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2012年3月12日 (月)

ケルティック・ロック・バンド~アイオナ IONA 「Another Realm」

ロック・バンドの演ずるケルト音楽への世界

 ケルト音楽というと、アイルランド、そしてスコットランドに及ぶケルト人の民族音楽、そしてそこには敬虔なキリスト教を基盤にして立っているという感覚で私なんかは捉えている。そしてそれは何故か郷愁をさそうところがあるが、一つにはアイルランドの不幸な歴史を知る事からも感じてしまうのであろうか。
 ケルト音楽の流れは、ヨーロッパに広く特にフランス、スペイン、ポルトガルの地方にも及ぶ(それはヨーロッパの先住民族であったケルト人が、古い歴史の中で西に追いやられた結果であるという)。一方イギリス統治下のアイルランドやスコットランドからの何百万人の悲劇的移民により、ケルト移民文化がアメリカ東海岸、カナダに至るまで広がった。特にアイルランドからの移民によるケルト音楽のアイリッシュ・ミュージックは米国における黒人のブルースとの融合するところにも至るのである。そのあたりは私も興味を持っているところだ。それには彼らの音楽がカントリー、ブルーグラスに発展したことの結果であったと言うのだが?。更にそのことは考えてみれば最終的にはロックを産むところにも影響を及ぼしてゆくことになる。

 こんな流れの中で、何時の時代でも常に話題は必ず起こるケルト音楽ではあるが、ここにロックからケルト音楽を作り上げているグループのアイオナIONA を知って取り上げることになった。

Anotherrealm 「IONA / Another Realm」 OPEN SKY CD16 ,  2011

 このアイオナ は、1990年より多くのアルバムをリリースしている。その20年以上の歴史の中で、これは最新作の7作目(ライブ・アルバムを抜いて)。
 もともとロックを聴く流れの中で、私はどちらかというとプログレッシブ、サイケ、シンフォニック又はジャズィな方向にあり、意外にフォーク系には落としも多かった。このバンドは最も私が夢中になった時代よりは近年になるためか、トラッドにはそれなりに関心もあったにもかかわらず、全く接してこなかった。しかも、これ程のシンフォニックな世界を落としていたのだ。 
 ところが、関西方面のプログレマニアのnr氏が、どうもこのバンドに捕らわれているようであり、そこで私も聴いてみたというところである。

Anotherrealmlist_2 収録曲は全15曲、約90分に及んでいる(左参照)。
 基本的にはロック・グループだが、トラッドを演奏しているのでなく、全て彼らによって作られた曲である。

 メンバーは当初からは変更もあるが、このアルバムは5人で演奏している女性リード・ヴォーカル・バンド。
   Joanne Hogg : vocal, piano, keyboard etc
   Dave Braindridge : elec. & ac. guitars, keybords etc
   Frank van Essen : drums, violin etc
   Phil Barker : bass
   Martin Nolan : uillean pipes, low whstles, tin whistles etc

Hogg    このバンドの演奏は、どう表現するば良いか難しいが、キーボードが美しく流れ、シンフォニック・パターンのロックを展開するが、何と言っても特徴的なアイルランド生まれのイリアン・パイプスの音色とそのケルティックなメロディーは一番の特徴。そしてジョアンヌ・ホッグの歌声が美しい。
 それにデイブ・ベインブリッジのelec及びacギターが、語りかけるような演奏から、ロックのダイナミックな響き、時として泣きまで聴かせる。
 ベース、ドラムスはロックの味を失っていない。そしてその他、ヴァイオリン(なんとドラマーのフランク・ウァン・エッセンはこのヴァイオリンも弾く)やアイリッシュ・フルートと言われるティン・ホイッスルなどが民族的なケルトの世界を展開してみせる。多彩な楽器を駆使してあくまでもシンフォニックなロックの世界から、宗教的な敬虔な世界まで築いてゆくところは見事と言える。

