シネイド・オコナーの反骨と宗教と音楽と
アイリッシュ・フォークとオルタナティヴ・ロックの彼女の世界 シネイド(私にとっては、デビュー時の”シンニード”と言ったほうが実感があるが、その後”シニード”となって、現在は”シネイド”と日本では書かれている)はデビューの1990年以来既に20年が経過しようとしている。やはりスキン・ヘッドとアルバム「I Do Not Want What I Haven't Got 蒼い囁き」の中のヒット曲"Nothing Compares 2U 愛の哀しみ"の印象の相違が強烈であって、日本でも話題性は高く、人気という面では圧倒的な支持を得た。
とにかく彼女には常に話題が絶えなかった1990年代を経て、最も近作はインディーズ系のリリースとなっているが、ここで一度も取り上げなかったのが不思議なくらいだ。
とにもかくにも、’90年当時”Best Singer”であり”Worst Singer”であったというかってない特異な存在である。それには彼女の曲とその歌声への絶賛と、又行動の意外性からのパッシングが混在しての10年と言ってもいい。
2003年引退宣言の後は、2005年のレゲエの・カバー・アルバム「Throw Down Your Arms」の再出発以来、いわゆるヒット・チャート系に名前を連ねると言うより、彼女の真の世界が覗かれて、見方によっては今が旬であるとも言えないことはない。そんな意味で若干考察してみたいとこである。 近作というとこの「Theology」Rubyworks /KOCH VICP-63973-4, 2007 ということになる。(2008年にはこのライブものもがあるが)
このアルバムはオリジナル8曲とカバー曲という構成であるが、アルバム・タイトルは”神学”と訳して良いのであろう。その内容も歌詞の解釈も、日本人のように無宗教に近い我々にとっては難解でもあるが、かっての彼女の宗教批判からも、そして近年のキリスト教系の新興宗教団体の司祭としての活動からも、その世界に問題意識と自らの活動の意味づけをこの音楽活動の根拠にしているようにも取れる。
しかし、もともとのアイルランドの悲劇、そして家族的悲劇と、ある意味に於いては不幸な環境に育った彼女の一つの獲得した世界とも見ることが出来、特にこのアルバムにはそうした印象が充ち満ちている。
このアルバムは「Dublin Sessions」と「London Sessions」の2枚のCDにより構成されていて、Dublin はアコーステック盤、London はフル・バンド盤いっていい形をとっている。そして基本的には両CDも同じ彼女の8曲(下記*印)を中心とした+αの曲群で、比較対照して聴くと非常に面白く、又感動的でもある。
”DUBLIN SESSIONS”
1.Something beatiful*
2.we people who are darker than blue
3.out of the depths*
4.dark i am yet lovely*
5.if you had a vineyard*
6.watcher of men*
7.33*
8.the glory of jah*
9.whomsoever dwells*
10.rivers of babylon
(Hidden Track) 11.Hasanna filio david (trad)
もともと、このDUBLINのアコースティック盤でのリリース予定であったようであるが、ロン・トムRon Tom(プロデューサー)の希望から、フル・バンドをバックとした LONDON盤が出来上がったようだ。
彼女の映像盤である2002年の「Sean-Nos,Nua」ツアーのDUBLINでのライブDVD(左=「LIVE IN DUBLIN」"goodnight thank you. You've been a lovely audience "Eagle Vision 2003)を見ても、この中で小編成のアコースティックな演奏での場面は、むしろ彼女の印象がクローズ・アップされ、曲の繊細な歌い回しやアッピールするところが強調され、彼女向きであるようにもとれる。彼女自身も経験的にアコースティックな曲展開が、ライブで支持が強いと感じていたとも言っている。
そんなことからも、アコースティック盤のリリースを企画していたのであろう。そしてこの「THEOLOGY」で実現したといっていいと推測する。確かにその出来は、このアルバムの曲群からも、繊細なギターの音をバックの上に彼女のヴォーカルが乗って実に素晴らしい。
ところが、ロン・トムによるフル・バンド盤はどうかというと、実は私の予想を裏切る出来に驚いている。これもなかなかアコースティックと印象が変わって彼女のイメージであるアイルランド系の一種独特の世界をものの見事に演出している。やはりこの2枚組は両方とも捨てがたいというところか。特に、フル・バンド盤の"watcher of men"のヴァイオリンの哀しげな音色、"whomsoever dwells"の曲の流れと展開は、このアルバムの世界の典型的な部分であり、ロン・トムのセンスの素晴らしさが解る部分だ。
シネイドの一連のアルバムは、このアルバムに来て彼女の世界が一つの結実を見たと言って決して過言でない。冒頭にもふれたように、こうしたインディーズによるリリース盤になって、又4人の子供の母親になって、更に宗教的価値観の世界にも悟りが形成されつつあるのか、彼女の民族的レゲエの尊重意志とアイリッシユ・フォークとロックの融合という”シネイド世界”が出来上がったと結論づけておきたい。
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