気持ちを整理してくれる音楽=マルチン・ボシレフスキ・トリオMarcin Wasilewski Trio:「Faithful」
ポーランドの民主化の申し子からの心休まる永遠の贈り物
何年か前に、ポーランドという社会機構にしても音楽にしても歴史的に重要な国からの印象深いジャズ・ピアノ・トリオのアルバムを買って聴いたことがあった。それは 「TRIO」 (後に紹介)というもので、演奏はマルチン・ボシレフスキを代表とした simple acoustic trio といい、静かな中に不思議に引き込んでゆく魅力あるアルバムだった。そして最近彼らのニュー・アルバムがあることを知って入手し、既にもう数週間聴いている代物がある。
「Marcin Wasilewski Trio / Faithful」 ECM Records ECM-2208 , Recorded August 2010 , 2011
このマルチン・ボシレフスキ・トリオは、ポーランドで驚いたことに10歳代に結成されたメンバーで、現在まだ30歳代であるが、18年も続いているジャズ・トリオである。
名門ECMに移籍したことによって我々の前に姿を現したと言っていいところで、その3作目がこのアルバム。
ポーランドは、誰もが知っている歴史的に非常な不幸を乗り切ってきた国であることが、現在においてどう生かされ、又国民に何が現在育っているのか、あらためて知りたいところであるが、日本においてそれほど情報は多くない。私が取り上げるのは、アンジェイ・ワイダ監督の映画作品(このブログのテーマである「灰とダイアモンド」もその重要な1つ)からのイメージから全てをみていくところに偏って(?)ゆくのであるが、こうしたジャズ・ミュージックが聴かれることは極めて興味深いのである。
いずれにしても、第2次世界大戦の最中は、ナチス・ドイツとソ連により分割され、戦後はソ連の支配下(1952年人民共和国)といっていい東欧社会を経て、ようやくソ連の崩壊により、1989年になって民主化が行われ、ポーランド共和国となった国である。多分文化活動やそして音楽の分野の革命も大きかったことが推測される。
さて、このアルバムに話は戻そう。
(Members)
Marcin Wasilewski (p)
Slawomir Kurliewicz (b)
Michal Miskiewicz (d)
のトリオ編成で、先に書いたとおり18年の歴史を刻んでいるという硬い契りのトリオだ。つまり感受性豊かな10代に民主化が起こり、そうした中で結成された民主化の申し子のようなバンド。
(List)
1. an den kleinen radioapparat
2. night traim to you*
3. faithful
4. mosaic*
5. ballad of the sad young men
6. oz guizos
7. song for swirek*
8. woke up in the desert*
9. big foot
10. lugano lake*
(*印オリジナル)
このトリオの作品の評価となると、私のような素人には極めて難しい。しかし感ずる世界があるかと言えば、そのあたりは十分にあると答えられる。
オープニング曲はドイツはユダヤ系のEislerの曲。静かなピアノに、細かい一つ一つの音を大切に演奏して響かせるシンバルとベースのリズムの刻み。既に一曲目で気持ちがぐっ~~と安らかに定まってくる。2曲目にマルチンのオリジナル曲がアップ・テンポに展開。しかし荒々しさはなく説得力がある。トリオのかみ合わせも見事な彼らの技能発揮そのものの曲。3曲目はタイトル曲、なるほどこれぞこのアルバムの世界観。5曲目にはピアノが語る美しいメロディーが流れるスタンダード曲の”ballad of the sad young men”。
後半の6曲目はブラジルのパスコアールの曲という”oz guizos”、その意味は分からないが彼らの醸し出す人生の裏の派手さのない真実に迫るムードには私は完全に没入する。7、8とマルチンのオリジナルが続くが、品のあるセンスが感じ取れるし、次第に盛り上げていく様と最後の締めの安定感と美しさに感動。9曲目は珍しい活動的前進的な曲造り。最後のオリジナル曲”lugano lake”は、人生と自然の美しさを感じさせてくれる。
しかし、こうした演奏が手に取るような音で聴けるところは、ECMに感謝しつつ幸せの極地でもある。 「simple acoustic trio (Marcin wasilewski)/ TRIO」 ECM Records ECM-1891 9820632 , 2005
先にも触れた私がこのトリオに出会った最初のアルバム。当時ポーランド産と聞いただけで真摯に聴き入ったもの。ECM移籍の第1作である。
そしてその美しくもやや哀愁がある演奏と、そして又心を整理してくれるような世界への導きに感謝したアルバムである。
是非とも、今回の新作「Faithful」と共に愛聴盤にしてほしい私からの提案である。
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コメント
風呂井戸さん,こんにちは。TBありがとうございました。私もこのアルバムを取り上げていますので,こちらからもTBさせて頂きます。
今回の来日に関しては,若干アンビバレントな感覚も残しました。特にPAがあまりよろしくなかったというか,あのホールの選択が私は間違っていたんだと思っています。よって,ライブではドラムスがここよりも繊細さに欠ける結果になったのは残念でしたが,ピアノは本当に素晴らしかったですね。実力を思い知らされました。
投稿: 中年音楽狂 | 2012年11月11日 (日) 14時28分
中年音楽狂さんコメント、トラックバック有り難うございます。
今回、ポーランドに行きまして彼等の何か面白いものはないかと、実は探したんですが・・・・特に手に入る物はありませんでした。
しかし、日本でのライブへの参加は羨ましいです。ジャズ系ブログの方々もお知り合いが多いのですね。皆さんが結構会場で顔を合わせた由、楽しそうに拝見しています。
もうマルチンのニュー・アルバムも聴きたいところですが・・・・。
投稿: 風呂井戸 | 2012年11月13日 (火) 17時11分