 ホッグの魅力的なヴォーカル曲ばかりでなくインスト曲も何曲かある。
 Disc1のオープニングの”As it was”はDsc2の最終曲”as it will be”に繋がるアルバム仕立てになっていて、壮大なドラマの展開を予想させる静(聖)なる曲。2曲目”The ancient wells”で、ロック・アルバムのオープニングである。
 ”An atmosphere of miracles”は、3部に別れた15分を越える大叙情詩。美しさからスタートし安堵へ、ホッグのヴォーカルが響き渡る。そしてベインブリッジのギターが泣き、最後は大宇宙を描く。このアルバムの一つのハイライト。
 Disc2では冒頭の”Ruach”では哀愁漂う美しさに圧倒される。そして”Speak to me”への流れは魅力的。”Saviour”、”The fearlesss ones”などは宗教的ニュアンスが強い。
 ”White horse ”は雄大なシンフォニック・ロック・ナンバー。

Dave  このバンドは、このギターのベインブリッジとヴォーカルのホッグ、そして当初はデヴィッド・フィッツジェラルド(sax,fl)の3人により、1989年にゲスト・ミュージシャンを加えて結成され、1stアルバム「IONA (日本盤=緑の聖地)」をリリースしたことから始まっている。このあたりまでは私は目下アプローチしてないが、この時から、独特なケルティック・ロックを展開したようだ。
 
 このアイオナIONA というのは、島の名前だ。この島は5.6×1.6㎞という小さな島で、スコットランド、インナー・ヘブリディーズ諸島というところに属しているのだという。住民はなんと百数十人しかいない。昔、アイルランドを追われた聖コルンバという人がキリスト教の拠点して修道院を創設し重要な巡礼地にまで築き上げ、ついには聖なる島となったところらしい。
Band1_2  その名を付けたバンドであるから、メンバーはクリスチャンそのものであり、しかも作られている曲は宗教的テーマを持っているのだという。
 しかし、我々にとってはそうした意味は重要であるのかも知れないが、そのことは別にして、言語の関係から、その意味までは理解出来なくても、一つ一つの曲そしてアルバム全体流れから、何か心に響いてくるものが感じ取れる音楽として魅力があれば、それはそれ十分である。私の感想としては、そうした音楽を聴かせてくれるバンドであることは間違いない。

 20年以上の歴史あるバンドのアルバムを、今回初めて聴いてみたという私であるが、一口にロックとはいえ、こうした心洗われる世界もあることが、非常に頼もしくも感じたところである。
 
 

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コメント

オーケストラルライブの方をこね回している最中に結構なものをありがとうございました。風呂の中で見てます。

元々、ヒーリングモノとしてアプローチをはじめました。確かにケルト涙腺(フォルクローレ涙腺も同義)を刺激してきますが、ヒーリングにしては蒸溜度が足りなく、以前私ブログでおっしゃられたように不純物であるロックな部分が多いです。新作2枚組は、その純度を増してしまったため、逆に聴くのが苦しいです。傑作のJourney Into The Mornを超えれなかったかなあと視聴歴浅いのに思ったりします。

イリアンパイプとギターのハモリはメル・コリンズ&アンディのライブファンタジアでのプレイを思い起こさせ、ましてアイリッシュの芸風が後期キャメル3部作を思い起こさせるので、キャメルタイプに仕分されるのはよくわかります。でも長時間に渡って間が持たないのは、ウィッシュボーン・アッシュかなぁと安易に思ったりするんですね。これはオフレコです。
また、タイタニックのサウンド・トラックを延々聞かされているみたいな。

それで現在のところ、主題が転調再現を繰り返して構成のわかりやすいJourney Into The Mornは別格として、その他レギュラーアルバムは1枚通して聴くのはなかなか辛いものがあり、ベスト選曲のライブ盤に逃げてます。まあ、この道はマイク・オールドフィールドがいつか来た道なんですが、私も好きなもんで。

投稿: nr | 2012年3月12日 (月) 23時40分

 nrさんは、風呂の中ですか?(笑)
 曲によって、今作もヒーリングもの的なところも無いではないですが、やっぱりちょっと違うんでしょうね。このアルバムのDisc1の15分もの及び2の11分ものは、それぞれ結構良くできているのでは?と思いますが。
 歌詞はごてごてと並べずに、短い文章でゆったり歌われ、かえって意味深なことろも魅力です。
 アイルランドと言っても、キャメルは社会現象に、アイオナは宗教的空間にアプローチしているのでしょうね。
 このバンドは、私も、もう少し過去のものを聴き込んでみたいと思っているところです。

投稿: 風呂井戸 | 2012年3月13日 (火) 16時17分

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