リッチー・バイラークRichie Beirach とのお付き合い:(1)クラシックとジャズの世界
私にとっては奇遇のリッチー・バイラークであるのだが・・・・・・
今私の手元には約10枚のリッチー・バイラークのCDがあるのだが、彼の多くのリーダー作品の中に於いてみてもほんの何分の一というところ。しかしそんな彼の過去の作品を時に聴きたくなって聴くのである。そしてやっぱりそれはもう昔と言っていいECM時代のものに非常に惹かれると言うことになるのである。が・・・・・、そのECM時代の作品は実はリアル・タイムに聴いたわけでなく、私が彼に興味を持ったのは既にVenus時代になってのことであった。
そんな中から今日ここで取り上げるのは「No Borders」というアルバム。これにはもともとクラシックのジャズ演奏に興味を持っていたがために知ることになったもの。そしてこれが私の彼の演奏を聴く初の接触と思ったのが・・・、なんと私はそれより8年も前の1994年に彼のライブ演奏の会場に実はいたのだった(このあたりのお話しはいずれに)。しかしその時の印象とはどうしてもこのアルバムは一致しなかった為、その流れに自分でも気づかずにいたという、変と言えば変な話なのである。
<Jazz> RICHIE BEIRACH TRIO 「No Borders」
Venus Records, TKCV-35305 , 2002
members
Richie Beirach : piano
George Mraz : bass
Billy Hart : drums
Gregor Huebner : violin
まあ、いずれにしても私には彼に対する一つの入り口であったのでこのアルバムは印象深いのである。
もともとクラシックをピアノを通じて学んだ彼が(1947年生まれで6歳より・クラシック・ピアノの練習。そしてその対象は古典から現代音楽まで、広くあらゆるものに対峙したようだ)、このようにクラシック音楽を素材にしてジャズ・トリオ演奏をすることは何も不思議なことではないが、私が長く付き合ってきたジャク・ルーシェの”プレイ・バッハ”シリーズとは全くの異なる世界であり、なるほどジャズを究めようとするとこうしたアプローチの仕方があるのだと、ただ唖然としたのも事実であった。
このアルバムは左のように9曲。最後の”Steel Prayers-Ballad for 9/11 WTC”のみ彼のオリジナルで、この曲はあのアメリカを襲った悲しみのテロ事件、9.11への哀悼の曲である。それ以外は見て解るように、クラシック世界の大御所を総なめしている。
しかしこのアルバムを聴いて解るとおり、トリオ・ジャズなのだ。あのクラシックの流れの一つとして聴こうと思うと大間違い。ここまで彼のジャズの世界は妥協を許していない。そしてなんとViolinも登場させるところに彼の彼なりの曲作りがある(Debussyの曲からの”Footprints in the snow”、この曲はリッチーのジャズ心の美学が迫ってくる)。
そしてバッハの”Siciliano”、フェデリコ・モンペウの”Impressions Intimas”と流れていくのであるが、彼のピアノは硬質とは言え、美学が心に響いてくる。
多分、リッチー・バイラークの曲を良く聴く人には解ると思うが、彼の抒情性に惹かれると同時に、彼の世界にはジャズとしての前衛性、革新性がどこかにあって、冒頭のシューマンの”Scenes from Childhood”の後半にみせる攻撃的トリオ演奏には驚かされる。
しかし何と言っても彼にはECM時代のアルバム「Hubris」のような特に私が溺れてしまう抒情性豊かなピアノ・ソロ・アルバムがあり、又妥協性のなさからECMのアイヒャーとのけんか別れによって抹殺されてしまい、今となっては手に入らないプレミアもののアルバム「Elm」などと話題に事欠かない。
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