マーラー Gustav Mahler の世界(4) ・私の映画史(12) : 第五交響曲の映画音楽としての魅力
第5交響曲嬰ハ短調はマーラーの最も聴かれる交響曲(映画「ベニスに死す」の感動)
「Gustav MAHLER / SYMPHONY NO.5 (交響曲第5番) デイヴィット・ジンマン指揮 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団」 SACD multi-ch盤 RCA CD 88697 31450 2, 2008
前回インバルの第5(DENON盤)を紹介したが、これは演奏・録音とも比較的優秀な最近盤である。マーラーの交響曲ではこの第5は最も人気があるため、近年比較的多くのCDリリースがあるが、SACD盤でMulti-ch盤で奥行きが十分感じられ繊細にして美しい録音盤だ。(Hybrid盤でCD-Stereo再生も可能だが、Multi-Chで聴いていただきたい)
そして肝心の演奏だが、国際マーラー協会版全集の新版楽譜が用いられている。とにかく美しい。そして荒さがない。しかも激しい盛り上がりも押し寄せる波を思わせる。ヴァイオリンは両翼配置をしているようであり、弦楽器の合奏はパノラマのごとく広がり感があって気分が良い。
この曲、ベートーヴェンの第5と同じに、葬送行進曲からのスタートで”暗”からスタートするが、進行は”明”に向かってゆく。又、なんといってもマーラーの曲の特徴である難解な部分は少なく、明快。それがファンを多くしているかも知れない。 40歳を過ぎたところで、アルマとの結婚により、マーラーの世界は広い人脈を得ることが出来て、最も人生では絶頂の時にあったのが一つの要因であろう。
それにつけても第1楽章の冒頭のトランペットのファンファーレに続いての全楽器の合奏のオープニングは見事であり、そしてなんといっても第4楽章の美しさは聴くものを捉えて離さない。
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映画「ベニスに死す Death in Venice」イタリア・フランス合作映画 1971年製作・公開
ちょっと昔話になってしまうが、このヴィスコンティ監督の映画は、マーラーの交響曲を現代の大衆に浸透させた歴史的快挙の作品であった。
製作・脚本・監督:ルキノ・ヴィスコンティ
原作:トーマス・マン(1912年)
出演者
ダーク・ボガード:アンシェンバハ
ビョルン・アンドレセン:タジオ
シルヴァーナ・マンガーノ:タジオの母
(ストーリー)
ベニス(ヴェネツィア)に向かう船から物語は始まる。それには老作曲家アンシェンバハが一人旅で乗っていた。その舟に上流階級のポーランド人家族がおり、その少年タジオに理想の美をアンシェンバハは見いだす。彼のベニスにての生活はタジオを求めてのものになってしまう。時にベニスにはコレラが蔓延し、旅行者はベニスから立ち去って行くが、彼はタジオを求めて立ち去れない。そしてコレラに感染してしまう。タジオとその家族も立ち去る日が来た。しかし彼は少年の海の波に戯れる姿を見ながら死を迎えることになる。化粧をして少しでも美しくなろうとした老人の顔は、汗でそれが醜く流れ落ちるのであった。
人生の黄昏における歓喜描いた名作として今日でも多くのファンがいる。
この哀しき老人の姿を描くバックには、マーラーの第5交響曲の第4楽章アダージェットが哀しく美しく流れ、観るものを感動の世界に導く。私もかってそうした感動に浸ったものだ。
原作者のトーマス・マンは、マーラーとは交際があった。そしてこの小説は自己のベニスへの旅の経験から生まれたものの執筆に及んだものであるが、マーラーが死去したため、実はこの主人公の老作曲家はマーラーを意識して描いているという。
又、黄昏期の老人の哀愁はウィスコンティ監督自身の心情を表したとも言われている。ターク・ボガードは、この役柄をごく自然に演じこなしているところが見所。
実は私は数年前にヴェネツィアを訪れ、この映画の舞台になったホテルに宿泊した。現在も玄関の位置は変わっているが、建物はそのままで古いものに手をかけていて快適に泊まれる。そして映画のシーンを肌で感ずることが出来た。又、アンシェンバハが最後の力で美少年に向かおうとして死亡して行くシーンのホテルの海岸はやはりそのままである。ただ、海岸の休息施設は見事に現代風に変わっていた。
なお、この40年前の映画が、「キネマ旬報」の昨年の企画においても”読者が選んだ、心に残る外国映画”のベスト10に入っている。映画史と音楽史に残る映画といえる。
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