シネイド・オコナーの反骨と宗教と音楽と(2)
シネイド(シニード)の真の姿はどこにあるか?
2ndアルバム「I Do Not Want Haven't Got 蒼い囁き」のヒットで一躍スターダムにのし上がったシネイドではあったが、ライブでも見れるがごとく、しっとり歌い上げたかと思うと激しいシャウトがあったり、彼女のヴォーカル・スタイルは異色であった。そしてそれにも増して、主としてアメリカにおけるトラブルが多かったが、その一つはアメリカ国歌の拒否、そして1992年にはローマ法王の写真を破り捨てたりと、騒ぎが後を絶たなかった。
一方、彼女の歌唱能力にも評価と否定の両面が世間で囁かれた時に、驚きの3rdアルバムが登場する。
「Am I Not Your Girl? 永遠の詩集」 Chrysalis, TOCP-7380 , 1992
シネイドのアルバムとは思えない、なんとスタンダード・ナンバーを歌い上げる。それは自分が耳にした歌群で、それで育った自分を示すというのだ。しかも社会の歪みにに存在する人々に捧げると・・・・。更に異色なのはアルバム最後にはスピーチが入る。その内容は神聖ローマ帝国への批判と挑戦。
当時、このアルバムは私にとっても期待はずれで、つまらないと思っていたが・・・・・
しかし、このアルバムを今になって聴いてみると、なかなかそれぞれの曲を見事にシネイド節でこなされていることが解る。静かに囁いてくるような歌い回しで魅力があるし、意外に素直な表現も多い。
1.Why don't you do right?
2.bewitced, botherd and bewildered
3.secret love
4.black coffee
5.success has made a failure of our home
6.don't cry for me argentina
7.i want to be loved by you
8.gloomy sunday
9.love letters
10.how insensitive
11.my heart belongs to daddy
12.almost in your arms
13.fly me the moon
14.scarlet ribbons
15.Don't cry for me Argentina(inst.)
SPEECH
私が当時思ったことは、シネイドは純粋さの故に誤解も多いのかも知れない。”このアルバムで、自分は一般の歌手と同じように歩みたいのだ”と言っているようにも思えた。オーソドックスな歌手としての地位を築きたいとも言っているのかも・・・・。
残念ながら、このアルバムは売れなかった。しかしこのアルバムの意味は今、回顧してみると一つのポイントであったと思えるのだ。
振り返ってみると、あの人気が爆発した1990年、シネイドはなんとベルリンの壁の崩壊しヨーロッパに新時代を迎えた時に、ピンク・フロイドを脱退したロジャー・ウォータースの起死回生の一大イベント「ザ・ウォール・ライブ」に登場している。
’90年7月21日、ベルリン・ポツダム広場に企画された空前の東西ドイツの統一記念イベントで20-30万人が集まったと言われているが、左がそのライブの様子で、「ザ・ウォール」の”Mother”を、向こうで優しく見つめながら唄うロジャー・ウォーターズとともに歌い上げているところだ。
ところが、ここでも事件は起きた。なんと彼女の唄うこの場面になって、電源トラブルが起きてマイク音が途切れてしまう。そこで前日のリハーサル音声を流して、口(くち)パクでその場をしのいのだ。彼女の怒りは爆発した。ライブで口パクをさせられたと怒ったのだ。幸い如何なるトラブルも回避すべく、このイベントの録画を当時レーザー・ディスク盤でリリースする予定であった為、リハーサル映像も撮ってあり、それがライブ映像アルバム「THE WALL LIVE IN BERLIN」で使われている。それは彼女が怒って、ライブ終了後の再撮影に応じなかった為のようだ。その他のおなじトラブルにみまわれたウテ・レンパーなどは、ライブ終了後のその会場にて深夜収録に応じ、それがライブ映像に使われているのだ。ロジャーは言う、”彼女はまだ若い、ショーを行うものとしての根性はこれから必ず育つと思う”と、決して非難はしなかった。しかし、この前日のリハーサル映像のシネイドこそ、その表情にみえるものは、純粋な少女そのものに見えてならない。そして明日に控えた大イベントへの期待も大きかったのであろう。むしろトラブルによりこの映像が正規のリリース盤に使われたことが、我々にとって見れば幸いのような気がする。往年の多くのロック野郎に囲まれ、ロジャーの見つめる中で、はにかむような笑顔のこの表情に彼女の全てが見えるような気がしてならない。
2000年になって、5thアルバム「Faith and Courage 生きる力」 ATLANTIC AMCY-7162 , 2000 が登場する。
1999年、彼女のビック・ニュースは新興宗教団体の独立カトリック教会の女性司祭となったことだ。そして作られるアルバムに盛られる曲は、レゲエ、アイリッシュ・トラディショナルとしての基本路線を持っている。そして引退宣言、復活活動の変動を経て、前回検証したアルバム「THEOLOGY」に繋がってくる。
民族活動と共に、宗教と神と人間に迫ろうとする姿が次第に色濃くなって現在に至ってきた。
これからの彼女の活動はどうゆう形をとるかは、ここ3年の沈黙があり予想できるところにはないが、又もう一つ何か驚かされそうな予感もしてならない。むしろそうあって欲しいと願っている私であるが・・・・・・。
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コメント
シネイド・オコナーにも詳しかったのですね。確かボブ・ディランのデビュー30周年記念コンサートでローマ法王の写真を破って非難したような記憶があります。そしてステージから連れ去られてしまったような気がします。よくいえば純粋、悪くいえば無鉄砲なのかもしれません。勉強になりました。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2009年12月 8日 (火) 22時10分