ニッキ・パロット Nicki Parrott (2) 過去の2アルバム検証
基本的には癒し系か?
先日オーストラリア出身ジャズ女性ベーシストでありヴォーカリストであるニッキ・パロットの最近作のアルバム「ブラック・コーヒー Black Coffee」(2010年)を紹介したが、もともと私が初めて接したアルバムは、その前作の2nd「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン Fly me to the moon」 (2009年)であった。
前回も触れたが、彼女の声の質は中・低音部ではむしろ渋めできつさのないソフトでゆったりとした歌声であるが、高音部になって可愛さというかややキュートな感じがあるところが魅力なのかも知れない。
スイングジャーナル誌でのヴォーカリストとしてのお墨付きがあったこともあって、確かに最近日本でも人気上昇中らしい。ウッドベースを弾くというスタイルも確かにそう多くはない。もともとヴォーカリストというよりはベース奏者としてのスタートであり、それなりの実力者でもあるようだ。
現在では彼女のヴォーカルを前面にしたアルバムは3枚であるので、1stのアルバムも含めて、ここに紹介しておこう。
2nd アルバム「nicki parrott / Fly me to the moon フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」 Venus Records VHCD-1023 , 2009
Nicki Parrott (Vocal,Bass)
John Di Martino (piano)
Lisa Parrott (Barit.,Sop.Sax)
Mark Sganga (Guitar)
Harry Allen (tenor sax)
Billy Drummond (drums)
以上のようにピアノ、ギター、ドラムスにベースとサックスといった構成である。ここでは、1stメンバーのギターは変わっているが、その他1stと異なるのは、姉のリサがソプラノ・サックスで参加している。
いわゆるスタンダード・ナンバーが中心の曲群を、特に大きな編曲することなく、どちらかというとオーソドックスに演奏し、そしていやみなくソフト・タッチにゆったり歌い上げるというパターン。
1stが非常に評判良かったが、私はこの2ndの方が、一段ジャズ的センスの進歩があるように思う。
とにかくアルバム・タイトル曲”Fly me to the moon”はあまりにも有名であり、多くの歌手がこなしてきているわけであるが、ギター・サウンドから入ってニッキはどちらかというと素直に歌う。中間部のヴォーカルのないギターの響きに加えベースが加わって次第にソロに近いベース演奏の部分がある。このあたりが一つの特徴を出していると言うことであろう。そんな点からも健闘していると言っていいと思う。
「Nicki Parrott / Moon River ムーン・リバー」 Venus Records VHCD-3013 , 2007
彼女の1stアルバム。演奏メンバーはピアノ、ギター、ドラムスのトリオにニッキのベースとテナー・サックスの5人編成。アルバム・タイトルの有名な”Moon River” からスタートして、この曲での中盤で既にベース演奏が主役をなす。このパターンなのだと主張しているかのごとくの演奏。
スイングする曲の展開は意外にありきたり、それよりむしろバラード曲に彼女のヴォーカルが生きてくる。
もともと音楽に子供の頃から濃密な接触をして、オーストリア芸術委員会の助成を得て、ジャズ・ベーシストの道を歩むべくニューヨークに渡米し学んだとのことで、ジャズとしての基本には身についているだけあって、クセのないジャズ・ヴォーカルを展開する。そして天性のキュートな中高音部における唄い回しが、聴くものを楽しませてくれる。
バックの演奏陣では、マルティーノのピアノがリードして、リズムを生かした曲ではギターのポール・マイヤーズが健闘。バラード調では、ハリー・アレンのテナー・サックスが生きている。
ニッキの作曲の一曲が登場するが意外にリズムカル。いずれにしても基本的にはスタンダード・ナンバー・アルバムで無難な仕上げ。アルバム全体の印象は、ナイトと言うより、アフタヌーンのムードのアルバムと言っておこう。
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