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2010年6月22日 (火)

キース・ジャレット Keith Jarrett の世界(7) いくつかの余話(慢性疲労症候群)

[3] キース最大の危機

Keith55  キース・ジャレットにとっての最大の危機は1996年、イタリアでのコンサート中に重傷な疲労状態に陥った。演奏は全く不可能な状態となり、その年の活動は全てキャンセル。そして不安な闘病のための日々を送ることになる。
 この状態はかなり厳しいもので、他人との対応は不可能で、長い自宅での療養生活となり、もちろんピアノを弾くことは全くなく、外出もしなかったようだ。
 病気は”慢性疲労症候群(CFS)”と診断された。この疾患は未だにその解明はなされていないと言っていい。この病気は疲労、倦怠感とともに微熱や頭痛、筋肉痛などの身体症状や、不安、抑鬱状態、いらいらなど精神・神経症状によって、長期にわたり日常・社会生活に重大な支障をきたす病態だという。
 しかし病院などの一般的検査では異常がないことが多く、その治療には困難を極める。ところが近年さらに踏み込んだ検査をすると、異常な病態のあることが解ってきた。脳代謝・内分泌異常、疲労によるなどの免疫低下状態でのウィルス感染・細菌の慢性感染症、免疫異常などなど。
 近年この病態を示す患者の増加で、診断の方法論が急がれているようだ。日本においても「日本疲労学会」があり、本格的な対応を検討中という。

[4] 1999年の記念すべき復帰

 しかし、なかなか改善することも難しい場合もあるという”慢性疲労症候群”からの、キースの力強い復帰は世界のフアンを喜ばした。先にも取り上げた自宅でのスタンダード・ソロ演奏集「The Melody At Night, With You」(1999年)が3年の空白を経て登場した。

Whispernot 「Keith Jarrett, Gary Peacock, Jack DeJohnette  /  Whisper Not」 ECM UCCE-1004/5  2000

 本格的、”キース・ジャレット・トリオ”の再出発が現実のものとなったのはこのアルバムだ。1999年のパリのスタンダード・ナンバー・ライブものの登場である。このアルバムのライナー・ノーツの鯉沼利成によると、キースは、このグループをこれからは”キース・ジャレット・トリオ”でなく”トリオ・ジャズ”という表現をしてほしいと言ったとか?、つまり3人を同等に扱ってほしいと言うことらしい。いずれにしてもキースの闘病生活からのこのトリオに対しての一つの結論なのであろう。
 そして、聴く方にとっては病気からの回復ライブということで、どんな演奏スタイルが見られるか興味のレベルは高かった。
 復帰第1号のスタンダード・ソロの印象から、このトリオの復活はどう変わるのかとの期待と不安があったわけだが、回答は従来のトリオとの大きな変化はなかった。前半にはややアグレッシブな奏法もみせ、例のうなり声も聞かれ(録音法によるのかやや小さい声になってはいた)、2枚CDの最後には、あの復帰ソロにも通ずる優しさが現れていた。

Myfoolishheart 「Keith Jarrett, Gary Peacock, Jack DeJohnette / MY FOOLISH HEART - Live at Montreux」 ECM UCCE-1095/6  2007 (2001 at the Montreux Jazz Festival)

 2001年モントゥルー・ジャズ・フェスティバルのライブである。彼らの結成25周年記念というもので、そこにはキース自身の言葉がライナー・ノーツとして載せられている。それによると演奏日の条件の悪さに加え、会場が演奏者であるメンバーのものになりきっていない感覚を持ったようだ。しかしキース自身は演奏内容にはかなり満足であったようで、これをアルバムとして公開するタイミングを計っていたようだ。つまり、お互いに歳をとり、肉体的にもハンディを持つようになっても、ゲイリーやジャクの演奏にも満足感をキースは感じているのだ。
 もともと、彼らのようなトリオ・ジャズをああした大会場でやるものではないと私は思う。だから”DEER HEAD iNN”のようなスタイルが最も充実するのではないかとも思う。
 それはさておき、このアルバムの流れはジャズのエッセンスを十分に網羅している。最後の”only the lonely”を聴いたときには、安堵の満足感で満ちあふれるのだ。あのような大会場でも完璧な演奏の出来るキースはじめトリオ・メンバーに、このアルバムを手にした時は、ほっとしたのであった。

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