私の映画史(6) 「眼には眼を」 (クルト・ユルゲンス主演フランス映画)
復讐劇の執念の凄さには身震いする
先日、キネマ旬報社から創刊90周年企画として「オールタイムス・ベスト:映画遺産200 (外国映画編)」 (キネマ旬報特別編集)が発刊されたので早速購入してみた。企画として121人の映画人・文化人が”心に残る珠玉の10本”として選んだ映画を載せている。
私にとっては非常に印象深い映画であるが、その中ではたった一人の映画人が選んだ映画(つまり、1/1210というわけだが)があった。
その一人のベスト10に入れた人物は、映画評論家の西脇英夫(1943年生まれ)であった。その映画はフランス映画の日本題「眼には眼を(Oeil pour oeil)」である。そこでは彼は”執念”のすごさ、そしてそれを脚本にして映画にする人達の情熱に感動したと述べている。私にとっても忘れようとしても忘れられない映画であるため、ここに紹介することとする。
<映画> 「眼には眼を OEIL POUR OEIL」 (1957年:制作国フランス)
監督:アンドレ・カイヤット
原作:ヴァエ・カッチャ
脚本:アンドレ・カイヤット、ヴァエ・カッチャ
撮影:クリスチャン・マトラ
(キャスト)
クルト・ユルゲンス(Walter)
フォルコ・レリ(Bortak)
(音楽)ルイギ、(歌)ジュリエット・グレコ
この映画は、フランス映画の社会派アンドレ・カイヤットが、アルメニアの青年作家ヴァエ・カッチャの原作を取り上げて砂漠の国シリアの小都市トラブロスを舞台にしている復讐劇だ。この監督は、人間とは何かを描くところに評価があったようで、ヴェネチア映画祭の金獅子賞を二度も受賞している。既に1989年に80歳で亡くなっているが、もともと文学士、法学博士の資格を持ち、パリで弁護士や雑誌編集者さらに小説家としても活躍していたという。
さて、この映画だが主演のフランス人医師ヴァルテルをあのドイツの俳優クルト・ユルゲンスCurd Jürgens(1915-1982)が演じている。私はどうゆうわけか彼の映画をよく観ている(その代表はロバート・ミッチャムとの共演の「眼下の敵 THE ENEMY BELOW」(1957)や、「史上最大の作戦 The Longest Day」(1962)など)。彼は新聞記者であったが、女優ルイーズ・バスラーを妻とし、その勧めにより俳優を志したという。又彼はナチス批判により、1944年にハンガリーの強制収容所に入れられた経歴がある。後に映画監督もしている。
さて、この映画「眼には眼を」について(ネタばれ要注意)・・・・・・・・
ストーリーは、現地人ボルタク(フォルコ・ルリ)は妻が急病で、自宅にいるフランス人医師ヴァルテル(クルト・ユルゲンス)に診てもらおうと依頼するが、医師は予定された都合で、自宅での診療を断り病院に行くように言われる。やむを得ずボルタクは病院に向かうが、途中で車が故障し、やっと病院に病妻を連れて行くが死亡してしまう。
そして診療を断った医師に対しての復讐心に燃えるボルタクは、深夜の怪電話、尾行など次第に医師ヴァルテルには不安を与え、更に信じられないような手段を使って、ヴァルテルを不毛の砂漠に誘い出す。ここから二人の心理戦とともに、砂漠での生死の行動が始まる。
復讐心のボルタクは、渇きのひどい状態で井戸にヴァルテルを向かわせるが、それは空井戸であったり、砂山の向こうに街があると言って連れて行くも何もない。自分からは攻撃を加えず、ただ医師を追い詰めていく恐ろしさ。
ついに、医師ヴァルテルも炎天下の中、渇きに堪えられず「殺してくれ、死んだほうがましだ」と叫ぶ。それを聞いてボルタクは「俺も女房が死んだ時そう思った。その思いをおまえに言わせたかった」と自分も死を覚悟でのこの復讐劇を伝えるのだった。
そして熾烈な争いは更に続き、キズ付けられ死に近づいたボルタクに”砂漠の出口を教えなければ助けられない。敗血症で死ぬぞ”とヴァルテルは迫る。命尽き際のボルタクはようやく最後に医師にダマスクスへの道を教えた。そしてそれに従って最後の山を越えようとする医師ヴァルテルは、瀕死の状態で歩いていく・・・・。そこでカメラはこの状況を描いて遠く引いてゆくが、俯瞰して広い世界が映し出された時に見えたものは、彼の進む方向には果てしなくひろがる砂漠の山々であった。・・・・観るものをして恐ろしさを超えた絶望のゾッした世界に落とし込まれる。
「眼には眼を、歯には歯を、手に手を、足には足を、焼き傷には焼き傷を、傷には傷を、打ち傷には打ち傷をもって償わなければならない」は、旧約聖書にみられる文章だ。
この映画の壮絶な恨みと復讐劇。更には、現地人の支配者たる欧米人への戦いがあるのだろうか?。このあたりはまさに想像の域をでないところだ。(残念ながら、私がさがしたところ、どうもこの映画はDVD化されていない。是非ともDVD化を願いたい)
■追記(2015.2.9)
参考までに、当映画がDVD化されていることが判明しました。下記の通りです。
販売元: マーメイド・フィルム/復刻シネマライブラリー
言語: フランス語
字幕: 日本語
リージョンコード: リージョン2
ディスク枚数: 1
DVD発売日: 2013/10/14
時間: 108 分
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コメント
映画は専門ではないのですが、「眼下の敵」は何回も見ました。ああいう緊張感のある映画は最近はあまりありませんね。特撮に頼りすぎだと思います。映画は脚本、キャスト、カメラワークだと思っています。
フランス映画の「恐怖の報酬」は印象に残っています。あれもラストはショッキングでした。いい映画は何回も鑑賞に耐えうるものですね。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2010年5月 3日 (月) 16時02分
プロフェッサー・ケイさん、コメント有り難うございます。イブ・モンタン「恐怖の報酬」も凄かったですね。おっしゃるように特撮などに労力を注ぐよりも、カメラ・ワークでもっと芸術的センスを発揮して欲しいものです。昔の「第三の男」の夜のウィーンの街角などの映像は、究極のモノクロ画像の極みでした。
話は変わりますが、又、ロックの名盤探求に更にご健闘下さい。期待しています。
投稿: 風呂井戸(*floyd) | 2010年5月 3日 (月) 20時48分