絵画との対峙-私の愛する画家(1) 「相原求一朗」-3-
相原求一朗を語って三回目(通算四回目)となってしまった。ここでは私の注目する絵画を登場させる。
求一朗は本名久太郎であり、父の家業を継いだ際には、世襲により茂吉と改名している。そして1965年46歳に雅号を求一朗としている。これは彼が目標が定まって本格的に絵画に集中したときである。
以下は、混迷期を経て、1961年北海道に自己の世界を見いだし、それ以降から1970年代の彼の意欲溢るる時(彼の第二期)の作品群(北海道及び北フランス)である。 (鑑賞:クリック拡大)
(1)
相原求一朗「道-北国の町角」 油彩・キャンバス 1974 112.0×162.4㎝
(「相原求一朗作品集」1977 日動出版部 より)
この作品は以前にも紹介したが、彼が北海道の地に自己の目指すものの発見が出来、最も集中した第二期(私の勝手な区分)の作品である。この頃には北フランスと北海道に集中的に足を運び制作している。
彼の作品の生涯の一つの主題でもあるとも言える”道”を描いているが、画面の構成の骨格であると同時に、奥に流れてゆくこの情景の哀愁は他の追従を許さない。私の好きな作品でありここに登場させた。
ここに描かれるものは抽象作品を経て又構成主義的アプローチも経て後に出来上がった一つの相原のパターンであると思う。そしてそれよりも大きなポイントは、厳しい北の国の生活の姿が情感を持ってこの一枚で物語っている。
(2)
相原求一朗「廃船のある風景」 油彩・キャンバス 1972 112.0×162.0㎝
(「相原求一朗作品集」1977 日動出版部 より)
上の「道-北国の町角」より二年前の作品。北フランスにての作品であるが、彼の心が表現されていると思う。彼の”道”を描く特徴がここにも出ているし、厳しい寒さに耐えての港の姿と、そこに生きる人間模様とが、彼の詩的情感に支えられて描かれている。色の深さにも圧倒される作品。
(3)
相原求一朗「大地・雪どけ」 油彩・キャンバス 1975 130.5×162.5㎝
(「相原求一朗作品集」1977 日動出版部 より)
北海道にみる厳冬の荒野は、彼の描く大きなテーマでもある。しかしこの作品には雪解けの姿が描かれ、ただ厳しい暗さのみでなく、春に向かう期待感を失っていないところが相原作品の魅力である。
相原求一朗の作品の特徴としては、黒と灰色とが織りなす色との技が見事である。これに関しては・・・・・
彼の作画技法の特徴として、美術評論家のたなかじょう氏によると、描くというより削る操作繰り返されている特徴があるという。まず一般的にはない下塗りの特徴としてアイボリ・ブラックが塗られていて下地は真っ黒な状態。そして半乾きの状態の時に各色の絵の具を乗せては削ってゆくという手法で、最初から中盤まではパレットナイフとローラーなどが使われ、筆は終盤になって使われるのだそうだ。下地が黒であり、乗せられた色がナイフで削られると黒が起こされてその効果が相原流の基礎にあるという。何色が何度も重ねられ削られた上で彼の色調が作られているというのである。
これも彼が築いた一つの技法であり、そうした目で彼の作品に目を向けてみると、これも又趣が増すというものである。
(4)
相原求一朗「道-広い道」 油彩・キャンバス 1974 112.0×162.4㎝
(「相原求一朗作品集」1977 日動出版部 より)
北国の詩情が単純な世界に滲み出ている。
(5)
相原求一朗「風はやく」 油彩・キャンバス 1978 61.0×91.0㎝
(「AIHARA 初冬の便り-ブルターニュ・ノルマンディー」1979 日動画廊 (個展記念画集)
より)
北海道に通ずる世界を厳しい寒さの北フランスの海岸に見て取っていた相原の心情が溢れている。ドーバー海峡の荒磯に初冬に立つ求一朗の姿が見えてくる。この作品は1978年の当地への二度目の取材時のもの。
この旅にては、白い絶壁、ひっそりとした港、波際の灯台、どんよりとした空の下の初雪、荒地の丘、海沿いにじっと耐えて立つ家など多くが描かれた。又何枚かに人物が挿入されているが、ほとんどが奥に向かう背姿を描いている。
(相原求一朗の1960年代の転機について更に次回掘り下げたい)
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