ショスタコーヴィッチ交響曲(2) 第5番「革命」の解釈は??
LP盤に聴く世界から得た感動
カレル・アンチェル指揮の「ショスタコーヴィッチ第5」に感動して十数年後の1979年、バーンスタイン指揮のLP盤が登場した(左)。
「SHOSTAKOVITCH SYMPHONY No.5 in D minor,Op.47 / LEONARD BERNSTEIN New York Philharmonic」 CBS sony 25AC-808 1979
このLPは当時SONY自慢のMaster Sound シリーズのデジタル・レコーディング盤で、1979年東京文化会館でのライブ録音。 日本の技術を示した好録音で話題であった。この盤は当時になると私のオーディオ装置も神経質になっていたため、現在も殆どスクラッチ・ノイズなしで聴くことが出来る良好に保存されている盤だ。
さて、この盤のライナー・ノーツは門馬直美が書いているが、その内容は、まだ前回も取り上げた「ショスタコーヴッチの証言」という衝撃的な暴露本が出版される前である。”社会主義体制の芸術批判のもとに、反省し追求して作曲されたものであるが、音楽を愛する人にとっては、そうした傾向などは問題にならずに、人間的な行動力あるいは迫力の普遍性といったことで、この曲は広く愛されている”と記している。つまり、”革命礼賛”ということより、”人間自身の発展性”に迫ったものとしての評価を尊重しての価値観を説いている。
日本では「革命」という標題が必ず付くが、そうした社会主義リアリズムに迎合したものではなく、ショスタコーヴィッチ(左写真)の共産党統治下のスターリン体制の恐怖の中での人間そのものの苦悩から歓喜へと歩む力を信じての作品とみるべきものであろう。なぜなら彼が共産党機関紙プラウダで非難される前から着手していたと思われる作品であることからも推測されるのである。
そして、この盤の演奏はバーンスタイン独特の感情導入による演奏がなされている。私が傾倒したカレル・アンチェル指揮盤とは明らかに異なっていた。まず演奏時間が長い(多くのこの第5の演奏と比しても再長であろう)。下に比較を記す。
アンチェル指揮 バーンスタイン指揮
Ⅰ 14'11'' 17'40''
Ⅱ 5'27'' 5'18''
Ⅲ 12'52'' 15'59''
Ⅳ 10'11'' 10'11''
相違はこのとおりだ。特徴は第1及び第3楽章が3分以上長い。私の頭の中はアンチェル盤で固まっているわけで、そこでとくに第1楽章Moderatoのスローな展開は聴いた当初違和感があった。第3楽章Largoの長いのはむしろその意味は理解できる。この交響曲の最も意味をなす楽章と考えられる。ここには人間の濁りのない心情が叙情的に描かれていると言われる。ストリングスと木管だけで描いた世界は実に美しい。長年聴いてくると、マーラーの第5の第4楽章にも通ずる世界でもあり、この交響曲を愛する重要なポイントだ。バーンスタインはそこをジックリと描きたかったのであろう。
そして敢えて言えば、第4楽章Allegro non troppoの叩き付けるがごとくの迫力とそのリズムは、諸々の演奏者が歓喜を持って描くところである。私がかって若かりし頃には最も関心を持ったところであるが、ショスタコーヴィッチが共産党当局への迎合があったとすれば、革命記念日に初演されたこの交響曲の意味合いにおいても、この第4楽章ではなかろうか?これによって彼は生き延びたと言っていいのかも知れない。
ショスタコーヴィッチの交響曲の指揮者といえば、最も代表的であるのは、1934年からレニングラード・フィルハーモニー交響楽団の指揮を執り、1938年より50年間常任指揮者であったムラヴィンスキーということになるが、あまりにも誰もが知る代名詞的であるので、ここでは触れない。(後にその他の交響曲を考察するには欠くことが出来ないが・・・・)
CD時代になって、2001年にはアシュケナージ指揮の第5が登場する。
「SHOSTAKOVICH Symphony No.5 Viladimir Ashkenazy Philharmonia Orchestra」 EXTON OVGL-00009 (SACD) 2001
ショスタコーヴィチと呼ぶようになっており、名前のスペルから”T”が抜けている(これが正しいようだ。ラテン文字転写を間違えたのであろう。従って・・・ヴィッチがヴィチと書かれるようになった。私が接した盤がヴィッチであったことから、それに馴染んでいるが、・・ヴィチが現在は一般的。ムラヴィンスキーの盤はやはり古くから”T”が入っていない)。
アシュケナージ(Vladimir Davidovich Ashkenazy 1937-)はソヴィエト連邦出身のピアニスト、指揮者として日本でも人気があるが、彼はモスクワ音楽院卒業。1963年にロンドンに移住。アイスランド国籍となる。その為ソ連の彼の公式記録は全て抹殺されたという。(1989年になって改革の進んだソ連に二十数年ぶりに帰郷)
しかし、ショスタコーヴィチによせる思いも深く、近年演奏を行っている。このアルバムは2001年7月日本のサントリーホールでのライブ録音。
演奏の骨格は、どちらかというとカレル・アンチェルに近い。しかしこの第5の演奏も評価は良く、ショスタコーヴィチの苦難の中の生き様を見事に描いていると評された。この盤には意味があるかないかは不明だが「革命」の標題がない。
演奏するもの、聴くものに単純でない解釈がつきまとうショスタコーヴィチの交響曲であるが、更に過去のLP盤を次回に紐解いてみたい。
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コメント
投稿: | 2014年12月20日 (土) 14時11分