LDの復活(3)ピンク・フロイドの分解と新生
LD(レーザー・ディスク)にみるピンク・フロイドの解体時代
映像メディアとして、過去の遺産になりつつあるLD盤を回顧再生させることから始まった今年であるが、奇しくもピンク・フロイドの20年前の歴史的変化とCD、LDというデジタル時代の始まりが一致しているところが妙に興味をそそる。
取り敢えず、保持している約20年前のLDを懐かしながら再生させて、現在進行しているというロジャー・ウォーターズの”新ウォール・コンセプト”、”新ピンク・フロイド時代の開幕”などなど憶測される2010年、諸々期待を込めながら回顧してみたいのだ。
ロジャー・ウォーターズがエリック・クラプトンを起用してのピンク・フロイドを離れてのソロ・アルバム「The Pros and Cons of Hitch Hiking ヒッチハイクの賛否両論」のリリースは1984年。これはアルバム「THE FINAL CUT」以上に、ウォーターズの個人的テーマ過ぎると、フロイド・メンバーから拒否されてやむなくソロとしてリリースしたわけであるが、この時はまだLP盤であった。
その後、ウォーターズがフロイド・メンバーの協力得られずで、独自で活動を決意したコンセプト・アルバム、それは米ソの冷戦時代の影に見え隠れする核による最終戦争の危機を取り上げたアルパム「RADIO K.A.O.S.」であった。この1987年、この時にはLPに変わってCD盤となり、デジタル時代の開幕だ。
そして、映像盤として1988年LD singleというタイプで「RADIO KAOS」(CBS/SONY 27LP132)をリリース。
この時は、ウォーターズはピンク・フロイドとの訣別を意識して ”Roger Waters & BLEEDING HEART BAND” を結成している。
実はこのアルバムで興味深いのは、最後の曲が ”The Tide is Turning 流れがかわる時” で、ここでは"世界がどんな形であろうと、流れは変わりつつある" と、東西冷戦の終止符を予感している。そしてベルリンの壁は1989年崩壊するのであった。
一方、1984年のソロ・アルバム「About Face 狂気のプロフィール」リリースそしてツァーに入ったデヴィット・ギルモアは、その寂しい結果に終わりったことより、ピンク・フロイド名義に固執。ニック・メイスンと共にピンク・フロイドとして「A Momentary Lapse of Reason 鬱」を1987年リリース。そのライブ映像版として左の1989年「Delicate Sound of Thunder 光」(CBS/SONY 42LP136) を出す。これは過去のピンク・フロイドの人気サウンドの再現をとにもかくにも追求したもので、人気は上々で成功裏に終わり、来日も果たした。しかし、残念ながらウォーターズのようなプログレッシブなアプローチには欠けていて、AORショーとしてのニュアンスの強いフロイドの出発点にもなった。
しかし、人気面では自分がかって渾身の思いで作り上げたピンク・フロイドに破れたとはいえ、こうした中でもウォーターズの反戦をかざした活動は、1989年11月のベルリンの壁の崩壊を機に、ベルリンに於いて、戦争等の被害者に対しての災害救済基金の為のチャリティ・コンサート”ザ・ウォール:ベルリンライブ”を1990年に敢行。その映像が左の「THE WALL Live In BERLIN」(VIDEOARTS VALP-3180) だ。
近年、DVDで再リリースされてはいるが、ウォーターズのBleeding Heart Bandを中心に、多くのゲストを迎えたこのライブは、ベルリンのポツダム広場に15万人が集まるという大イベントとなり、その模様はこのLD盤で我々の眼に映されたのだった。
こうして、ウォーターズの活動は、反核の映画「When The Wind Blow」のサウンド・トラックなども含めて、社会問題に迫るロック活動が形作られて行く。
