エスビョルン・スヴェンソン・トリオE.S.T.回顧(1): プログレッシブ・ロック、クラシックそしてフュージョン・ジャズ
涙なしには語れないスウェーデンのあだ花
北欧のジャズを語ると言うことは、今は亡きこのエスビョルン・スヴェンソン・トリオE.S.T.(Esbjörn Svensson Trio) を語らないと始まらない。私が彼らを知ったのは、下のアルバムからだ。当時一瞬、”おやクリムゾンを追った世界か?”とも思えたジャズ・アルバムに興奮したものだった。
E.S.T. 「SOMEWHERE ELSE BEFORE」
COLUMBIA CK85834 , 2001
Esbjörn Svensson : piano
Dan Berglund : bass
Magnus Öström : drums
先日このトリオには触れたので(参照:2012.6.1「ロック・ジャズを超越して逝ってしまった~E.S.T.」http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-3e11.html)詳細は省くが、ピアノの美しさ、そして多彩な音を展開するベース、単なるリズム取りでない音と空間の極限に迫ろうとするドラムス、この3者が絶妙にトリオ・ミュージックを展開する。もともとピアノ・トリオというと、ピアノがどうしても主体になりがちであるが、彼らは見事に3者の繰り出す世界が一つになっているのだ。そしてなんとジャズというよりはプログレッシブ・ロックの手法の音を歪ませたり、デジタル・アンプ/エフェクト・シュミレーターを使い、SEを効かせるというところは驚異であった。
1. somewhere else before
2. dodge the dodo
3. from gagarin's point of view
4. the return of mohammed
5. the face of love
6. pavane
7. the writh
8. the chapel
9. in the face of day
10. spam-boo-limbo
このアルバムは、彼らがヨーロッパでその知名度と不動の人気を勝ち取った1999年のアルバム「From Gagarin's Point of View」と2000年のアルバム「Good Moning Susie Soho」からの寄せ集め(U.S. Compilation)盤であったものだ。
*
e.s.t. Esbjörn Svensson Trio 「301」
ACT ACT9029-2 , 2012
Recorded January 2007 at Studio 301, Sydney, Australia
エスビョルン・スヴェンソンが44歳にて2008年6月事故死してしまって、もう彼のトリオの世界にはお目にかかれないのかとファンの落胆は大きかったわけであるが、ここになんと今年ニュー・アルバムが出現した。
これは彼の亡くなったときに出来上がっていたオーストラリアにての録音アルバム「Leucocyte」(2008年リリース)に未収録の音源があり、それを纏めたものであったようだ。これはシドニーの”スタジオ301”にて録音されたもので、この「301」というアルバム・タイトルとなったらしい。
収録曲は左のように7曲、しかしこれが当時のアルバムから漏れたものとは思えない充実感のある曲が聴ける。
オープニングの”behind the stars”が、スヴェンソンのピアノが静かに美しく語る。そして2曲目”inner city,city lights”に於いては、彼らの代名詞でもあるノイズの世界は深淵に広がり、ベースとドラムスのブラッシングが異空間を展開。そこにピアノも便乗するがごとく不安感ある世界に導くが、次第に美しさに変化して、例のキース・ジャレットシ様の声も入ってかれらのトリオの味が十分聴くことが出来る。
”houston,the 5th”では、見事にノイズが曲と化し、この手法はピンク・フロイドやキング・クリムゾンもかって試みた世界であったとも言える。6曲目の”three falling free partII ”は、ピアノ・トリオというよりは、オストロムのドラムスにベルグンドのベースがバトルを繰り返し、そして終章は三者の壮絶なバトルとなる(圧巻だ)。最後の7”the childhood dream”は、如何にも回想的なピアノの響きで優しいフレーズにより人生を美しく描いてくれる。あゝこれが彼らの最後の世界なのだろうか。
このトリオは、electronics を効果的に使っているわけであるが、私のようにプログレッシブ・ロックの多くのタイプに馴染んできた流れから入り込むと、全く違和感はない。しかし、ジャズ愛好家が過去のピアノ・トリオとして聴くと多分ネガティブな反応を示す人もいるのではとも思う。しかし、これに馴染むとオーソドックスなピアノ・トリオものちょっと空虚になると言う感覚にもなるのである。
このトリオは、ピアノのスヴェンソンが殆どの曲を書いて、それをトリオ・メンバーが対等な力を発揮して発展させてきた経過があり、彼を失った今となれば、この世界はこれで哀しいかな終止符ということなるのであろう。振り返るとスウェーデンのあだ花であったと言える。
(もう少し彼らの世界をいずれ綴ってみたい)
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コメント
今ちょっとしか聴いてないのですけど、これもいいですね。多分、私は大丈夫な気がします。ケバイのもいいかもしれません!
投稿: /ten | 2012年6月30日 (土) 02時01分
/tenさん、お元気ですか。
E.S.T.のジャズ畑にての新感覚のトリオ・プレイの挑戦は見事でした。ヨーロッパの奥深い音楽的基礎の上に構築されているところは最も強力な武器でしょうね。
投稿: 風呂井戸 | 2012年6月30日 (土) 11時21分
なんとか、のらりくらり生きてます。
で、この人達、アコースティックなウェザー・リポートっぽい匂いも私には感じられます。こういう事を言うと本人達は嫌がるのかもしれませんが・・・。
でも、歳をとったのか、あまりジャンルと言うのには以前ほど拘りが無くなりました。ジャズもロックもいいものはいいと思えるようになりました。極端な事を言いますと、民謡も浪花節も(自分にとって)いいと思えるものはいい!・・・と。
投稿: /ten | 2012年6月30日 (土) 15時28分
聴き込む前にふっといなくなってしまった。かろじてリアルタイムで間に合ったアーティスト。これからは、ただ遡るだけですが ・・・。
投稿: 爵士 | 2012年6月30日 (土) 23時46分
爵士さん、お早うございます。
昨夜のコメント有り難うございます。いつも”JAZZYな生活”楽しまさせて頂いてます。私は北欧は実は行ったこともないのですが、そちらでの実体験もおありになるようで羨ましく思っています。
今年か来年には一度行って歴史を感じて来たいと思っているのですが・・・・。
それにつけても、E.S.T.は、今後の発展を見たかったですね。
投稿: 風呂井戸 | 2012年7月 1日 (日) 09時29分
/tenさん、民謡も浪花節も・・・いいものはいいですよね。^^)
最近、「浪曲」のシリーズCDも仕入れて聴いてます。日本の歌謡曲も、もっと外国で披露すると結構うけるのでは?とも思うのですが・・・・??。
投稿: 風呂井戸 | 2012年7月 1日 (日) 09時39分