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2011年7月 2日 (土)

絵画との対峙 : 中西繁の世界(5) 生涯テーマ「棄てられた街」<3>

「棄てられた街」作品群から何を知るべきか?

 前回取り上げた中西繁の「棄てられた街」作品群のうち、チェルノブイリ原発事故地域の立ち入り禁止区域に入って描いた数ある作品の中で、如何にも虚しさを感じさせられる一枚がある・・・・・

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小学校(チェルノブイリ・ウクライナ) F130 (中西繁作品集「LAND・SCAPE」より)

 中西繁がチェルノブイリ原発近くの廃墟と化したプリビシャジ村の小学校に入って描いたもの(これもF130号という大作である)。避難時に使用した防毒マスクの残骸が散乱していたという。ここで学んでいた子供達にとって、大人達が作った原子力発電所とは何に思えたのであろうか・・・。そして残念なことに日本でも同じ事が起きていることは・・・・我々は今何をしなければいけないのか・・・・・・。

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サラエボの丘(サラエボ ・ ボスニア・ヘルツェゴビナ) F150 (中西繁作品集「LAND・SCAPE」より)

 さて中西繁の「棄てられた街」作品群は多くの問題を提起しているが、もう一つはここに取り上げた作品のサラエボの事件、それはソヴィエト連邦崩壊の進行する中で起きた悲しい事件だ。1984年冬季オリンピックがこのサラエボで開かれ、我々には素晴らしいあこがれの美しい街であった。当時この街がこうした廃墟になろうとは誰が想像したであろうか?。この一枚のF150号の大作をみて俄然とする。林立する墓石の向こうには無惨に破壊された街を望むのである。この作品は私の脳裏に焼き付いて離れない。
 このサラエボの街を包囲した紛争は1992-1996年に起こったもの。所謂「ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争」だ。ユーゴスラビア共和国の分裂、スロベニア、クロアチアの独立、それに続いてのボスニア・ヘルツゴビナも独立を宣言して共和国を建立。しかし、そこで起こった対立してのセルビア人のスルプスカ共和国の樹立を目指しての戦い。ムスリム人、クロアチア人そしてセルビア人の三つ巴の内戦。結果は破壊と殺戮。そして12000人以上が殺害され、50000人以上が負傷した惨事。更なる悲劇は死傷者の85%は軍人でなく市民であったことだ。
 サラエボの復興開発に関しては、1995年の和平合意であるデイトン・パリ合意があって、その後再興事業がスタートした。そして2000年に中西繁はサラエボを訪れている(チェルノブイリを訪れた前年)。彼の眼にはその無惨な人間の起こした惨劇の跡が焼き付いたことであろう。
 その後の2003年に旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で、スルプスカ共和国の第一司令官に対して人道に対する罪を認定した。

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廃屋II(サラエボ・ボスニア・ヘルツェゴビナ) 5454x2273の左約2/3 (中西繁作品集「LAND・SCAPE」より)

 中西繁は訪れたサラエボの街の廃屋を見て、その中に割れたガラス窓から進入してこの作品の題材を得る。”ミサイルでへし曲がった鉄骨が凄い破壊力を物語っている。壁には手榴弾の製造方法をレクチャーした痕跡が残っていた”と記している。この色彩の押さえた作品は、それによって一層この廃屋の無惨さを表現していると思えるし、私には非常に印象的である。そして大作であるだけに描写も細部に丁寧であるだけリアルだ。
 
 人間が造り破壊していった姿を描いた中西繁の「棄てられた街」作品群は、このように日本のみならず広く世界の各地に及んでいる。そして我々が知るべき何かがあることを訴えていると思う。卓越した絵画的才能と問題意識の産物であると言っていいだろう。そしてそこには実行力も伴っての活動の姿も見えてくる。
 現在活動中の多くの画伯の中で、最も私が注目しているところである。このブログを通して、紹介させていただいた作品に対して、私の独断的評価で三つのポイントを挙げさせていただいたが、これから人生の完成期に入る中西繁の更なる充実した活動を祈念して取り敢えずここで一つの締めとしたい。

(最後に)
 まずこのブログに絵画作品の掲載を許可していただき、更に書きたいことを好きかってに書かせていただいたことに、中西繁先生にお礼を申し上げます。寛大な配慮を有り難うございました。又先生の御名前に敬称を付けませんでしたのは、普遍性を期してのこととお許しください。更にもし何か無礼な点がございましたら”勝手気ままなブログの世界”として重ねてお許しいただきたいと存じます。又先生のブログでも、私のこの「灰とダイアモンドと月の裏側の世界」を取り上げていただいて(2011.6.21)感謝しております。最後に先生のホーム・ページ及びブログを紹介させていただきます。

「中西繁 アートギャラリー」http://www7b.biglobe.ne.jp/nakanishi-art
「中西繁 アート・トーク」http://nakanishishigeru-art.at.webry.info/

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