ワルシャワ蜂起を乗り越えて・・・アガ・ザリアンの日本デビュー盤:「LOOKING WALKING BEING」
ポーランドのジャズを探っていると、その魅力は更に増してゆくところを感じている今日この頃ですが・・・、昨年春に、アガ・ザリアンAga Zaryanを知って、ここで彼女の1stアルバム「MY LULLABY」(2002年)を紹介した。(2011.5.29 「ポーランドからの女性ジャズ・ヴォーカル」=http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/aga-zaryanmy-lu.html)
その後、昨年夏になって、彼女の2010年の5thアルバム「LOOKING WALKING BEING」が、日本盤として(1stアルバムの3曲をボーナス・トラックとして加え)1年遅れでリリースされ、彼女も遂に日本デビューを飾ったわけだ。
私から見れば、これだけ出来の良いヴォーカル・アルバムが日本で知られないのは、やっぱりポーランドという国の遠さを感じていたわけだが、この日本リリースによって若干安堵していたというところであった。
そんな流れの中で、先日来のポーランドの歌姫アンナ・マリア・ヨペクを取り上げている以上、やっぱりアガの日本デビュー・アルバム(5thアルバム)もここに書いておこうと言うことになった次第です。
AGA ZARYAN 「LOOKING WALKING BEING」
EMI Music Japan TOCJ-90071 , 2011
ポーランドのジャズ・アルバムとしては、先ずは歌詞が英語であるところが理解しやすい。アガ・ザリアンは、母親が英語の教師であり作家であったという環境と、父親がクラシック・ピアニストということで、両親と共にヨーロッパ各地を巡っている。そして更にイギリスの小学校にも通ったということから、英語には何の抵抗もなかったということだろう。
そしてこのアルバムにおいても、彼女は殆どの曲の英語作詞をしていて、その内容には一目のところがある。それは2006年の3ndアルバム「Umiera Piękno」は、なんと悲劇の極みでもあったナチス・ドイツに対しての1944年のワルシャワ蜂起に直面した詩人達の詩に曲を付けてジャズ・アルバムとして歌い上げたのである。ここに彼女の姿勢が凝縮しているし、その生き様の中でのアルバムとして聴く必要もあるのかも知れない。しかしこのことは、日本から見ると特殊な様にもみえるが、ポーランドの国民にとってみればごく自然な国民性の姿と言えるところなのかも・・・・・。
Aga Zartan Discography
2002 - 'My Lullaby' CD
2006 - 'Picking up the Pieces' CD
2007 - 'Beauty is Dying' '(Umiera Piękno)' CD
2008 - 'Live at the Palladium' CD/DVD
2010 - 'Looking Walking Being' CD
2011 - 'A Book of Luminous Things' CD
このアルバムは左のように12曲によって出来ている。ここに日本盤は更に1stアルバムから3曲ボーナス・トラックとして追加されている。
そしてまさにジャズ・アルバムそのものというパターンを成した。宣伝文句のようにボッサ、サンバがあれば一方ブルース調、そしてバラードなど、更にロックまで聴かせる。彼女のヴォーカルは25歳時の1stアルバムからして大人っぽかったが(1976年ワルシャワ生まれ)、このアルバムはそれから8年後のものだけあって更に円熟した唄を披露している。
タイプは、アンナ・マリア・ヨペクのような清楚感というか郷愁の美の世界と違って、ややハスキーで厚みがあり若干影を感じさせるところが興味深いところ。
Aga Zaryan : vocals
Michał tokaj : piano
David Dorúžka : guitars
Michał Baranski : double bass
Munyungo Jackson : percussion
しかし、ポーランド・ジャズの恐ろしさというか凄いところは、バック・ミュージシャンも築き上げた技術のレベルの高さを十分に感じさせる。とくに曲作りに貢献しているピアニストのミハウ・トカイがポーランドの音楽の奥深さを醸し出す。間奏のピアノの美しさも聴きどころ。そして彼女の詞には、女性ヴォーカルものの主流である”恋愛もの”の世界から一線を画し、生きる人間の哲学的な世界に踏み込んでいる。
そんなアガ・ザリアンのヴォーカル・アルバムも興味は尽きないが、特に興味ある3rdアルバム「Umiera Piękno」については、もう少し勉強して(笑)書いてみたいと思っているのである。
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