冷静に読めるか?広瀬隆著「福島原発メルトダウン」(朝日新書)
”津波に暴かれた人災”を訴える
朝日新書「広瀬隆著 / FUKUSHIMA福島原発メルトダウン」朝日新聞出版 2011.5.30第1刷発行
あの3.11東日本大震災から2ヶ月経過した。日本人の忍耐力が今復興に一歩一歩進んではいるが、そこに立ちはだかる最大の問題は、あの福島第一原発の事故である。戦後の復興に甘んじていた日本において今最大の危機といっても過言でない。
著書「東京に原発を!」で話題になった広瀬隆氏の最も新しい著書がこれだ。「東京に原発を!」は、原子力発電をテーマに逆説を展開した問題の書。政府も電力会社もそんなに原発が必要かつ安全というなら大電力消費地である東京の、西口公園に原発を誘致しようと提案する皮肉を述べながらの警告の書。
その後も私は全てを読んでいるわけではないが、広瀬氏は「危険な話」「原子炉時限爆弾」などの書があり、原子力の危険を訴えてきた人だ。
遂に起きてしまった今回の原発事故、それは彼にとっては何ら不思議なことでないと力説する。
この書「福島原発メルトダウン」は、左のような内容だ(クリック拡大)。
”序章”では、大震災と原発事故は、同じ地震によって起こった一連の出来事のように見えて、しかしはっきりと異なる二つの現象で、これを峻別しなければなりません。その根本にあるものがまつたく違うからです。・・・地震や津波そのものによる天災は避けられないということを私たちは納得できなくても、受け入れるしかありません。これは日本列島に住み着いた日本人の「宿命」といえます。しかし、福島第一原発の大事故は、天災でも宿命でもありません。この悲惨な出来事は、悪意によって引き起こされた人災です。人知のおよばない自然災害に比べれば、はるかに容易にに予測でき、この大きな危機をあらかじめ回避できた出来事なのです。と、訴えることから始まる。つまり、原発事故とそれに伴って起こっている災害は人災であること、そしてこれからも起こりうる同様の事故を回避すべくこの書をあらためて書いたことを述べている。
第一部は、東京電力、政府、保安院・原子力安全委員会、原子力関係の学者を含む専門家の怠慢を、原発事故の内容分析をしながら指摘している。
第二部は、巨大地震の激動期に入った日本においての「第二、第三の福島」を回避すべく各地の原発の実情を訴える。又放射能の危険性に医学的分析も含めて警鐘をならす。
終章は、電力エネルギーの今後の対策への提言
広瀬氏の今回のこの書はこんな内容になっている。
さて、話の展開はがらっと変わるが、実は私がこのブログでも過去に紹介してきた「硫黄島の砂」とか「赤い河」という映画があるが、これの主演はアメリカの最もタカ派といわれるジョン・ウェインである。彼は肺ガンで何度かの手術を受けながら、ガンを克服したかにみえたが、1979年6月11日ガンの為この世を去った。
そのジョン・ウェインの死に疑問を持ったこの広瀬隆氏は、1982年に・・・・・・・・・・
「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」(文芸春秋社)という書を書いている。
この本(左)は、映画盛んなりし1950年代のハリウッド・スターを総なめにして、それぞれの映画活動を整理し、そして最後の死に至らしめた疾病を調べ上げての一つの結論へ導いた労作であると同時に、やはり警鐘の書である。
もちろん主たるテーマはジョン・ウェインであるが、彼が肺ガンであることが判明したのは1964年。あの痛快西部劇「リオ・ブラボー」の公開5年後である。
そしてこの書では、特に注目しているのは1956年公開の映画「THE CONQUEROR 征服者」だ。この映画は当時私は娯楽ものとして観たのを覚えているが、蒙古人のジンギス・カンの物語で、痛快活劇映画といったぶるいのもの。
この映画の撮影はハリウッドから東へのユタ州にて、砂漠の中で1954年に行われた。熱風の吹き荒れる中ロケーションは敢行され、それはまさに地に火がはいったような地獄の暑さと、大砂塵が舞い上がる中での重労働であったようだ。制作はあの有名なハワード・ヒューズで、当時で20億円もかけての大作であった。
そしてこの映画は砂漠の中で壮烈な死闘をくり広げるシーンが目玉で、役者たちは馬から転げ落ち、砂ぼこりを胸深く吸い込み、全身ドロまみれにならなければ監督からOKがもらえなかった。当然主演のジョン・ウェインも同じであったし、監督、映画製作スタッフも同様に砂まみれになって格闘したという。
さて、そのユタ州の砂漠とは・・・、当時この隣のネバダ州では頻繁に核実験が行われており、その死の灰が実は砂に堆積していたことが後に証明されたのである。
ジョン・ウェインが肺ガンを発見されたのは、それから10年後。そして監督のディック・バウェルも1960年胸と首のリンパ腺にガンが見つかった。又ジョン・ウェインの相手役の人気女優スーザン・ヘイワードは、1971年体の数カ所のガンがみつかり、1974年に亡くなった。
こうして、ユタ州撮影隊には不吉な噂も語られるようになったようだが、事実近郊の街でも白血病の発病が異常に多い事実も浮かび挙がった。
こうした事実をこの著者広瀬隆は問題として取り上げたのである。死の灰も、かなりの量がジョン・ウェインの場合も肺に沈着したことは否定できない。彼の肺ガンとの因果関係は神のみぞ知るということであるかも知れないが、こうした事実をみるにつけ、放射能汚染の未知なる怖さを訴えているのだ。
今回の福島第一原発事故においても、こうした問題にも真剣に対応することが必要であろう事は言うまでもない。そして第二第三の福島原発事故を未然に防がねばならないことは、今こうしている我々の任務であることを知るべきである。今何を成すべきか・・・・・。
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