イタリアン・ロックの軌跡(5) : P.F.M. 「幻想物語」、「友よ」
昨年をちょっと振り返ってみたら、そうそうイタリアン・ロックの回顧を始めて中断したままになっていた。それならばと、最も原点的なイタリア・プログレッシブ・ロックを取り上げて再び時々この回顧を続けていこうと思った次第。
1970年代に、その道で知る人ぞ知るイタリア・プログレ、これが’80年代後半になってCDの登場でにわかに再発ブームによって一大ブームを起こした。
それにはなんといってもキングレコードの功績が大きい。地方にいた私はなかなか手に入らなかった為に、わざわざLP購入のために上京したものだが、それがCD再発によって地方でもある部分は購入できるようになった。その代表格が、キングの”EUROPEAN ROCK COLLECTION~CRiME シリーズ”だった。
P.F.M. 「幻想物語 STORIA DI UN MINUTO」
KING RECORDS K32Y 2180 , 1988 (Original 1971)
P.F.M.(PREMIATA FORNERIA MARCONI)とくれば、これぞイタリア・プログレの代名詞。まずこの彼等の1stアルバム「Storia di un minuto」とは、日本版のタイトルは”幻想物語”になっているが、直訳すれば”1分の物語”だ。このタイトルからしてまさに我々に何かを示唆している。彼等はここに探求したロックという世界を超えた音楽の世界が見え隠れする。そして私が愕然としたのは英国プログレの原点キング・クリムゾンからそれに止まらない発展形とも思えるクラシックをベースにしたイタリア独特の歴史的音楽の世界が出没していたからだ。
ユーロ・プログレと言うか、イタリア・プログレを語るなら、やっぱりこのP.F.M.を取り上げておかねば・・・と、新年早々の40年前の作品登場である。もともとこのグループの誕生も、あのイタリアの大御所ルチオ・バッティスティLucio Battisti(参照 http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2012/02/lucio-battisti-.html、既に取り上げたのも、この人がイタリアものではキー・マンなんですね)の功績であった。彼の以前に取り上げたアルバム「AMORE E NON AMORE 8月7日午後」から2つの歴史的バンドが生まれのだ。一つはアルベルト・ラディウス率いるフォルムラ・トレ、そしてもう一方がこのP.F.M.であるからだ。
P.F.M.(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)というバンド名も、なんと日本語訳すると”選ばれたマルコーニという名の菓子屋”という意味のようで、北イタリアにあるマルコーニという店のように、まさに選ばれた音楽を目指そうとしたようだ。
もともとクラシックの技量を持った連中の集まりで、メンバーは
Flavio Premoli : Key.
Franz Di Cioccio : Drums
Giorgio Pizza : Bass
Franco Mussida : Guitars
・・・・の4人による”イ・クエッリ”というバンドに、Mauro Pagani (Violin) が加わっての5人によって、1970年にP.F.M.は結成デビューし、バッティスティの作ったレーベルのヌメロ・ウーノからこのアルバムを1971年リリースした。
収録曲は左のようで、なんといっても2曲目の”9月の情景 Impressioni Di Settembre”はシングル・カットされ、このアルバムと一緒にヒットした。日本ではそんな世界も知らずに、プログレと言えば、キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエスの御三家が全ての入り口であった時代である。
アルバムのイントロは極めて静かに叙情的でスタートして、バンドの全合奏、そして”9月の情景”の美しい曲に繋がり、そしてメロトロンによる盛り上がりに圧倒される。
このアルバムに組み込まれたクラシック的曲の流れに、なんとジャズ的センスまで盛り込まれ、フルート、ヴァイオリンも・・・もうプログレの展開そのもの。リアル・タイムではないが、最初にこれを聴いたときは、恐るべしイタリアと思わせるに十分だった。
イタリアという音楽の深さを知らされ、そしてこれは彼等のロックへの探求の序章であったのだ。
P.F.M. 「友よ PER UN AMICO」
KING RECORDS K32Y2156 , 1988 (Original 1972)
1stアルバムの好評を得て早速リリースされた2ndアルバム。
