ピンク・フロイドを超えたか?=リヴァーサイドRiverside :「Shrine of New Generation Slaves」
ポーランドからのハード・プログレ・バンド~資本主義・自由社会は病んでいるか?
実は私にとっては、なんか久々にRockを語れるアルバムに到達出来たという気分なんです。そうゆう意味ではフレさんのブログでこの5thアルバムを知って感謝です。
なんといってももう私の愛してきた”プログレッシブ・ロック”、その言葉自身過去のものと言うか?死語というか?、・・・・60年終わりから70年代のあの世界で貴重な若い(?)時を消費してきた私にとっては、何時もそうでは無いと言い聞かせつつ、現実ではその空しさの中で実はいつももがいているんです(笑)。そんな訳ですが、堂々とプログレを語れるなんて、それだけでも嬉しい限りです。
さてさて、ここにポーランドからその嬉しい一枚です(実は2枚組ですから2枚と言わなきゃいけないかな?)。
<Prog. ROCK> Riverside 「Shrine of New Generation Slaves」
Mystic Production/InsideOut Music 0630-2 , 2013
このジャケ・デザイン(トラヴィス・スミスTravis Smith作)から、もうあのソ連管轄下の東欧諸国にみられた都市の暗いイメージを先ず感じてしまう。かっての共産圏の東欧諸国と言われた時代には、チェコ・スロヴァキア、ハンガリーなど訪れたことがあったが、残念ながらポーランドには足を入れていなかった。それでもなんとなくイメージとしてその世界が頭に浮かぶ。昨年ようやくポーランドに行く機会があったが、現在解放されて20年の歳月を経た国ポーランド、あの国に於いては国民は文化の貴重な一つが音楽であるという生活をしていて、現在も諸々のジャンルに於いて多くのミュージシャンが活動している。そしてそれを国民は大切にしているのである。しかし残念ながらその中で、ロックの世界のウェイトはむしろ小さいようにも思う。もともとショパンを愛し、クラシックから出発しているミュージシャンは多く、そしてジャズへの進出は盛んで(クリストフ・コメダを代表にして)あるが、一方ロックはむしろやや弱いとも思っているのだ。
そんな中で、しかしこのポーランドのロック・バンドのリヴァーサイドRiverside の活動は、やっぱり私にとっては喜びでもあり驚きでもあった。
さてこのアルバム、タイトルを日本語に訳すと「新世代の奴隷達の霊廟」というところだろうか?。これだけでも社会意識の強いバンドとして感じ取れる。
Personnel
Mariusz Duda– vocals, bass, acoustic guitar
Piotr Grudziński – guitar
Michał Łapaj – keyboards
Piotr Kozieradzki – drums
このアルバムは2枚組で、2つのパートに別れている。
<Disc-1>
1. New Generation Slave
2. The Depth Of Self-Delusion
3. Celebrity Touch
4. We Got Used To It
5. Feel Like Falling
6. Deprived (Irretrievably Lost Imagination)
7. Escalator Shine
8. Coda
<Disc-2>
1. Night Session (Part One)
2. Night Session (Part Two)
さてこのアルバムのメインは<Disc-1>であるので、そちらを探ってみよう。オープニング曲” New Generation Slave”は過去の彼等のアルバムを聴いてみると、ピンク・フロイドとドリーム・シアターの中間的プログレッシブ・メタルというところであったが、それよりはむしろ過去の70年代よりに戻ってのピンク・フロイド寄りのウェイトが増したプログレッシブ・ハード・ロックという感じで、非常に聴きやすく、そこにマリウス(左)のハイレベルのヴォーカルがスタートする。
しかしLyricsの中身は厳しい。彼等が自由を得てここに築き上げてきた世代、しかしそこには”新しい世代の奴隷”の姿ではないか。人生を自己のものにする余裕も無いと・・・・、このアルバム・ジャケにみる暗くエスカレータで画一的に流れている”個々の個性ある顔”の全く見当たらない都会の人間の姿を描いていたのだ。
