イタリアン・ロックの軌跡(3):ルチオ・バッティスティ Lucio Battisti 「AMORE E NON AMORE 8月7日午後」
彼のを語らないとイタリアン・プログレッシブ・ロック話は始まらない・・・・
イタリアものを語るには、やっぱりこのルチオ(ルーチョ)・バッティスティを見ておかないと、どうも話がうまく回転しない。そんなとこから彼に焦点を当てておく。
「Lucio Battisti / AMORE E NON AMORE 8月7日午後」 KING RECORDS KICP 2105 , 1991 (1971年作品)
これはシンガーであり、シンガーソングライターであり、プロデューサーでもあるルチオ・バッティスティ(ルーチョとかルーチオとか言うが、日本で当初はルチオと呼んでいた)の3rdアルバムであるが、何と言ってもイタリアのロックの道を作り上げた作品として注目度は現在においても高いもの。
それはイタリアン・プログレの代表ともいっていいPFMやフォルムラ・トレを産み、そしてイル・ヴォーロへの流れへと発展させた起爆剤の作品であるからだ。
イタリアのポピュラー音楽界のドンともゴットファーザーとも言われる彼が、カンタウトーレとしてのスーパー・スターであるが上に行った一つの実験でもあった。
彼の歌もの曲と、ここに集まったのちにPFMを結成するフランコ・ムッシーダ以下の4人、そしてフォルムラ・トレを結成するアルベルト・ラディウス、更にソリスト、アレンジャーとして有名になるダリオ・バルダンの6人のセッションによるインスト曲を加えてのアルバムを作ったのだ。
曲は左のとおりの8曲であるが、1.3.5.7の4曲が彼の唄もの。そして2.4.6.8が、セッションでの奏でるインスト・プログレ曲という「対」になった構成。
このアルバムは、日本タイトルは4曲目のタイトルからとっての「8月7日午後」というものだが、もともとのタイトルを訳すと「愛と愛でないもの」となり、内容が対をなしている形をとっていることを表していると思われる。
その”8月7日午後”というインスト曲も”8月7日午後、自動車の墓場の焼けるような鉄板、ぼくだけ、静寂しかしながら僕は異常に生きている”という長いタイトル曲で、ギターの音を中心としての静かに語られ次第にキー・ボードが加わる不思議な曲。と、思えば対照的に5曲目の”私を求めるなら”は、唄もののロックン・ロールだ。
2曲目も”プラタナスの下に座ってマーガレットを口に洗剤の白い泡で汚染された黒い川をながめながら”というタイトルで、イタリア・ムードのあるジャズっぽいインスト・プログレ曲。3曲目は、この後のイタリア・ヴォーカルものの形を見せた佳曲。
6曲目の”フィオーリ”は、これぞこの後のイタリアン・プログレの開花である曲の方向を示唆したキーボードの哀愁あるなかなか心に染みこんでくる名曲。むしろクエラ・ベッキア・ロカンダを思い起こす。
このバッティスティは、1943年生まれで1998年に、55歳で亡くなっている。そもそもはミラノで作曲家としての活動であったようだが、作詞家のモゴールとの連携で、シングル曲など発表を経て1969年にデビュー・アルバム「LUCIO BATTTISTI」を発表。
この記念すべきアルバム「8月7日午後」は3枚目のもの。彼はこれ以降、イタリアン・プログレ・バンドを支えるべくヌメロ・ウノ・レーベルを起こしている。そして彼はイタリアン・バンドを世界に売り出したのだ。更に彼自身も多くのアルバムを作成、全19アルバムが確認される。
私の所持しているアルバムで、プログレっぽいものは、まず左は彼の5作目のアルバム。
「Lucio Battisti / umanamente uomo : il sogno 人間の夢」 BMG Ariora PD 74009 , 1989 (1972年作品)
これは彼のやりたいことを自由気ままにやったという感じだ。1曲目からアコギと彼のヴォーカルが印象的な優しい魅力的な曲。面白いのは、フォルムラ・トレの代表的な曲”sognando e risognando 夢のまた夢”が、ギターをバックにしてのバッティステイの唄で7曲目に聴けることだ。勿論彼の作曲曲だから彼のアルバムに登場してもおかしくないことだ。しかし私の痺れたフォルムラ・トレの演奏の原曲を聴く思いである。彼のアルバムは全てプログレ系ではないが、このアルバムはどちらかと言うとプログレを含めての広いロック分野を網羅している。
「Lucio Battisti / ANINA LATINA (二大世界)」 BMG Ariora PD 74012 , 1989 (1974年作品)
これは、私流に解釈すると彼の最も傑作に入るかも知れない。ラディウスやラヴェッツィも参加しているせいか、まさにイル・ヴォーロを彷彿とさせる。原題は”ラテンの魂”と言っていいのだろう。情熱の感ずる中に、多彩な音が入り交じってそして一つの統一感ある昇華した世界に引っ張り込むところは、只者の作品ではない。
音の広がりと浄らかさ、そして感動呼ぶ愛燐の情感がたっぷりで彼のプログレっぽい最右翼の作品。彼の8作目のアルバムだ。
イタリアン・プログレシブ・ロックを語るときに、必ず一つのキーとなっていたルチオ・バッティスティに焦点を当ててみた。
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コメント
トロルスやPFMではなく、ジガンティから始まりですか。PFMの伊盤をよく聴いておられたように記憶しております。
今更ながら、ロカンダ デレ ファーテが新作出したとか。
私は、スコットランドのアイオナを、昨年出た2枚組から2006年までリバースしていっているので、イタリアンまで行く余裕がないです。
http://www.youtube.com/watch?v=kZ8P9ygbNp8
投稿: nr | 2012年2月21日 (火) 21時30分
nrさん今晩わ。
イタリアもの懐かしいですね。あの頃は英国プログレはダウンしていて、イタリア発掘はほんとに慰めになりました。最近は全く別世界に現(うつつ)を抜かしていますが・・・。(確かにPFM、トロルスあたりは入り口でしたね)
ところで、そのアイオナも研究(笑)させて下さい。
投稿: 風呂井戸 | 2012年2月21日 (火) 22時42分