ピンク・フロイドPink Floydの始動と終結(4)
ピンク・フロイドの「the final cut」で終結するまでの道のり
巨大化したピンク・フロイドのスタートは、決してサイケデリック・ムーブメントに後押しされたシド・バレットの世界ではなく、ウォーターズ、ギルモア、メイスン、ライトのプログレッシブな実験的アプローチが、”70年代に構築された巨大ビンク・フロイド”の原点であることを語ってきた。。シド・バレットは今でも熱心なファンがいる。その世界は別物としての価値観で評価すべきだ。 前回までに強調したように、その萌芽は「夜明けの口笛吹き」の”Interstellar Overdrive”に見られ、「神秘」の”Set Controls For Heart Of The Sun”と”A Saucerful Of Secrets ”にて、ウォーターズを中心としてのある意味においては哲学的な、しかも一方リアルな部分を持った歌詞に導かれた実験的サウンドやインストゥルメンタル・ナンバーなどは、シドのポップ的ミュージックとは全く別の方向に進んだものだった。これこそまさにピンク・フロイドの始動であった。
日本で発売した当時のアルバム「神秘」のライナー・ノーツは八木誠が担当していが、”アート・ロック”という表現を出している一方、”すぐれた独創力と考え方をもっている”、”神秘的かつ悪魔的なムード”そして”このアルバムがピンク・フロイド・ブームの幕開けに大きな力を借すかも知れない。期待しよう”と、書いている。”悪魔的ムード”というところが、当時は日本ではそう捉えられたのか?面白いところだ。 この後の1969年の3rdアルバム「モア」は、「神秘」の成功でかなり自信を持ったロジャー・ウォーターズは、人間をテーマに組曲に着手。”the Man”,”the Journey”の作成と、ライブでの実験に入った。しかし当時の彼らにとってはおいしい仕事であった映画のサントラ(「モア」)に提供して、この組曲は空中分解する。(当ブログ”Bootlegから見るピンク・フロイドの真髄(1)「モア」「ウマグマ」2007.11.14”および”Bootlegから見るピンク・フロイドの真髄(2)「ザ・マン」「ザ・ジャーニー」2007.11.26”を参照) これが納められたこのアルバム「モア」は、当時のサウンド・スタイル(キー・ボードの多用)を非常に良く知ることが出来る。このアルバムこそ、意外にピンク・フロイドのそのものの姿であったように私には思えてならない。特に”Green Is Colour”,”Cymbaline”などは注目される。そして当時盛んにライブにて”Cymbaline”は演奏され、インプロビゼーションの醍醐味をも披露している。
そして1969年10月には4thアルバム「Ummagumma」をLP2枚組で発表。1枚目はライブ演奏の鮮烈さの記録とし、2枚目は4人それぞれが個々のカラーを打ち出した実験性の高い曲群を並列させた。このことは実は4人の音楽性が異なることをお互いに認識し、ここで実はピンク・フロイドは終結すると感じていたと推測される。しかし当時ライブ演奏していた続く5thアルバム「Atom Heart Mother 原子心母」の成功が、彼らをしてグループとして存続させることになる。
この「原子心母」については、*当ブログ「”Bootlegから見るピンク・フロイドの真髄(3)2008.1.1 ATOM HEART MOTHERは傑作か駄作か?」(http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/bootlegpink_flo_7901.html)を参照して欲しいが、実はこのアルバムのB面の"If"は、ウォーターズのシドとの決別の苦悩を表現しての彼のその後のアルバム作りの根核を示すことになり、一方"Fat Old Sun"には、ギルモアの曲作りの方向が顕著に見られ、"Alan's Psychedelic Breakfast"では、ウォーターズの他のロック・グループにない実験性を示している。そうした意味で、このアルバムのB面こそピンク・フロイドの世界であったのかも知れない。
そして1971年6thアルバム「MEDDLEおせっかい」では、"Echoes"にて、彼らの共同作業は音響面の実験性、スペーシーな世界の構築、フロイド・メンバーそれぞれの個性の組み合わせによるサイケデリックな展開などと一つの完成となる。そして一方ではアコースティックな曲群も披露して、彼らの止まるところのない発展性も覗かせた。
*当ブログ”Bootlegから見る゜ンク・フロイドの真髄(4)最もバランスのとれた傑作か?「エコーズ」 2008.5.7、 (5)「エコーズ(その2)」 2008.5.13 参照 ” ここに(1972年)再び映画サントラアルバムが登場する。7thアルバム「OBSCURED CLOUDS雲の影」だ。小品集の形ではあるが、ウォーターズの世界観が見え隠れして、更に彼らの持つ音楽の多様性を見せている。話題は少ないが、注目されるべきアルバムでもある。特に注目される曲はロジャー・ウォーターズにより作られた"Free Four"だ。自分の出生の悲劇をここに歌い込んでいる。"俺は死んだ男の息子だ。親父はたこ壺に詰めて埋められた"と、これは既に「The WALL」へのスタートが始まっている。
このサントラ版は、コンセプト・アルバムとしての世界観はなく、そのためか逆に、この後に彼らの最も偉大なるコンセプト・アルバムに繋がって行くことになる。
(続く)
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