2曲目”The Depth Of Self-Delusion ”では、響き渡るギター・リフはヘビー・メタルよりのパターンだが、なんとピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの「壁」を思い起こさせる”自己の異国人化”を嘆いている。自由主義・資本主義国に形成されてくる個人というのは「自らが築かざるを得ない壁」を知る世界である事を唄い上げているのだ。
” Feel Like Falling ”はヘビーなサウンドが炸裂するも、"混雑孤独の中で、私自身からの隠れ家を得た。そして今ダッシュする、それは空白の世界に遠く離れて落下するのを感じてしまう"と訴える。これは彼等の得た社会への警鐘であるのだ。次なる” Deprived (Irretrievably Lost Imagination) ”の暗い世界に落ち込んで・・・・・・ゆく。”Escalator Shine”の後半の美しいギターの調べが如何にももの悲しく、次第に更に沈んだ世界に埋没してゆくのだ。そして終章”Coda”の流れは、アコースティック・ギターをバックに一つの光明を唄う。まさにロジャー・ウォーターズ=ピンク・フロイドの再来そのもの。
いやはや、これは30年前にロジャー・ウォーターズの描いた「社会の壁」「人間の壁」が、今解放後20年を経験した自由社会に「新世代の壁の世界」がマリウスの目に再び見えていることに驚きを感ずるである。
70年代プログレッシブ・ロックのミュージック様式美、サウンド重視世界は、パンクの流れに壊滅状態にされた。しかし現在に至るまでにプログレは大きく二分化してその命を長らえている。その一つがミュージック・スタイルは大きく変えることは無いが、彼等の矛先は社会矛盾と人間の内面的葛藤に目を向けたことだ。この代表がロジャー・ウォーターズの世界(あの時、「アニマルズ」から「ファイナル・カット」において崩壊寸前のプログレッシブ・ロックの再生に成功した)。そしてその流れとしてこのRiverside があるとみる。
もう一つは、あくまでもミュージックとしての探求に精力を注ぐもの。こちらの代表がロバート・フリップのキング・クリムゾンの世界だ。こちらも今でも脈々と流れている(Anekdotenなど)。
そして今やプログレッシブ・ロックとは、プログレッシブという意味を超越して一つのパターンとして結実している。そんな意味に於いてもこのバンドの暗さと哲学的思索の世界が快感だ。シンフォニック・プログレ・ハードと言えば英国のPallasを思い出すが・・・彼等の宇宙感覚とは別ものであるが、こうしたプログレッシブ・ロックの現代版である事には両者は変わりは無い。
Riverside は、ピンク・フロイドを超えたか?・・・・それはそれぞれが感じたところに任すべきだろう。しかし今日にヘビー・メタル・サウンドを持ちながらの社会と人間に迫るプログレッシブ・ロックが存在していることに喝采を浴びせたい。
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コメント
いやはや…、ここまで風呂井戸さん風の言葉で語られるくらいに聴き込み、調べての記事内容には只々脱帽です。また、深い洞察力による分析や探求には深々と頭が下がります…。素晴らしい。
最後のくだりあたりは正に言い得て妙、それが面白くなくしていた要因ではあるのですが、ここに正当な継承者と言えるバンドが出て来た、とも言えるんでしょう。フロイドらしい、ではなくロジャー・ウォーターズの精神論を自らのものとしてバンドを進めている、というトコロが往年のリスナーをも納得させてしまうのではないかと思います。
いずれにせよ、自分もまだまだ深みにハマって聴いていかないとな〜と改めて思いました。これだけ気合入ってくれる音を紹介できて良かったです。後はお任せします(笑)。
投稿: フレ | 2013年6月18日 (火) 23時18分
フレさん、トラックバックとコメント有り難うございます。
あの時代のプログレの流れは決して消えていないこと、こうしてどこかにその世界感が繋がれていることが解って嬉しい限りです。多分時代は変わっても、ロックにおける大切な一つの因子を持っているからなんでしょうね。
このRiversideは、久々にいろいろと聴いている中に刺激を与えて頂きました。フレさんの言う”芸術的に好評な作品って大抵病んでいるワケで・・・”と言うところで、”病むこと”も大切なのかも知れませんね。
投稿: 風呂井戸 | 2013年6月19日 (水) 21時02分
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投稿: 2 day diet | 2013年7月16日 (火) 15時44分