イエスYESの回顧(2) : ”90125イエス”から”8人イエス”、そして分解
商業化ロック・バンド”8人イエス”は何だったのか?
プログレッシブと言われたロック・バンドにとっては、パンクやニュー・ウェイブの台頭は厳しい時代となった。イエスも例外ではない。1977年にはあのピンク・フロイドはいち早くロジャー・ウォーターズの手により「アニマルズANIMALS」で社会に打って出た。
イエスの場合は前作「リレイヤーRelayer」(1974)では新しいセンスの導入がされたパトリック・モラーツのキー・ボードがあったが、彼の脱退によって再びリック・ウェイクマンがメンバーに復帰して「究極 Going for the one」の発表となる。このアルバムはジャケ・デザインがロジャー・ディーンのあの独特な絵画からガラっと変わって、ピンク・フロイドを扱って来たヒプノシスに変わる(ピンク・フロイドは逆にヒプノシスを切ってロジャー・ウォーターズが自ら手がけた)。彼らは新しい時代への対応を試みたのだった。
そして翌年にはこのイエスも「トーマト Tormato」をリリースして順調のようであったが、かってのような成功はなく、次第に内部も混乱して、看板のアンダーソンとウェイクマンが脱退。
残されたクリスはニュー・ウェーブの流れにもある意味での妥協をして「ドラマ Drama」(1980)を完成。しかし鳴かず飛ばずのイエスと化してしまった。このあたりはニュー・ウェーブ時代の敗北でもあった。(しかしこの時代、プログレ系の中でのピンク・フロイドは、前作「アニマルズ」では攻撃的ロックへ変換し、評論家には意外性によりパッシングを受けたがライブなどは大成功し、更に続くロジャー・ウォーターズのコンセプトによる「ザ・ウォール」で圧倒的に世界制覇を成し遂げ、商業的にも巨大化するのだった)
しかしそんなイエスの低迷期の中で、クリス・スクワイアとアラン・ホワイトはニュー・バンドを企画。そしてトレヴァー・ラビン(ギター)が彼らに合流して新スタイルの完成をみる。更にあの難し屋のジョン・アンダーソンとトニー・ケイも結局のところここにに復帰して、最終的にはイエスのバンド名を使って「ロンリー・ハート-90125」がリリースされ(1983)、一大ヒット作となる。
ここには、かってのイエスとは一線を画しラビンの主導によるポップなセンスの入ったハード・ロック化したアルバムとなった。しかしスタート曲”Owner of a lonely heart”がイエスとしても過去最大のヒット曲となったのだ。とにかくライブでもロックの一つの格好良さという因子を見事に演じたのであった。この変身があの変革期の時代にイエスを残すことになる。ここにも時代の変遷の中でのロック・バンドの生き残りへの姿を垣間見ることになった。トレバー・ラビンと元祖クリスの功績は大きかった。
続くアルバム「ビック・ジェネレイター Big Generater」(1987)リリース後には、完全にラビンのペース化したイエスに再びリード・ヴォーカルのジョン・アンダーソンは不満を抱き脱退する。イエスの看板ヴォーカルの脱退はイメージの変換を求められ苦悩するのだっだ。
そしてジョン・アンダーソンは脱退したにもかかわらず、過去のメンバーを集め自分の”イエス”を造ろうとするも、これに反発したクリスはその命名は譲らず、クリス側の新生イエスが裁判沙汰で勝利する。結局のところアンダーソンのわがまま集団は、”アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ ABWH”名のバンドを結成してアルバム「閃光」をリリースした。これにはブラフォードが参加したことが大きく、彼の連れてきたトニー・レヴィンの加入で、キング・クリムゾン仕立てのイエスとなって成功したのだった。その為なんと実質2つのイエスが存在することになった。
こうして常にイエスに在籍していたのはベーシストのクリスのみとなり、彼はABWHと対抗してイエスの存続に努力するのだった。
しかしABWHも取り敢えず成功はするも、次作では曲数の不足から、ジョン・アンダーソンはこともあろうに自分の脱退した古巣のイエス軍団のトレーバー・ラビンに曲提供の協力要請してしまう。その結果ラビンと共にクリスも協力することになり、結局のところ両者が一体化してイエスとして売り出す商業的発想が行われ、ABWHもイエスの一員になることに成功するのであった。
なんとここに正式メンバー8人のイエスが誕生し、両者の別々にレコーディングされた曲のまぜこぜのアルバム「結晶 UNION」(1991) のリリースとなった。このアルバムは一つ一つの曲の出来に比してアルバムとしての印象はインパクトに欠けていた。
しかし話題性としては大きく、ツアーに入っての各地でのライブは成功する。私も今から約20年前(1992.2.29)にうまく乗せられて代々木のライブの観衆の一員となっていたのである。とにかく2つのグループで困惑したファンを一同に集めてのまさにお祭り騒ぎであった。
ダブル・ギター、ダブル・ドラムス、ダブル・キーボードにクリスのベースとアンダーソンのヴォーカルという8人構成(左:クリック拡大)のこんな集団が長続きするとは誰も思わなかった。
実際に8人での創作活動などはみるべきものもなく、いわゆるお互いのエゴをごまかすことが出来たのは経済的裏付けによってあった。そんな意味で形づくられたバンドの姿であった訳だ。
ファンも過去と現在のイエスにお目にかかれたと言うだけでいずれにしても歓喜したが、作品としては得るものがなかったことに気づくのであった。
そして当然のごとく、ツアー終了で解体となる。その結果最終的にはABWHメンバーは抜けて再び”90125のイエス”に戻るのであった。ところがこのメンバーを嫌って脱退したはずのジョン・アンダーソンのみは再びこのイエスに入り込むのである。
めくりめくる変調子と個々の演奏のシンクロするテクニックの綾が売り物であったイエスは、それと似たメンバー交代劇を繰り返していたのである。(続く)
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