ここにはイタリアならではの美しいメロディー・ライン、そしてキング・クリムゾンのあのロックにおける冒険的探求の流れを私はこのバンドに後に感ずることになる。それはただ荒々しいのでなく、美しさ、叙情をもちながら、これぞ音楽、これぞプログレッシブ・ロックの道なりと感じさせてくれるに十分だった。70年代初めは、こうして英国で起きたロックの流れがユーロ各国でも若い力によって探求が始まっていたのだった。
”appena un po' ほんの少しだけ” は、ギターの静かな流れから、フルート、チェンバロ、そしてベース、ドラムスと次第に盛り上げ、静から動へとの展開が見事。そしてヴォーカルが登場し、さらにシンセサイザー、メロトロンの美しい流れは、もうこれだけで堪能するところだ。かってクリムゾンの「宮殿」に感動した心が私には蘇ったのだった。それはなんと遅れること1980年代であった。
”generale生誕”のクラシック、ジャズ、そして歴史的民謡の世界を纏め上げたテクニック、”per un amico 友よ”のドラマチックな展開、”il banchetto 晩餐会”、”geranio”の芸術性など天下一品であると、私は今でも太鼓判を押す。
あのE.L,P.のピート・シンフィールド(元キング・クリムゾン)がイタリア公演でこのP.F.M.を発見、感動して、彼が英語の詩を書いて、この2ndアルバム「友よ」と1stアルバム「幻想物語」の世界版アルバム「Photos of Ghosts 幻の映像」(VICTOR VICP-60970、 KING RECORDS KICP2701)を制作し、リリースしたわけだ。これが1973年のこと、そしてこれにより世界にイタリア・ロックが開花した言っても過言ではない。当然日本にても、このアルバムからユーロ・ロックが知られるようになったということになる。
勿論、私も上の1st、2ndは後に聴いたわけであり、この2枚のイタリア・オリジナル盤の素晴らしさを知ることになったのだった。
今、ユーロ・ロックの原点をこうして新年に聴いてみると、かっての記憶が脳裏に展開し今年もロックからはやっぱり離れられない自分を知るのである。
(試聴) ①http://www.youtube.com/watch?v=2T1oKGynRVs
②http://www.youtube.com/watch?v=P5WwrgC1qZk
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コメント
当時のLOGがないので記憶の断片からですが、ろむやまだ氏やポチ氏あたりが、「やはりイタリア原盤がいい」と繰り返しおっしゃっていたのが思い出されます。
まだマンディコア版しか聴いたことのなかった私は、わざわざ曲ダブるのに、またレコード買うのもなぁと思いつつ見送ってました。
しかし、90年代に入ってから、それが真実だとわかりました。
投稿: nr | 2013年1月 4日 (金) 19時04分
nrさん、明けましてお目出度うございます。今年もよろしくお願いします。
当時のLOGですか?、フロッピーディスクに入れて置いたのですが・・・何処に行ってしまったのか?。そうそう一部プリント・アウトしたものが棚の奥にあります(笑)。当時のPC-VANが懐かしいですね。私は"写真SIG"と"classic"の方に顔を出していて、後で"ROCK"に、と言う経過でした。私はPFMは、'77年のLP「JET LAG」を持っていまして、それからこの1st、2ndにという変則で感動でしたね。当時YOSHIE氏がイタリア盤1st,2ndを勧めてました。
nrさんは、APHRODITE'S CHILD の名を出していたと思います。"XLX250"でぶっ飛ばすと言えば思い出すのでは・・・?(笑)。
ここに紹介のCDは、'88年のKING CRIMEシリーズのもの。CD番号「K32Y 2180」は、Kingの3200円盤という意味です。当時一枚3200円ですから・・・高いです。nrさんがやたら買わなかったのも解ります。
投稿: 風呂井戸 | 2013年1月 4日 (金) 20時46分
大変タメになります…、こういう記事。時代の流れを体感してないと出てこないですよねぇ、こういう流れは。さすがです。
本年もよろしくお願いします。
投稿: フレ | 2013年1月 5日 (土) 00時08分
フレさん、今年もよろしくお願いします。
多くのレポート、ガイダンス期待してます。
イタリアものは、多分多くの人が何かに魅せられた経験があるのでは?と、思います。1970年代のような活気のある賑わいは今はあまり感じませんが、それは私の方の感受性の低下でしょうか?。
私はどうも北寄りに趣向が傾いていると言っても良いのかも知れません・・・・。
何に付けても、感動はいつでも欲しいですね。
投稿: 風呂井戸 | 2013年1月 5日 (土) 16時32分