ケティル・ビヨルンスタKetil Bjørnstadの美学(回顧) : 「The River」
深淵で、そして美しく、物語が展開する
<Jazz, Classic> Ketil Bjørnstad David Darling
「The River」
ECM Records ECM1593 , 1997
もう本格的な秋の夜なんですね、私の居住地では虫の音の大合唱である。窓を開けてその合唱を聴きながら、私の拙いオーディオ装置からそれに似合った音をとなると、ついに至る所に至ってしまった・・・・と、言うところで私の数少ないケティル・ビヨルンスタの体験の中から過去の一枚を取り上げる。
とにかくピアノの調べばかりでなくクラシック全体に酔った時期もあった私の若き時代には、一方プログレッシブ・ロックの流れはしっかりと押さえていたが、実はジャズは殆ど聴いていなかった。ベートーベンのヴァイオリン・ソナタなどヴァイオリンとピアノの美しさに酔ったときなどもジャズは全く私の場合は蚊帳の外、それでもただジャック・ルーシェのブレイ・バッハなどは彼の日本デビューからリアル・タイムに聴いてきたのであったが、ビル・エヴァンスとかはアルバムを買っても何故かご執心になることはなかったのだ。しかしおかしな事にハービー・ハンコック、キース・ジャレットはそれなりに聴いていたから不思議である。まあハービー・ハンコックはクロス・オーバーのタイプで襲ってきたのも事実だが。そうそうハービー・マンとかバーデン・パウエルなども聴いてきた。
そんなことでありながら、しかし自然にジャズの魅力は歳をとるに従って濃厚に感ずるようになって、いろいろ聴くようになった。そして何年か前に突然知ったこのビヨルンスタは驚異であった。ジャズとは?クラシックとは?何ぞや・・・・と、問う代表格の彼の作品に感動を知ったのである。そんなことが、前回紹介の「La notte」の登場で思い起こされたというところである。
Ketil Bjørnstad : piano
David Darling : cello
さて、このアルバム「The River」は、ビヨルンスタのピアノとチェロとのデュオ作品として私の大切な1997年の作品。
ビヨルンスタは1952年、ノルウェー・オスロ出身でクラシック・ピアノからジャズ畑に進出して、Chamber Jazz, Folk Jazz, New age という分野に色分けされているようだが、このアルバムのチェロリストのデヴィッド・ダーリングDavid Darlingは1941年生まれのアメリカ出身で、やはり同様な分野に作曲者、演奏者として活動してきた(彼のアルバムはECMから「Cello」(1992年)、その他「Cello Blue」(2001年)というのが良かった)。私の知るところでは、ビヨルンスタの代表的アルバムの1995年の「The Sea」でも(これはカルテット・アルバムだが)共演している。
”Ⅰ”、”Ⅲ”はクラシック調の優しい曲。そして”Ⅱ”、”Ⅳ”のピアノはややジャズ的で美しさは圧巻。”Ⅴ”は、チェロとピアノの絶妙なバランスで深淵な世界に。
”Ⅵ”のピアノが主体のクラシカルな繊細さのある曲で優しさ美しさも一級品。
”Ⅶ”は、このアルバムで最も長い曲であるが、静かにゆったりとそして哀愁のある世界をピアノ、チェロの響きで堪能できる。
続く”Ⅷ”では彼等のテクニックが交錯してスリリングな面を示す現代音楽調の曲。こうした曲を取り入れてのアルバムをトータルに構築していくところが聴く者にとっても感動の流れを呼ぶのだ。
そして”ⅩⅠ”で深淵な世界にもどり、”ⅩⅡ”の優しい曲で幕を閉じる。
とにかくジャズ・ピアノの世界も広しといえどもここまでクラシカルなサウンドを主体に聴かせてくれるのはこのケティル・ビヨルンスタが最右翼であろう。そしてソロ、デュオ、トリオ、カルテット、女性ヴォーカルを取り入れるなどなど、1970年代からの長い歴史の中で、彼は彼の道を崩さず歩んできている。
しかし今年の「La notte」を聴いても、決してマンネリ化はしていない。北欧から更にこれからもプレゼントを頂きたいものと期待しているである。
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コメント
Greetings! Really beneficial guidance on this informative article!
投稿: mario kart 3ds | 2013年9月29日 (日) 06時14分