マリリオン marillion:プログレの一世界の新譜 「less is more」
アコースティック・ニュー・アルバムの登場
ウィッシング・トゥリー the wishing tree を取り上げた(前回)となれば、この大御所マリリオン Marillion に触れないわけにはゆかない。私がこのバンドに興味を持ったのはもう既に二十数年前のことになってしまう。考えてみれば彼らも長いキャリアを持ったバンドになってしまった。もともとプログレッシブ・ロックに傾倒していた私であり、あのキング・クリムゾン、イエス、ジェネシスなどが、形骸化してしまったプログレッシブ・ロックが総崩れしていった時に(ピンク・フロイドのみは1977年ロジャー・ウォーターズの決断「ANIMALS」で新展開)、我々の気持ちを繫いでくれた貴重なバンドである。
プログレについて語るとなると長い話になってしまうので、ここでは省略するが、1970年後半から1980年代にかけて、我々はユーロ・ロックにプログレを求め、一方クイーンズライクそしてフェイツ・ウォーニング、ドリーム・シアターのヘビー・メタルにプログレ感覚の開花を発見し、それに相対しての古きプログレの発展形としてマリリオンに期待したという時代を持った。
そのマリリオンの長き歴史の中で、今年なんと16作目に当たると思うが、この秋にニュー・アルバムに接することが出来たのだ(残念ながら、彼らのサイトから発売で日本盤なし、Germanyからの盤があり、我々はそれを手に入れられる)。
「less is More」 intact / ear music 0200602ERE 2009
このアルバムは、1989年ヴォーカルが現在のスティーブ・ホーガスに変わって以降のアルバムからの選曲により、アコースティックいわゆるアンプラグド作品である。
members
steve rothery : guiar
mark kelly : key.
steve hogarth : vocal
ian mosley : drums
pete trewavas : bass
彼らのスタジオ・オフィシャル盤では、初めてメンバーの写真がスリーブに登場しているし、ブックレットは全て彼らの写真で埋められている。又一曲を除いて過去のアルバムからの選曲のアコーステックな焼き直しということで、なにか彼らのバンドに変化があったか、変化をするのか、異様な感覚を感じながら聴いている。
一部、エレクトリック・ギターも聴かれるが、基本的には、アコーステイック・サウンドで落ち着いた曲作りでる。一時代をまじめに音楽を考えてやってきた結論だと言いたげなまとめ方で、何か意味ありげに静かに訴えてくる。それぞれの曲の録音も繊細に仕上げられ好録音である。
Go!
Interior lulu
Out of this world
wrapped up in time
the space
Hard as love
Quarts
if my heart were a ball
it's not your fault
memory of water
this is the 21st century
「Afraid of Sunlight」からの”Out of this world”、「Seasons End」からの”the space”などは、ゆったりとピアノとアコースティック・ギターが奏でる世界にホーガスの歌声が乗って感動を呼ぶ。近作の「Happiness is the road」からの”Wrapped up in time”は、ここではエレクトリック・ギターが泣いてみせる。又「Anoraknophobia」からの”Quarts”,”if my heart were a ball”は如何にもマリリオンらしい。
いずれにせよ、このアルバムは多分店頭では見られないかも知れないので、その気になって仕入れておいたほうがいいと思う。なにか彼らの集大成を意味しているようでならないからだ。メジャーからのリリースがなくなってしまった彼らのマイナー・レーベルのアルバムではあるが、同様の2部作の前作とともに聴き応えがあり、是非とも愛蔵盤に加えておくことをお勧めする。ここで少し前作にも触れてみると・・・・・・・・
別発売2枚の前作
「happiness is the road Vol.1”essence”, Vol.2”the hard shoulder”」MVDaudio MVDA4814 , MVDA4815 この2部作は、彼らの集大成的なものではないかと思って実は聴いていた。
これは昨年2008年に、やはりマイナー・リリースされたものである。既にメジャー・レーベルとは契約がない彼らは、こうして実験的アプローチよりは、自己の過去からの集大成的なアルバム作りをしているようにもみえる。そしてその内容は非常に過去にも増して美しくあり又渋いものになっている(Vol.1「essence」は比較的ポップに近い作りでありマリリオンへの私の期待とは若干異なっているが、終章になってのタイトル曲の”happiness is the road”でようやく彼らの作品作りのあの詩的でありしかも宇宙的に広がる展開の世界が聴ける。Vol.2「the hard shoulder」は、叙情性のある彼らの原点である「Brave」にみた壮大さを感じさせる曲が繋がる。私にとってはこちらのVol.2が好みの分野になる。なかなか久々にマリリオン節が聴けて嬉しくなるのだ)。これは彼ら自身の世界をむしろ流行に関係なく自由に作り上げているからなのかもしれない。
かって、ジェネシスとピンク・フロイドの中間的なバンドのイメージで出発したマリリオンであるが、当初のパンドの看板でもあったヴォーカルのフィッシュの独特の声の質と唄い回しがどうも私にはいまいちであった。そして現在のスティーブ・ホーガスに変わり、ジェネシスとの比較はされない彼らのネオ・プログレッシブと言われる世界を構築して来た。別の表現ではポンプ・ロックとも言われるが、その形の結果から彼らの人生観も含めての現在到達した世界が、このアルバム(特に Vol.2 )のような気がしてならない。
スティーブ・ロザリーのギターは、メロディーが美しい中に変化も繊細にそして大胆に響き、マーク・ケリーのキー・ボードも音空間をうまく作り上げる。このあたりは渋いピンク・フロイド的ニュアンスが感じられるが、ホーガスのヴォーカルは決定的に異なって、やはりマリリオンなのである。ただ気になるのは、この作風が「Brave」のような社会問題への挑戦的内容でなく、人生を達観してしまった感が見え隠れするところである。これからのマリリオンの存在意義を何処に求めるのか?不安でもある。
彼らの過去のアルバムも、こうした新譜が出たとなるともう少し紐解いてみたいと、今思っているところだ。現在私の手元には過去の10枚の彼らのアルバムがあるので、そのポイントを少々まとめてみたい(次回)。
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