ショスタコーヴィチの交響曲(3) 第7番:彼の交響曲は墓碑なのか?(「ショスタコーヴィチの証言」は?)
最も物議を醸した交響曲第7番「レニングラード」
ショスターコーヴィチ(かってそうであったように、私にとっては・・・・ヴィッチであるが、最近の記載から今回より・・・・ヴィチとする)の交響曲としては、最も佳境にはいるのがこの第7番ハ長調作品60「レニングラード」である。特に彼の書いた15の交響曲のうち、この第7と第8・9は戦時下にて書かれたものであり、当時の解釈から”戦争交響曲”として捉えられて来た。
「Shistakovich: SYMPHONY no.7 LENINGRAD / Va'clav Neumann ・ Czech Philhamonic Orchestra 」 SUPRAPHON OB-7331~2-S 1976
この指揮者ノイマンVa'clav Neumannは、私がショスタコーヴィチ交響曲に関心を抱いたLP盤の指揮者カレル・アンチェルがカナダに亡命した後のチェコ・フィルの後継者である。
そして’70年代に偶然にも私が手に入れたLP盤の第7「レニングラード」は、このチェコ・フィルものであった。
当時は、いわゆる解説どおりに、この交響曲は”第2次世界大戦におけるナチス・ドイツのレニングラード侵攻に対して、封鎖された900日に及ぶ市民の空襲と砲撃と飢餓とあらゆる物資の欠乏の中で死守した英雄的な攻防戦を描いたもの”として捉えていた。
つまり第1楽章は、(戦争)不法の侵略を開始し、迫り来るナチス・ドイツ軍の恐怖が襲いかかりつつある情景。第2楽章:(回想)哀愁。第3楽章:(祖国の大地)祖国愛を表す。第4楽章:(勝利)戦争の犠牲者への哀悼の心と勝利宣言。と言った内容に感動しつつ聴いていたものであった。
しかし、1980年登場した
「ショスタコーヴィチの証言」(ソロモン・ヴォルコフ編、水野忠夫訳 中央公論社 1980 (左)
・・・・・・・・・・により解釈は大きな変換を強いた。(私のこの本に記したサインを見ると、1981年6月に購入している)
これはショスタコーヴィチ(以下ショスタコと略す)の友人であるヴォルコフが1971年から1974年までの間にショスタコと面会して、語られたことを纏め上げ、承認を受けたもの。内容からしてソ連おける出版は絶望的であることから、彼の死後に国外にて発表することを委託されたもので、ヴォルコフがアメリカに亡命して一冊の本として刊行したという。
その内容は、ショスタコの交響曲は当時のソ連の特にスターリン恐怖政治に対する批判的性質のもので、決して当時強要された社会主義リアリズムを賛美して描いたものでない。恐怖におののきながら生死をかけて書き上げた交響曲をはじめ多くの作曲されものは、そうした社会に於ける人間の苦悩とその状況下から形成された人間の永遠の姿を描いていると言うものであった。
こうした内容により、世界的にショスタコの評価に於ける論争が展開されたのである。特にこの第7番は、かっては戦時中の出来事を描いた標題音楽的なものとして捉え、その壮大な展開と纏まりが素晴らしく非常に支持者が多い反面、一方にはソ連の宣伝的なニュアンスに反感が持たれ、「壮大なる愚作」との評価も下されていた。
しかし、この「証言」の出版により、この作品はナチス・ドイツのみならず、スターリンによるソ連政府の暴力に向かっての告発と、悲惨な中にも人間の敵はなにか?そしてそれに向かって敵に対する勝利のために力も生命も惜しまなかった同時代の人々の姿を書いたものとの解釈に至り、大きくショスタコ交響曲の評価が変わり、世界的にも多くの人によって演奏され、そして又多くのものの感動も呼ぶようになるのだった。
この「証言」の中では、ショスタコ自身の言葉で”私の多くの交響曲は墓碑である”と記されている。そしてスターリン(左)の恐怖政治に徹底的な批判を繰り返す。”ドイツ・ファシズムのみならず、いかなる形態のファシズムも不愉快である”、”ヒトラーが犯罪者であることははっきりしているが、スターリンだって犯罪者なのだ”、”ヒトラーによって殺された人々にたいして、わたしは果てしない心の痛みを覚えるが、それでもスターリンの命令で非業の死をとげた人々にたいしては、それにも増して心の痛みを覚えずにはいられない”
しかし、これに対して当時のソ連在住のショスタコと親交のあった人々は、”この「証言」は捏造されたもの”と主張した。一方、”ソ連在住の人物の発言は信用に値しない。著名な音楽家の亡命やソ連崩壊をみれば解るのではないか”という支持派もあり、二分してしまう。どうもその後、諸検証により「証言」偽書説に傾いてはいるが、ショスタコ自身の意志に関しては証言の内容に同調している傾向にある。(ただし、訳者の水野忠夫は偽書説を否定し、”音楽だけが真実を語れると信じて生きようとしたショスタコの執念のようなものに注目される”と記している)
この「証言」騒動の中で、世界に於けるショスタコの交響曲の関心は高まる一方で、”歴史的音楽研究による成果の芸術的作品”として、マーラー以降の傑作と受け入れられるようになる。
第7交響曲は、ショスタコと親交があった海外亡命したロストロボーヴィッチ指揮のものもある。(左CD)
「Shostakovich SYM. No7 "LENINGRAD" Rostropovich National Symphony Orchestra」Warner Classics WPCS-21105 1989
ここには、渡辺和彦によりロストロボーヴィッチの言葉が紹介されている。”スターリンによって何百万人もの人々が殺されたのですから、第7に描かれた「悪」は、ファシズムでもあり、スターリンでもあるのです。第7はこの「悪」に抵抗する音楽と考えています”
いずれにしてもLP盤を復活させて、過去の感動を甦らしている今、確信していることは、このショスタコ第7は私にとっては大切な交響曲なのです。
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