スティーヴ・ハケット Steve Hackett :「幻影の彼方 Beyond the Shrouded Horizon」
とにかく多彩な曲のパターンと展開はドラマティックで、これが彼の世界なんだろう!
「Steve Hackett / 幻影の彼方 Byond the Shrouded Horizon」 INSIDEOUT 0563-2 , 2011
しかし驚きですね、スティーヴ・ハケット(1950-)にとってはオリジナル・ソロ・アルバムとして何と23枚目になるらしい。これだけの多作のギタリストはそうはいない。
私のようなプログレッシブ・ロック派にとっては、もう少し彼にも関心を持って来なければいけなかったと反省するのですが、もともとジェネシスにはどちらかというと関心の少ない方であったため、彼のソロ活動は時に耳を傾ける程度で現在に至っている。
しかし、ここに来てどうもかなり意味ありげなニュー・アルバムの登場と言うことで、早速この2枚組の作品を聴いているわけである。
メンバーはハケットのギター、ヴォーカルに加えて曲により変動があるが、主として以下のとおり。
Roger King (Kb) Nick Beggs (b,stick)
Gary O'toole (ds,vo) Amanda Lehmann (g, vo)
Rob Townsend (sax)
そして、Dick Driver(b), Chris Squire(b) などがゲスト参加し、弟の John Hackett(f) の名も見える。
2枚のディスクのは左のような内容。Disc1が主題であって、Disc2はサービス盤、懐かしの曲が現れる。
さて、そのDisc1に納められた13曲であるが、いやはやこの多彩さには驚きで、ハケットは相変わらずの飽きさせない一大絵巻を展開している。
オープニングの曲”loch lomond”からして導入の荘厳なオーケストレーション、そして一転してアコースティック・ギターのとっつきやすい調べとヴォーカル、そして又転調してのエレクトリックなギターの激しさと、期待を膨らませるところと前途多難な不安を感じさせるところを交叉させ、このアルバムの行き先を暗示している。
彼の特徴のハードなエレクトリック・ギターと、むしろ甘い感のあるアコースティック・ギターの両面が迫ってくる抑揚は、実は私は嫌いでないと言うか、むしろ好むところ。
インスト曲は5曲を占め、ギターにより哀愁のある泣きに近い音と、ヘビーな音を旨く展開するところもみせる。
一方”between the sunset and the coconut plams”、”looking for fantasy”で聴けるようなヴォーカルもなかなか美しい。
このアルバムはかってそうであったように、荘厳、暗黒というところから、一方むしろロマンティックな美しい旋律とギターの調べを加え、更にその上に、異国情緒たっぷりのスパニッシュなものや、東洋的なものまでアコースティック・ギターによって展開してみせるハケットの技量に充ち満ちているのである。
”two faces of cairo”のパワーも聴きどころであるし、”summer's breath”のやさしいアコースティックの調べ、そしてそれに続く”catwalk”はヘビー・ロックと聴かせどころは多い。そして圧巻は”12分に及ぶ”turn this island earth”では、プログレの復習版のようなロックの味をふんだんに盛り込んでの展開に惹かれてしまう。
スティーヴ・ハケットというと、やっぱり私のような古い人間にとっては、昔の彼のデビューした1970年のクワイエット・ワールドThe Quiet Worldの「THE ROAD」(TEICHIKU RECORDS 22DN-71)を思い出してしまう。左のような強烈な印象のジャケットは異様であったし、人間を見つめる感覚に注目しつつ、当時このアルバムのような多彩な展開の音の世界は驚きの世界でもあった。
そしてこのアルバムが、20年経って初めてCD化されたのが1989年。このCD化こそは、ハケットのジェネシスはもちろん彼自身のロック界に於ける実績が産んだものだった。当時は何でもCD化される時代ではなかったので、このCD化には感激し大いに喜んだものである。
こんなことも思い出しながら、このニュー・アルバムを聴いていると、この壮大な絵巻は私にとっては、展開に聴き惚れているうちに、ほんの一時のように過ぎ去ってしまうような感覚に陥るのであった。
(このアルバムはプロフェッサー・ケイさんのブログ「ろくろくロック夜話」でリリースされていることを知り、さっそく購入して聴いてみたところだ)
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コメント
いやいや、素晴らしいアルバム評ですね。ここまで書かれるとは思ってもみませんでした。彼の音楽観は昔から首尾一貫しているというか、ハケット・ワールドを展開しているのでしょうね。
風呂井戸氏の評論を読みながら、日本ではもう少し評価されてもいいミュージシャンだと思いました。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年1月26日 (木) 21時30分
プロフェッサー・ケイさん今晩わ。
プログレ派を自称しながら、どうもジェネシスには距離をとっていた私です。あれやこれやの流れの中から、スティーヴ・ハケットはかなり自己を磨いて現在に至っていると思います。しかしなんとなく忘れかけていた(すみません、ペコリ)のは事実で、ここで呼び起こしてくれて感謝しています。
このアルバムは私は評価します。
投稿: 風呂井戸 | 2012年1月26日 (木) 21時49分
地味な印象があって、虹色の朝以外聞いてなかったのですが、未だに新作を発表して23枚目ですと。
投稿: nr | 2012年1月26日 (木) 23時06分
nrさん、今年もよろしくお願いします。
私も、今回このアルバムで、スティーヴ・ハケットを、改めて見直しました。注目領域に入れておかねばと・・・・。
投稿: 風呂井戸 | 2012年1月27日 (金) 15時20分