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2009年1月11日 (日)

ピンク・フロイドPink Floyd の到達点「アニマルズ」

ピンク・フロイド博引旁証(2)

ブートBootleg 「PINK FLOYD / THE END OF ANIMALS」 が教えるところ

Photo この1977年発表10枚目のアルバム「アニマルズANIMALS」ほど、評論家にしてその価値観を2分し、更に聴くものをしてピンク・フロイドというバンドに疑問や驚きをもたらしたものはないだろう。早く言えば、ロジャー・ウォーターズの独壇場の始まりであると同時に、彼らが(彼が)社会に打って出たロック・バンドの姿でもあった。
 当時はロック界はパンク革命といわれるほどのニュー・ウェーブの流れの中で、前および前々作の「狂気」「炎」の2アルバムのごとくAOR化したピンク・フロイドは、当然やり玉に挙げられた。当時はピンク・フロイドと共にプログレッシブ・ロックの御三家と言われたキング・クリムゾン、イエスは完全に撃沈され、そうした中で、発表されたこの「アニマルズ」は、驚きの中で迎えられ、英国第1位、米国第3位とのし上がって見せたのだ。
 1月のアルバム発表後、彼らは”EUROPEAN TOUR”、”UK TOUR”に続いて”PINK FLOYD IN THE FLESH - FIRST NORTH AMERICAN TOUR”そして”PINK FLOYD IN THE FLESH - SECOND NORTH AMERICAN TOUR” と大々的に大会場での演奏活動に入った。驚くべき聴衆の強烈な反応と驚喜で迎えられた各地では、ピンク・フロイドが巨大化したロック・マシーンであることが嫌が上でも知らされることになる。もともとロックン・ローラーとは一線を画したインテリジェンスで社会批判感覚の塊でもあったロジャー・ウォーターズには、そのことが自己嫌悪にも陥る一つの現象でもあったという。
 そうした現象の典型は、この一連のツアーの最後を飾る7月6日モントリオール公演が全てを物語る(↓)。

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「PINK FLOYD / THE END OF ANIMALS」ayanami-150( 2CD) (Live at Olympic stadium, Montreal, CANADA, July 6, 1977)

 当時の全容をみる格好のブート・アルバム。
 この年、ドイツ公演(23.1.77 Westfalenhalle, Dortmund, West Germany)からスタートしたアニマルズ・ツアーも55回目にカナダのモントリオールで最終日となった。この年のツアーは、かってない攻撃的演奏を繰り返したピンク・フロイドであり、セット・リストを見ても解るように、アルバム「アニマルズ」の曲順を変え、中でも最もハードな曲である”Sheep”からスタートして会場を興奮の渦に巻き込んでいる。
Theendofanimals2 このブートCDに記録されている曲は、当日の模様は全て網羅している。更にロジャー・ウォーターズの興奮ぶりも手に取るように解る、録音されている彼の演説に近い会場でのコメントからもそれは見て取れる。

-Set List-
Sheep/Pigs on The Wing Pt1/Dogs/Pigs On The Wing Pt.2/Pigs/Shine On You Crazy Diamond Pts1-5/Welcome To The Machine/Have A Ciger/Wish You Were Here/Shine On You Crazy Diamond Pts6-9/encore:Money/Us And Them/Blues.


 当時のピンク・フロイドの攻撃的変容は、当然会場を訪れる一般大衆もそれに伴って変化し、かってのピンク・フロイド 演奏会場とは変わっていた。
 この最終公演の騒然とする会場で、”Sheep””Dogs”を演奏した後での、ほっとする救いとも言える”Pigs On The Wing Pt.2”、をアコーステック・ギターによるムーディーなロジャーの歌が始まった。まさにその時に、観客の中から爆竹が炸裂し、ロジャーは演奏を中断して抗議、これをきっかけにロジャーの興奮度は高まった。

