映画 時代劇回顧シリーズ(5) 中村錦之助「宮本武蔵」5作品 -私の映画史(19)-
時代劇映画の更なる新しい道・・・・・・文芸路線へ
とにかく映画の全盛時代の1950年代を経て、1960年代となると映画そのものが次第に下降路線となりつつある時、その時代を反映しつつそこには新路線が登場したわけだが、その一つがリアリズム映像であり、更にもう一つの方向として単なる痛快娯楽路線から一歩進んで、文芸的な世界を模索する路線も誕生してきた。
東映映画 内田吐夢 監督
中村錦之助 主演
「宮本武蔵」 (1961年公開)
「宮本武蔵 般若坂の決斗」 (1962年公開)
「宮本武蔵 二刀流開眼」 (1963年公開)
「宮本武蔵 一乗寺の決斗」 (1964年公開)
「宮本武蔵 巌流島の決斗」 (1965年公開)
吉川英治原作の「宮本武蔵」の映画化である。なんと5年かけての製作、当時とすればこの5年間は非常に長く感じられたものだった。そしてこの映画は、監督内田吐夢の一つのロマンの作品と言われている。過去の時代劇と違って、人間の姿・心を描こうとするところに文芸作品と言われる所以である。
又、武蔵を演ずる中村錦之助の代表作とも言われるところは、彼のこの5年間の役者としての進歩の姿がこの一連の作品に見えてくるところだ。特に第一作での気合いの入れ方は当時驚かされたものだ。
製作:大川博
企画:辻野公晴、小川貴也、翁長孝雄
原作:吉川英治
脚本・監督:内田吐夢
脚本:鈴木尚之、成沢昌成
撮影:坪井誠、吉田貞次
照明:和多田弘、中山治雄
録音:野津裕男、渡部芳丈
美術:鈴木孝俊
音楽:伊福部昭、小杉太一郎
編集:宮本信太郎
助監督:山下耕作、富田義治、杉野清史、鳥居元宏、加藤晃、篠塚正秀、野波静雄、鎌田房夫、菅孝之、大串敬介
記録:梅津泰子
装置:上羽峯男、館清士、木津博
装飾:宮川俊夫、佐藤彰
美粧:林政信
結髪:桜井文子
衣裳:三上剛
擬斗:足立伶二郎
進行主任:植木良作、神先頌尚、片岡照七、福井良春
邦楽:中本敏生
出演:
中村錦之助(宮本武蔵)
高倉健(佐々木小次郎)
片岡千恵蔵(長岡佐渡)
三国連太郎(宗彰沢庵)
月形龍之介(日観)
田村高広(柳生但馬守)
里見浩太郎(細川忠利)
木村功(本位田又八)
丘さとみ(朱実)
入江若葉(お通)
平幹二朗(吉岡伝七郎)
江原真二郎(吉岡清十郎)
岩崎加根子(吉野太夫)
薄田研二(柳生石舟斉)
浪花千栄子(お杉)
木暮実千代(お甲)
河原崎長一郎(林吉次郎)
この作品は、内田吐夢監督の拘りが見事に描かれた。勿論吉川英治原作の意志は尊重されているが、内田吐夢自身の人間像に迫るところに魅力がある。 又キャストを見ても当時の東映の総力を挙げている。
第一作「宮本武蔵」 (1961年公開)
関ヶ原の戦いに敗れ、敗軍の兵として追われる錦之助の過去の美剣士錦之助像を殴り捨てた武蔵(たけぞう)の演技。それをみる三國連太郎の沢庵坊主の若き者への人間像への導きにポイントがあって、内田吐夢のこの映画への目的が明確に出る。
第二作「宮本武蔵 般若坂の決斗」 (1962年公開)
名門吉岡道場にて門弟を打ちのめして遺恨を残す。奈良の宝蔵院にての僧兵を一撃で即死させる。前半を静かに描いて、クライマックスの般若坂の決斗で爆発的にリアリスティックに闘いを描く。浪人の首が飛ぶところは、話題になった映画「用心棒」の壮絶さの上を行く。このあたりが内田吐夢の手法が見事に観客を虜にする。しかしこの二部でも”闘いの結果の殺人”と”僧の世界の真髄”に疑問を持つ武蔵。
第三作「宮本武蔵 二刀流開眼」 (1963年公開)
柳生石舟斉へと向かうも高弟との闘いとなり、二刀流が自然に生まれる。吉岡清十郎との洛北蓮台寺野に於ける決闘に勝利。名門の当主のプライドを守り通そうとする清十郎の悲壮感は壮絶に描かれる。勝利無くして武士の姿なしと剣の道に疑問を持ちながらも進む武蔵。
第四作「宮本武蔵 一乗寺の決斗」 (1964年公開)
吉岡一門の怨念は深く、平幹二朗演ずる吉岡伝七郎との三十三間堂の対決、そして73対1の一乗寺下り松の決死の闘いを描く。主題の一乗寺下り松の闘いでは、敵の総大将には子供が立てられ、武蔵はそれを殺す。その罪を武蔵は背負って生きる事になる苦痛を描く。又闘いのシーンは内田吐夢のリアリズムが展開する。とにかく武蔵は一本の田圃のあぜ道を走って走って走りまくり、追っ手と一対一の状態をつくり戦う。昔からの東映の踊りに近い大勢に囲まれてのチャンバラとは違う。勝負は一対一でないと勝てない姿が真実感を増す。しかもこのシーンだけがモノクロとなるとこに拘りが見えた。
第五作「宮本武蔵 巌流島の決斗」 (1965年公開)
佐々木小次郎との巌流島における宿命の決闘。常に勝利の為の方策、そしてその後の追っ手から逃走の道まで考えて闘いに望む武蔵の計算高いところを描きつつも、相手を殺したことへの勝者としての喜びは無い。ここでは武蔵の殺人への罪を実は内田吐夢は強調する。「戦う」ことから生まれる悲劇、剣の道から人間に迫ろうとした武蔵には・・・・残るは「空虚」のみ。
”この空虚・・・・所詮、剣は武器・・・・・・”
この映画の制作中の5年間には又映画界には変化が起きていた。「時代劇の衰退」と「任侠映画の劉生」である。そんな時の時代劇の生き方への一つの回答であった作品でもあった。
(視聴)
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