キース・ジャレットKeith Jarrett の世界(8) 忘れられないアルバム
既に、キース・ジャレットの多くのアルバムを取り上げてきているが、まだまだ忘れられない名盤がある。これらを取り敢えず回顧と期待とを持ってここに少しずつ記しておきたい。
「Keith Jarrett Trio / Bye Bye Blackbird」ECM POCJ-1165 , 1991
キース・ジャレットは彼の恩師とも言えるマイルス・デイヴィスの死(1991年)に直面して、その死後2週間後に追悼の意味をこめてスタジオ録音を行った。それは彼の音楽活動の最も中心となったゲイリー・ピーコックとジャック・ディジョネットとのスタンダード・トリオによってのトリビュート作品となった。ジャケ・デザインもトランペットを持ったマイルスの後ろ姿を描き、演奏曲もマイルスが愛した曲を中心にしている。そして一曲キースのオリジナル曲”for miles”が入る。
キースにとってのマイルスは、彼の人生を通しての音楽活動の原点をなしており、”人間”というものに迫る世界観を共有している。そんな状況下にてのマイルスの死は、キースをして心通じ合ったトリオによって、惜別と同時に自分の世界観を築こうとしたのであろう。
(収録曲)
1. Bye bye blackbird
2. You won't forget me
3. Butch and butch
4. Summer night
5. For miles
6. Straight no chaser
7. I thoght about you
8. Blackbird bye bye
冒頭の曲”Bye bye black bird”(Ray Hendersonの曲)にてマイルスを描き、最終曲”Blackbird bye bye”では彼らのインプヴィゼーション部分を再構築してのアルバムしあげという手法をとってトリビュート・アルバムであることを強調した。
このアルバムに選ばれた曲群は、その彼ら特有の手法でスタンダード曲を哀愁ある美学で演奏しきっていて私のお気に入りの一枚である。
更に、18分を超える”For miles”は、ディジョネットのドラムスから始まり、キースの悲しげな哀愁あるピアノが静かに現れてくる。そしてそれが何時までも終わりを知らないかのような流れでしっとりと聴かせる。トリオの自然に生まれる結晶といっていい心に響く曲だ。
「Keith Jarrett, Gary Peacock, Jack Dejonette / STANDARDS LIVE (星影のステラ)」 ECM uccu-5028 , 1985
なんといっても、このトリオが結成され(1983年)、その演奏はスタンダード曲をオリジナル曲のごとく昇華させて見せたことで驚かされた。もともとこのトリオはスタジオ用に結成されたものであったようだが、ここに初のライブ盤の登場となったのだ(パリにて収録)。そんな意味でもこれから現在にまで続く彼らのライブ活動がここから始まるという記念すべき盤。それは1985年のことであった。
(収録曲)
1. Stella by starlight 星影のステラ
2. The wrong blues
3. Falling in love with love 恋に恋して
4. Too young to go steady
5. The way you look tonight 今宵の君は
6. The old country
これまでに、自作オリジナル曲や、インプロヴィゼーションの展開、更にはマルチ・プレイヤーとしての姿など、キースは彼自身の独特の世界でジャズ界に入り込んでいた。しかし、1983年のこのトリオによるスタンダード・ナンバーを演奏することにより、過去のの名曲が意外な展開を見せ始め多くの関心を得たのだ。そしてここに初のライブ盤の登場で、彼の世界観から生まれるスタンダード曲の現代化がライブ演奏の魅力も加わって、いよいよ聴くものに親近感を生んだのだった。
一曲目の”星影のステラ”は、キースの甘いメロディーとスウィングする展開が見事で、彼らのイメージを作り上げるに十分なスタートである。
”Too young to go steady”では、キースのピアノが実に気持ちよく流れる。そして後半に入ってのドラムスとの展開は楽しい。
締めくくりの”The old country”は極めて評判が良かった。いわゆる流れの良さとピアノの旋律の美しさだ。
このようなライブで、会場と一体化しての聴かせる展開が見事であって、そんな世界を初めてこのトリオがリリースした記念的なアルバムとして印象深い。キースの音楽スタイルは難解なものも多いが、スタンダード演奏の世界は、ふと聴かれる聴き慣れた旋律と彼のアドリブになにか気持ちが安らぐところが魅力なのかも知れない。
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