キース・ジャレット Keith Jarrett の世界(5) 花のスタンダーズ・トリオ
開花した1980年代のキース・ジャレット・トリオ
キース・ジャレットの歴史は結構多彩である。マイルス・デイヴィス・バンド加入から1970年代のアメリカン・カルテット、ヨーロピアン・カルテットの活動。そして一方のソロ活動など。そうした経過の中で、日本愛好家のゲイリー・ピーコックによるキースを加えてのトリオによるアルバム作成を起点にして、キースの活動は数年後にはこのトリオでの”スタンダーズ”として大きな歴史を刻むことになった。
「G.Peacock, K.Jarrett, J.DeJohnette / Tales Of Another」 ECM POCJ2202 1977.2録音
ベース奏者のゲイリー・ピーコック(Bass)から組まれたキース・ジャレット(Piano)・ディジョネット(Drums)トリオによる演奏のオリジナル曲集。6曲全てピーコックの作品。
しかし、このメンバーが後にキース・ジャレット・トリオとしてスタンダード曲を演奏してジャズ界に一世を風靡することになる記念すべき初顔合わせ盤。
ピーコックの曲を演奏するといっても、既にキースのピアノは思い存分展開して、例のうなり声は全開している。
ただ、後のこのトリオものよりは確かにピーコックのベースの音が生きていて頼もしく出来上がっている。
さて、このメンバーによるスタンダード・ナンバー演奏は1983年に「スタンダーズVol.1」、「スタンダーズVol.2」の発表からスタートする。特にこのメンバーはそれぞれがどちらかというとフリーな特異性のあるジャズ奏者であり、お互いの共通点もそう明快でない。そしてそうした不思議な環境から生まれた作品で、それが幸いしてか妙に聴くものに新鮮で、かってのスタンダード曲の解釈に新風を巻き込んだことは事実だ。
そして幸いに彼らは日本を愛してくれて、来日演奏は数え切れない。その中で特に初期ものに近い1985年、86年の日本ライブが、DVD映像で見ることが出来る。
① 「Standards スタンダーズ・ライブ’85」
② 「Standards II スタンダーズ・ライブII 」
この2枚のDVD盤、①は1985年2月15日、東京厚生年金ホール。②は、1986年10月26日、東京・昭和女子大人見記念講堂収録もの。
現在の収録ものと異なって、映像は良いとは言えないが、その捉える角度やアップなどはそれなりに良い。音もリニアPCMステレオでまあまあというもの。
このスタンダーズ・ピアノ・トリオはやっぱりライブがいい。キースの演奏となると必ずあのうなり声が聴かれるが、これの善し悪しは別として(私は妙に気になってしまう時と、あまり気にならないこともあり、又それが効果的と思う時と色々だ)、どのような状況でキースが発声しているかは、このような映像ものであればよく解る。
しかしここにみるトリオ・メンバーは現在から見るとさすがに若い。そしてキースの鍵盤を中心にしての体の動きは激しく、又表情の多彩さ、特にそこにみる笑顔はこのトリオ演奏時の特徴でもあろう。彼らの最も活力のあった時代だけに一種の妥協なき挑戦が感じられる。
彼らのスタンダード曲の演奏の魅力は、キースの素晴らしい透明感のあるピアノの響きと、その集中力による聞き慣れた曲のかってなかった展開が大きい。つまり即興演奏で築かれた彼の創造的世界とそして孤高なスタイルにある。そしてややもすると深淵であるところは良いが、さらに真理に迫りつつ甘さのない世界に入りかかったときにサポートするピーコックのベースは、思いの外”明”の方向に展開する。そしてディジョネットのドラムスは重くなく軽快感で、リズム感を助長して仕上げる。このスタンダード演奏と彼らの即興ものや、キース自信によるのソロものとの違いは、それなりに異なった方向性を持っているところが聴き所だ。
現在は、このトリオ・メンバーは歳を重ね、体力的、精神的両面からそれぞれハンディーをしょった状態であるが、今年も又日本公演の企画が動いている。熟年を通り越しての演奏も又楽しみである。
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