« ヨーナス・ハーヴィスト・トリオJoonas Haavisto Trio の思索の世界 : 「Micro to Macro」 | トップページ | ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの美学(回顧) : 「The River」 »

2013年9月 5日 (木)

ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstad~初秋の夜はこれ! : 「La notte」

「寂しい人生の夜」が描かれる

<Jazz> Ketil Bjørnstad 「La notte」
             ECM Records    ECM 2300  3724553 ,  2013

Lanotte_2
 ノルウェーのベテラン・ピアニストであるケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの演奏する世界は、果たしてジャンルはジャズと言ってよいものか?、クラシックでもあり現代音楽でもありポピュラーでもありながら、ECMからしっかりリリースしているところからもやっぱりジャズなんでしょうね。
 と言うところで、今年のアルバムはこの「La notte」。今回はいつもと言っては語弊があろうが、やっぱりチェロを擁しての下のようなメンバー。しかしサックス、ギター、ドラムスとくるからこれはかなりジャズよりのアルバムだろうと期待してよいところ。しかし単純にジャズと言い切れない世界を知ることになる。

LanottemembAndy Sheppard (tenor & soprano sax)
Anja Lechner (cello)
Eivind Aarset (guitars, electronics)
Arild Andersen (double bass)
Marilyn Mazur (per, drums)
Ketil Bjornstad (piano)

 まあしかし先頃(2008年のアルバム「The Light」)は、ビオラとの共演とクラシックの本格的女性ヴォーカルが登場したりして、決して悪くないのだがジャズ・ファンとしては、なかなか対応が難しいピアニストのアルバム。
 もともとクラシックから出発してジャズの世界に入り、ピアニスト、コンポーザーとしての活動に加え、一方小説家としての業績も多いビヨルンスタのこと、アルバムにもそれぞれ一つの世界が登場する。そんなところで私は彼の音楽に対しては素人そのもの、やたら多いアルバムも殆どきちんと聴いていない。かってのアルバム「The River」(1996年)のように、チェロとのデュオが印象深いと言ったところは十分納得しているのだが。

Kbjo さて今回のこのアルバムも、8曲と言っても下のように、ⅠからⅧまでと曲名も単純。全てで一曲と言っても良いのかも知れない。そして全体の印象を一言で言えば”夏の去った寂しさの秋に聴く調べ”ってところだろう。
 そもそもこのアルバム・タイトル”La notte”は、昔のイタリア映画のタイトルである。訳せば「夜」、ミケランジェロ・アントニオーニの監督作品で、ジャンヌ・モローとマルチェロ・マストロヤンニの主演する空虚な男女の関係を描いたもの。上のアルバム・ジャケはその一シーンであったのであろうか?。多分その世界を意識して聴かねばならないビヨルンスタの作品だ。

(Tracklist)
1.I
2.II
3.III
4.IV
5.V
6.VI
7.VII
8.VIII

 とにかく”Ⅰ”のスタートから”静”そのもので”暗い”というか”深淵”というか・・・・、次第に聴こえてくるドラムスの弱い暗い響き、ピアノの音、そしてチェロが美しく重く響き渡る。”ああ、ここに人生があるのだ”という世界を印象づける。もうここで美しさ故に聴き込まざる世界に没入、逃れられない。”Ⅱ”になると、今度はチェロに変わりサックスが泣く。とにかくビヨルンスタのピアノはメロディーを奏でるのでなく、チェロ、サックスにそれをまかせ、バックに複雑にして聴き安い不思議な流れを作り、ベースも厚みを増すが如く響くのである。
 しかし、すくなくとも私がかじった彼のアルバムでは、最も魅力的といえる曲の流れである。そこにパーカッションまで、ドラムスまで素晴らしい。”Ⅳ”になって初めてピアノが抒情的な物語りを展開する。

 初秋の夜に聴くせいかこのアルバムの素晴らしさに虜になってしまうのである。スローに始まりそのまま行くのかと思いきや早いリズムも現れるが、なんとしてもサウンドは深淵である。”Ⅶ”のスリリング、エキサイティングな展開は予想をひっくり返すが、ここに来てジャズの美学がしっかり流れていることを知るのである。”Ⅷ”は再び暗い寂しい夜の世界に、チェロとピアノの音(ね)と共に沈んでゆく。

 しかし驚きは、このアルバムはジャズ・フェスティバルのライブ録音ということだ。これを会場でどんな雰囲気で聴いたのであろうか、まさに想像は不可能に近い(会場の聴衆の雑音は一切無い)。それは美の思索のアルバムであるからだ。

(参考試聴)"Prelude 13" http://www.youtube.com/watch?v=9prfTfSkOjU

 
 
 

|

« ヨーナス・ハーヴィスト・トリオJoonas Haavisto Trio の思索の世界 : 「Micro to Macro」 | トップページ | ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの美学(回顧) : 「The River」 »

音楽」カテゴリの記事

JAZZ」カテゴリの記事

北欧ジャズ」カテゴリの記事

ケティル・ビヨルンスタ」カテゴリの記事

コメント

いやあ、いいですね。まさにアルバム全体が一篇のストーリーであることを予感させますね。しかもヨーロッパの憂いと感傷に満ちた ・・・。

投稿: 爵士 | 2013年9月 6日 (金) 10時18分

 爵士さん、こんばんわ。
 秋の夜長を迎えました。又音楽を楽しむにはよい季節ですね。よろしくお願いします。
 ここに参考試聴としてあげましたのは、1980年代のビヨルンスタのソロ・アルバム「Preludes」からの曲”Prelude13”です。目下ここで取り上げたアルバム「La notte」は、まだYouTubeにのっていませんでしたので、参考までにどうぞ。しかしこの「La notte」もこれに負けない哀愁がありますので、是非聴いて欲しいです。北欧の宝ですね、ビヨルンスタは。
 

投稿: 風呂井戸 | 2013年9月 6日 (金) 18時26分

紹介ありがとうございました。おすすめの「La Notte」、最高傑作らしい「Sea」、「Prelude13」が収録されている初期のソロ作品集「Early Piano Music」を発注しました。楽しみです。

投稿: 爵士 | 2013年9月 6日 (金) 22時39分

 爵士さん、おはよう御座います。
 数多い中から選ばれたのはさすが良いところに着目していると思います。「Early Piano Music」は、ソロの「Preludes」と「Pianology」の二枚組で、ビヨルンスタの原点のようなものですし、「Sea」はCelloの入ったQuartettoの彼の名作、あと「The River」のduo(これもCello)もありますね。ゆっくりこの秋を楽しみましょう。

投稿: 風呂井戸 | 2013年9月 7日 (土) 08時38分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstad~初秋の夜はこれ! : 「La notte」:

« ヨーナス・ハーヴィスト・トリオJoonas Haavisto Trio の思索の世界 : 「Micro to Macro」 | トップページ | ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの美学(回顧) : 「The River」 »