パンクは消退してしまう)。
ロックの多様な歴史は60年代-70年代が面白いのです。"Echoes"の評価はそんな中での一現象だったのです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年9月12日 (木) 18時17分

≫風呂井戸さん

パンクは70年代中頃から盛り上がってきたイメージで、70年代前半からそういったムーブメントがあったという認識はありませんでした。

アメリカでも西と東で音楽性が違い、対抗意識があったんでしょうか

音楽に限らない話ですが、ジャンルという定義の中にコンテンツを押し込んで、二元論で語ろうとするのは、非常にもったいないなーと感じます。

現在でも、「プログレッシブ=変拍子や超絶技巧を用いた変態的で長い曲」というイメージも持つ人は多いですよね。

確かにプログレにはそういったものが多いですが、Pink Floydの作品は音作りも曲の展開もコンセプトも、いわゆるプログレとはスタンスが全く異なっていると思っています。

計算されつくされた無駄のない音楽、そこから見えてくるアート性に感動を覚えます。

けなすわけではないのですが、彼らの作品と比べてしまうと、ほかのアーティストのものは無駄が多いように感じられてしまうんですよね。


現在では音楽があまりに多様でジャンルのクロスオーバーも肯定的にとらえられることも多く、原点回帰だろうがエクスペリメンタルだろうが広く受け入れられてる感じがします。
というか、人が好きなものやスタンスに対してうるさくいわなくなったのか、あるいは気にしなくなったみたいな。

そういった意味では、単純な二元論で語られるだけではない、いい時代なのかもしれませんね。

ちなみに音楽性ではAtom Heart Mother、コンセプトではWish You Were Hereが好きです。
最近は60-70年代ロックはあまり聴いていませんでしたが、また聴きこんでみようという気がしてきました!

投稿: 夜明けの口笛吹き | 2019年9月13日 (金) 18時42分

夜明けの口笛吹きさん
おっしゃることが、見えてきたように思います。私のブリティッシュ・ロックの最も感動したのは、当初ピンク・フロイドの「神秘」、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」(このアルバムは、評判が伝わった頃、日本ではなかなか手に入らなかったんです。そんな時代です。)でした。実はビートルズは私はそれ程感ずるものがない中での出来事でした(むしろエルビス・プレスリーそしてCCRの方が魅力がありました)。
青春時代に60年代ロックをリアル・タイムに体験した人間のスタートでした。
そして当時「原子心母」はある意味で頂点でした(参照:http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/bootlegpink_flo_7901.html )。
それが70年です。そして時代の中でのロックを感じて来たんです。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年9月14日 (土) 23時46分

≫風呂井戸さん

さきほど「クリムゾンキングの宮殿」を聴き直してみたのですが、とんでもないですね。
当時を想像すると、この作品が与えた影響が途方もなく、その後の前衛音楽の流れを決定づけたことがよく分かりました。

作曲や技巧ももちろんですが、特にサウンドメイクが当時の他バンドと比較しても考えられないベクトルにありますね。

いきなり1作目からこの完成度のものを出したわけですが、むしろその前に何をやってたのか気になってきました。
この衝撃をリアルタイムで感じられたというのは、羨ましい限りです。
とりあえずレコードを入手しようと思います。


60年代のPink Floydも聞きこんでいくと発見があります。
私なりに彼らの素晴らしいと思っている点は、あらゆるプロセスに意味が感じられる点です。

「原子心母」について言えば、
・神秘
・モア
・ウマグマ
これらの作品を聞きこんでいくと、「原子心母」に至るまでの様々な試みが発見できます。

特に、
・A Saucerful of Secrets
・Careful with That Axe,Eugene
この2曲には、Pink Floydの曲の展開、コンセプトの原型が顕著に表れています。

曲全体ではネガティブなことを表現しているのに、その中にどこか温かさがあり、ディストピアを経験した枯れた世界の最後には一筋の光が見える、みたいな感じがします。

割と早い段階でこのような通貫するスタンスは固まっていて、時代が流れる中で新たな表現を追求していった姿がものすごくかっこいいと思っています。

数えきれない実験の中で音楽性が傑作に向かって収斂されていくプロセス、それ自体が芸術に感じられるのです。

投稿: 夜明けの口笛吹き | 2019年9月15日 (日) 20時15分

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