映画 時代劇回顧シリーズ(4) 三船敏郎「用心棒」 -私の映画史(18)-
もう一つの時代劇の新しい潮流
1950年代は、時代劇は東映が一つの形を作っていて、基本はまさに若きも老いたる者も楽しむという娯楽映画という基本的パターンであった。それは立ち回りにおいても舞台で演じられるような舞踊に近い優雅さがあった。
しかし1960年代となって、この黒澤明の時代劇によって日本映画の時代劇も一変する。
東宝=黒沢プロダクション 「用心棒」
(1961年4月公開)
監督:黒澤 明
脚本:菊島隆三 黒澤 明
撮影:宮川一夫
美術:村木与四郎
音楽:佐藤 勝
(キャスト)
桑畑三十郎 ・・・三船敏郎
新田の卯之助 ・仲代達矢
小平の女房 ぬい・・・司葉子
清兵衛の女房 おりん・・山田五十鈴
新田の亥之吉 ・・・加東大介
馬目の清兵衛 ・河津清三郎
造酒屋徳右衛門 ・・志村喬
清兵衛の倅 与一郎 ・・太刀川寛
百姓の小倅 ・・・・・夏木陽介
居酒屋の権爺 ・・東野英治郎
黒澤明に作らせると、結論的には痛快時代劇なのだが、こうなるのかと・・・・、まさに新しさが詰まっていた。
三船敏郎演ずる三十郎は、基本的には剣をとれば圧倒的に強い侍で、このあたりは東映時代劇となんら変わらないのだが、この映画のスタートには犬が人間の手首を加えて歩くところから始まって、その描写のリアリズムは当時の時代劇としては群を抜いていた。人を斬るにも実際にはこうするだろうと、その一太刀の神経の集中はすざまじい。そして血潮が飛び散るのも斬るというところを現実化しているし、その斬殺音も効果音として使われていて、その迫力は凄い。こんな時代劇を描いたところが如何にも黒沢だ。
画面は、もう映画はカラーの時代なのだが、敢えてモノクロを生かしての陰影と、望遠レンズを使って緊迫感を出したり、かってなかった手法を取り入れて効果を上げている。
お話は、ダシール・ハメットDashell Hammett(アメリカ 1894-1961)の「血の収穫Red Harvest」を元にしたものだという。三十郎がたまたま辿り着いた街には、二つの勢力があってまさに抗争の最中。その両者をうまく戦わせて両者を潰すという話だ。
なかなかキャストも志村喬、山田五十鈴、仲代達矢そして司葉子などと充実していて、それぞれ納得の演技が展開する。
この映画は、後にそのリメイク版としてイタリアでクリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒 A Fistful of Dollars』(日本1965年公開、エンニオ・モリコーネの主題曲”さすらいの口笛”が良かったですね)が作られたのは有名な話で、一世を風靡したマカロニ・ウェスタンの始まりでもあった。
とにかく、チャンバラ時代劇というのは、人を斬るわけだから、そこにリアリティーを持ち込むとすざまじい映像となる。時に「60年安保闘争」という反対運動のデモ隊と警官隊との衝突という血みどろの闘いが現実の社会に起き、その時代背景の中から作られた映画には、リアリティーは自然に見る方にも求めるところがあったのかも知れない。それをやって見せた黒沢は、かってなかった時代劇の新時代を作り上げたのだった。
(「用心棒」予告編)
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コメント
こんばんは。最近時代劇ネタが多く,時代劇好きの私は結構嬉しくなっているのでした。
私は時代劇も西部劇も好きですが,やはりこの「用心棒」は出来が違うなぁと思わせます。ということで,私もだいぶ前に記事を書いていますので,TBさせて頂きます。
私もAmazonプライムビデオでせっせと時代劇を見て,記事にしますか(笑)。
投稿: 中年音楽狂 | 2015年10月25日 (日) 19時02分
中年音楽狂さん、そうですか・・・時代劇、西部劇派ですか、私も昔からその流れなんです(笑)。
時代劇って、結構”男のロマン”を感ずるんですよね。今の若い諸君には笑われそうですが・・・・。
TBも有り難うございます。
投稿: 風呂井戸 | 2015年10月25日 (日) 22時48分