(続々) 映像で迫る:ピンク・フロイド&ロジャー・ウォーターズ「ザ・ウォール THE WALL」
第3回 : ロジャー・ウォーターズの総決算「2010~2012 ウォール・ライブ」
~かってない3年間に及ぶロング・ランのロック・ショー~
2010年9月カナダのトロントから始まった「Roger Waters WALL LIVE」は、この2012年にまで延長されようやくの一段落をみた。当初の予定だと、調子によっては2011年にヨーロッパ・ツアーもという事であったが、予想以上の反響でそれが敢行され、そしてその終了後も、三度2012年までもオーストラリア、南アメリカを中心としたツアーを敢行し、更に再びニュー・ヨーク、カナダへと、過去にないロック・ライブのロング・ランとなった。
70歳に近いロジャー・ウォーターズは、この”ウォール・ライブ”を大がかりなものとしては最後にしたいという意志を示していたが、このライブは彼の意地を示したロック人生の総決算にしたかったのではないかと思われる。もともとステージの構築が大がかりすぎて、経費が大きく実現が困難とも言われていたライブを彼の人生をかけて、彼自身の生き様とピンク・フロイドの元祖リーダーのシド・バレットの哀しき精神障害と、そして社会の壁、人間深層心理の壁を織り交ぜながら、彼の社会と人間関係の不安、反戦思想も描いたショーとして構築した。各地で2万人から十数万人の会場をソウル・アウトさせた大成功のツアーであったが、やはり営業収益は経費に殆ど取られた感があるようだ。
さて、これらの様子(映像)はやはりBootleg DVD に目下頼らざるを得ない。何枚か仕入れてみたが、それぞれオーディエンスものではあるが、かなり映像も良くなり、サウンドも良好なのに驚く。いまやブートも侮れないところに来ているのだ。これじゃロジャーもまともなオフィシャル版を出さざるを得ないだろう(と、期待しているのだが・・・)。
*取りあえず数枚の”2010-2012ウォール・ライブ”のブートDVDの紹介だ(↓)。
ROGER WATERS THE WALL LIVE
① UNITED CENTER, CICAGO IL 9.20.2010
② THHE WALL Tour 2010 in Chicago Second Night
1990年のベルリン・ライブもスケールの大きさには度肝を抜かれたが、今回(2010年)の彼としては3度目の「ザ・ウォール・ツアー」のステージも、これ又筋書きは同一であってもコンピュター・グラフィックスを駆使してのビュジュアルな完成度の高さは又一つ上を行って驚かされたわけだ。
今回の「The Wall」は、彼の人生の縮図を描きつつも、又、政治や経済事情、そして宗教、人種問題にて苦しむ人々に一つの焦点を当てたり、本人の意志とは裏腹に、戦場や内乱によって罪のない人々の命が無残にも奪われてきたことへの警告。アイゼンハワーの言葉を取り上げて、一見派手な戦争のもたらす結果の悲惨な状況は何処にもたらされるかも訴えている(”Bring The Boys Back Home”の熱唱は一つの大きなポイントであった)。
①は、ほぼ正面からのオーディエンス・ショットで、サウンドは良好。アップは画面に人一人分というところ。
②は、ステージに向かって左側からの撮影だが、アップは相当に効く。サウンドは良好。
③ The WALL Tour 2010 in Tampa
④ The WALL Tour 2011 in London
2010年は、「Nth American Tour」9月15日のトロントを皮切りに12月24日メキシコ・シティまで56日(56回)の公演をこなした。
2011年は、「Europian Tour」 3月21日ポルトガルはリスボンから、7月12日ギリシャのアテネ まで64回のステージだった。
③は、ステージ右側からの2カメラによる撮影で、アップはかなり効く。サウンドはリヤル。
④は、左からであるがほゞ正面からの安定した撮影。サウンドも良好。アップは画面に人一人分位。
⑤ Sydney Australia 2.14.2012
今年は「2012Rest of World Tour」として1月27日オーストラリアから 始まった
このブートDVDは、シドニーにおけるもの。ほぼ正面からのオーディエンスものだが、あまりアップは効かない。サウンドは良好。最後の壁崩壊後の”Outside The Wall”で幕を閉じたかと思いきや、オースラリアの国民的歌である”Waltzing Matilda”を、メンバー12人と会場との合唱がこれまた印象的。これぞオーストラリアというところであった。
その後このツアーは、再び最後はカナダのケベックにて7月21日に幕を閉じたが、なんと今年だけで70回の公演を敢行し、この3年間で延べ190回の公演を行ったことになった。そしてまさにロック・ライブというよりは、ロジャー得意のショーとしての仕上げであったと言っていいだろう。
