イタリアン・ロックの軌跡(4) : マリオ・パンセーリMario Panseri 「ADOLESCENZA 秘められた記憶」
プログレッシブ・ロックにおけるカンタウトーレの活躍
”イタリアン・プログレッシブ・ロック”という世界が、日本においての一大ブームを引き起こしたのは、1970~80年代における時代だったと思う。当時はイタリア独特のメロディー・ラインやシンフォニックなアプローチ(ジャズィなタイプももちろんあったが)に圧倒され、ブリティッシュの影響を受けながらも、イタリア独特の世界に満ち満ちていて我々に迫ってきたものだった。
そしてその流れの中に、どうしても無視できないところに、カンタウトーレといわれるシンガーソングライターの大きな役割が見えてくる。そこには前回検証してたルチオ・バッティスティはもちろんであるが、彼らの活躍はロックの世界に大いに影響をもたらしたし、又彼らの作品もプログレ派には注目されそして受け入れられたのであった。そんな中から印象の強かった一枚を取り上げてみる。
「Mario Panseri / ADOLESCENZA 秘められた記憶」 (イタリア1973年作品) BMG VICTOR (EDISON) ERC-28019 , 1989
歌ものと言われたものでも、曲を形取る方法論に於いて、プログレッシブ・ロックとしてのシンフォニックな演奏やはたまたメロトロンやギターそしてピアノに於いても美しく時として激しく迫ってくるものが多く出現した。
このアルバムもイタリア独特の哀愁を多種多様な楽器で奏でると同時に、その歌にも魅力があった作品。
イタリアが最もプログレッシブな波の高かった1973年の作品(RCAレーベル)だが、CDとしての日本リリースはそう古くなくEDISONの企画のEUROPIAN ROCK SERIES にて1989年にリリースされたもの。当時直ちに飛び付いたものである。
カンタウトーレであったマリオ・パンセーリMario Panseri の作曲、歌、アレンジという才能を見せ付けた最も印象深い作品だ。(私は知らないがアルベルト・モラヴィアという人の小説「アゴスティーノ」をテーマにしている)そしてアルバム・タイトルの”ADOLESCENZA”は、”思春期”とい意味であるが、この EDISON盤の日本タイトルはなかなか味がある。
1. 貴女の季節
2. 家 (君の家)
3. 迷路 (君は知らない)
4. 海の果て
5. a)隣人 (母の側)
b)失望
6. a)初めての友達
b)貴女の横顔
7. 苦悩 (君の混乱)
8. 神秘の瞳 (あの目)
9. 消えた子供 (君はもうあの子供じゃない)
収録曲は2つに分かれた2曲を入れて9曲。これらが一つのコンセプティブにアルバムを通して歌い上げられていて、トータル・アルバムの仕上げとなっている。
少し内容について触れてみると・・・・・
1.のオープニングは、ピアノのアルペジオ奏法をバックにオーボエによる旋律が流れるという楽器の綾で、やや暗めの哀愁感あるヴォーカルととに、何とも言えない印象深い旋律の曲
2.となるとベースがゆったりと刻むリズムに非常に美しいストリングスも入った曲が流れて、続いてアコースティック・ギターも美しく弾かれヴォーカルも魅力的。突如エレクトリックなギターが唸ってロックと化すかと思いきや再び美しい曲に戻る。
4.はドラムスの効いたロックで始まりトランペット、トロンボーンと思われる管楽器も加わって圧巻、そしてフルートがイタリア・プログレの世界の色を見せ、最後は海の如くピアノにより静かにおさまる。
5.は、このアルバムでも聴かせどころの青春の哀愁を歌い上げる世界と、ドラマチックな世界の交錯は見事と言わざるを得ない。
実はこの多彩なバック・ミュージシャンが不明である。もちろんベース、ドラムスのリズム隊は各所でポイントを占めるが、生ピアノ、チェンバロらしき音、シンセサイザー、ストリングス・アンサンブル、acギター、elecギター、ホーンなどなど多種多様な楽器が彩る限りない愛と哀愁が響き渡る。多分彼自身の演奏もかなりの位置をしめているのではないかと推測する。
とにかく、これぞイタリアの美のアンサンブルの世界である。
7.から8.は、如何にも若き人間の甘い苦悩ともいえる姿を、ややジャズィでプログレッシブな激しさと、一方普遍的なもの哀しさをゆったりとピアノにより美しく描く。非常に格調高い。
9.で聴かれるジャズ・キーボード、ジャズ・ギターのセンスの良さには驚かされる。
20年少々前に知った私にとってはとにもかくにもベタ褒めのアルバムなのである。そして未だに聴き惚れてしまうもの。これが1973年という年のイタリアに生まれていたのかと信じがたい程だった。ブリティッシュのピンク・フロイドで言えば「狂気」の時であり、キング・クリムゾンで言えば「太陽と戦慄」の時だが、全く異なったアプローチの世界であるだけに、まさに恐るべしイタリアなのである。
彼にはこれ以外に2枚のアルバムがあるが(それらは私は聴いていない)、2ndであるこの一枚が最高傑作と言われている。
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