イタリアン・ロックの軌跡(2) : イル・ヴォーロ IL VOLO 「IL VOLO」 & 「Essere O Non Essere? 」
スーパー・グループの奏でるスリリングな哀愁と宇宙空間
私が過去に感動したイタリアン・プログレッシブ・ロックを対象として、ここで再考察しているわけであるが、何から取りあげて良いか若干困る。それはあまりにも多彩であるが為に・・・・。
そこで特別な理由無く、最近になっても時々聴いているものから少しづつ書いてみようかと・・・そんな流れである。(まあこれを機会に、埃がのりつつある棚をまさぐってみようとも思ってますが)
「IL VILO / "IL VOLO" & "Essere O Non Essere?"」 KING RECORD K32Y 2051 , 1981 (1974,1975作品)
これもバンド・メンバーを見ただけで興奮する。つまりスーパー・グループそのものだ。そしてこのアルバムは彼らの残した1974年と1975年の2枚のアルバムをカップリングしたもの。(左のように1stのジャケをこのカップリング盤は使っている)
彼らのバンド名の”volo”は、英語は”flight”つまり”飛行”という意味だと思うが、この時代大きな飛躍を試み、多分世界進出を試みたのかも知れない。
基本的には、私のお気に入りでもあったイタリアン・プログレ・グループの”フォルムラ・トレFormura Tre”の発展系であるも、ツイン・ギター、ツイン・キーボード、ベース、ドラムスの6人編成。
PFMの世界進出を成功させたイタリアのレーベルの「ヌメロ・ウーノ」の一つの企画であったろうと思うが、話題のグループ結成でもあった。
(左は2ndのジャケ)
vince tempera : p, k
alberto radius : g, vo
mario lavvezzi : g, mandolin, vo
gabriele lorenzi : org, synth
gianni dall'agio : ds, perc, vo
bob callero : b
メンバーはこの6人、その内ギターのアルベルト・ラディウスとオルガンを中心としたガブリエーレ・ロレンツィが、イタリアン・ロックを代表するといってもよいバンドの”フォルムラ・トレ”解散後にこのバンドに集結。又イタリア音楽界を代表するキーボード奏者でありプロデュサーのヴィンチェ・テンペラ(前回紹介したジガンティの「TERRA IN BOCCA」の作曲とピアノ)。ロレンツィがいたことのある”カマレオンティ”にやはりいた名ギタリストのマリオ・ラヴェッツィ。ジャンニ・ダラリオのドラマー、ボブ・カレロのベーシストも一流のセッションマン。
こうした一流のミュージシャンの集結したスーパー・グループによる作品がこのアルバムだ。
曲は左のとおりの14曲で、1~8が1st、9~14が2ndからである。作曲はそれぞれが提供している。
1stは、唄ものと演奏のバランスの取れた曲群であるが、2ndは、殆どインスト曲といっていい。
スタートは、キーボートの静かなうねりと曲名どおりの蚊の鳴くが如きギターで始まるが、一転して一気にスリリングそのもののリズムと全楽器で展開するアンサンブルは身震いする。ヴォーカルはあまり前面に出ないパターンでの曲構成を推し進める。
メンバーそれぞれの担当するパートが繊細きわまりなく、又そのリズムの交叉が一級の芸術品。
ギターも3の”情念”では見事に泣いて見せ、それにアコースティック・ギターが絡んでヴォーカルも美しくまさにこれがイタリア・プログレと言ってしまう。
異質の技術を持った強者が結集して作り上げた完成度の高い曲群には無駄が全くなく、間のとり方や音の強弱は繊細にしてダイナミック、聴くものにとっては鳥肌の立つ思いである。
この作品群が、当時世界的に何故羽ばたくことがなかったのか、不思議と言えば不思議である。この1970年代中期に於いて、こうしたロックの技術的高度化は、むしろ一般の若者にとってはついて行けないところまで行ってしまったことによるのかも知れない。つまり身近なところから遠ざかってしまったのが大きな要因かとも推測出来る。考えてみれば巷にはあのパンク・ロックの流れが動き始めた時でもある。確かにイギリスでは1976年にはセックス・ピストルズのデビューもある。
おそらく、流れる時代の中で、その時代を勝ち取ることが出来なかったのがこのイル・ヴォーロなのかも知れない。しかしイタリア・プログレを語るにおいては、このイル・ヴォーロは忘れるわけにはゆかないのだ。
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コメント
イル・ヴォーロの2枚のアルバムがワン・セットで売られていたとは知りませんでした。自分は紙ジャケで1枚ずつ購入しました。さすが風呂井戸氏、イタリアン・プログレッシヴには精通していますね。
確かに優れていたアルバムだと記憶しています。彼らはグループ解散後もそれぞれの道を歩んだのではないでしょうか。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年2月16日 (木) 22時53分
プロフェッサー・ケイさん、コメントどうも有り難う御座います。私は、イル・ヴォーロは好きで、今でも時に聴いています。
90年代になって、再びこのイル・ヴォーロの前のフォルムラ・トレを再結成させて、多くのアルバムを出していますが、ルチオ・バッティスティの曲を多く取りあげていますね。
投稿: 風呂井戸 | 2012年2月17日 (金) 17時48分
フレさん、トラックバック有り難うございます。
いずれにしてもイル・ヴォーロだけは、イタリアを語るにはどうしても押さえておかねばならないところですよね。
投稿: 風呂井戸 | 2012年2月17日 (金) 17時50分