忘れ得ぬ”名ジャケット・アート”(1) : 美狂乱「風魔 ライブVol.2」
あの「Marquee 027」での”ゼンマイ仕掛けの美狂乱”の衝撃
1980年代になると、プログレッシブ・ロックも完全に曲がり角に来ていた。’70年代後半のロックの原点回帰運動は熾烈であった。もはやパンク、ニュー・ウェーブの流れには、プログレッシブなロック・ミュージックは隅に追いやられた。
しかし、プログレッシブ・ロックを愛し続けた人も決していなかったわけではない。もちろん私もそうであるが、そうしたミュージックへの信奉者達は根強くそうしたロック・グループの音楽を求めていた。
そうした流れの中で、70年代に日本ではあまり尋常な手段では聴けなかったプログレッシブなイタリアを始めとしてのユーロピアン・ロックの発掘を行ったり、日本でもそうしたミュージック・スタイルを追求するグループの出現をみた。
そんな1980年代に、プログレッシブ・ロックを支えていたのが、マーキー・ムーン社だ。”Belle Antique” というプログレッシブ・ロック専門のレーベルを立ちあげ、そのミュージックをリリースしたり、 ”Marquee”という音楽雑誌も発行した(過去の第一号は1979年発行、"MARQUEE MOON"という雑誌名であった)。
「Marquee 027号 / 1988年2月15日号」
この表紙のアートに私は衝撃に近い感動があった。日本の懐かしさの街の姿を描いた世界に眼の光るうさぎ少年の不思議な世界。当時発行されるこの雑誌の全て買っていたわけではないが、この号にはすぐに飛び付いた(実はこの前の26号もそうであったのだが)。
この雑誌の見開きにある広告によって、このアートは須磨邦雄率いるロック・グループ”美狂乱”のリリース予定の「ゼンマイ仕掛けの美狂乱~アーリー・ライブVol. 2」のジャケットに用いられる作品であることが解った。
もともと日本のキング・クリムゾンと言われ1982年にレコード・デビューした”美狂乱”、ギター中心ではあるが、その攻撃的なプログレッシブ演奏には定評があった。その彼らの当時のライブ録音されたもののリリースで、これが先に出された「御伽世界~アーリー・ライブVol.1」の続編としてのものである。
もともと美狂乱にも興味があった上に、このジャケ・デザインを見て、その発売と同時に手に入れることになる。
これがリリースされた”ライブ・アルバム Vol.2” である。(クリック拡大)
実は、予告と異なって「美狂乱 風魔 ライブ Vol. 2」 としてリリースされた(1988年3月リリース。1993年CD化)。
このジャケ・デザインは、ししどあきら氏の作品を使ったのだ。今、ここに1983年にCD化されたこのアルバムを手にして(又当時の雑誌”Marquee 027号”をも手にして)、当時の衝撃が今でも同じに私の心を打つ。そしてプログレの末期に過去のアルバムを発掘していた当時が懐かしいのである。
私にとっては、このジャケット・アートは、過去の多くの素晴らしいアルバムの中でもNo1にも押せるものだ。
このアルバム、タイトルが実は予告と変わっていた。そして収録曲も予告と異なり、カセット録音ものであるが、それとしてはかなり良好な録音である素晴らしいライブ演奏を堪能できる。ジャケそして内容とまれに見る名盤である。
(収録曲) 1982, 1983年ライブ録音
1.都市の情景
2.狂(パートI)
3.ストップ・プレイキング・センス
4.風魔
5.インプロヴィゼーション
(CD盤では、”ひとりごと”、”サイレント・ランニング”の2曲追加)
アルバム・タイトル曲の”風魔”は、ライブにおける即興曲である。この次第に追い込んでいく緊張感はたまらない。これは当時まで多くのプログレ・バンドが盛んに組んだキーボードがない。それはこの緊張感を生む為のバンド構成であるとリーダーの須磨は言う。そしてこのジャケットをによって、更に不思議な世界に引っ張り込まれるのである。(美狂乱メンバー: 須磨邦雄(G), 白鳥正英(Bass), 長沢正昭(Dr), 雨宮たくま(Perc.))。
こうしたアルバムのリリースに努力したマーキー・ムーン社の”Belle Antique”レーベルに喝采を浴びせるのである。
| 固定リンク
