絵画との対峙-私の愛する画家(3) 「吉岡耕二」
驚きの造形と色彩美学
私の愛する画家として、現役バリバリということでは、既に”問題意識の画家:中西繁”を取り上げてきたが、ここではもう一人”吉岡耕二”に焦点を当てる。
彼の描く絵画を語ろうとするには、私の言葉では適切なものがない。まずはその作品を鑑賞することが最も手っ取り早い。
吉岡耕二「ブルーモスク Blue Mosque (トルコ)」 2004 oil on canvas 112.7×91.0㎝
(画集「YOSHIOKA 2003-2009」 2009 株式会社アートデイズ より)
彼の作品を語るには、彼の画集に寄せられた言葉が適切だ。
詩人・作家の辻井喬によると”はじめて吉岡耕二の作品に接した時、浮かんできたのは色彩の詩人、という言葉だった。線も構図も、色彩が歌い、踊り、そして何か哀し気に沈黙する・・・そうしたドラマを表現するためにあるのだと思った。しかし今、そうした魅力に引き込まれながらも私は、この作者がそのようにも光を自らの鼓動にし得たのはどのような必然、あるいは成り行き、または身体的な法則によってなのかと考えてしまう”・・・と。
吉岡耕二は1943年生まれ。24歳で自由な色彩表現を求めてパリ国立美術学校に留学。1975年に日本人としては最年少の31歳で、サロン・ドートンヌの正会員に推挙されるという実力派。地中海を中心としてヨーロッパ、北アフリカ、カリブなどにある多くの国を訪れて描いてきている。
私にとっての彼の作品の魅力は、キャンバスの中に大胆な構築される対象の姿と、色による心の表現であろうその鮮烈さには圧倒されるところにある。
吉岡耕二「エッフェル塔 The Eiffel Tower (フランス)」 2008 oil on canvas 72.7×60.6㎝
(画集「YOSHOOKA 2003-2009」 2009 株式会社アートデイズ より)
グラフィックデザイナーの早川良雄は、”吉岡耕二の絵の前に立つと、あゝこれこそが絵画のみに可能な表現なのだと思い知らされる。・・・・・ 対する者は、まずその美しい色彩の協奏に酔い、奔放な形象の解放に圧倒される。意表を衝く重層空間のなかに風景の記憶が映し込まれるが、それは抽象と具象のあわいを自由に往き来しながら独自の造形世界に再構築されていて、見事という他はない”・・・と、記している。
吉岡耕二「コルドバ Cordoba (スペイン)」 2009 oil on canvas 90.9×72.7㎝
(画集「YOSHIOKA 2003-2009」 2009 株式会社アートデイズ より)
彼の作品は、圧倒的に地中海をとりまく国々の都市を描く作品が多い。そしてそのキャンバス内の描かれる対象の姿は、一見抽象に見え、又自由奔放でゆくままのごとくに描かれているようであるが、実は私の目からは相当な計算が成されていると思う。そこが又大きな魅力である。
彼は、上のように風景画が主力と言って良い。それは彼の描こうとする世界観の対象であるからであろう。
しかし、左のように”花”を描いた作品も多く見られる。
←吉岡耕二「花 Flowers」 2001 oil on canvas 27.3×22.0㎝
(画集「YOSHIOKA 1999-2003」 2003 より)
しかし絵画の世界は、絵画であるからこそと言う自己の表現としての奥深い世界が存在していると思う。それは表現技法や対象の選択においても安易に到達出来るような世界ではないであろうことも想像できる。観る我々は何を感ずるかは又その人の個性であり、歴史的産物でもあろう。
特にそうしたことを考えさせるのが彼の絵画の世界の一面であるようにも思う。
←吉岡耕二「フィレンツェ」 F10号
これは、上のトルコ、フランス、スペインを描いた3作のような大作ではないが、私のかねてからの念願が叶っての偶然持つことが出来た彼の作品で、イタリアのフィレンツェを描いている。この街の象徴でもあるドゥオモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)を遠景に配して、彼独特の鮮烈な色彩でイタリアの歴史の街を描いたもの。まさにこの空の色は、吉岡にしてみると、フィレンツェの発するエネルギーを感ずるところなのであろうか。ルネツサンス運動の発祥の地として美しいこの街の人気は日本人にも高い。
吉岡耕二略歴
1943年 大阪に生まれる
1962年 大阪市 立工芸高校美術科卒業
1967年 渡仏、パリ国立美術学校に留学
1968年 サロン・ソシエテ ナショナル・デ・ボザール(於パリ近代美術館)出品
サロン・アーティスト・フランセーズ(於グランパレ)受賞
美術誌「アート」に紹介される
スペイン・ポルトガル・モロッコ・アルジェリアに旅行
1970年 サロン・ドートンヌ初出品(翌年共 2 年連続)、会員候補に推挙される(75年正会員)
1971年 サロン・テールラテンに招待される
1972年 インド・ネパール旅行
1973年 パリに於ける各展の他、アンデパンダン展にも出展
1981年 14 年間の帯仏生活を終え帰国
1983年 チベット旅行
1987年 エジプト旅行 梅田阪急個展
1989年 モロッコ旅行
1992年 メキシコ旅行 渋谷西武個展
1993年 スペイン旅行 宝塚西武個展
1994年 カリブ旅行 梅田阪急個展
1996年 ギリシャ旅行
1998年東急Bunkamura Galleryにて個展
1999年CDジャケット20種(東芝EMI)
2000年 南フランス旅行 大丸百貨展個展 (東京)
2001年 イタリア旅行 大丸百貨店個展(大阪 神戸)
2002年 マルタ島・シチリア島旅行 みなとみらいギャラリー(神奈川)
2007年 5月、上海アートフェア出展
2008年 高島屋大阪個展2009年 BunKamuraギャラリー個展(東京)
2010年 ギャラリー尾形個展
(吉岡画伯をはじめ、ここで取り上げる諸画伯に対して、普遍性を期す意味で敬称は略しました。よろしくお願いします。又絵画の供覧は、著作権法第32条に準じています。問題があればご連絡ください)
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