エンリコ・ピエラヌンツィEnrico Pieranunziの新盤 「DOUBLE CIRCLE」
ギターとピアノの落ち着いた中にも美と実験的センスを持ったデュオ
イタリアの我が愛するピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィも近年色々な姿を見せるピアニストだが、今回は珍しくアコースティック・ギターとのデュオだ。
<Jazz>
E.PIERANUNZI - F.CASAGRANDE 「DOUBLE CIRCLE」
CamJazz / ITA / CAMJ 7885-2 / 2015
Enrico Pieranunzi (piano)
Federico Casagrande(acoustic guitar)
エンリコ・ピエラヌンツィの前作は昨年リリースされたピアノ・トリオもの『Stories』であったが、私が彼を愛する所以は、あの叙情的なピアノの調べで迫ってくるところである。しかし単なる叙情派ではない彼の姿も魅力的で、あのアルバムではアグレッシブなインプロヴィゼイションを聴かせてくれたところも忘れられないのだが・・・・・・。
(参考)http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/enrico-pieranun.html
この最新作は、新進の注目ギタリスト、フェデリコ・カサグランデとのデュオ作品。カサグランデは“ギブソン・モントルー・ジャズ・ギター・コンペティション”の2007 年優勝者とか。いかなる繋がりで、又何を目指しての今作となったかは知るよしも無いが、相当のキャリアの違いを超えての共作となったものだ。
カサグランデのアコースティック・ギターの醸し出す音色は、このアルバムで聴く限りは、どちらかというと静かな柔らかな優しい音色であって、私の期待するピエラヌンツィの叙情的なピアノの調べとのマッチングが興味を呼ぶところである。
トラックリストは右のような11曲(クリック拡大)。ピエラヌンツィの曲が5曲、カサグランデの曲は3曲、両者の共作が2曲、そしてカヴァー曲1曲登場する。
冒頭から両者のアンサンブルの妙が展開する。ギターとピアノが対等にまみえると両者の響きはこうゆうものなのか、しかし意外にピアノがバックにまわるところが多かったせいか、期待のピアノの響きは後退していて、ギターの音の方が前面に出るところからスタート。
しかしこのアルバムの曲調は非常に落ち着いた世界にある。最後の曲”Charlie Haden”はピエラヌンツィがチャーリー・ヘイデンに捧げた曲で、1980年代に共演して以来の彼らにはまさにお互いを尊重した素晴らしい関係が続いていたようで、ピエラヌンツィの心の響きを聴くことが出来る。ふと考えて見ると、このアルバムはこの曲に止まらず、チャーリーへのトリビュート・アルバムなのかも知れない。そんな世界に連れて行ってくれる。
3.と10の2曲は、両者のインプロヴィゼイションであろうか、このアルバムでは若干異色であるが、彼らの試みの一つであろう。
4.”Clear”、6.”Within The House of Night”、8.”Beija Flor”の三曲は、カサグランデのギターの美しさもさることながら、ピエラヌンツィのピアノは、その美しさ、メロディーの美しさ、そして心の落ち着きの世界に誘ってくれる。
又7.”Non-nonsense”はゆったりとした中に不思議な世界に導かれる。このあたりは両者の感覚の一致性を感ずるところでの一つの結晶でしょう。
旋律を奏でるにふさわしい楽器のピアノ、ギターというもののデュオは、やはり難しい取り合わせの一つと思われるが、特に1.5.曲での両者のアンサンブルはお見事と言いたい。
しかしこのアルバムでも聴きようによっては主役の無い曲となってしまいがちな難しい面もあったし、更にアンサンブルを生かそうと思うと、ソロであれば両者いずれでも演ずる音の楽しめる余韻というか繊細なところがあると思うが、それがかき消されてしまう状況も生まれる。私の個人的な希望としては、もう少しピエラヌンツィのピアノにしっとりと浸りたかったというところもあったのは事実で、その為なのか若干残念に思うところもあった。
(フェデリコ・カサグランデは、これまでに3枚のリーダー・アルバムがある=「Federico Casagrande ” Spirit Of The Mountains”(2009)」、「Federico Casagrande ”Ancient Battle Of The Invisible”(2013)」、「Federico Casagrande ” At The End Of The Day”(2014)」)
(CAMJazzの当アルバム紹介=当アルバムの各曲のさわり部分が聴ける)
http://www.camjazz.com/releases/8052405141545-double-circle-cd.html
(試聴)Pieranunzi & Casagrande (当アルバムの曲とはイメージは異なりますが)
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コメント
この新譜は知りませんでした。しかし試聴を聴く限りは、う~~んという感じですか ・・・。ほんとのところはどうなんでしょうか?
投稿: 爵士 | 2015年6月15日 (月) 22時14分
爵士さんお早うございます。
この両者の演奏ものがYouTubeでこのアルバム関係では目下見当たりませんでしたので参考までにとLiveもの一つを付けましたが、このような実験的なものは短い二曲が挿入されていますが、全編もっと落ち着いた叙情性あるもの、やや異空間に誘うもの等で聴き応えは十分あります。チャーリー・ヘイデンへのトリビュート感覚が生きています。
あとはギターとピアノのアンサンブルが好きかどうかというところでしょうか。
投稿: 風呂井戸 | 2015年6月16日 (火) 09時25分
風呂井戸さん,こんばんは。TBありがとうございます。
私はこのアルバムで生まれる心地よいデュオ・サウンドが気に入ってしまいまして,これはいいなぁと思っていました。これはこれでいいんですが,Charlie HadenとGonzalo Rubalcabaのデュオを聞いてしまうと,あっちには勝てないなぁなんて思ってしまいます。ともあれ,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2015年7月 2日 (木) 22時09分
中年音楽狂さん、コメント+TB有り難うございます。このアルバムではエンリコ・ピエラヌンツィの挑戦がまだまだ続いていると私は感動しています。
しかし「ピアノ+ベース」と「ピアノ+ギター」って本質的にやはり違いますね。このアルバムにおいてアンサンブルの凄さは解りますが、音質から言ってそうなるのではないかと思いますが、私自身の好みはやっぱり「ピアノ+ベース」ですかね。しかしこんなアルバムを出してくれると、いろいろの楽しみ方があって大歓迎ですね。
投稿: 風呂井戸 | 2015年7月 3日 (金) 10時12分
風呂井戸さま、トラバをいただきながらトラバ遅くなってすみません。
これ、いいですよね。
ピエラヌンツィもカサグレンでもすごいですよね。
テクニックはもちろんなのですが、詩情豊かな表現力がすごいですね。やっぱ、世界水準は楽器うまいだけじゃダメなんですね。
投稿: Suzuck | 2015年7月 3日 (金) 13時10分
Suzuckさん、わざわざコメント有り難うございます。私はなんと言っても叙情派ということになるんでしょうね、最近はどうも欧州に傾いてしまってまして・・・その大事な一角のピエラヌンツィのピアノには何も言うこと無く受け入れてしまいます(笑い)。その彼がまだまだ試行錯誤、実験を試みているところが凄いと思います。
投稿: 風呂井戸 | 2015年7月 3日 (金) 17時08分