絵画との対峙-私の愛する画家(5) 「五十畑勝吉」
まさに風景画のお手本
私のように下手な横好きで、時に絵を描いていると、なるほどこう描けば良いのかと、お手本が欲しくなる。そんなところでは、既に取り上げた中西繁、安藤育宏、そしてここで取り上げる五十畑勝吉は私好みの私が勝手に決めている師(先生)である。とくに私の場合は描くとしたら風景画が多い為尚更のことである。
(供覧絵画はクリックにて拡大)
五十畑勝吉「初秋相模川(相模原)」 油彩・キャンバス M10号
(別冊:一枚の繪~画集 風景を歩く 1986 一枚の繪(株)より )
実は、五十畑勝吉は日本の名勝といえる場所に出向いて、美しい自然を描いているのではなく、日本のどこにでもある身近なところに対象を求めている。
彼の著書「油彩と水彩で~風景画を描く」(主婦と生活社)にある彼の言葉にみるのは、”私が描く風景は人物を点描として入れたり、建物を主題に描くことはほとんどない。自然の風景であっても、人の営みを感じさせるような場所が好きだ。・・・・”と記している。
確かに五十畑の絵には、そこに何か郷愁を感じたりするのはその為かも知れない。そしてそれは私だけでは無いであろう。
←五十畑勝吉「北信初冬(中野)」 油彩・キャンバスM10号
(別冊:一枚の繪~画集 画家80人による100点 1985 一枚の繪(株) より)
北信州での一枚。これに対しての彼のコメントは、”私は以前から近場での取材が多く、地方への取材はほとんど行きませんでした。・・・・・北信五岳の名山と紅葉の季節はこれまでの私はあまり描かなかった題材です。又遠方へ蛇行する山間の民家と平野にも、何かきびしい自然の美しさというものの魅力を感じ、描いてみました”と書いている。
枯れ始めている雑草に囲まれた道は、こうした山間の地の代表的姿であり、そこに又人の営みがあっての姿がある。彼はこうした枯れた雑草の道を晩秋、早春などに前景に入れる手法をよくとっている。それが又、彼の絵の我々に語るところとなっていて、それが一つの魅力にもなっている。
この絵に於いても、きびしい冬を迎える前の短い秋の風景であるが、紅葉の美しさというよりは、なにか郷愁を誘う世界を描いている。
五十畑勝吉「河原の道(津久井小倉橋付近)」 油彩・キャンバス P8号
(別冊:一枚の繪~画集風景を歩く 1986 一枚の繪(株) より)
ここに描く五十畑の秋は燃えるような紅葉ではない。木々は紅葉しているが、道と川の境には雑草が茂みそして枯れている。川に沿った道は遠くの橋に向かっている。美しい景勝地ではないが、人の営む世界の中からのなにかほっとする美しい一風景だ。これが五十畑の世界であると言って良い。
描く技法も、非常に私にとってはあこがれのもの。特に枯れ枝の線の描き、雑草の描き、この独特の線の流れは非常に魅力的である。
五十畑自身の書いたものを見ると・・・・・・・”私は美術学校で学んだことがない。キャンバスを張ったり、絵具の使い方や、下地の塗り方など、絵の好きな仲間に教えてもらったり、技法書を読んだりして学んだものである。それ以上のテクニックや絵画論なとアカデミックな考え方は持ち合わせていない。私の描き方は自分で考えたものである。” と語っている。
五十畑勝吉(いそはたかつよし) 略歴
1933年 東京都文京区生まれ
中央大学卒
会社勤務の傍ら独学で油彩を学ぶ
日展、一水会、大潮展、朔日展など入選
一枚の繪でも活躍
1985年 第14回現代洋画精鋭選抜展金賞
無所属
個展開催
←五十畑勝吉「残雪の道」 油彩・キャンバス F6号
早春で、平地に雪をみる風景。日本ではごくありふれたどこにもある農道からみた風景。こうしたところのほうが絵ごころをさそうというのが五十畑勝吉である。
枯れた雑草、もう緑も見え始めたときの積もっている雪と土とのコントラストの地肌。そして雑木林などの描きが魅力的。
(小生所蔵画)
(ここに登場する諸画伯及び五十畑勝吉画伯への敬称は失礼ですが普遍性を期して敢えて省略しました。ご了承ください。 又絵画の供覧は著作権法第32条に準じています。問題があればご連絡ください)
| 固定リンク
« ピンク・フロイドの回顧シリーズDVD~「原子心母 Atom Heart Mother」特集 | トップページ | 北欧ジャズ・トリオ=ソレン・ベベ(サン・ビービー)・トリオ Søren Bebe Trio : 「A Song For You」 »
「文化・芸術」カテゴリの記事
- ロジャー・ウォーターズ Roger Waters 映像盤「US + THEM」(2020.10.05)
- 白の世界 (その1)5題 / (今日のJazz)大橋祐子Yuko Ohashi Trio 「BUENOS AIRES 1952 」(2019.02.26)
- 平成の終わりは平和の終わりでは困る? 2019年米国と日本の不安(2019.01.08)
- ロジャー・ウォーターズの世界~ストラヴィンスキー「兵士の物語The Soldier's Tale」(2018.11.03)
「趣味」カテゴリの記事
- 「ジャズ批評」誌=ジャズオーディオ・ディスク大賞2021 (追加考察) セルジュ・ディラート Serge Delaite Trio 「A PAZ」(2022.03.19)
- MQAハイレゾで蘇る・・(1) シェルビィ・リンShelby Lynne 「Just A Little Lovin'」(2021.09.18)
- ハイレゾHi-Res音楽鑑賞「MQA-CD」 = そして スーザン・ウォンSusan Wongの3アルバム(2021.08.13)
- 2020-2021 冬の想い出 (3)(2021.04.24)
- 2020-2021年 冬の想い出 (2)(2021.03.25)
「絵画」カテゴリの記事
- 中西繁傑作作品「雨の舗道」(2018.05.26)
- 抵抗の巨匠・アンジェイ・ワイダの遺作映画「残像」(2018.03.05)
- 中西 繁「哀愁のパリ」油彩画展からのお話(2015.10.08)
- 男のロマンのエッセイ集:中西繁著「À Paris~ゴッホの部屋の日々」(その2)~映画「男と女」(2015.03.12)
- 男のロマンのエッセイ集:中西繁著「À Paris~ゴッホの部屋の日々」(2015.03.06)
「私の愛する画家」カテゴリの記事
- 中西繁傑作作品「雨の舗道」(2018.05.26)
- 中西 繁「哀愁のパリ」油彩画展からのお話(2015.10.08)
- 男のロマンのエッセイ集:中西繁著「À Paris~ゴッホの部屋の日々」(その2)~映画「男と女」(2015.03.12)
- 絵画との対峙-私の愛する画家(5) 「五十畑勝吉」(2012.06.13)
- 絵画との対峙-私の愛する画家(4) 「三塩清巳」(2012.05.30)
コメント