LP-Playerの復活(2) ”セルジオ・メンデスとブラジル66”のニュー・ボサ・ノヴァ
熱き時代の’60年代後半の花 : 圧巻のニュー・ボサ・ノヴァ・ビート
1960年代は、日本ならず世界が一つの転機を迎えていた。英国のビートルズのニュー・ロックは世界を巻き込んで一大革命をもたらした。昨年末に、私はLPターン・テーブルを復活させたことにより、過去のLPアルバムを紐解いている中で、60年代後半は非常に熱くそして密度が高かったことが思い起こされる。
ロック畑では、私の場合はビートルズにはいまいち興味は薄く、CCR、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、サンタナと言う流れでロックに開眼したわけであるが、その当時一方で私が傾倒した中で、”セルジオ・メンデスとブラジル’66”があったことを思い出したのだ。
当時手に入れたセルジオ・メンデスとブラジル’66の1stアルバム「SERGIO MENDES & BRASIL'66」A&M Records AML15 1968
昔からブラジルにあるどちらかと言えばクールな大人のイメージのボサ・ノヴァを、ブラジルのサンバとロック・ビート、ゴーゴーのインパクトを加味してのセルジオ・メンデス独特のニュー・ボサ・ノヴァの出現は、当時の若き私にとっては強烈だった。
特に”Mais Que Nada マシュ・ケ・ナダ”の新鮮なビート、そしてリズム感たっぷりの女性ヴォーカルは、今までになかった新しい世界だった。今ここに破れて落ちそうになっている帯付きのLPを再生していると、私の音楽を愛する一翼であるポピュラー・ミュージュックの世界のスタートをみる思いである。
このアルバムには、ビートルズの”DAYTRIPPER”も演奏されているが、まさにビートルズの世界とは全く異なったリズム感と女性ヴォーカルの醸し出す世界は魅力的で、お見事であった。更にブラジルの世界を醸し出す”おいしい水Aqua de Beber”、スロー・ナンバーの”Slow Hot Wind”などは私の好む世界である。
(メンバー) ジャニス・ハンセン(女性ヴォーカル)
ラニ・ホール(女性ヴォーカル)
セルジオ・メンデス(ピアノ)
ボブ・マシーズ(ベース)
ジョアン・パルマ(ドラムス)
ジョゼ・ソアレス(各種打楽器)
これは、彼らの3rdアルバム「LOOK AROUND」 A&M Records AML-16 1968
この盤を聴き直しているが、意外に当時の印象が少なかった。しかし、このアルバムではビートのみでなく、ストリングスがバックに登場しての女性ヴォーカルの美しく歌い上げる流れも一つの聴きどころとして受け止めた記憶がある。
B面のトップに映画「カジノ・ロワイヤル」の”The Look of Love”が登場するが、このセルジオ・メンデス流の編曲が楽しめる。又それに続いての”Pradizer Adeus さよならをいうために”は、ビートはあまり前面に出さずに、甘いムードで構成していてこれも聴きものだ。
さて、いずれにしても一番私が何度も聴いたのは、この4thアルバムである。「FOOL ON THE HILL」 A&M Records AML-23 1969
言わずと知れたビートルズの”Fool On The Hill”をサンバに近いタッチで、そしてラニ・ホールらの女性ヴォーカルが妙にクールな印象を醸し出す。これを聴いたとき、ビートルズの原曲以上にインパクトがあったのを思い出す。
実は、このアルバムからこのブラジル’66はメンバー・チェンジをしている。オリジナル・メンバーはセルジオとラニのみである。他の4人はむしろブラジルの実力者を集めている。”FESTA”という曲も聴いても解るが、サンバ・ロックを聴かせその後それに変わってスロー曲への変調を取り混ぜて、曲の構成を複雑にしている。
これまでのアルバムは全て中村とうようがライナー・ノーツを書いている。そしてかなりセルジオの曲分析には説得力があると思う。彼はこのアルバムにおいては、彼らの曲はボサ・ノヴァと言うよりは、むしろ”ラテン・ロック”と表現したほうが的確かもしれないことを、セルジオのインタビューも含めて紹介しているところが興味深い。
いずれにしても、このアルバムは私にとっては愛聴盤であった。ラス前の”去りゆく夏 When Summer Turns To Snow”などの美しさは忘れられない。
6thアルバム「モーニン YE・ME・LE」 A&M Records AML-51 1970
このアルバムには、4thアルバムと同メンバーであるが、そこにギターが加わった。そして更にブラジル色を発展させている。又ビートルズの曲は何時も取り上げてきたが、ここでは”ノールウェイの森”が登場する。やはり彼ららしい編曲でかなり活性度が高い印象に変わっている。
このアルバムになってセルジオの曲の完成度は更に高まっていると言っていい。それはある意味ではスタート時より、若干マニアックになってきていると思う。
こうして40年前のLPを現在に再現してみている中で、このアルバムはあまり印象に残っていないのだが、むしろ今となって新鮮な感覚で聴いているところが不思議である。特にセルジオが歌っている”Where are You Coming From あなたは何処から”は、何か現代調といってもおかしくない説得力のあるものだ。
LPターン・テーブルの復活から、過去に虜になったと言ってもよいアルバムを今にして聴き直していると、不思議に当時の若かりし頃の気持ちになれるところが実に楽しい。ロックの開花と並行してのセルジオ・メンデスとブラジル’66の活動は、私にとっての一つの花でもあったのだ。
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