私の映画史(4) : 衝撃の映画「攻撃 ATTACK!」
ロバート・アルドリッチ監督の執念が作り上げた衝撃の問題作
一口に戦争映画と言っても、その内容は千差万別、この映画に描かれる世界は、極限の状態に押しやられた人間の姿を描いた凄まじい戦争映画と言っていいであろう。
美化されるアメリカ軍部に対しての真の姿は何だったのか?、戦争下、その前線では何が起きていたのか?と、まさにアルドリッチ監督の反骨の精神の象徴のような不正に対する挑戦の映画。
当時、この映画製作に当たってはアメリカ国防省が協力拒否し制作中止を勧告したと言われている。しかしアルドリッチ監督は自費を投げうって完成させた執念の結晶らしい。
この映画を観た時は、そうした背景は知らずに、しかも私はまさに感受性の高い高校時代であって、私自身の人生の中でも、戦争映画という範疇では現在に至っても、最も最右翼にある屈指の名作と思っている。
監督・制作ロバート・アルドリッチ
脚本ジェームス・ポー
原作ノーマン・ブルックス
撮影ジョセフ・バイロック
音楽フランク・デ・ヴォール
(キャスト)
ジョー・コスタ中尉・・・ジャック・パランス
クーニー大尉・・・エディ・アルパート
クライド・ハーレット大佐・・・リー・マーヴィン
ハロルド・ウッドラフ中尉・・・ウィリアム・スミサーズ
(ストーリー)
第二次世界大戦末期のベルギー戦線を舞台に、ジャック・パランス演ずるコスタ中尉は臆病でしかも卑怯な無能な上官クーニー大尉により、部下を多数無駄死に同様の戦死に追いやられる。しかもそれを咎めないハーレット大佐、それには自己の戦後の利得のための野望の結果であった。再度にわたる上官クーニー大尉の裏切りにより、絶体絶命の窮地に陥ったコスタ中尉は、全てをこの上官を殺す為に戦火の中、鬼となり命をかけて部下の復讐を期す為に戦うのだ。 このジャック・パランスの凄まじい熱演は、彼ならものでありアルドリッチ監督の執念が乗り移ったかの感がある。
当時、ここまでもアメリカ軍の腐敗した一面を強烈に描き批判したものはなかったと思う。又、コスタ中尉が、男としての怒りを戦争の敵ではなく自分のいる軍隊の中に持ち、上官を殺す決断をするも、壮絶な死を遂げ、なしうることが出来なかった結末の姿に、戦争という究極の世界で何が起こるのか、何の為に多くが死んでいったのか?と我々に問いかけてくるのだ。
更に、正義のアメリカ軍、人道的なアメリカ軍として伝えられてきた戦争の中に、実際にはどちらにも醜い何かがあった事をこの映画は教えてくれる。ただ敢えて言えば、コスタ中尉の部下達や同僚のウッドラフ中尉らの生き様に、男の正義というものがあることを示した終章に、なんとか救いがあると言いたい。
■ 主演のコスタ中尉演ずるジャック・パランスJack Palanceは(1919-2006米国映画俳優)(←)は、日本では有名なあの西部劇「シェーン」の敵役、それから「革命戦士ゲバラ」のカストロ役などで知るところである。既に亡くなってしまっているが、彼の個性的な顔貌と演技はアメリカ映画史に燦然と輝き残っているところであるが、この映画こそ彼の最も彼らしい演技で埋め尽くされていると思う。
■ 執念で作り上げたこの映画のアルドリッチ Robert Aldorich 監督(→)は、後の映画「特攻大作戦」にみる単なる人間性という安易なものへの危機感、「ワイルド・アパッチ」などにも憎悪という人間感覚などを描いたと言われるが、残念ながら私は観ていない。しかし、この「攻撃」が反軍的な内容と烙印され、アメリカで上映禁止にされたなどの事実が残っており、彼はこの直後イタリアに渡っている。そして4本の映画を製作した。これは明らかにアメリカという自由が売り物の国においての、その表向きの世界と異なった圧力が彼を襲った事の結果であったろうことは想像に難くない。そして再びハリウッドに戻っての活動再開は、アメリカという国の腐敗にメスを入れ、反骨精神の塊のような作品群を作り上げたことの事実が残っている。
この映画、かなり以前にVHSビデオ・テープで家庭用にも販売され、その時は何はともあれ飛びついて買ったのを思い出す。今日(こんにち)においては、2003年と今年(2009年)にDVDで三度、我々に提供されている。戦争映画というものの世界を超えて、人間や社会に迫った価値ある映画であり、反体制的反骨精神から生まれた貴重な作品であることを訴えたい。
(視聴)
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