ジャケ買いの極致~FARMERS BY NATURE 「out of this world's distortions」~ジャケ党を泣かせるアルバム(6)
FARMERS BY NATURE 「out of this world's distortion」
AUM FIDELITY AUM 067 , 2011
( Recorded June 24, 2010 at Brooklyn, NY )
1. for fred anderson
2. tait's traced traits
3. out of this world's distortion grow aspens and other beautiful things
4. sir snacktray speaks
5. cutting's gait
6. mud,mapped
(members)
Gerald Cleaver : drums
William Parker : bass
Craig Taborn : piano
ジャケ買いが、こんな刺激的なアルバムに到達するとは思わなかった。久々の興奮であった。やっぱりジャケ買いも失敗も多いが、こんな獲物にも有り付くのだ。アメリカン・ジャズの底力?をみせつけられた思いである。
このアルバム・ジャケの写真は、幽玄であり、静であり、そして緊張感の世界。それが1曲目”for fred anderson”でものの見事にマッチングしている。このごくありふれたピアノ、ベース、ドラムスのトリオであるが、そのメンバーについてはベースにウイリアム・パーカーの名がみえる。彼らは誰がリーダーということはないようだが、この1曲目において完全に彼らの世界に没入させられる。パーカーの弓引きによって描かれる幽玄な世界にピアノの響き、それは次第に霧が晴れていくがごとくに微妙な間をとった流れで進行し、そして最後に補足するがごとくドラムスのプレイによってこの曲は完成する。素晴らしい。
とにかく彼らは左の「FARMERS BY NATURE」(AUM Fidelity, AUM 053, 2009年)というアルバムでデビューして、この2ndアルバムをリリースしたのだ。つまり1stのアルバム・タイトルが、時にあることだがこの2ndではバンドの名前となった。
さてこの2ndの話に戻るが、2曲目”tait's traced traits”にはがらっと変わって、三者のバトルに近いフリー・ジャズの刺激的展開に圧倒される。これだけそれぞれが独自の複雑な緩急がその絡みによって構築された一体感が凄い。それは18分を超える。
3曲目”out of this world's distortions grow aspens and other beautiful things”には、今度はベースのフィンガー・プレイでのスタートではあるが、再び1曲目の深遠な世界に戻り、追従してピアノがデリケートな響きによって世界の歪みを超越する芽生える姿が迫ってくる。ここにポジティブな世界観が読み取れる。この曲名の前半部分がアルバム・タイトルとなっているのだ。
5曲目の”cutting's gait”は、2曲目と対を成してこのアルバムを形作っている。
最終曲”mud, mapped”では、やはり弓弾きベースが深遠な世界に導き込み、スリリングなピアノ、連打のドラムスが異様な世界と現実との境に我々を置いていく。後半の盛り上がりが素晴らしい。最後は弱音で幕を閉じる。
このアルバムは、取りあえずは強者(つわもの)のトリオのフリー・ジャズであって、久々にこのタイプに接する機会となって、私自身にも強烈な刺激が伝わってきたのである。 流れとしては、やはりベースの位置が大きく、続いてドラムス、そしてピアノといった感じである。
このピアノ・ベース・ドラムスのトリオによるジャズ世界は、先頃紹介した私の愛するトルド・グスタフセンのトリオものとは世界観に於いて相対する位置にあると言えるが、しかしそこにはジャズの奥深さを感じざるを得ないのである。これも一つのジャケ買いの始末記であった。
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