Theendofanimals3  もともと、彼はロック産業の巨大化を批判していたし、その彼の思惑とは別の社会批判感覚の薄れたただ単なるお祭り騒ぎのコンサートに疑問を持っていた。そんな時にこのライブ会場では、彼の懐疑感情は最高潮に達してしまった。そして演奏者である自分と聴衆の間には、全く一体感は感じられなくなってしまっていたのだ。

 更に、ロジャーはバンドのメンバーの中でも特にこの「アニマルズ」制作においては、過去の幻想的でスペーシーなサウンドを基調としていたものから、一歩脱皮を図っていた。それが自己内省から社会挑戦に向かっての流れを強引に押し切ったことになった。しかしそのことはバンドの共同体すらも破壊する結果となり、彼には孤立化の認識も生まれた。
 これまでの努力して築き上げたバンドの流れから生まれた貴重なものが、こうした社会に飲み込まれ、そして流されている現在のピンク・フロイド・パターンであったことに、自己批判もこめてこれから自分の成すべき道を探っていた時であったのだ。その結果が、飾りから脱皮して、むしろストレートな演奏スタイルに固執し、テーマも特に”Dogs”に込められている実利主義の輩に対しての自己を含めての嫌悪感が基調であり、それをハードなサウンドを前面に出して作りあげたのである。

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 こうした意識の中で作られたアルバム「アニマルズ」、そしてそのツアーに於ける演奏会場において、かってのピンク・フロイドから現在に至る中で築いている感覚を知ろうとしないお祭り騒ぎは、最もロジャーの嫌ったものとなり、この最終公演においては、聴衆に対して唾を吐きかけるロジャーの行動すら生み出した。特に”Dogs”の約17分に及ぶ演奏は強烈で、アルバムにおいては聴けない挑戦的演奏になっている。ギルモアのヴォーカルから始まるこの曲も後半から終章に至る部分では、ロジャーの叫びが響き渡る。
 せめてこのアルバムの救いでもある安定剤的曲が”Pigs on the Wing Pt2”であるが、そこに爆竹の破裂音にロジャーの興奮は頂点に達して、その後の”Pigs”の演奏においてベースをブンブン鳴らしてのいら立ったロジャーが目に見えるように聴き取れる。そして彼のリード・ヴォーカルは叫びとなり、ギルモアのバッキング・ヴォーカルもいつもになく力が入っている。しかし何故かライトのオルガンだけは何時も通りに美しい。しかしその中にロジャーの叫びが聴衆に対しての挑戦をまざまざと見せており、アルバムでは聴けない形が印象的なこの終章であった。
 この記念すべきアニマル・ツアー最終公演は、混乱の中で後半の「炎」からの曲に繋がっていくが、なんとアンコールにおいてはギルモアはこの異常状況に納得できず、”Us and Them”の後、演奏を投げ出すに至る。
 結果は最後の公演を締めくくる13分に及ぶ”Blues”は、非常に印象的に同行ギタリストのスノーウィ・ホワイトのブルース・ギターにより導かれ、デック・パリーのサックスが3人に減ったフロイド・メンバーの演奏と共に会場に響き渡ることになった。まさに混乱の中の安定感で終わるのだ。

 このモントリオール最終公演は、実はこれこそがピンク・フロイドの至った最終到達点であった言える。常にロックの世界観において挑戦者でありプログレッシブであったロジャー・ウォーターズ、音楽的満足感に向かったギルモアとライト、この両者の違いはもはや共同体の形は難しかった。そんな状況が生んだツアーの異常状態はモントリオールで頂点に達し、「アニマルズ」というロジャー主導型作品を媒体に生まれたものであった。
 この後、メンバー4人が対等に作成する曲作りアルバム作りの作業はなかった(共同作業は「炎」で終わっていた)。「アニマルズ」はロジャーの心の爆発と過去からの決別であったし、彼のバンド・メンバーに対しても決別とそして自己の孤立化となった。これがピンク・フロイド・バンドの到達点でもあった。
 

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