私の映画史(5):「怒りの葡萄 The Grapes of Wrath」
アメリカ資本主義社会の歪みに生きる農民の怒りと生への執念
「怒りの葡萄 The Grapes of Wrath」 米国(20世紀フォックス・スタジオ)映画 1940年 128分 モノクロ
もちろんこの映画は制作年でなく、1960年代に私は観ることが出来たもの。(現在はデジタル画像化された映像で、DVDにて観ることが出来る)
日本においては、富める国の代表的なアメリカに於いても、このような悲惨な現実があったのかと当時は驚くとともに、ジョン・フォード監督の得意の人間模様を描く内容に感動したものである。
原作はジョン・スタインベック(社会派小説「The Grapes of Wrath」)であり、映画に感動してこの小説を買って読んだという私の経歴である。映画は小説の全てを終章まで描いているわけではないが、スタインベックの基本的精神は十分に描ききっていると思う。(実はこの終章にショッキングな感動があるのだが・・・)
監督 : ジョン・フォード
制作 : ダリル・F・ザナック
脚本 : ナナリー・ジョンソン
音楽 : アルフレッド・ニューマン
撮影 : グレック・トーランド
(キャスト)
ヘンリー・フォンダ : Tom Joad
ジェーン・ダーウェル : Ma Joad
ジョン・キャラダイン : Casy
チャーリー・グレイプウィン : Grampa Joad
ドリス・ボードン : Rose-of -Sharon Riveyrs
ラッセル・シンプソン : Pa Joad
(ストーリー)
殺人容疑で入獄していた主人公トム・ジョードは仮釈放で4年ぶりに故郷オクラホマの農場に戻るも、小作人のジョード一家はダストボウルと大規模資本主義農業の進展で、居場所が亡くなり立ち退いていた。叔父の家で家族と再会したトムは、大家族皆でボロのトラックで家財道具を積み込んで、カリフォルニアの大農場に職を求めて出発する。しかし苦労の末たどり着いたそににあったものは、過酷な労働、安い賃金などのあまりにも厳しい残酷な現実であった。しかしそのような中で、労働者の運動も進行し、トムは運動家ケーシーに関心を持つようになる。しかしケーシーは資本家に雇われた警備員に殺され、その場に居合わせたトムはケーシーを殺した男を殴り殺してしまう。そして又トムは家族と離れて逃亡の旅に出る。
この「怒りの葡萄」は、1930年代のテキサスからカナダ国境に吹き荒れた砂嵐により耕地が砂丘と化した天災と、資本家の機械化された耕作会社に追われたオクラホマの貧農ジョード一家の苦悩を描いている。カリホルニアには仕事があるという宣伝ビラにつられて、二千マイルという行程を山や砂漠を横切ってたどり着くも、そこには甘い世界はない。オーキー(Okies)と蔑称される多くの土地を追われた浮浪農民が集まっていた。使用者の意のままの彼らの得る安い賃金は生きることも困難な状況に追い詰められる。その中で生まれる弱い者の団結抗争の芽生え、それは「赤」として一層の弾圧を受けることになる。
小説(スタインベック「怒りの葡萄」(上・下巻)大久保康雄訳、新潮文庫)をみると、このあたりの状況はその中で、奇数章は物語の筋とは別にその時代の背景を、そして偶数章は物語の筋を語るという手法をとり、スタインベックの事実考証を積み上げてのアメリカ商業主義への怒りと批判でを綴っている。更に、トムの母親の秘めたる生への力、ローザシャーンの悲劇的女の生き様から人間の究極において滅ぼすことができないのは、生きようという本能的力を描いている(訳者)。それはこの本の訳者が、”激しい抗議の文学であり・・・・主観を押さえてあくまでも冷静であり、時には非情であって、それがこの小説の劇的な雰囲気を盛り上げてゆく上にすばらしい効果を上げている・・・”と記しているところからも想像がつくことであろう。
映画では、相変わらず人間の姿をジョン・フォード監督は得意の手法でものの見事に描いているし、主役のヘンリー・フォンダが熱望したといわれるトム・ジョード役で、彼のこの後の正義を物静かに貫く役柄を確立したとも言われている。トムの母親の静かではあるが、すざまじい生への力などの描写は特筆ものである。更にグレック・シーランドの描く撮影画像がすばらしい。シルエットで描く世界、暗い中でも光りの取り入れ方が見事でモノクロ画像の極致をゆく映像と言っても過言でない。
最後に、この小説に触発されて、一枚の音楽アルバムを作り上げた作品があるので、ここに記す。
CAMEL:「DUST and DREAMS」 Camel Production CP-001CD 1991
Andrew Latimer率いる英国ロックバンドCAMELの作品だ。彼のギターが叙情豊かに描く作品となっているが、悲惨であり哀しい中でも人間のたくましく生き続ける姿を描いている。彼らの傑作アルバムの筆頭にあり、このスリーブ・デザインも出色である。一聴に値する。私のお薦めのアルバムだ。
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