とにかく30年前の「ザ・ウォール」からギターでサポートをしてきたスノーウィ・ホワイトや、今回のギルモアに負けないリード・ギターとして頑張ったデイブ・キルミンスターの功績は大きい。そしてドラムスのグラハム・ブロード、キー・ボードのジョン・カーリンも健闘した。
いずれにしてもこのウォール・ライブ・グループ12人は3年間誰も変わることなく行われたことも彼らの団結が凄かったのであろう。このことも長期に渡るロック・ライブでは特筆に値する。
考えてみると、ロジャー・ウォーターズの「The Wall」を頂点としてのピンク・フロイドの歩みは、「原子心母」の”If”に現れた彼の人生の”不安”というものの流れそのものであったように思う。彼が父親を戦争で失い父親の保護が受けられなかった哀しき幼少期の思い出、そして過度な母親の愛。彼が夢見たロック・バンドの骨格であったシド・バレットは月の裏側の世界に失い、英国社会は日本などの工業先進国に足下をすくわれて、経済は不安の底に落ち、又彼自身の結婚の破綻、戦後の夢見た平和な社会は、再び戦争の道に若者は取られる状況が生まれた落胆、そして一時は核戦争の不安すら感じられた世界に脅え。更に自己の周りに戻ってみると、ピンク・フロイドという自分のバンドはパンクの流れによる批判対象となっており、それから一歩先に歩もうとがむしゃらに頑張ることが、今度はバンド内のメンバーから孤立するという事態を生み、常に生きる事に”不安”が増殖していった。自己の結婚生活の不安を描いた「ヒッチハイクの賛否両論」、核戦争の不安をテーマにした「風の吹くとき」そして「RADIO K.A.O.S.」。
今、彼が「The Wall」を再び三度ステージで演ずるところは、この中に彼の”不安”をベースにした生き様が描かれているからであると思うのである。そしてそれは何時になっても決して無くなるものでないが為に・・・・彼の執念で作り上げた「The Wall」は現在に於いても何ら陳腐にならない人間への啓示を持っている。それは彼の人生においては普遍的にまつわり付いているものと見て取れる。
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コメント
こんばんは、ブートの内容よりも風呂井戸さんのロジャーの不安に対する考察の方に感動しました。まさに仰るように、彼の人生に対する不安の結晶が、ピンク・フロイドの音楽の根底に流れているのでしょう。
そしてそれが現代に生きる我々の持つ不安とシンクロしているから、フロイドやウォーターズの音楽が今もなお支持されているのでしょう。
それをズバリ読み切った風呂井戸さんの考察は素晴らしいと思います。“風呂井戸”の看板に偽りはないようです。
投稿: プロフェッサー・ケイ | 2012年9月28日 (金) 20時49分
プロフェッサー・ケイさん今晩わ。早速コメント有り難うございます。
ウォーターズは、何故今「ザ・ウォール」か?、とい問いに・・・・”ウォールを書いたとき、僕は怯えた一人の青年だった”と語り、”避けることの出来ない嘲笑や屈辱、罰といったものを伴った自分の恐れと喪失の物語”であるという表現をし、今回は”ナショナリズムや人種差別、性差別、宗教についても・・・自分の若いときの恐怖と”という対象すらほのめかしている。
実は私は「アニマルズ」も、一般に言われていることと違って、もっとウォーターズの個人的なものの部分も我々は知らなければならないのでは?とも・・・思っています。
投稿: 風呂井戸 | 2012年9月28日 (金) 22時49分
遠い日本で映像だけ見るのでは正直一本だけで良いかなという感じで、有名な2010年シカゴを見たことがありますが、やはり壮大で感動しました。ここまでやるなら絶対オフィシャルDVD出るだろうと思い早二年以上経過。なかなか出てこないですねぇ。
自分的にはロジャーのこのこだわりは最終的な総決算でもあり、またやりがいの多さでもあるかなと。もちろん大会場を埋め尽くすという条件があるんでしょうけど、コストかける価値あり=楽しさ、みたいな。
投稿: フレ | 2012年9月30日 (日) 09時01分
フレさん、今日わ。精力的な連日の新展開のフレさんのブログになかなかついて行くのに大変です。^^)
相変わらずの私はフロイド・ネタですが・・・そうですね、ブートは一本あればいいでしょうね、現代はYouTubeも健闘していますし。
しかし、ピンク・フロイド時代、ロジャー復活のベルリン、今回の30周年記念ウォール・ツアーそれぞれ同じと言いながら、全く異なったウォールを見て取れます。いやはや30年間お付き合いをさせられていますが・・・・。そろそろオフィシャル盤による演奏陣の姿も、もう少し詳細に堪能させて欲しいです。
投稿: 風呂井戸 | 2012年9月30日 (日) 11時37分