私の映画史(10) 「ジャイアンツ」(原題 ”GIANT” 1956年アメリカ映画)
30年に及ぶアメリカ・テキサスでの大河ドラマ
私が十代に観た映画である。 なんと言ってもあの若くしてこの世を去ったジェームズ・ディーンの最終作。(当時のポスターは左のように写真でなく手で描いたものであった)
原作はアメリカの女流作家エドナー・ファーバーが12年の歳月をかけて発表してベスト・セラーになったもの。それをジョージ・スティーブンス(製作・監督)が取り上げた。
(キャスト)
エリザベス・テーラー(Leslie Benedict)
ロック・ハドソン(Bick Benedict)
ジェームズ・ディーン(Jet Rink)
(脚本)
フレッド・ガイオル
(撮影)
ウィリアム・C・メラー
(音楽)
ディミトリ・ティオムキン
舞台は、テキサスにおける古い時代(牛の放牧)から新しい時代(石油文明)への30年に及ぶ流れである。
大牧場主ビック・ベネディクトと東部から嫁いだレズリーの夫婦の多彩な人生を描く中に、二人に生まれた3人の子供、使用人のレズリーに恋心を持ったジェット・リンクの生き様を織りまぜて、アメリカ社会の問題点を取り上げている。
この映画の流れはロック・ハドソンとエリザベス・テーラーの演ずる夫婦であるが、監督はもともとはウィリアム・ホールディンとグレース・ケリーを予定していたという。更にこの夫婦にからむ使用人のジェット役には、アラン・ラッドそしてリチャード・バートンを考えていたが、ジェームス・ディーンがかなりの熱意でアッピールして最終的には監督のスティーブンスが折れての起用になったという。更にエリザベス・テイラーはこの時妊娠しており、出産まで待っての撮影スタートであったようだ。
この映画の私が評価するポイントは何点かある。まず①は、若き夫婦が多くを経験してゆく中から人間として大切なものを掴みながら人生を歩んでゆく姿をかなり丁寧に描いている。②として、この夫婦に絡む使用人のジェットは、石油を掘り当て億万長者となるが、人間関係が構築できずに人生に虚無感を感ずるに至る哀しい姿を描いていること。③アメリカ社会における大牧場主や石油王という財力の社会の意味。④南部に残る人種差別と使用人の非人間的扱いの社会を批判的に描いている。⑤時に起きた第二次世界大戦の戦争によって若い命が失われるという悲惨な状況・・・などである。
この5つのポイントの中でも、俳優ジェームス・ディーンの(既に過去の映画の役回りから自然と造られてきた)社会や家族から阻害されて生きていく男(ジェット)の姿が印象深い。成就ありえない主人の妻レズリーに恋心を持つに至り、必死に生きて石油王になり、財を成して全てを手に入れることが可能なアメリカ社会に君臨する。しかしただ一つ実現できなかった恋心は、時は流れてその成長したレズリーの娘ラズ(キャロル・ベーカー)に今度は心を寄せる。しかしその空しさをジェームス・ディーンは演じきった。晩餐会での泥酔しての告白シーンは見事であった。これは監督を口説いてまでももともと無かったそのシーンを作り演じたという。
しかし、この映画はあまりにもポイントが多く散漫になってしまった感もあり、当時一部には批判もあったが、見方によればこの諸々の状況をも、人間のとっての価値観を描こうとしたことに絞ってみると、監督の目指したものが見えてくる。ロック・ハドソン演ずる主人公の大牧場主ビックが、封建的な地主の家族主義から、人間にとっての価値は何なのかを次第にエリザベス・テーラー演ずる妻と共に築いてゆく。財を成したジェットにとってのただ一つ手に入れられなかったものの重要さ。これらは人間の社会においてアメリカ独特の差別というものに焦点を当てながら人間にとっての大切なものを教えているのだ。
この1956年という時に、経済中心のアメリカ社会の問題点、そして誰もが手を付けなかった人種問題などに果敢にアプローチして、人間の価値観を追求した一大ドラマを描ききったスティーブンス監督に喝采を浴びせたい。そして幸いにスティーブンスはこの映画でアカデミー賞監督賞を受賞した。
又、この映画製作当時は、映画が最大の娯楽であった時代で、大衆音楽も映画音楽が主流をなし、この映画の音楽を担当したディミトリ・ティオムキンの主題曲”ジャイアンツ”は日本でもビック・ヒットした。彼はロシア(ウクライナ)生まれでベオグラード音楽院に学び、革命後のスターリン独裁体制確立の少し前の1925年にアメリカに移っている。私の知る限りでは西部劇の名作は彼の音楽が最も知れるところだ(「真昼の決闘」、「赤い河」(このブログ2010.5.10参照)、「アラモ」、「リオブラボー」など)。
(視聴)
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