さて、ギルモアが率いるようになったピンク・フロイドはどうかというと、なんと1992年左のLD映像盤「La Carrera Panamericana 道」 (SONY SRLM-822) をリリースした。かってのメキシコ縦断カー・レースが1991年に復活して、それに参加したメイスンとギルモアの映像。そしてサウンドは主として「鬱」収録曲。
カー・レースに興ずるこのピンク・フロイドを名乗る2人の脳天気な映像に対して、世界問題に真摯に対峙しているウォーターズとの違いが歴然としてしまった。更に、この中に”ザ・ウォール”の"Run Like Hell" が使われており、それを知ったウォーターズは、彼の精神でもあったかってのピンク・フロイドを愚弄(ぐろう)するものと怒ったのだ。
このLD盤は、ギルモアの過去のフロイド・サウンドの再現に喜んで、そして支持してきたもの達にもさすが反感が生まれ、その後ギルモアは自分の記録の中にこれを載せていない。
今ここに、1980年代後半から1990年始めにリリースされたビンク・フロイド関係の4枚のLD盤を並べ、懐かしく視聴していると、あれから25年の経過の中で、ウォーターズは自己の作ったピンク・フロイドと戦いながら、社会問題に挑戦して来た姿が良く理解できる。又、一方ギルモアはいわゆるロック魂とは離れても、音と音楽志向で生きてきたところにも一つの世界があったと思う。ライトの亡き今、ピンク・フロイドにまつわる噂は、両者の過去の遺産を持った二人への期待で満ちているし、ウォーターズは例のオペラ活動も一段落して、間違いなく”新ウォール・コンセプト”で動いている。今年は何か新しい展開がピンク・フロイドにはありそうだ。
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コメント
全くその通りに思っていたことを明確に表して下さってすっきりしました♪
ポリシーの違いがあまりにも激しいのでやっぱり自分はロジャー好きですねぇ…。不器用なロックですよ、きっと。ここにあるLDって自分も大抵持っていて、結構よく見てましたもん。ギルモアフロイドのは全く見てないですが(笑)。
投稿: フレ | 2010年1月12日 (火) 21時41分
フレさん、コメント有り難うございます。
ロジャー・ウォーターズのロック魂はまだ終わっていない。いや、終わりはないのでしょうね。
昨年末の「Wall Horizons」として表面化してきた世界は、今年は何かの形を作り上げそうです。
”「壁」には常に恐れがある”、”我々には思想統制は必要としない”の彼の言葉は、今や歴史的には英国が起爆剤の役割を果たしたとわれるイスラエル・パレスチナ問題(そこに存在する「壁」)に彼は立ち向かおうとしている。再び三度、ウォーターズの挑戦ロックは我々に何かを提示しそうだ。
投稿: 風呂井戸(*floyd) | 2010年1月12日 (火) 23時40分
最近、海賊版DVDにハマッてしまいました。ウォーターズのライヴ・イン・アルゼンチンがよさそうなのですが、映像がA-になっていました。
ギルモアのライヴ・イン・ラジオ・シティin NYはイマイチでした。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2010年2月 7日 (日) 14時19分
プロフェッサー・ケイさんどうも・・・・
DVDでは、2006年LIVEはPORTOGAL と HYDE PARK LONDON そして2007年ものは BOGODTA COLUMBIA と BUENOS AIRES ARGENTINA を持ってますが、映像は確かに ARGETINA は良いのですが、もう少し音がよいといいんですがねぇ~~~。
ロジャー・ウォーターズはまだオフィシャル盤を出さないですね。ロンドンでその気で収録してあるはずなんですが・・・・。
投稿: 風呂井戸(*floyd) | 2010年2月 7日 (日) 18時40分
追伸、ロジャー・ウォーターズのこのDSOTMツアーでは、CD盤のSantiago,Chilie の「Dark Side Of Chilie」が最も音が良いです。これはオフィシャルと言ってもいいくらいに負けないですね。
投稿: 風呂井戸(*floyd) | 2010年2月 7日 (日) 18時46分