キース・ジャレット Keith Jarrettの世界(9) ソロ活動の集大成?「Testament」
遺言?聖約?証拠(あかし)?表明?
「KEITH JARRETT PARIS/LONDON Testament」 ECM Records ECM2103-32 , 2009
キースが復活して10年が経過した。そして彼のソロ活動も続けられていてホッとしているところだ。これも最近の久々のソロ・アルバムである。
2008年には来日してのソロ・ライブがあったが、その年の暮れのパリとロンドンで行われたライブが3枚組アルバムとして昨年リリースされたもの。
この年は、例のスタンダーズ・トリオのライブが中心であったが、こうしてソロ活動も行われ、そしてそのライブ録音盤が「Testament」というタイトルが付けられ我々に提供されている。
そもそもキースのソロ・アルバムには3っのスタイルがあることを(4)(2010..6.15参照)で書いたが、このアルバムはその中の”オリジナル即興ライブ演奏集”である。彼の真価はこのスタイルに注目度は高いが、彼の若き時代の名盤「ザ・ケルン・コンサート」(1975)のように、音楽という世界に挑戦的に彼自身の世界観を作り上げようとしていた時のモノと今回のこのアルバムはかなり意味合いが異なっていると思う。そのあたりにスポットを当ててみたい。
キースは例の慢性疲労症候群という未だ解明が十分でない疾病のため1997年4月に病床に付く。それから約一年半以上は音沙汰もなく、噂では再起は危ぶまれていた。しかし1998年11月に、GaryとJackとでのトリオでアメリカにて再起を果たした。
そしてアルバムでは、珍しくもソロでのスタンダードナンバー演奏盤(自宅録音「THE MELODY AT NIGHT , WITH YOU」)にて復活。その内容はかっての緊張感とは別の”優しさ”の溢れたものでその変化に驚かされたものだ。それもそのはず、自己の病気に対して献身的介護をしてくれた妻への感謝のアルバムであったとか、それにしても彼の演奏にこうした面があることは感動でもあった。
そんな経過の中で、2006年の「The Carnegie hall Concert」というソロ・アルバムがあったが、今回のこの「Testament」とあらためてタイトルの付けられたところに何か大きな意味を感ぜざるを得ない。
このアルバムのライナー・ノーツにはキース自身によって書かれている。彼の長いソロ活動の思いが綴られている。彼自身の個人的人生からの諸々の状況下にて生まれる演奏や、聴衆との融合・反応によって創り出される即興の意味合いにも触れている。特に注目点は、特別に周到な用意もなくピアノに向かっての演奏によって、聴衆に新たな感銘を与えられることそのことは”NOT natural”と表現している。
しかし、それに挑戦してきた中での今回のアルバムのタイトルだが、和訳してみると”遺言”、”聖約”、”証拠(証し)”、”表明”などとなるが、果たしてキースは何を表したのであろうか?。
演奏曲の内容は極めて濃い。かってのような長い曲というよりは5~6分から10分ぐらいの曲群によって構成している。パリは6曲、ロンドンは12曲に分かれる。両者とも動、静、快活の交代によって効果を高める手法がとられている。特に動ではあるときは前衛的な技巧の展開をみせ、静部分においてのメロディーの美しさは圧巻である。又深遠な世界にも導いてくれる。今回もやはり聴衆の拍手は演奏と重なるところはなく見事であったが、やはり私にとっては不要である。と言うよりむしろ邪魔である。キースの演奏には静寂な余韻が合うと私は常に思っている。
さて、歴史的ソロ・アルバムの中でのこの占める位置は?となると、私はキースの”難病との戦いのあとの人間の表現の世界”であると感じてならない。本人の自覚は別として、私は彼は人生の円熟期に入ったと確信して聴いている。かっての挑戦のケルンとは別世界である。そしてやはり集大成に入ったことを感ずるのである。
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