「文化・芸術」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 映像盤「US + THEM」(2020.10.05)
- 白の世界 (その1)5題 / (今日のJazz)大橋祐子Yuko Ohashi Trio 「BUENOS AIRES 1952 」(2019.02.26)
- 平成の終わりは平和の終わりでは困る? 2019年米国と日本の不安(2019.01.08)
- ロジャー・ウォーターズの世界~ストラヴィンスキー「兵士の物語The Soldier's Tale」(2018.11.03)
「音楽」カテゴリの記事
- マニュエル・ヴァレラ Manuel Valera Trio 「 Live At l'Osons Jazz Club 」 (2024.09.17)
- ダニエル・ガルシア Daniel Garcia Trio 「Wanderland」(2024.09.12)
- ヘンリック・グンデ Henrik Gunde 「Moods」,「Moods Vol.2」(2024.09.07)
- サンディ・パットン Sandy Patton 「Round Midnight」(2024.09.03)
- ブリア・スコンバーグ Bria Skonberg 「What Is Means」(2024.08.27)
「絵画」カテゴリの記事
- 中西繁傑作作品「雨の舗道」(2018.05.26)
- 抵抗の巨匠・アンジェイ・ワイダの遺作映画「残像」(2018.03.05)
- 中西 繁「哀愁のパリ」油彩画展からのお話(2015.10.08)
- 男のロマンのエッセイ集:中西繁著「À Paris~ゴッホの部屋の日々」(その2)~映画「男と女」(2015.03.12)
- 男のロマンのエッセイ集:中西繁著「À Paris~ゴッホの部屋の日々」(2015.03.06)
「ROCK」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 「The Dark Side of The Moon Redux」(2023.10.08)
- ウィズイン・テンプテーション Within Temptation 「Wireless」(2023.08.12)
- ピンク・フロイドの頭脳・ロジャー・ウォーターズ「新『狂気』」10月公開 Roger Waters 「The Dark Side Of The Moon REDUX」(2023.07.23)
- ロジャー・ウォーターズ 2023欧州ライブ プロショット映像版 Roger Waters 「THIS IS NOT A DRILL - LIVE FROM PRAGUE 2023」(2023.06.23)
- イメルダ・メイ Imelda May 「11 Past the Hour」(2023.05.04)
「キング・クリムゾン」カテゴリの記事
- 2021年の幕開け -「原子心母」「原子心母の危機」(2021.01.02)
- King Crimson 2019年10月映像版「Rock in Rio 2019」(2019.10.31)
- キング・クリムゾンKing Crimson ニュー・アルバム「AUDIO DIARY 2014-2018」(2019.10.27)
- 72年の キング・クリムゾンKing Crimson 「Live in Newcatle」(2019.10.23)
- キング・クリムゾンKing Crimson Live in Mexico「MELTDOWN」(2018.11.05)
コメント
懐かしいですね。20年前でしたかね、このマーキー。私ん家にも、ありましたが、どこかいってしまいました。
投稿: nr | 2010年11月 3日 (水) 22時35分
nrさん、こんにちは。
しかし、あの当時はあの当時で結構それなりに楽しかったですね。1980年代後半になってCD時代を迎えましたが、イタリアものを始めCD再発ブームも楽しかったです。
そうそう、nrさん名付けの私のような高齢者音楽頑固組(笑)は「maquee」は大切に保存してあります。美狂乱のもう一冊公開しましょう。
投稿: 風呂井戸 | 2010年11月 4日 (木) 19時20分
雨宮琢磨で検索して見つけました。
彼との連絡の取り方を教えてほしいです。
投稿: kyon | 2013年11月13日 (水) 14時18分